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144 ※トパーシオン視点

「フラーウスの状況ですか。そうですね。何でしたっけ? わたしにつけていたメイドの父親」

「アヴァリティアよ」

「そうでした、そうでした。そんな感じのかっこいい名前でした」


 そう言ってはしゃぐフィーニスは、見た目相応のようで、今となってはとても不気味だ。

 死を知らない幼い子供が、無邪気に虫を殺すような、そんな印象を受ける。


「んーっと、そうですね。順番に話しましょう。わたしも全て見ていたわけでないので情報の寄せ集めではありますが。

 世界崩壊の前兆のあと、貴女が戦場に向かった後の話です。それまでに戦争のきっかけである襲撃などについて、疑問視される声が挙がっていたのは既に掴んでいたのではないでしょうか?」

「確かにそうだけれど、まだ疑惑程度でしかなかったはずよ」


 戦争に勝ったという報をもたらせば、霧散するようなレベルだったはずだ。加えて万が一を考えて、王都に騎士を多く残していたというのに。


「簡単に言えば、それが急激に広まったのです。

 町を壊滅させたのは国軍であり、王族が指示したのだ、と言った認識が爆発的に広まりました。

 血塗れの剣が見つかったことが、大きかったみたいですね」

「使用した武器はちゃんと数を確認して、厳重に保管しているはずよ」

「確かにそうですが、実はちょっとわたしが遊んでしまいまして。

 一本だけすり替えておきました」


 やはり何てこと無いように言うフィーニスを、有らん限りの力でにらみつける。

 しかしフィーニスは堪えた様子はなく、話を続ける。


「剣のおかげで加速したのは確かですが、そもそも凡人に剣一本を渡したところで、クーデターが起こる訳ないじゃないですか。

 逆に剣一本でクーデターを加速させるほどの存在なら、欺瞞にまみれた剣なんてなくてもどうにかしたでしょう」

「……それは、そうね」

「ですからどう転んだとしても、多少時間がかかっただけで同じ結果にはなっていたと思います。それくらいには、貴女は国をあけていましたし、何より対処不可能なほど浸食されていた可能性もありますから」

「浸食?」


 なにを言っているのか分からず、聞き返す。

 国内でなにが起こっていたと言うのか。隅々まで見渡せていたとは言えないけれど、クーデターが起こるほどならば、見逃すことはないはずなのに。


「とりあえず話を進めます。結果、アヴァリティアをトップとした反乱軍――でしょうか?――が王族を全滅させて国を乗っ取りました。

 何故国民が乗っかったのかと言えば、先の世界崩壊の前兆が神の言を無視した王族のせいだと広まったからですね。

 すでに王族への信頼は揺らいでいましたし、大規模な災害で安心を求めたかった民達のいい餌になったのだと思います。


 暗躍している人たちのおかげってのが一番大きいかもしれませんが」


 暗躍している人、というのは分からないが、民衆の意識としてそうなる可能性は分からなくはない。

 だけれど、行動までが早すぎる。そこをどうにかしたのが、暗躍しているという人物か。


 でも何のために?


「と言うわけで、この名前も決まっていない国の民達は、今起こっている悪いこと全てが王族のせいだと思っていますし、国民を騙していた悪者だと思っています」


 だからこそ、誰もわたくしの話を聞こうとしてくれなかったと。

 信頼が崩れるのは一瞬のことだと言うけれど、事実精霊のことを隠し、神から精霊を解放するようにと神託があった記録もなくはないけれど、だけれどそうして得られた生活を享受していたのは……いえ、この考えはいけない。


 王族としての矜持を守るために、思考を止める。


「暗躍をしていた人というのは誰かしら?」

「逃げ出した勇者です」

「まさか、そんなことが出来るスキルなんて……」


 この世界にくる前からそう言った能力を持っていた?

 いえ、ほかの勇者を見るにその可能性はきわめて低い。

 そもそも、そう言った厄介な存在を弾くための勇者召喚魔法だ。


「この世界に召喚されてから、ステータスを判別されるまでの間にスキルの存在に気がついたのがわたしだけだったとでも思いますか?」


 そう言われて奥歯を噛む。

 確かにステータスを偽装するスキルがないわけではない。

 勇者のスキルは共通しているモノをのぞいて1つか2つ。


 そう認識していたのだけれど、違うのか。マコトが例外で本来2つずつ有るのだとしたら、思い当たる節がないわけではない。

 だが、そうだとしても、偽装するスキルに加えて暗躍するために必要なスキルを持っていたことになる。


 可能性がもっとも高いのは『扇動』か。確かフィーニスが関わっているはずだ。


津江(つのえ)のことなら違いますよ。

 彼女が今生きているのかは、わたしも分かりませんが、少なくともわたしのスキルでしゃべれないように縛っていましたから。

 今はもしかしたら話せているかもしれませんが。それに津江はスキルを隠していなかったじゃないですか」


 それは確かにそうなのだけれど。

 逃げ出した4人の内の誰か、もしくは複数の仕業と言うことか。

 一番怪しいのはスキルが1つだけのミチヒサか。


「暗躍者の計画はまだ続いているわけですから、誰なのか、どういったスキルなのかはお話しできかねますけどね」

「あら、残念ね」

「では、少し話を戻しましょうか」


 努めて気にしていない風で返したのだけれど、フィーニスは無反応で話を変える。

 わたくしはこのときなんとしても話を止めるべきだったのかもしれない。

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本作が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
最終第5巻が2023年9月7日より配信開始です。
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― 新着の感想 ―
後悔もしくは心折られフラグがビンビンのラストでドキドキわくわくです。
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