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ぬるぬるファンタジー  作者: フェフオウフコポォ


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最終話 お嫁さんはモンスター


 俺は召喚された時の服に着替え、アーたん、コピたん、リったん。それにクーちゃんにホーちゃん。スーちゃん。後はラビちんとおまけのフレイドロン国王と一緒に送還の儀式に臨んだ。

 フレイドロンに召喚された時は穴を落ちるような感覚だったけれど、まさか掃除機に吸われるように上に吸い上げられるとは思ってなかった。まぁかなり気持ち悪い感じだったけれど新鮮な経験が出来たと思おう。


 しばらくの宇宙遊泳のような吸い上げの後、召喚で光のマンホール落ちた時と真逆に、光のマンホールから吐き出されるように地上に放り出され突然の引力に引きずられて派手にコケる。

 コケた視界には、アスファルト。そしてガードレール。その向こうに走る車の数々。

 逆を向けば見覚えのあるファーストフード店や日本語の看板。


 間違いなく俺とリョウが召喚された場所だ。

 久しぶりに見る日本。


「お……おぉ……帰ってきたぞーっ!」


 思わず両手を突き上げて叫んでいた。


 『うわ……頭おかしいヤツがいる』的な視線を沢山の人に向けられるが気にならない。むしろ一緒に踊ろうぜと誘いたくなる程に上がっているテンション。

 だが俺一人という事に気が付き、じわりと胸に不安が広がるのを感じた。


 次の瞬間、地面に光の点が次々と現れ、そしてぽいっ、ぽいっとアーたんやお宝を持ったコピたん達が飛び出して来て華麗に着地、最後にフレイドロン国王が放り出され俺同様コケた。


 俺はフレイドロン国王をハイテンションで手を貸して起こす。


「やー! ほんとに日本だよ! マジで帰ってこれた! ありがとー!」


 思わず国王に抱きつくくらいには嬉しさが止められない。

 国王は戸惑いながら苦笑いを浮かべつつ口を開く。


「い、いや、いいんじゃ。ふぅ……問題がなかったようでホっとしとるわ。

 にしても……本当に良かったんか? 今、ここには魔王が7人おるようなもんじゃろ?

 自分の世界に魔王を連れてきて後悔はないのか?」


「なーにを仰るうさぎさん!

 こっちの世界は楽しい事がいっぱいあるから、そんな魔王チックなくだらない事してるヒマなんてないっつーの! 金銀財宝までもらっちゃったしさ。もう一生アーたん達と楽しく遊んで暮らすんだ! 俺! ふへへへへ!」


 国王の両手をブンブン振る。


「あっ! そうだ! 親に電話しなきゃじゃん!

 えっと、あぁ! 携帯電池切れてるんだっけ! 公衆電話とか……確かあっちにあったはず!」


 記憶を辿り公衆電話に走る。

 急ぐあまり向こうの世界のくせでヌルヌルを纏って滑ってみたら。普通にヌルヌル出てきた。ヒャッフゥ!

 スケートのように滑りながら公衆電話に飛び込み、母親の携帯電話にかけてみると数回の着信音の後、繋がった。


「……はい?」


 公衆電話の着信だから相当不振がっている母親の声。


「オレオレ! 俺だよ!」


 速攻切られた。


 切られたことで少し落ち着きを取り戻して、大人しく父親に連絡を入れる。

 父親との話で分かった事はフレイドロンに召喚された時から日本では約1年が過ぎ、その間俺は行方不明の扱いになっていたという事。

 俺の一人暮らしをしていた部屋は既に引き払われ、すぐに実家に帰ってこいと怒られた。


 ただ、無事が分かり涙を詰まらせるような父親の声に、浮かれていた気持ちはすぐに消え、申し訳なさがひろがり、そして同時に家族の温かさを感じ、今すぐに実家へと帰りたい気持ちでいっぱいになる。


