100 ※文月視点
この辺りのフィーニスの思考については、視点が戻った時に触れる予定です。
「待ってくれ、頭を整理したい」
「良いですけど、先に精霊渡してくれませんか? 早く神様のところに送りたいので」
フィーニスちゃんに言われて、道久君が精霊を隣にいたルルスと言う子に渡す。
ルルスちゃんは大事そうに精霊を受け取ると、フィーニスちゃんのところに持ってきた。
それから、フィーニスちゃんが精霊に触れた瞬間、精霊が姿を消してしまった。
「さて、ここでのわたしのお仕事はおしまいです。
早く次に行きたいので、先に来そうな質問に答えておきましょう。
まずは貴方達の身体。強くなるごとに寿命が削られているのは知ってますか?」
「知ってる。勇者召喚の方法が変わったんだよね」
「おお、なかなか頑張って調べてますね。大体そんな感じです。
貴方達は世界が崩壊するときまで生き残ることができれば、神様のところに送られます。
それからどうするのか、選択することになるでしょう。日本に帰ることもできますし、別の異世界に行くことも、新しくできる世界に行くこともできます。
ですが寿命が減ったままでは意味がないですよね。ですから、そこも何とかしてもらうように頼みました」
それは、何と言うかとてもありがたいことだ。
これから生きていく意味が生まれたともいえる。
生き残りさえすれば、日本に帰れる。それがどれだけ凄いことか。
だけれど……とも思う。
フィーニスちゃんの言い方だと、あたし達は生き残ることができても、この世界の人は誰1人生き残ることができないから。
今日に至るまで、あたし達はこの世界の人たちにたくさんお世話になってきた。
お嬢様はもちろん、領主様や学園長。他にもたくさん。
今のままでは彼らを助けることはできない。
生き残ることができても、なんだか見殺しにしたような気分になってしまう。
通山君が死んでしまった時のような気分になってしまう。
でもきっと、あたし達がどうしたところでどうにかなる問題を越えている。
あたし達だけだったら、世界とともに死んでいただろう。それが無くなったのは、ひとえにフィーニスちゃんのお陰だ。
皆……とは言わないけれど、せめてかかわってくれた人たちを助ける方法が、1つだけある。
それは今目の前にいるフィーニスちゃんに頼む方法。
だけれど、それはダメなのだ。それはやっちゃいけない。
「俺達を助けてくれることは嬉しいよ。でもそれなら、俺達が関わってきた人も……」
「道久君、駄目!!」
思わず大きな声で制止してしまった。
道久君が驚いたようにこちらを見る。そうしている間に、フィーニスちゃんが笑い始めた。
「なるほどなるほど。自分たちだけではなくて、お世話になった人も助けたいんですね。
自由に助けてください。わたしは止めません。ですがそれをわたしに頼るんですか?」
「ううん。頼らないよ。頼れないよ……。フィーニスちゃん……通山君、言ってたよね、神様に頼んだって。本当だったらあたし達がしたように見殺しにしてもよかったのに。
でもあたし達に選択肢を残してくれたんだよね。これだけでとっても贅沢な話だもん。これ以上我儘は言えないよ」
あたし達は助けたくても、通山君はそうではない。
あたし達に免じてなんて、通山君を見殺しにしたも同然のあたし達が言えるわけがない。
生きているのだから助けなければ、なんてそんなこと今更あたし達が言っていいものではない。
道久君の気持ちもわかるけれど、そんな我儘は認められない。
だって通山君は1度死んだのだ。生き返ったからなかったことに、なんてできるはずがない。
「大体この世界の崩壊はこの世界の人たちのせいです。
神の言葉を無視し、かつての勇者との約束を破った報いです。
わたしはもう人ではありませんから、別に誰が死のうが、誰が生きようが知ったことではないんです。ただ貴方達に関しては、同郷の情として、通山のやり残しとして、手心を加えるだけです」
「うん。ありがとう、通山君」
「ですので、何とかしたいなら神様に頼んでください」
高ぶった感情のせいか、泣きそうになっていたのだけれど、通山君の言葉に頭がかき混ぜられる。
なんだか今日はずっとそんな感じだ。
神様に頼めってどういうことだろうか?
「わたしの役目は精霊を回収することですが、1人回収するごとに願いを1つ叶えてもらえる約束をしています。今回は貴方達が回収したわけですから、その権利を上げましょう」
「いい……の?」
「別にわたしは叶えてほしい願いがいくつもあるわけではないですからね。
今回は回収までの時間を短縮できたということで、良しとします」
「うん、ありがとう」
「ですが、神様が願いを叶えてくれるかは知りませんよ? 基本的に神様の意に反してこの世界を崩壊させたのはこの世界の人ですから。わたしはこれ以上は干渉はしません」
そう言った通山君が何やら黙ってしまった。
それから、少ししたと思ったら、突然四角い何かを作り出す。
「願いはこの世界の人を助けたいで良いんですよね?
一応言っておきますが、世界を救いたいって言うのは無理です」
「道久君。それでいい?」
あたしが尋ねると道久君は黙ってうなずいた。
何と言うか、さっきから道久君が喋らなくなってしまったような気がする。理由は後で聞いておこう。
「助けるの定義ですが貴方達と同じとするそうです。つまり世界崩壊まで生き残っていれば、神の元に行きその後どうするのかを決められます」
「それで……そのサイコロみたいなのは……?」
先ほど通山君が作り出した四角いものがものすごく気になる。
このタイミングで作ったということは、何かしら意味があると思うのだけれど、そして1つ思いつくのだけれど、まさかそんなことはないと信じたい。
「これですか? これを振ってもらって出た目の人数助けてくれるそうです」
「やっぱり、そうなるんだね……」
どうやら悪い予感は当たってしまったらしい。





