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ぬるぬるファンタジー  作者: フェフオウフコポォ


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27話 勇者の全力

「おぉおおおおっ!」


 両手から特大のヌルヌルを勢いを止めることなく出し続けると両手から魔力がギュンギュン流れていく。この感覚はいかんとも形容しがたい。


 しいて例を挙げるとするならば腹を壊してトイレに籠った時のような感覚と言ったらいいのだろうか? 人体に大切な水分が急激に体外に放出されるような体にとって大切な何かが一気に外に出ていくような感じがする。

 身体の負担も精神の負担もとても大きいが、アーたんがカッコイイ姿を見たいと言ったのだ。これぐらい耐えられる。


「おぉおおおおっ!」

「おーいしー」

「あはははは! 全部飲んじゃえ! ついでにあの豚も飲んじゃえっ!」


 俺が捻り出している魔力が弾力女に飲まれ続け、どんどん体内に貯えてあった魔力が減っていくのを感じる。

 この世界にやってきた当初は『魔力』という存在が分からず加減が分からなかったが、ずっと魔力と付き合っていれば自分の限界。減って良い魔力量がどの当たりかくらいは分かるようになって当然だ。

 俺が出している特大のヌルヌルはその減少量が凄まじく。もう限界までの半分程の魔力を使ってしまっているように思う。


「ど、どうだ! そ、そろそろお腹いっぱいになってるんじゃないかっ!? 満足したよな?」


 魔力の減り具合にたまらず弾力女に大声で呼びかける。


「ぜーんぜん。まだまだ食べられるよー。おーいしー」

「……嘘だろ?」


 予想外の弾力女の反応に戸惑いを隠せない。俺の全魔力の半分を食っても尚まだ腹減りだとかぬかすのか?


「ぷーーー! 焦ってる焦ってる! ざまぁ! やっちゃえスーちゃん! ぷーー!」


 俺の反応を見て楽しそうに笑う魔王。くそっ! なんて魔王らしいんだ! 俺が見た中で最も魔王らしい立ち振る舞いをしているような気がする!

 苦々しく思いつつ手に魔力を籠め続ける。


 その時閃いた。

 放出している魔力の矛先を魔王に向ける。


「へっ?」


 楽しそうに笑っていた魔王は油断していたのか、ぬるぬる波の直撃をくらい俺は放出を止める。


「美味しい塊はそこですよ。ぷるぷるのお嬢さん。」

「わーい。」

「ちょっ!」


 またも魔王は弾力女に飲み込まれ、ガボガバと弾力の中でもがく。だが最初に飲み込まれた時と違って土人形の突撃がなくとも、すぐにペっと吐きだされてしまった。

 間延びした雰囲気からアホの子っぽいしイケるかと思ったが弾力女は予想以上に学習能力が高そうだ。魔王よりも確実に面倒な相手と認識を改める。


「だが、まだイケる! くらえ! ぬるぬる波ー!」


 ぬるぬる波が再度迫る。

 その標的は、もちろん四つん這いになって咳込む魔王だ。


「えっふ! エホッ! ちょっ! にゃああああっ!!」

「わーい。」

「ちょーっ!」


 やっぱり魔王は飲みこまれた。

 でも2回も繰り返したせいか、魔王は吐きだされた瞬間に半泣きの顔で弾力女の後ろで建物を背にする形に逃げてしまい、もう回り込む事もできなさそうだ。俺からは手出しができなくなってしまった。

 弾力女はといえば、俺の方に向けて歩みを進め始めている。


「ちっ!」


 八方ふさがりの感じに思わず舌打ちをしつつアーたんに目を向ける。するとアーたんはコピたんや顔色の悪い子と話をしながらも俺に手を振っていた。……かと思ったら、リったんがアーたんの所に飛んで行った。どうやら俺に手を振っていたのではなくリったんに手を振って呼んでいたようだ。


 ガックリと肩が落ちる。

 ただ、アーたんの口が『頑張って』と動いているのが見え、肩を落としきる前に踏みとどまる事ができた。


 多分アーたんがのんびり静観してコピたんやリったんと話をしているという事は、例え俺が魔力切れでぶっ倒れたとしても何とかしてくれるに違いない。きっとそうだ。なんてたってアーたんは世界一なのだから!


 であれば、俺はもう全力で弾力女に魔力をぶつけてもいいのかもしれない。

 そう。カッコイイ姿をアーたんに見せるんだ!


「いくぞぉおおぉっ! くらえぃ弾力女! ぬるぬる……波ぁーーっ!!」

「わーい。くらうー。」


 再度怒涛の如くぬるぬるを放つと弾力女は立ち止まって俺のぬるぬるを飲みこみ続ける。


「おーいしー。」


 間延びする声に若干緊張感が削がれるが、それでも魔力を振り絞る。


「おぉおおおっ!!」


 あっという間に体内にある魔力残量は4分の1を切る。これ以上続ければ間違いなく魔力切れで意識が飛ぶ。

 もう限界が近い。意識が飛ぶ怖さからチラリとアーたんに目を向ける。

 すると見計らったようにアーたんの声援が俺の耳に届いた。


「ヒデアキー。世界一かっこいいよー。大好きー。流石私の御主人様。」


 世界一かっこいい……

 世界一かっこいい……


 大好きー……

 大好きー……


 私の御主人様……

 私の御主人様……


 頭の中でアーたんの言葉がぐるぐるとまわる。


 初めて聞いた賞賛の言葉。しかも超美人アントクィーンのアーたんが言ってくれたのだ。

 しかも『大好き』って……は、初めて言われた!


 もう あたまが フットーしちゃうよう!


「ひゃっはぁあああーーーー!!

 全力だーーー!! 全力をぶつけてやるぅうう!

 はぁあああああああっ!!」


 アーたんの言葉でテンションのエンジンは回転数を急上昇しメーターを振り切り、120%の力を振り絞る。

 限界を超える力の放出で身体中が熱く燃え上がるような感覚を覚える。まるでこれまで貯えに貯えていた魔力を全て出し惜しみなく放出するようだ。


 俺、今、輝いてる。


 ヌルヌルの怒涛はさらに勢いを増し、その量も倍以上に膨れ上がる。


 身体が焼けるような感覚になるが、今の俺は無敵だ。そう無敵なのだ。


 ……と、思っていた次の瞬間。


 ヌルヌルの放出量はみるみる内に少なくなり勢いが弱くなっていく。

 身体の自由がきかなくなり立っている事が難しく、ぐらりと大きく視界が揺れた。


 魔力切れはテンションだけでどうとでもなる物では無かったよ……


 なんて思いつつ視界をアーたんに向けると、リったんが俺の方へと飛び出し。そしてコピたんが魔王へと飛び出す姿が見えた。


 一体何をするつもりなのかと思った瞬間。意識が切れ、全てが暗闇に包まれた。 


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