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「リーグルスを呼べ。いや、探し出して伝えろ」
何の話をしようかなと考えている間に、国王が近衛の一人に命令する。
リーグルスって誰だろうと思ったけれど、王子の1人か。
呼ばれた近衛は僕の方を意識しながらも、指示を受ける態勢に入る。
「今すぐフラーウスから逃げ、一時アクィルスに身をよせよと、至急伝え実行させよ。
場合によっては、お前が抱えてでも連れていけ」
「はっ!」
短く返事をしてから、近衛騎士がこの場を去る。
自分は逃げずに王子を逃がすとなると、第一王子とかそんな感じか。
この国の王位継承権がどうなっているのか知らないから、王太子かどうかは分からないけれど。
女王が認められているのであれば、トパーシオン王女が王太子となる可能性もあるわけだし。
王子を逃がすのは、万が一フラーウスが落とされても、王家の血筋を残すためだろう。
王族として正しい選択だと思う。
王子が生きていれば、フラーウス再興の芽が芽吹くかもしれない。
世界が崩壊しなければ。
折角なので、この辺りから話してみようか。
「さて王様。民衆がやってくるまでいましばらく時間がありますから、少し話でもしましょうか」
「そんな暇はない」
「どうせ報告待っているだけでしょう? 安心してください。民衆がやってきたら、わたしは身を隠しますから」
「……」
むっすりした顔でだんまりを決め込むらしいので、わたしはわたしで勝手に話そう。
「今の状況……と言っても、フラーウス王国のではなくて、世界の状況ですが、王様は正確に把握できていますか?」
「つい先日、災害があった程度だろう。時間はかかるだろうが、復興は出来る」
「あら、答えてくれるんですね。それならそれで話を続けましょう。
結論から言いますと、残念ながら世界は崩壊します」
「戯言を」
「戯言と切って捨ててもらうのは全然かまいませんが、先日の災害を目の当たりにしてよくそんなこと言えますね。
あれは耐えられなくなった世界の悲鳴です。誰かさん達が私欲のために精霊を使い続けてきた報いです」
国を治める者として、認めてはいけない類の話ではあるだろうけれど、王族である以上その可能性に気が付けないということはないと思う。
だからこそ顔面をしわくちゃにして、苦虫をかみつぶしたような表情をしているのだろうけれど。
「この世界としては、その昔神様からの神託を無視した段階で破滅へと向かっていました。緩やかに、緩やかに、ですが確実にこうなる未来が待っていたわけです」
「我々は完全に精霊を制御し、世界の調整を行っていたはずだ」
「その割には弱ってましたよ? その時点で制御なんてできていないと思います。
それにたかが人風情が、世界の調整を行えるなんて烏滸がましいですね。ルベルの王もそんなことを言っていましたが、では今の状況は、先の災害は何だったんでしょう?」
「それはお前が精霊を盗んだからであろう?」
あ、さすがに気が付かれた。
ドワーフ王について少し触れたもんね。ルベルから精霊が失われたというのも、どこからか知ることができたのだろう。王都が無くなっているし、それが精霊関係だと推測することは難しくないだろうし。
その状況でルベル王が言っていた話をしたら、僕が関係していると言っているようなものだ。
説明が楽になって助かった。
「盗んだといってもついこの前です。季節はまだ一巡りもしていません」
「だが、今までは何事もなくやってこれたはずだ」
「それは今までの話ですよね? どこをどうしたらこれからも大丈夫って話になるんですか?
食べきれないほどの食べ物があるからと、食べ物を集めることなく永遠に生きていけるなんて本当に思ってますか?
それとも精霊は永久機関であると、調査結果でも出ていたんでしょうか?」
国王の反応を待ってみたけれど、奥歯をかみしめるばかりで何も言わない。
それならば、勝手に話を続けよう。
「その話は置いておいて、世界崩壊の話に戻りましょう。
神託を無視した段階で、世界崩壊は決まったわけですが、実はこんなに早く始まるはずではなかったんです。
人族基準だと、あと2~3世代あとくらいでしょうか?
そのあたりは詳しくは分かりませんが、少なくとも今の世代ではありませんでした。
その世界崩壊を早めた理由の1つがフラーウス王国です」
「そんなはずあるまい。痴れ言を抜かすな!」
「思い当たる節くらいあるでしょう? 異世界から無理矢理人を呼び出しておいて、世界に何も影響がないわけないじゃないですか」
クスクスと笑って返せば、また国王が言葉を無くす。
自分の国がやらかしたことが、どういったことなのか理解してしまったらしい。
それでもあと20年は大丈夫そうだった、みたいな話は別にしなくていいか。
世界にとって20年も1年も大差ないし。
「もうよい。その口を閉じよ。お前の話など聞いていられるか!」
「確かにそのほうが良いかもしれませんね」
感情のままに叫ぶ国王と、僕の意見が一致する。
だけれどその理由については一致していない事だろう。
だって、僕が口を閉じようと思ったのは、国王のお客がやってくる足音が聞こえたから。
僕が「隠密」を使って姿を隠したところで、扉の外が騒がしくなる。
悲鳴や怒号が聞こえる。
バタバタと品のない足音がこだまする。
思ったよりも早くここまで来られたのは、おそらく城内に手引きをした人がいるからだろう。
そうして、とうとうこの部屋の扉が乱暴に開け放たれた。
エルフ王→ルベル王に変更。それに伴い表現の変更。本編に影響はありません。





