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「どの視点で話すのがいいのかわからないので、とりあえず人の視点で話すことにします。
ところで前提的なところですが、ルルスは自分たちが2代目だというのは把握していますか?」
「はい。先代がどういう存在で、どうなったのかは知りませんが。
ですが、人に注意するようには覚えさせられていました」
だとしたら、ルルスは勘づいている気もするけれど、順序良く話すために気づいていない体で話そうか。人々の業と言うか、人の習性と言うか、あまり面白くない話を。
「ルルスの先代の調整役は、同じように6人いました。
ルルス達は光の球体が飛んでいるような見た目をしているのが基本みたいですが、彼らは人の形をしていました。
人に紛れて、人と力を合わせて世界を守っていくように、みたいな神様の狙いがあったみたいですが、割愛します。
とにかく、人の形をしていました。
強さ的にはルルス達よりも、いくらか弱いくらいでしょうか?
それでも人で見ると、とても太刀打ちできないレベルですね。
人々は彼らの周りに集い、集落を作り、国を作り、栄えていきました」
平和な時間は長い時間続いた。
先代6人達の仲が良かったというのもあるし、始めは人々も彼らに着いて行くのを是としていたから。
優秀な王がずっとトップにいることで平和が続く、みたいなものだろうか?
そう言う話は聞いたことがないというか、寿命がある以上「ずっと」と言うのが無理なのだけれど。
先代たちはそれが出来てしまったわけだ。
「人にとって平和な時間が続くと、それだけ人々は増えていきます。
増えた人口は、次第に国だけでは支えられなくなっていきました。
先代たちが力を使って栄えさせる以上に、人々は世界を食いつぶしていきます。
格差が生まれ、貧富が生まれ、食べるものが足りないとなると、人々の不満は爆発します。
他にも理由はあると思いますが、この辺りが大きな理由なのは確かでしょう。
そうすると、不安も生まれます。
自分たちを治めている王たちは、誰一人年を取らず、あまり食べ物を食べず、不思議な力を使う。
そんな得体のしれないものがトップで大丈夫なのか?
いま食べ物が足りないのも、この得体のしれないもののせいではないのか?
と、こんな感じでしょうか。あり得ないと思われるかもしれませんが、案外民衆なんてこんなものです。特に思考を誘導させようとする輩がいると、加速していくでしょう」
得体のしれないものに恐怖するというのは、どの世界の人でも変わらないなと思う。
そして排除しようとする。
一度炎上してしまえば、後は面白いくらいに皆が乗ってくる。
先の見えない状況、明日もわからぬ生活で不安に思っているところに、先代たちにトップを任せられないと野心をもつものが近づけば、暴動が起きる。
絶対ではないのかもしれないけれど、少なくともこの世界ではおこった。
「最終的に人々は得体のしれない、昔から自分たちの上に立つ王を討ち滅ぼしました。
言い方を変えると、人と過ごしていた先代たちは人を相手に本気を出せずに、本気で殺しにかかってきている人々に殺されてしまいました」
「それで終わりではないですよね?」
「もちろんです。それだけで終わっていたら、ルルス達が捕まることはなかったでしょう。
神様もこのことを重く見て今のルルス達の姿にしたんでしょうし。
人々が討つことができたのが、6人の王の内の5人。1人は生き残りました。
その生き残りが魔王に転じたのが、世界初の魔王です。
魔王となった先代の力はすさまじく、この世界の人々は誰一人勝てる者はいませんでした。
そこに落ちてきたのが、初代勇者ですね」
「それで、人の話を聞いた勇者が魔王を討ったということですか」
ルルスが呆れたような顔をするのは、勇者の短絡さ故だろうか。
でも世の中そんなものだ。
初代勇者の場合には、実際に多くの人が魔王に殺されていたわけだし、魔王を倒さない事には落ち着いて何かをすることもできない。
「その通りです。ですがその戦いで世界がめちゃくちゃになってしまいました。
人が住める場所はほとんどなく、そこを巡って人同士での争いが起こる寸前まで行ったみたいですね。抑止力として勇者がいたので、戦争には至らなかったみたいですが。
ですがこのままでは、手が付けられなくなりそうになったところで、ちょうどいいものが見つかりました」
「それが私達だったというわけですね。なんか複雑ですが」
「まあ、普通にルルス達が働いただけだと、人がまともに住める環境になるまでにどれくらいかかったものかわかったものではありませんし」
「せいぜい数十年です」
「エルフ族ならまだしも、人族なんかだと数十年は看過できる長さではないでしょうね。ルルスの気持ちは推察できますが」
そもそも世界の調整役を殺してしまったから起こったことで、その大損害を数十年で直すというのだから破格なのだ。
しかもルルスの感覚で行けば、数十年なんて数か月くらいのものだろう。
「人々の対立をどうにかするために勇者は精霊を捕まえて、無理矢理にでも力を引き出して国としての基盤を作り上げましたとさ」
「言いたいことはいくつかありますが、本当にこの勇者は何者なんでしょうね」
「勇者の過去についてはさすがに正確に知ることはできませんが、おそらく元居た世界を救ったことがあるような存在でしょうね」
それこそまさに勇者だったのだろう。
魔王の討伐をすでに終えていた存在であれば、ルルス達を捕らえることも不可能ではないだろう。





