表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぬるぬるファンタジー  作者: フェフオウフコポォ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/34

25話 捕食者


「おいしーの」

「なん……だと?」


 ヌルヌルが直撃したはずなのに一切滑る事なく、嬉々とした雰囲気を纏って近づいてくる弾力女。


「ス、スーちゃん! タ、タスケテー!」


 上四方固めで固められている魔王が、俺の腹から逃れて叫んだ。

 助けを求められたせいか、それとも食欲が増したのか近づいてくる弾力女。そのスピードは相変わらず鈍いが、こちらへと来ようとする勢いは増しているように見えた。


「もっと食べるのー。」


 目が合うと同時に悪寒が走りゾワリとした感覚から腕に鳥肌が立つ。アレは女の形をとっているけれど明らかに違う何かだ。そんな事を考えている間にも、のそりのそりと近づいてきている。アレは危険だ。


 だが魔王のぬるぬるカーニバルはまだ序盤も序盤。これから横四方固めに切り替えてがっちり密着して顔を思い切り振って擦りつけようと思っていたのに、アレが近づいてくるスピードを考えれば横四方固めを堪能できるだけの時間は無いかもしれない。


 魔王を横四方固めしたい欲望と未知が近づいてくる恐怖が天秤にかけられる。


「くっ!」


 答えは出なかった。

 どうやら今は時間を稼ぐ必要があるようだ。


「いやぁあああ!」


 ぬるぬるくるりと魔王に抱きながら体勢を変えていく。魔王はといえば密着しながら激しく動く俺の動きに叫び声を上げてもがく事しかできない。

 後ろから魔王をかかえるような形になり弾力女を睨む。


「止まれ! それ以上近づくなっ!

 それ以上近づけば………魔王がどうなってもしらんぞ!」


 その場の時が止まるのを感じる。

 弾力女もワンテンポ遅れて止まるのを見て、俺は言葉を続けた。


「……揉むぞ?

 めちゃくちゃ揉むぞ? 超揉むぞ? だからそれ以上近づくな。」


 弾力女は俺の言葉にその首を傾げてみせ、魔王に至ってはギギギギっと音を立てるように俺にゆっくりと振り返って目線を向けた。その目は怯えと嫌悪のハーフ&ハーフ。細かく首を横に振り必死に『No』を伝えているのが分かる。


 弾力女に目を戻せば、ぽへっとした表情で首を少し傾げ、俺の言葉の意味を理解しようと考えている。

 考える頭があるのであれば、もう少しだけ情報を与えてダメ押しをする事にした。


「……生で揉むぞ?」

「いやぁあああああっ!!」


 魔王が俺の一言を聞いた途端に叫ぶ。そしてなんとか俺の腕から逃れようと必死にもがき始めた。拳や肘が俺の顔に迫らんとするが当たろうとも滑るだけで支障はない。そのまま弾力女を見据えていると、弾力女は俺の言葉の意味を理解しただろうに、気にせずに動き出しそうな気配がした。


 なんという事だ。魔王が生で揉まれてしまうというのに躊躇しそうにない。これはいけません。さらに情報を追加しよう。そうしよう。それがいい。


「止まれ! 一歩でも動けば、すぐに生で揉むからな!

 さらに揉みまくった挙句に摘まむからな! 脅しじゃないぞ!」

「いっゃぁあああああっ!!」


 魔王の声は既に絶叫だった。


「いーんじゃない? それよりおいしーのちょーだい。」


 弾力女は気にせず動き出した。


 あぁ、なんということだ。

 俺の警告は無視されたのだ。


 弾力女が動いたのだから仕方がない。ただ動かなければ俺も何もしなかった。約束は破られたのだ。だからもうどうしようもない事。魔王は切り捨てられたのだ。



 ……なので、めっちゃ生で揉んだ。


 桃源郷はここにあった。



--*--*--


 桃源郷モードに入っていると思いの外、弾力女が近くに来ていてかなり慌てて魔王をその場に捨てて後ろへと滑る。

 俺に捨てられた魔王は両手で顔を隠して小さくなって泣いているように見えた。仲間に切り捨てられたのだから悲しくて当然だろう。救出に来た仲間の胸で思いきり泣くといい。うんうん。


