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世界は滅亡の一歩手前で踏みとどまっている状況ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
滅亡一歩手前と言っていますが、たぶんルルスがいなければ既に人が住めるような環境ではないのではないかと思います。
さて世間の状況などまるで関係ない体をしている僕の近況ですが、なぜか学園にいます。
学生に戻ったような気分で、なんだか気持ちが悪いですが、どうやら学園の地下に精霊が居るようなのです。
王城に行って聞いてきました。
そんなわけで国はアクィルス、その中で貴族の子供たちが通う学園。
大陸全体で大災害が起こったはずなのだけれど、なんだか平常運転で学園しているらしい。
授業がはじまれば生徒たちが教室に集まり、休み時間になれば散っていく。
その中に貴族的なまとまりやカーストは存在するようだけれど、学園は学園と言った感じがしなくもない。
どちらかと言えば物語に出てくるような学園っぽいかな?
少なくとも僕が通っていたそれよりも、事件とか起こりそうな感じ。
高位貴族の子息が、低位貴族の令嬢にご執心とか。
卒業式に婚約破棄騒動とか起こしてくれないかなとか思うけれど、どうやら婚約者候補はいても正式な婚約者はいないらしいので、そこまで大事にはならないのだろう。
お貴族様の恋愛事情は置いておいて、つい先日の世界崩壊の前兆についてどう受け取られているのかだけれど、何と言うか「よくわからないけど、なんかヤバそうだった。今もちょっと余波が残っているけど、何とかなるだろう」みたいな感じ。
これは精霊が奪われていないアクィルスだからの感想だろうけど。
フラーウスとかウィリディスとかはもっと騒がしいんじゃなかろうか。
エルフの前王とかは喜んでいそうだ。それとも、しみじみと何かを感じ入っているだろうか?
ルベルは……生き残っていたとして、たぶん世界崩壊とか言っている場合じゃなさそうだ。
学園の中だと特に外の情報が入って来にくいらしく、フラーウスとニゲルの戦争ですら噂程度でしか認識されていない。
高位貴族の子など、あえて触れていない人もいるだろうけれど、低位になってくると素で知らないんだと思う。
まあ学園生にそれを伝えたところで、どうにかなるわけではないだろうし、それなら勉強に精を出してほしいとかそんな感じなのだろう。
地震でキャーキャー騒ぐけれどそれくらいで、外と比べるとかなり穏やかな時間が流れているといっていい。
何も知らないとは幸せなことだ。なんて皮肉気に思ってしまうのは、許してもらいたい。
僕にしてみたら、ここの学生が何をしていようと関係はないわけで、1日かけて地下に続く扉はないかなと探したのだけれど、見つからなかった。
1か所資料室っぽいところがあったのだけれど、そこに力業で入ろうとするのは骨が折れそうなので後回しにしている。
わかっていたけどね、どうせここだろうなとは、思っていたけどね。
でも苦労して入って違っていたら、テンション下がるからね。
それはそれとして、どうやって入ったものか。
開かずの扉の前で物理でも選ぼうかなと思っていたら、何やらこそこそした2人組が現れた。
『隠密』を使っている僕の事には気づいていないようで、何かカードのようなものを使い扉を開けて中に入ったので、一緒に入る。
まるで怪しい2人組のような感じで表現してみたけれど、なんてことはない文月と藤原だ。
まだこんなところにいたのかとも思うし、なんで学生やっているんだとも思う。
僕の知らないところで何かいろいろあったのだろう。
それこそ、物語の主人公のようなたちまわりをしてきたのかもしれない。
何の身分もなかったはずの彼らが学園に入学して、普通の生徒では入れないような場所にこうやって入る権利を持っているのだから。
それとも、そのカードキーみたいなのは盗んできたのだろうか?
中はやはり資料室のようで、沢山の書物が整頓されている。
ざっと見てみた感じ、重要度が高そうなものが多いかな。
歴史関連とか、禁術関連とか。
何の変哲もない資料室だけれど、2人は迷いなく奥へ奥へと進んでいく。
何か知りたいことでもあるのだろうかとついて行ってみると、1つの本棚の前で足を止める。
他の棚に比べると全体的に少しずつ隙間が空いているかな? みたいな段の本を全て右側に寄せて1冊分のスペースを作り出すと、懐から取り出した本をそこにはめ込んだ。
すると何ということだろうか、その本棚が動き出すではないか!
なんて驚いてみたけれど、驚いたのは迷いなく明らかに精霊が居るであろう場所に通じる仕掛けを解いたこと。
もしかしてこの2人、精霊を狙ってる? 何のために?
世界が崩壊しかけているのに気が付いたとか?
だとしたら精霊を助けた後、素直に渡してくれないかな?
そんなことを考えながら、後をついて下へ下へと階段をくだっていく。
辿り着いたのは、周囲が土で囲まれた薄暗い部屋。
いつものように檻があり、いつものように精霊が中にいる。
今までとの違いは、極端に狭いことだろうか。
ギリギリ人が1人通れるほどの通路で、檻はその半分ほどが土に埋もれてしまっている。
檻の前、広間になっているところも僕と文月、藤原でほぼ限界ではないだろうか。
入れはするだろうけど、パーソナルスペースを保つのは無理そうだ。
ここからどうするんだろうと思っていたら、なんか見たことある水晶玉を取り出して、コツンと檻に当てていた。
おお、おお!
何か大正解を引き当てている。
精霊を助け出し、小さくガッツポーズをしている2人に対して「良ければその子、渡してくれませんか?」と話しかけた。





