12話 国王覚醒
そうだ、勇者召喚、禁止しよう――
「おーい俺の話、ちゃんと聞いてるんですかねぇ国王様?」
「はい。聞いてます。ちゃんと聞いてます。」
上から目線で声をかけてくる男二人を前に、小さく返す。
ワシ……国王なのに。いっちゃん偉いのに。
「そもそも拉致監禁された上に便利に使われてた今までがオカシイんだよ。
なんで俺達が言われた事を聞いてペコペコしなきゃいけないんだっつーの、なぁリョウ。」
「そうそう。ヒデアキも俺も超強い魔獣を連れてる時点で、もう一般兵での武力制圧は不可なワケだもんな。
住む所を用意してもらってるって言っても、俺達はメシだって自分の能力で出せる。食うに困らない。
魔獣がいれば住む所なんて適当に作れる。いつ国を出て行っても問題ないってワケだ。」
「なのに、わざわざ残ってあげて能力で技術発展に力を貸してやってるってな。
あっれぇ~? 誘拐されて監禁されて、一人でも生きていける力を手に入れてる俺達が、なーんでわざわざ言う事聞いてあげなきゃいけないんでしょうねぇ?
ねぇ国王? 俺達なんかおかしい事言ってますぅ?」
「言ってないです。」
アクアノス国王が小さく返す。
チラリと見れば目が合い、お互い災難にあったように肩を竦めあい『苦労するな』とアイコンタクトを交わす。
「「 ねえ? 話、聞いてるんですかねぇ? 」」
「「 聞いてます。 」」
「オウチカエシテ……」
ワシとアクアノスのヤツの間に転がっている魔王が、まるで壊れたように小さく呟く。
勇者二人が魔王にどっちの勇者を選ぶかの選択を懇々と迫り、魔王はその陰湿で諄くネチッコイ言葉攻めに、また泣いた。
流石にいくら魔王とはいえ可哀想に思えアクアノスのヤツと一緒「もうその辺で……多分魔王も、もう逆に死にたいんじゃないかな? いっそ楽にしてあげよう?」と提案したら、イラつきの矛先がこっちに向いてこの様だ。
ぶっちゃけ連れてきた兵達が束になっても、アントランダやトレンティガに勝てる可能性は低い。
さらにその魔獣達に勇者の能力のフォローが入ったらと思うと、もう大人しくしておくしかない。
「まぁ、とはいえこっちもそんな子供じゃないわけですよ。日本じゃしっかり働いてましたし? いい大人なわけです。」
まだ続くのかぁ――
--*--*--
「ハイ。私、魔王は固有能力で遠視の能力をもってまして、それで人間の事を観察したりしてまして、ニュースとか出てるじゃないですか。それで人間が話しているのを聞いて知りました。ハイ。」
「へぇ。じゃあ本当に上に住んでて見てたのかぁ。……上って俺達でも行けるの?」
「行けません。無理です。絶対無理なので私のおウチに来ないでください。勘弁してください。」
「じゃあ、トレちんの進化がまだあるっぽい的なことを言ってたけど、それってどうなの?」
「魔獣の進化は、幼年体から成体へ、成体から完全体へと進化します。種族によってはその先にある究極体などの進化が可能なんです。」
「へぇ? で、成体は魔王が操作出来ちゃうって事なんだ。」
「ハイ。そうです。…………あの、もうそろそろ……勘弁してもらえませんか?」
勇者二人は再度涙目になった魔王を見て、お互いに顔を合わせ小さく頷く。
「あぁ、そだね。聞きたい事は結構聞けたな。今日はもういいか。どうだリョウ?」
「まぁ上々じゃないか? お開きにしてもいい頃だろう。」
魔王の顔に喜色が宿る。
その顔を見て勇者二人が笑顔で口を開く。
「最後にひとつ、スリーサイズは?」
「最後にひとつ、妹とかいない?」
「本当に勘弁してください。」
この後、魔王は両国王に「建物こわしちゃってゴメンなさい。」と謝罪。
両国王も「いや、いいんだよ。……なんというか魔王も大変だね。ゴメンね。もう私達じゃ勇者止められなくて……」と声をかけられ、また少し泣いた。
こうして魔王は両国王に
「とりあえず勇者を殺す事だけを目標にします! もうそれしか考えられないんです!
今回は二人が一緒だったから駄目だったけど! 一人なら何とかできると思うし協力してください!」
と決意を新たに宣言し、次回、人間を襲いに来る時は前もって国王達に連絡をいれる事を約束して鼻息荒く帰っていった。
「アクアノスの……今まで悪かった。変な意地を張って自分の国だけでなんとかしようとした結果が……この様じゃあ……」
「フレイドロンの……ワシも意固地で融通がきかんかった。本当にすまない。
厚かましいが……恥を忍んで願う。これからは力を貸してもらえんだろうか。」
「アクアノスの! それはワシのセリフじゃあ! すまん……すまんかった!」
「フレイドロンの!」
魔王が去った後、国王達は勇者に頼らず自分達だけで自衛をできるよう、お互いに惜しみない協力関係を築く事を固く約束し、まるで長年の友人同士が別れを惜しむように会場を後にするのだった。
今日。ここに長き争いの歴史が終結し、新たな時代の幕が開いた。
そして同時に、勇者と魔王の長きに渡る戦いも幕を開けるのだった。
「はぁ~、魔王たん。可愛かったなぁ。」
「むー。」
「あははは、アーたん妬いてるんだなぁ可愛いなぁ! よーしよしよし!
大丈夫大丈夫! アーたんは別次元で可愛いから!」
「ならよし。」
勇者達もとりあえずは、住み慣れた土地に帰っていくのだった。




