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やっぱりこっちの2人はいろいろ割り切っていて見ていて楽しい。
向こうは危なっかしいというか、甘っちょろいというか。実に主人公していると思う。
なにやら僕の考察とかしていたけれど、おおよそ正解でいいのではなかろうか。
さすがは元いじめられっこ、いじめられっこの思考がよく分かってる。
普通じゃない、普通じゃないって酷い言いようだけれど、それもまた事実だからなぁ……。
『こちらの勇者は誰かを助けたいとは言わないんですね』
「さっきの部屋に引きこもっているみたいですから、大切な人を作る事も出来なかったんじゃないでしょうか?
というか、味方を「魅了」で集めていたみたいですから、もとよりこちらの人と割り切って関わっていたんでしょう」
『そんなものなんですね』
「人は個々人で結構違いますからね。僕がまだ通山だったころ、ルルスも気にかけてくれていたみたいですし、それは僕がほかとは違ったからではないですか?」
『確かにそうですね。勉強になります』
勉強って何でと思ったけれど、そうかルルスは次の世界があるのか。
僕は今一つ実感というか、新しい世界にいく気はないのだけれど。
「さて、決行は明日みたいですし、今日は適当に時間をつぶして明日の様子を見て、すべて終わったらニゲルに行きましょうか」
『分かりました。そういたしましょう』
なんて言ってみたけれど、一応ニゲルの様子を軽く見ておこうかな。
こっちを見ていて、あちらの大事なシーンを見逃したくはないし。
◇
明朝。まだ太陽は顔を出しておらず、薄暗い中で王都の人たちが続々と、一本の剣のある広場に集まっている。
その剣は赤黒く染まっていて、凄惨な何かが行われたのは一目瞭然となっている。
どれくらいの人が集まったのかは分からないけれど――数えるのが面倒くさいけれど、日が顔を出した時には広場に収まりきれないほどの人が集まった。
逆光で陰になっている剣の前に集まった民衆は、それぞれ手に武器をもっている。
武器と言っても、剣や槍と言った真の意味での武器を持っているのは三分の一いるかどうかだろうか。
多くは包丁とか、農具とか、大きな丸太とか、本来武器として使われないもの――丸太は使われるかな?――を持っている。あくまで民衆。普段は町の中で平々凡々に暮らしていたはずの民衆だ。
建物の上で「隠密」を使って、眼下の様子を脳内モノローグで説明してみたけれど、なかなか壮観かもしれない。
広場の高台になっている、剣が刺さっているところに、壮年の男性が上った。
民衆と似たような格好をしているものの、鑑定してみると質の良いものを使っている。
リーダー格の貴族だろう。つまりアルクスの父親。
アルクスと言えば、通山時代に御付きのメイドとして、身の回りのお世話をしていた人。
その後、磔馬達に殺されて、そのことが僕のせいにされて市成に殺された。
同時に反王族派で、メイドとして働きつつ情報を実家に漏らしていたという人でもある。
故にフラーウス王族側が磔馬をそそのかして殺させた。
それが理由で僕が死ぬことになり、フラーウスとしては一石二鳥くらいの気分だったことだろう。
そんなアルクスの父親ということは、本当に王族を討って自分がトップに立ちたいくらいに思っているかもしれない。
何とも良い人材を見つけたものだ。
場を整え、タイミングを計るところまでは行い、後は丸投げ。
自分たちは安全なところで、事の成り行きを見ていればいい。
強いて言えば、自分たちで怨敵を討つことが出来ないけれど、元々ただの高校生だった2人にしてみれば、人を殺す事を避けたいと考えてもおかしくはない。
というか、あの訓練を受けておらず、僕のように一度殺されたわけでもないはずなので、「絶対ぶっ殺してやるっ!」みたいな激しい憎しみは持ち合わせていないのだろう。
「諸君。とうとうこの日がやってきた!」
アルクスの父親が話し始めたので、黙って演説を聞くことにする。
それにしても、貴族という奴はどうやって声に威厳を持たせているのだろうか。
一応亜神として、話すだけで存在感を出せるようになりたいのだけれど。そうすれば、面倒な「本当に神の使いなの?」的な質問が無くなるんだと思う。
「我がフラーウス王国の王族達は確かに良き政治を行ってきた。
それを実感している者も少なくないと思う。我々も良き王だと思い、忠誠を誓ってきた。
しかし! それは我々を欺くための虚像だった!
我々に隠し事をし、神に逆らい続けてきた!
その結果がこれだ!
作物が徐々に活力を無くし、それに相まって家畜もまたその質を落としている。
今は微々たるものかもしれないが、放っておけば看過できないレベルにまで落ちることだろう」
アルクスの父親……アル父が声を張り上げると、その周囲にいる人たちが同調して声を上げる。
たぶんあの辺はサクラ。アル父の手の者だろう。
だけれど、民衆の中にもうなずいている人もいるし、拍手をしている人もいる。
そして作られた流れだとしても、民衆は周りに流され、同じように同調する。
「そして忘れることの出来ないあの日だ!
誉れ高いフラーウスの王都の地が裂けた!
これは王族が神に逆らった事で出来たものだ!
では、王族は何をした?
この剣を見よ。無辜の民の血を吸った、この剣こそが証拠だ!
今起こっている戦争は、王族の身勝手によって始まった。
自国の民の命を奪ってまで、戦争を始める王族を許してなるものか。
そして……」
今まで猛々しい声を上げていたアル父が、急に声のトーンを落とした。
「そして、私の娘であるアルクスも、王族によって殺された。
もうこれ以上王族の勝手を許してはならない!
諸君武器を取るときだ! 今日という日が新しいフラーウス国の始まりとなるのだ!」
アル父が腰に下げていた剣を高々と突き上げる。
それに呼応するように、民衆の声で広間が包まれた。





