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久しぶりにコレギウムの依頼の掲示板を見ている気がする。
と言うと、なんだか駄目な冒険者みたいだけれど、実際まともに冒険者活動をするのはフラーウス王国の国境の町以来ではないだろうか。
王都では冒険者というよりも密偵と言う感じだったし。
ランクが高いものから低いものまで、コレギウムの良いところは冒険者ランクによって受けられる依頼が決まっていない事。
お金があれば受けられる。世の中金なのだ。
崩壊するこの世界のお金が何の役に立つのか知らないけれど、でも崩壊するまでは使えるだろう。
むしろいつまで使えるのかと言うのを調べてみても面白いかもしれないね。
世界崩壊直前にこの金の塊が何の役に立つのかわからない。
それよりも絶対食べ物のほうが需要あると思う。
今から食べ物を買いあされば、数年後には大金持ちかもしれない。
本気で要らない。
で、ざざーッと見てみたけれど、1つとんでもなく割が良い依頼がある。
明らかに罠依頼なのだけれど、僕にしてみれば割が良すぎる。
前述通りお金は要らないのだけれど、こういう数字で見せられてしまうと、ついつい効率が良いものを選びたくなるきらいがある。
RPGとかその場その場で効率のいい稼ぎ方を見つけては、最強装備を買い集めていたのを思いだす。
そのプレイが果たして効率的だったのかはわからないけれど、僕と言う人間はそう言う人間だったのだ。ラスボスを通常攻撃だけで倒したり、オーバーキルしたり、ワンターンキルしたりしたいお年頃だったのだ。
だからこの大金貨10枚――無理矢理円に直せば1億円相当の依頼はとても気になる。
内容が(僕であれば)簡単なこともプラス要因。
だからそれを受けることにした。
◇
「見てのとおりこの依頼はSランクの物です。
D級ほどのステータスしかないフィーさんが受けても、失敗するでしょう。
そもそも、Sランクの依頼を受けるためのお金を持っているんですか?」
持って行ったところ、なぜか笑顔で責められている。
なぜかも何も今言われたとおり、身の丈に合わない依頼を受けようとしているからなのだけれど。
今回の依頼の場合、受付料金として大金貨1枚かかるのも引き留められるゆえんだと思う。
でもまあ、持っているから大金貨を出そう。
受付さんはそれを見て、めまいがしたように頭を抑えた。
「正気ですか?」
「正気ですよ。この依頼なら達成できるなと思ったので、こうやって持ってきたわけですし」
「確かにこの辺りに古代竜がいるといううわさはあります。ですが実際には見た人はいません。そんな伝説上の生物の鱗を本当に持ってこれるんですか?」
「言いたくはないですが、それっぽいのを見つけたんですよ。
ですから、それを持ってきて駄目なら諦めるだけです」
「……わかりました。無理はしないで下さい。フィーさんくらいの子が死ぬのは寝覚めが悪いですから」
「死ぬ気はないので大丈夫ですよ。それよりもわたしがこの依頼を受けたことは他の冒険者に知られないようにしてくださいね。
古代竜を見たわけではありませんし、鱗だけでも持っているとバレると怖いですから」
「それは……私からは誰にも言いません」
「約束です」
「はい」
約束してくれたので、コレギウムを後にする。
今の会話内容だけれど、防音していたので周りには聞こえていない。
受付さんが言いよどんだのも、すでに誰かに聞かれている可能性があったからだろうけれど、それは杞憂というものだ。
聞かれていたとしても、邪魔してくるなら返り討ちにしたらいいだけだし。
「それではいってきます」
軽く手を振ってから、古代竜さんのところに行くことにした。
◇
「ということで、鱗を1枚ください」
『欲しければそこらに落ちているだろう?』
「それじゃあ貰っていきますね」
予定終了。まるでゲームのお使いイベントのようだ。
キョトンとしている古代竜を僕以外に見た人はいないのではないだろうか。
「そう言えば、まだここに居たんですね」
『世界が崩壊するまでの間、ここは静かな場所の一つには違いあるまい?』
「そうですね。普通の人はまず来れませんしね」
『ずっといるつもりもないが……。だが、静かだと思っていたのだがな……』
古代竜さんが何やら遠くを見ている。
何か悲しいことがあったのだろうか?
とボケるのはやめておこう。
「来る気はなかったんですが、今回は僕で良かったと、諦めてください。
ところで、古代竜さんは火山の噴火に巻き込まれたくらいで死んでしまう軟弱種ですか?」
『どちらにしても煽ってくるのだな……。
我の属性は火。火山ごときでどうにもならんよ』
「それならよかったです。もしかしたらここ噴火するので。
もしかしなくても噴火するかもしれませんが」
『主の心持1つということか……恨みはあるが、人に同情したくなってくるな』
「お褒めにあずかり光栄でした。それではさすがにもう会わないでしょう。
最後の日まで健やかに過ごしてください」
古代竜に別れを言って、またマグマの海に飛び込んだ。





