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ぬるぬるファンタジー  作者: フェフオウフコポォ


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23話 怒り

 天空の城。


 魔王ことクーちゃん達が居城としている天空の城。

 それは遥か昔クーちゃん達を率いた勇者が討伐した、過去の魔王が住んでいた土地であり、鳥系モンスター究極進化形態のクオンの『飛翔』能力をもってようやく辿り付ける大地。

 下面は雲に偽装され、その浮かぶ姿を下界の人間が見つけることは不可能な、人類には遥か遠き大地だ。


 人もモンスターも寄りつかない場所だからこそ無防備になるスーちゃんの能力『魂眠』の場として相応しく勇者亡き後は根城としていた。

 誰も侵す事のない聖域。


 のはずだった――


 静かな聖域に響き渡るは轟音。


「きゃっ!?」

「な、なんやっ!?」


 スーちゃんの能力により魂眠ではない眠りに誘われていたが、クーちゃんとホーちゃんは叩き起こされる。明らかな異常を察知しすぐに城から出て目を見張る。


 浮かぶ大地に『竜』が降り立とうとしていたのだ。


「魔王たん……いや…魔王。

 もう……泣いて謝っても許してやらんからな。」

「ヌルヌルっ!?」


 竜にかかええられるように竜の手の上に立つ勇者が冷たく言葉を放ち、連れている魔獣達と共に見下ろしていた。


 クーちゃんとホーちゃんは現状の理解が進まず戸惑うが、明らかにこれまでとは違う敵対心を勇者から感じ息を飲んだ。

 勇者は一切視線を外すことなく隣にいる魔獣に声をかける。


「コピたん。魔王じゃないヤツの方の相手はできそう?」

「問題ない。むしろどれだけ力を使えるかワクワクしている。」

「頼もしい。じゃあ宜しく。」

「任せておけ。ヒデアキ。」


 まるでオペラ座の怪人のファントムを思わせるような顔の半分を仮面で覆った男が竜の手から飛び降り歩きはじめる。

 その眼光は鋭く、ホーちゃんを捉えている。


「アカン……なんかマズそうなヤツにウチ狙われていーひんか?」

「な、なんなの!? なんなのよ!」


 静かに息を飲むホーちゃんと対照的に、焦燥と混乱を隠さないクーちゃん。だが、スーちゃんの能力で眠らされてしまう前に確認した勇者と余りにも状況が違いすぎるのだから、その反応も当然かもしれない。

 さらに言えば負け癖がついてしまっている大嫌いな勇者が目の前で『もう泣いても許してやらん』と言い切ったのだから、どんなひどい目にあわされるのかクーちゃんは怖くて仕方が無いのだ。


 ホーちゃんは横目に戦力として頼りなさそうなクーちゃんを見て、冷静に判断を下す。


「クオン。ええかよー聞け。

 戦わんでええからムースーをここに連れてこい。人型が相手ならムースーの方が強い。

 あいつ鈍いからここに来るにも時間かかるし、それにもしかしたらこんな状況でもまだ寝てるかもしれんから。」

「わかった――」

「お喋りはそこまでにしてもらおう。」


 眼光鋭くコピたんがまるで刀のような腕を振り上げ一気に距離を詰めた。


「くぅっ! くらえっ捕縛糸っ!」


 ホーちゃんが右手を振るうと、その手から無数の糸が放たれる。

 まるで糸は糸自身が意思を持つかのようにうねりコピたんに迫る


「ほう。」


 コピたんは立ち止まり少しだけ驚いたような声を出すが、その声は面白い物を見つけた子供のようにも聞こえる。迫ったと思った次の瞬間には迫りくる糸を切り刻んでいた。 


「面白いな。だが刃を持ち固有能力が『切断』の私には意味がないようだ。」

「くっ!」


 コピたんはククっと軽く笑ったかと思えば、すぐに真面目な顔に戻り後方に向け大きな声を出す。


「ヒデアキ! 魔王が奥の手を連れてくると言っているぞ!」

「分かった! リったん! 小さくなって魔王に突撃っ!」


 勇者と他の魔獣を手から下ろし終えていた竜が『ギャア』と一声だけ指示に応えるように鳴いたかと思えば、一瞬の内に4階建てのビル程はあろう大きさから、小さな1m程の竜へと変化し飛び出した。


