97 ※文月視点
しばらく文月視点です。
精霊を助けることになったのは良いのだけれど、問題はどこにいるのかわからない事。
場所が分かっても、簡単に助けることができるかわからない事。
精霊と言うと、何と言うか人とはレベルが違うような印象がある。
生き物と言うよりも、どちらかと言うと神様に近いようなイメージがあたしの中にある。
だからそれを捕らえるというのは、相当なものだと思うのだ。
オリハルコン製とか、ミスリル製とか。
超絶硬ーい檻とかで出来ているんだと思う。
そうなると、あたし達だけで壊せるかわからない。
でも檻である以上、鍵はあると思う。
まずはそれを探すべきだとなって、頑張って探した。道久君が。
そして見つけてきた。道久君が。
あたしも何もして居なかったわけではなくて、道久君が学園にいないことを頑張って隠していた。
つまりたくさんの人と話した。緊張しすぎて死ぬかと思った。
道久君が戻ってきたときには、安心して腰が抜けた。
戻ってきた道久君曰く、王城まで行ってきたらしい。
鍵は古びた倉庫の中に隠されるように置かれていて、精霊が居るのは何と学園の中だというのだ。
あたしも一応探していたけれど、それっぽいところはなかったように思う。
さらに話を聞くと、精霊が居るところに行くためには、王族が持っている本が必要なのだとか。
そして道久君は必要なものを取り出して見せてくれた。
うん、すでに持ってきたんだね。
盗ってきたと言っていたけれど「精霊を解放してください」と訴えて、了承してくれるほど甘いとは思っていない。むしろ反逆罪とかで死刑にされるんじゃないかって思う。
だから責めないけれど、相談とかはしてほしかった。
王族の人たちも無くなったことにずっと気づかないことはないだろうし、無くなったと気づいたら間違いなく学園に様子を見に来るだろうし。
だから少しでも急いでということで、急遽精霊救出作戦が始まった。
これは余談だけれど、道久君が言うには各国で精霊がいなくなっているのではないか、という話を王城で聞いたらしい。
あたし達のように精霊を解放しようとしている人がいるのだろうか?
◇
というわけで、大変だった。大変だったのだけれど、あたし達は何とか精霊が捕らえられている檻にやってくることができた。
檻の中にいる精霊は光の球体のような格好で、大きさも両手で支えられるほど。
ピカピカと光っているのだけれど、どこか元気はなさそうなそんな印象を受けた。
この檻、ちょっと「鑑定」してみたけれど、意味が解らなかった。
まず説明が読みづらい。ところどころ文字化けしてる。
断片的に読み取れるものをつないでみると、どうやらこの世界のものではないらしい。
初代勇者が作ったからなのだろうけど、力づくで壊そうとしてもびくともしなかったのではないだろうか。
でも鍵はちゃんと持ってきている。
水晶玉のような鍵で檻にコツンと当てるだけで良いんだとか。
そう言えば水晶玉を「鑑定」していなかったのだけれど、たぶん檻と同じなのだろう。
「鑑定」で使い方調べてと言われていたら、大変なところだった。
そうして、こうしてようやく精霊を檻から出すことができた時、自然と道久君と視線が合ってお互いにガッツポーズをした。
今までいろいろなことがあったけれど、こうやってやり遂げた後は、気持ちが良いものだ。
なんて考えていたら「良ければその子、渡してくれませんか?」と女の子の声がした。
王族の誰か、お姫様辺りがやってきたのだと思った。
でも王族の声を聞いたであろう道久君の様子から察するに、それは違うような感じがする。
と言うか、あたしもどこかで聞いたことがあるような声だった。
ちょっと気になると、すぐに記憶探しに夢中になってしまうのは悪い癖だ。
話のテンポが狂って、相手を不快にさせてしまう。あたしがコミュ障な1つの理由と言っていいだろう。
「まさか、こんなところで再会することになるとはね。フィーニスちゃん」
「フィーニスです」
道久君がそう言いながら、振り返る。あたしも併せて振り返ると、そこには可愛らしい女の子が居た。フラーウスの国境の町で出会って、別れた冒険者のフィーニスちゃん。
相変わらず道久君にフィーニスちゃんと呼ばれることを嫌がっているんだなと、微笑ましくなったけれど、すぐにその甘い考えを切り捨てる。
あたし達だって、全力で隠れながら、さらには追跡されていないかを確認しながらここまで来たのだ。
それなのにどうして気が付けなかったのか。
こちらがうっかりしていた、とは考えにくい。
だとすれば、フィーニスちゃんがあたし達よりも強い能力を持っている可能性がある。
道久君の「隠密」に劣らないような特別な何かが。
だけれど以前「鑑定」したときには、そう言ったスキルは見あたらなかった。
ステータスだってあたし達に劣っていたし、あたし達の成長速度はこの世界から見たら異常なのだ。
フィーニスちゃんが異世界転移者で似たような状況だったとしても、全く気が付けないほどの力量差になるとは思えない。
だからこの可愛い顔の女の子はとても不気味だ。道久君もそれは分かっていると思う。
いつも通り話しているようで、額に汗をいっぱい貯めている。
「それでその子を渡してほしいんですけど、駄目ですか?」
「フィーニスちゃんは、これが何かわかっているのかい?」
「フィーニスです。分かっていないのはそちらだと思いますよ。
その子にも意思はありますから、"これ"なんて言うのは可哀そうです」
そう指摘するフィーニスちゃんは、言葉と裏腹に可哀そうだとは思っていなさそうだった。





