24話 すもう
「今日という今日は……ぬるぬるカーニバルをお見舞いしてやるからな。」
「カ、カーニバル!? な、なにそれ!」
リったんに押さえつけられている魔王を見下した後、自分の服に手をかける。
脱いでは正座してきちんと畳み、また脱いでは正座してきちんと畳んでゆく。
「ちょっ!? なに! なんでまた脱ぐの!」
パンツ一枚を残し立ち上がり、折り目正しく畳まれた衣服を綺麗に重ねてアーたんに渡すとアーたんはきちんと受け取り、少し呆れたような顔をして一歩下がった。
アーたんの反応は『好きにしたらいいんじゃない』と言わんばかり。ぬるぬるカーニバル開催の許可が出たことを感じとり魔王へと向き直る。
「すもう取ろうぜ。なぁ、魔王たんよぉ~がっぷりよつで~。」
「ひぃっ!」
更なるヌルヌルを全身に纏いながら、抜け出そうともがく魔王の元へと歩みを進める。
「いやぁーーー!」
既に涙目になり、叫び声からは本気で嫌がっている感情が伝わってくる。
「泣いても止めんからな……そぉーれ!」
「ギャアアァアーーーー!!」
リったんの抑える魔王めがけてダイブした。
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「なぁ……アンタの主はアレでいいん?」
「ユニークで面白いだろう?」
ゲンナリした顔のホーちゃんが消耗戦を繰り広げているコピたんに声をかけ、コピたんも少し笑いを含めながら返す。
「まぁ、たしにかに他にはないわな……ウチ、クオンやなくてよかったで。アンタの相手の方が精神的に楽やわ。それによく見りゃあアンタなかなかエエ男やからなぁ。」
「ふん。」
土くれ人形が生まれるペースは変わらず、コピたんが人形を切り捨てていくスピードも変わらない。
その様子を見たホーちゃんは人形を生み出すペースを加速したり遅くしたりして緩急を付けるが、コピたんは涼しい顔で対応し、まったく立っている場を動くことは無かった。
「……アンタ。
手加減してるやろ?」
問いかけに無言を返すコピたん。
ホーちゃんはその態度を見て、どんどん人形を生み出す速度を緩め、やがて人形を生み出すのは止める。
攻撃を止めても襲い掛かってくるでもなく、ただ見据えてその場を動かないコピたんを見据え、ホーちゃんはガリガリと頭を掻いた。
「あー。もー!
なんや? ……アンタもしかせんでも、ウチがあの勇者とクオンの邪魔せんかったらそれでエエっちゅうことなんか?」
ホーちゃんが「ギャー!」と声をあげながら勇者にヌルヌルがっぷりよつ状態にされている魔王を顎で指す。するとコピたんは感心したように自分の顎を人間の手で一撫でした。
「察しがいいな。」
「ウチは頭使う方やからな。
肉弾戦やったらアンタの方が強そうなんに一気に決めるように攻めてくる気配も見えんし適当にいなそうとしてるし……それくらいはすぐにわかるっちゅーねん。目的はなんなん?」
「自分が他の究極体とどの程度やりあえるのかを知りたかったのもあるが、目的については俺よりアントクィーンの方が詳しい。 手も空いてるようだし呼ぶか?」
「せやな。アンタウチのクオンみたいな感じがするし……自分が面白ければそれでいい的な欲望に正直なタイプやろ?
そんなら考えるタイプっぽい、あの銀色のおねーちゃんと話した方が早そうやしな。」
ヒデアキがヌルヌルを用いて魔王に絶叫させている姿を口元に微笑を浮かべながら眺めていたアーたんは、ヒデアキから預けられた服を両手で持ったまま、まるで話を聞いていたかのようにホーちゃんとコピたんの方へと足を向けて歩み始める。笑みを浮かべたままホーちゃんの前に来て立ち止まるアーたん。アーたんはホーちゃんの方を向いているが、その視界は魔王と勇者を捉え続けているように見える。
「で? アンタら一体何しにきたん? ウチら殺す気もないっぽいし。」
「お話できそうな相手なら、お話をしに来たのよ。」
「ほうれ、ヌルヌルー!」
「にゃあああぁあっ!!」
叫び声を背景に呆れ顔で問うホーちゃんに、口元に涼しい笑みを浮かべて答えを返すアーたん。
「なんや……厭らしそうな事考えるの得意そうなおねーちゃんやなぁ」
「あら? そっくりそのまま返すわよ?」
その時、建物を入り口から声がした。
「あーークーちゃん苛めてるー! だめー。なにしてるのー、もー。」
プリプリと怒りながら出てきた弾む弾力は、女性の姿を象りプリプリと怒った様子を見せる。
「にゃあああっ! スー! 助けてスーちゃんっ!」
「わかったよー、クーちゃんからはーなーれーるーのー」
ずりずりとゆっくり移動してくる様子のはずむ弾力。
「今お仕置き真っ最中なんだから、そこでツルツル滑ってろ!」
がっぷりよつから上四方固めへと変わっていたヒデアキは、鈍く近づいてくる弾力女に向けてヌルヌルを放つ。ヌルヌルはまっすぐに迫ってそして直撃した。
「わぁー、なにこれ。おいしー」
「あちゃあ……」
直撃したはずのヌルヌルは弾力に全て飲みこまれ、それを見ていたホーちゃんは軽く天を向きながら頭を押さえた。