 なのでフレイドロン国王は交番に迷子として預け、リったんを巨大化させて実家へと進路をとった。


 今すぐ帰るよ。父さん母さん。


--*--*--



 ウチの息子は、本当にワケがわからない。

 勤め先の会社から昼休みから突然戻らなくなったと連絡が入り、そのまま消息を絶った。


 母さんは心労から食が手につかなくなるし精神的に弱ってしまって支えるのもそれは大変な思いをした。行方不明になってから1年が経とうというのに母さんは毎日無事を信じてご先祖に祈っているが、私はとうの昔にどこか諦めに近い感情を覚えていた。

 なぜなら息子が帰らなくなった部屋の雰囲気を見ればなにかしらの事故や事件に巻き込まれた可能性が高いことが伺いしれたからだ。もし計画的に何かから逃げるような雰囲気であれば部屋にあんなにエロ本が積んである事はなかっただろう。きっと捨てて綺麗な部屋にしていくはずだ。そういった片付けの形跡も無かったのだから、不慮の何かに巻き込まれたのだろう。


 とはいえ、息子が死んだとは考えたくなかった。

 ある日ふと突然帰ってくるんじゃないかと毎日どこかで思っていた。


 …………そしたら本当に帰ってくるんだもん。


 電話があったかと思ったら、その日の内に「ただいまー!」って。しかも何やら派手な外国人を沢山引き連れてトカゲのペットまで連れてニコニコしながら。

 ……帰ってきて嬉しかったけど……上機嫌すぎて…なんだかなぁ。でも、母さんが喜んでいたから、なにも言うまい。


 ただその後が本当にワケが分からない。


 「この子達は俺の家族だー!」とか言いだして外国人と一緒に住むとか言うんだもの。

 お父さんは突然言葉が分からない人達と一緒に住むなんて言われても不安で仕方ないし、それになんとも外国人の人たちは迫力があって怖いんだ。

 ただ見た目は怖くても礼儀正しい子が多かったし、なにより母さんが美人な嫁を連れてきたー! と喜んでたから許可するしかなかったんだけどね。まぁ、幸い田舎で離れもあるし。


 半月もしない内に「オトーサン」と、美人さんに呼ばれるようになって、お父さんご機嫌です。


 アーさんは地頭がとてもいいんだろうね。最初はヒデアキが何語か分からない言葉で通訳をしていたけれど、すぐに日本語を単語で話しはじめて話せば話すほどどんどん覚えていくのだから、とても賢い人なんだと思う。

 なにより、ボンキュボンのダイナマイトボデーは刺激が強くてお父さん眼福。

 「ヒデアキ ダイジ ダカラ」とか頬を赤らめながら言うのだから我が息子ながら良い娘さんを捕まえたなぁと鼻も高い。


 最近はリっくんとお散歩に行くのが、私の仕事になっている。でも、リっくんはワガママしないし、縁側でお茶を飲んでると膝に頭を乗せてくれたりするから意外と楽しい。トカゲってかわいいんだな。お父さん幸せ。

 なにより家族そろって平凡な日常を過ごせるのは良い事だ。うんうん。



「俺、会社起こすわ! ヒーロー派遣的な!」


 あぁ、またウチの息子は本当にワケが分からない。

 資本金をどうするのかと問えば「とりあえず1000万円は準備した」とか平然とぬかしおる。大金をつぎ込んでどうにかなるほど社会は甘い物じゃない事を説教してやる事にした。


 ……のに、息子の会社…流行るんだもの……何がどうなってるの?


