108 ※女木視点
3つ目の質問を答えるために来た?
磯部君の3つ目の質問はたぶん、死後どうなるのかというもの。気になるけれど、今聞いて悲惨なことになるのであれば、モチベーションが下がるかもしれない。
それで計画が失敗すると言うことはほとんどないと思うけど、可能性が数%でも高くなる。
たかが数%と思うなかれ、チャンスが1度きりの状態で、失敗したらあとがない状態での数%はとても恐ろしいものだ。
試しに「魅了」を使ってみようか? でも相手が本物の神の使いであれば効かないだろう。
それがきっかけで相手の気が変わるかもしれない。
逆に偽物であれば、少なくとも死後の話は全くの嘘になる。
だとしたら、こうしている時間が無駄だ。
「その前に、君が神の使いという証拠を見せてほしいかな?」
一種の賭けとして尋ねてみる。
相手がマジもので、こちらを害する気がなければ、教えてくれる……かもしれない。
でも本物だからこそ、不敬だとこちらを殺しに来るかもしれない。
でも彼女から得られる情報が本物か、偽物か、わかるに越したことはないと思う。
「こちらがそれを見せる義理はないんですが……そうですね。
好きに確認してみてください。スキルとか使ってみて良いですよ」
「それじゃあ、遠慮なく」
試しに「魅了」をしてみたけれど、成功したようすはない。
もう1つは、こういうことを確かめるのに向いていない。
そんな風に思っていたら、バシンッとなんかけたたましい音がなった。
なにかと思って見てみると、磯部君が神の使いを本で殴っていた。
……なにやっているの? 頭でも打ったの?
それとも、この神の使いは壊れていたの?
自称神の使いは叩かれたところをさすりながら、それでも全く効いていなさそうに笑っていた。
「いきなり殴ってくるとは思っていませんでした」
「スキルを使って良いと言ったのはそちらだし、俺が今使えるスキルはこれだけだったんでね」
「はいはい。知ってますよ。大体避けようと思えば避けられましたし、そっちで戦々恐々としている女木君も安心してください。
今ので怒りはしません。ですが、これでわたしが神の使いだと認識してください」
確かにスキルを使って良いと言ったのは、彼女が神の使いだと認めるためだ。
これでなにもわからなかったは、話にならない。
でも、今のでわかったのは、この女の子がとても強いということくらいだ。そして「鑑定」のようなスキルを持っている。
少なくともボクたちでは勝てない。ならば話を聞く以外にないか。
「認識してくれたみたいですね。まあ、別に悪い話ではないと思いますよ。
これは貴方達が世界の崩壊で死んでしまったあとの話です」
こちらのことをまるで考えていないのか、返事をする前に女の子が話始めた。
「まず気になっているかもしれないことをお話します。
勇者のわりに上がっていないステータスを見る限り、気づいていると思いますが、貴方達は寿命と引き換えに強くなります」
そうなのだけれど、今になって思うともう少し強くなっても良かったと思う。世界が崩壊するというときに、人の寿命がなんの意味をなすのか。
世界崩壊が寿命のようなものなのだ。
それなら自分が強くなって、自由に動き回りたかった。
「世界崩壊に巻き込まれて死んだ場合、貴方達はその後どうするのかを選択してもらいます」
「選択?」
「そのまま死ぬか、この世界が滅んだあと新しく出来る世界に行くか、もとの世界に行くか、全く別の異世界に行くのかです。
転生か、転移かも選べた気がします。その際、貴方達の寿命ももとに戻ります」
「待って、なんでそんなことになってるの!?」
「お気に召しませんでしたか?」
神の使いが首をかしげる。
お気に召すとか、召さないとかではなくて、急にそんな選択肢を出されても困るのだ。
その話が本当なら嬉しい。素直に嬉しい。
だけれど、ボク達を助ける理由はなんだろうか?
「どうしてそうなる? 俺達を助けるメリットはないだろう?」
磯部君がボクよりも先に尋ねてくれたので、黙って様子をうかがう。
女の子は少し考えるそぶりを見せてから、答え始めた。
「メリットはないですね。実際に助けるのは神様ですが、神様的にもメリットはないでしょう。
ですが、貴方達はこの世界の人ではありませんよね。いわば世界崩壊に真に巻き込まれる人達です。
ですから、助けてあげようかなぁ……みたいな感じです」
「と言うことは、他の勇者も助けるの?」
「助けるのは一部だけです。貴方達2人を含めて4人ですね」
表情を変えず、何てことないようにいう彼女を果たして信じて良いのだろうか?
全員を助けるというのであれば、まだ分からなくない。どうして4人なのだろう?
まあ、クラスメイト全員助けると言われると、それはそれで嫌だけど。
女の子がこちらをじっと見て、反応を待っている。
どうして4人なの? と聞いても、答えてくれないかもしれないし……。うーむ……。
「……あと2人は誰?」
「その情報必要ですか?」
「前の世界でいじめていた人が助けられたら、死後の選択も変わるから」
「なるほど、そうですね」
神の使いの女の子が、納得したように手を叩く。
今ので納得したの? 神の使いが?
一瞬偽物かな? とも思ったけれど、なんだか引っ掛かる。
「後2人は文月と藤原ですね」
女の子が2人の名前を出したとき、頭のなかで何かが繋がった……ような顔をしていた、磯部君が。