「きゃあっ!」


 その速度は凄まじく。魔王も当身で受け流すのが精いっぱいだった。


「リったんの『竜形態変化トランスフォーム』を舐めるなよっ!」


 流石のクーちゃんも、この小さな竜を相手にしながらホーちゃんに出された指示をこなすことが厳しいのは、誰しも容易に伺い知ることができホーちゃんは思わず舌打ちをする。


「よそ見をするとは随分な余裕だな。」

「くぅっ!」


 距離を詰めるような気配を感じ、刀のような腕での攻撃に気を配る。だが予想に反して振りかぶっていなかった別の腕での拳が襲ってくる。

 刀の腕に気を取られ過ぎた為、拳をガードして受けるが、その力は強く軽い体躯のホーちゃんは勢いのままに飛ばされ壁に背中を打ちつけた。


 コピたんの腕は刀のような腕の他、人間のような腕が2本あったのだ。

 してやられたような顔をしながら見返すホーちゃん。


「あたたた……あんた女に手ーあげるとか最低やと思わんか? 男としてどうなん?」

「戦いの場に立ち、そして戦う意思を見せた者に差などなかろう。」

「そんなん言うてたら女にモテへんで?」

「我が主ならばその言葉に耳も傾けようが……残念ながら私には興味がないな。」

「それは残念。」


 軽く笑い合った後、糸で槍を作りだし構える。

 一触即発の雰囲気が流れる中、ホーちゃんはそれをヒデアキに向けて投げた。


 ぬるん


 魔王の元へと歩みを進めるヒデアキを槍は貫かず、勢いをそのままに軌道がずれるだけだった。

 ヒデアキはチラリとホーちゃんを見た後、すぐに魔王へと視線を移す。


「本当に効かんのやなぁ……」

「無駄だとわかれば、こちらに集中もできるだろう?」


 知っていてワザと止めなかっただろう言いっぷりのコピたんを前にし、苦々しい顔になるホーちゃん。


「ウチなぁホラードールの人形系モンスターやから、裏から誰かを手の平の上で転がすのは好きなんやけどな……思う通りに転がされるのは好かんねん。」


 まるで操り人形を操作するように両手を下に向けると、地中から腰ほどの高さの土くれの人形が出現する。

 1体、2体……4体、6体……10体、11体――

 その数はさらに増えていく。


「ウチが操り疲れんのとアンタが切り疲れるん。どっちが先かなぁ!」

「面白い。」


 口元を片方だけ吊り上げたコピたんとホーちゃんの消耗戦の火ぶたが切って落とされるのだった。



--*--*--



 その頃、魔王はリったんに呆気なく掴まり、得意げな顔のリったんに地面に押さえつけられていた。


「ひぃっ! やだやだやだー!」


 魔王の視線の先には怒りに目を燃やしたヌルヌル勇者がどんどん近づいてくる。


「なんで! なんでこんなに早く究極進化してるのよぉっ! なんでナルのとこじゃなくてコッチに来てるのよぉっ!」


 なかば狂乱気味に魔王が叫ぶ。


「完全体が究極体を食えば、進化が早くなるのも当然だろう?」

「へっ? なによそれ!?」

「お前のせいで……お前達のせいでアーたんが……アーたんがぁっ!」


 ギっと睨む勇者の目は怒りにもえ、そして目尻には涙を貯め歯がギリギリとなる。

 これまでにない勇者の表情に魔王の顔色も一層悪くなっていく。


「ねぇ、ヒデアキ。私ショートカットも似合うでしょ?」


 勇者の後ろについてきている、首程の高さで綺麗に切り揃えられたショートカットの美女が口を開くと同時にそっちを向く勇者。


「そりゃもう! アーたんなら、どんな髪型でも世界一似合ってる!

 なんてったってアーたんなんだから!」


 ニコニコとした雰囲気で話しかける勇者。

 その変わり身に魔王はぽかんと呆けずには居られない。


「髪?」


 思わず口走った魔王に、勇者は怒りを再燃させ見下す。


「あぁそうだ!

 皆を進化させる為にアーたんの美しい髪が犠牲になったんだぞ!

 ああぁあぁあっ! あの美しい髪が! ああもうどうしてくれようか!」

「たかが髪じゃない……」


 つい口に出た本音。


「おまえ、今――なんていった?」

「ぴっ」


 ゆらりと揺れた勇者を前に、魔王は変な声しか出せなかった。

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