 いや、アーさんは綺麗だし、コピさんはカッコイイよ。リっくんは可愛いし。クオンさんも美人だけどどこか残念で面白いし、ホラさんはゴスロリ? とかいう格好ばかりで近寄り難い。スーさんはなんともよくわからない。

 魅力的な人たちなことはわかるけど、どうしてテレビのCMにでるくらいに流行るの? これが年代の差、ジェネレーションギャップなのだろうか? お父さん。ショック。


 まぁ、いいか。


 息子が不足なく楽しそうにしている。

 その事実があるのだから、お父さんは、それ以上は望むまい。


 家族が揃っていれば、世はなべてこともなし。


 



--*--*--



「思い付きの起業がまさかの順調でビビる。」


 決算書を手にし、支払う税金の高さに驚愕を隠せない。

 まさかここまで利益が出るとは思っていなかった。


 アーたん達は戸籍がない。だから働くのも難しいが幽霊社員を雇ってその人がコスチュームを着て駆けつけている……という体でやっている。火災現場だろうが容赦なく飛び込んで行って人を救出するもんだから、そのヒーローっぷりに人気が出過ぎて困っている。


 実際の人命救助はもちろん容姿が注目を集め取材依頼も殺到。

 今じゃアーたんが普通の恰好をして歩いてても「あら。今からご出勤ですか?」くらいのノリになってきている。うんうん。俺の作戦の勝利だな。自分で自分を褒めてあげたい。


「そら、ウチとねーさんがこの世界について勉強しとるんやから利が出て当然やろ?」

「ふふふ。ヒデアキの着眼点がいいのよ。流石だわ。」

「よー言うわ。普通の仕事しとった方がよっぽど儲かるやろに。」


「俺はアーたん達がのびのびとこの世界で生きていけるようにしたいんだもの!

 隠れてても目立つしさ、いつか注目を集めるなら逆にこっちから発信して金取った方がずっとマシ!」

「ヒデアキ優しい。うふふふ。」


「へいへい。それはそーやな。で? どーする?

 海外から『旅費も全額持ちますので是非お越しくださるよう御検討願います』ってメール来てるけど?」

「ん~~……パスポートの準備は無理だからこっそりリったんで飛んで行って『数日前から入ってたんです~』って形で行ってみる?」

「ヒデアキがそうしたいなら別にいいけど?」

「リョウの所に戻ったラビたんも飛べるし、ラビたんに行ってもらうのも手かな? って気もするけど……どう?」

「アホか。そんなリスク抱えてまで小銭稼いでどうすんねん。それにアッチはアッチで原稿の修羅場やろ?」

「そか。じゃあ諦めよう。」

「それがエエ。それにアンタらが向こうに行って、なんかアクシデントあったら式できひんかもしれんやろ?」


「それは困る! よし。今後海外からのお誘いは絶対お断りで。」

「ふふふふ。すぐに決断できる旦那様。素敵よ。」

「うっへへへへ。アーたんがお嫁さんかぁ……俺こんな幸せでいいのかなぁ?」


「アホくさ。」

「あら? ラビたんと最近いい雰囲気ってクオンが言いふらしてたけど結婚しちゃう私達にヤキモチ焼いてるのかしら?」

「何言うてんねん。ったく。ほな連絡してくるさかい、アンタらは勝手に色ボケとれ。」


 ホーちゃんが席を立ち、女神の微笑みを浮かべるアーたんと二人きり。

 色ボケと言われたからには期待に応えるべくアーたんの隣に座ると、アーたんは自分の膝を軽くたたく。俺はその膝に頭をのせアーたんを見上げると、アーたんは優しく俺の髪を撫でた。


 一ヶ月後、結婚式をあげ、俺とアーたんは夫婦になる。

 形だけの式だけれど、注目を集めるアーたんは俺の嫁だと宣言するのだ。


 アーたんはクィーンアントだけど、そんなことは好き合う二人にとって大した問題じゃない。俺はアーたんが大事で、アーたんは俺が大事。その思いがあればそれでいい。


 アーたんの頬に手を伸ばすと、気持ちよさそうに軽く頬にあてた手に顔を預けるアーたん。


「アーたん……これから先、色々あるかもしれないけど…精一杯幸せになろうね。」

「私はヒデアキがいれば、いつだって幸せよ。

 これまでも。そして、これからもずっと。」


 微笑みあい。


 優しい時が流れてゆく。


 これから先の未来もアーたんに幸せが続きますように。





終わり。







からの次回。

裏最終話

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