142 ※トパーシオン視点
一人になると、様々なことが頭をよぎる。
何故王族が皆殺されていたのか。何故頭を晒されていたのか。
考えられることとしては、国内に残っていた不穏な動き。
クーデターが起こり、王族が皆殺しにあった。と言うところだろう。
誰かが扇動し、民達を味方に付けた。
まだ大丈夫だと高をくくっていたが、相手の手腕を舐めていたらしい。
だとしたら、城にはその不埒者がのさばっているのだろう。
王族としてそのようなことは、断固許すことはできない。
それと同時に、フィーニスが言っていたことを思い出す。
「国だったもの」。確かにここはフラーウス国だったものなのだろう。
王族が死に、体制が変わり、見た目が大きく代わったわけではないが、別の国となった。いや、現状国として成り立っているのかは、分からないけれど。
これからわたくしがすべきことは、城を取り返し、民達に真実を話すこと。それをするまでは死ぬわけには行かない。
家族を殺した民達に思うところがないわけではない。
優しい兄に、わたくしを慕ってくれていた弟妹、心配性の母に、国のために尽くしていた父。
どうして、こんなことになってしまったのか。
年甲斐もなく目から涙がこぼれる。
だけれど、わたくしは王族。民のことを第一に考えなければならない。
辛くても、悲しくても、私を捨て公に生きなくてはならない。
だから、今だけ。一人である今だけは、家族達の冥福を祈ろう。
ソテルが帰ってきたら、きっとこうしている余裕はなくなるだろうから。
王族として、フラーウスの最後の王族として、元であってもフラーウスの民に言葉を残そう。
◇
どれくらい経っただろうか。
小屋の中に誰かが入ってくる音が聞こえた。
最初はソテルかと思ったけれど、足音が複数聞こえる。
話をしているようだけれど、くぐもっていて聞こえず、まっすぐにこちらに向かってくるのが足音の大きさから推測できた。
敵か、味方か。
魔法の準備だけして、侵入者の来訪を待つ。
ゆっくりとこの部屋の扉が開かれ、その姿が見えた。
見知らぬ人であれば魔法を放つつもりだった。
敵だとおぼしき相手であれば、殺すつもりだった。
だけれど、現れたのはソテルで、わたくしは思わず気を抜いてしまった。
足音が複数だと言うことが、頭から抜けてしまった。
それだけソテルのことを信頼していたのだ。
家族に話せないことであっても、彼女になら話せる。
家族も知らない失敗を、彼女は知っている。
出来たメイドである彼女が、実は甘いモノに目がないことをわたくしは知っている。
実は最初はわたくしのお付きになるつもりはなかったことを、わたくしは知っている。王族のお付きになるなんて、恐れ多いとなんどいわれたことか。
それなのに、それなのに。
ソテルの口から「捕らえてください」という言葉が聞こえた。
顔を知る騎士達に囲まれて、真っ先に魔法を封じる枷をつけられた。
だけれど、それよりもソテルが裏切っていることが信じられず、彼女の名前を呼び続ける。
「ソテル、裏切っているなんて、嘘よね?
これは何かの冗談よね?」
「私はトパーシオン殿下を昔からずっと、お慕いしております」
偽りの感じられないソテルの言葉に安堵を抱き始めたとき、ソテルが言葉を続けた。
「以前であれば生涯の忠誠を誓っていたでしょう。
ですが、私は別に忠誠を誓うべき相手を見つけてしまったのです」
それはどういうことなの? そう尋ねようと思ったら、ソテルの背後に忌々しい顔を見つけた。
アヴァリティア。
反王族派の筆頭と考えられていた男。
まさか、ソテルがこんな男に?
思わずアヴァリティアに視線を止めていたためか、それに気がついたアヴァリティアがクックックと勝ち誇ったように笑う。
「そうお前のお気に入りは、この私に忠誠を誓ったのだ」
「戯れ言を言わないでください。何故貴方ごときに誓わねばならぬのです」
「乗っておれば、トパーシオンの心を折ることも出来たものを」
「なぜ敬愛する殿下の心を折らねばならぬのです。あの方が殿下の死を望むからこそ、せめて私が手を下そうと思ったまでです」
「歪んでおる、歪んでおるな」
「好きに言いなさい」
ソテルがアヴァリティアに従っているわけではないのは、よく分かった。だけれど、それだとしたら誰のことを言っているのか分からない。
一つ言えることは、わたくし達の積み重ねが負けてしまったということ。
虚しさが心を埋め尽くす。
ソテルが「連れて行ってください」と指示を出し、わたくしは無理矢理牢屋の中へと連れて行かれる。
途中、せめてもと騎士に話を聞こうとしたのだけれど、「お前達王族が皆を騙していたんだろう」とだけ返ってきた。
わたくし達は王族。意図して真実を話さないことも多々ある。
だけれど、それはすべて民のため。騙していたと罵られるいわれはないはずだ。
そう思っているのはわたくしだけらしく、それ以上は誰もなにも教えてくれなかった。
どうして王族が殺されたのか、フラーウスが今どうなっているのか、災害による被害は大丈夫なのか。
尋ねてはみたものの、答えは返ってこなかった。
連れて行かれた牢は、貴族や王族が使うものではなく、凶悪犯を入れておく為の牢。
あり得ない待遇ではあるが、今は気にならなかった。
ソテルに裏切られ、すべてがどうでもよくなりかけていた。
わたくしに残ったモノは、フラーウス王家としての誇りだけになった。
トパーシオンの最期についての感想への返信は控えさせていただきます。
何と言うか、返信のしようがないのと、予想合戦になりそうな感じがしましたので。