 離れた所で様子を見ていると、あっという間に魔王が弾力女に飲まれてゆく。


「へ?」


 弾力女は魔王に近づくと同時に球体にその姿を変え、まるで水の固まりのように魔王を包み込んだのだ。包み込まれた魔王は、一瞬呆けた顔をした後、球体の中で必死に泳ぎ始める。


 だが魔王がその球体から出ることは叶いそうにない。

 なぜなら激しい動きにも関わらず同じ場所から微塵も動いていないのだ。


「こらっ! ムースー!」


 怒声が聞こえたかと思うと、魔王を飲みこんだ球体に土人形が突撃し球体に波紋を広げながら次々と入り込んでいく。すると球体はその向きを変えた。飲みこまれている魔王や土人形がぐりんと反転したので向きが変わった事が分かったのだ。


「クオンごと飲むんやない! さっさと吐きい! 苦しそうやんか!」


 もがく魔王の動きが限界が近づいたように鈍り始めた時、ぺっ、とまるで吐きだされるように魔王が球体から放り出された。

 出てきた魔王は四つん這いになり何度かえづきながら咳込む。

 球体は、また弾力女の形へと姿を変え、どこか慌てたように魔王の肩に手を伸ばした。


「ごめんねー。夢中になっちゃってー。だいじょーぶ?」

「うぇ、エッホ! エフっ! だ、大丈夫じゃないわよ!」


 涙目で弾力女を睨む魔王。


「ごめんねー。」

「んもうっ!」


 魔王は口元を拭い立ち上がる。そしてハッとしたように立ち止まった。

 問題無く立ち上がれるという事は、どうやら身体中についていたぬるぬるが消えた。つまり弾力女に食べられてしまったという事。

  その事に気が付いたのか、魔王は一拍だけ目を伏せて考え、そして口元に憎悪を混ぜた笑みを浮かべ俺を見て口を開く。


「いいえ、よくやったわスーちゃん! あの豚勇者も食べちゃえ!」


 まずい。

 大変まずい。

 大いにマズイ。


 さっきの魔王を見ていて分かったが、あの弾力女に掴まると、俺はまず逃げる事は出来なさそうだ。それに俺のヌルヌルも効かない可能性が高い。というかヌルヌルは全部食われるような気がする。

 逃げるだけならあの鈍さを見れば容易に逃げることはできそうだが、一度捕まったらそれでアウトだ。なにこの恐怖の鬼ごっこ。


「はぁっ!」


 ボール状のヌルヌルを弾力女に向けて放つ。


「わーい。」


 間延びした声と共に当たると同時に飲み込まれて消えるヌルヌル。

 やはり間違いなく食べられてしまっている。弾力女は初めて見る俺の天敵なのかもしれない。


 助けを求めようとアーたんとコピたんのいる方に目を向ける。すると顔色の悪い可愛い子とお話真っ最中。なんともほのぼのとしている雰囲気があり、緊迫感を感じていた俺はその落差につい肩を落とす。


「アーた~ん……ちょっと何してるの!? 俺なんだかピンチなんだけどっ!」

「ヒデアキ。ヒデアキがそのムースーとかいう子を何とかできるなら協力しても良いっぽい的な事を言ってるから頑張ってみてー。もちろん危なくなったら助けるから。」


「なん……だと?」


 アータんの放った言葉。それはまさかの『自分でなんとかしなさい』と、まるで俺をないがしろにするかのような言葉だった。あまりの言葉に愕然とする。


「アーた~ん……」


 泣きたいような気持ちになり、情けない声が漏れた。

 弾力女はのろのろと俺の方へと歩みを進めている。もうどうしよう。あぁもうどうしよう。


「ヒデアキなら大丈夫だよー。ヒデアキ賢いし。

 ヒデアキのカッコイイとこ見たいのー。」


 アーたんの声は俺の勇気に変わった。


「ふっふっふ……なんだ。そういう事なのか。

 まったくアーたんは我儘だなぁ。ふふふふん! しっかり見ててよー。いくぞぉ!」


 両手を合わせて構える。


「ぬ……る……ぬ……る……」


 言霊を込めるように両手を動かし、そして弾力女に向けて勢いよく両手を向ける。


ーーっ!!」


 叫び声と共に怒涛のように放たれたぬるぬるが弾力女に迫る。


「わーい。」


 弾力女は喜んで口を開けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