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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第三章 カメラとゴーストと教会と

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第89話 ポッと出の技術を信用させるにはコツがいる

 キャサリンが一人、教会へと馬車を走らせていた頃……



 議場から帰る道すがら、「良かったのか?」とランディがリズに視線を向けた。結果としてキャサリンを助けるような形になったこと。そのキッカケとなったのが自分自身の怒りという事なので、ランディとしては少々気にしている。


「ええ。キャサリン様のやったことは許される事ではありませんが、そのお陰でこうして今がありますし。もう恨んではいませんから」


 リズは全く気にもしていない、と微笑んでみせた。


「いつまでも憎しみに囚われていても勿体ないじゃないですか」


 真っ青な冬空を見上げて「世界はこんなに綺麗なのに」と目を細めるリズに、「そっか……。そうだな」とランディが小さく頷いた。


「ただ……ランディ。あんな所で暴れようとしては駄目ですよ」

「いや、暴れるつもりは――」

「いいえ。あの顔は暴れる時のそれでした。あそこで暴れていたらですね……」


 説教をするリズが言うのは、あの場でランディが全てをひっくり返していたら、公国と王国との国際問題へと発展し、内乱ではないもののそれこそ教会の思惑通りの形になっていた可能性があるのだ。


「全く……」


 頬を膨らませるリズに「すみません」と頭を下げるランディだが、それを見ていたリズが不意に吹き出した。


「でも、良かったです。ランディはやっぱりランディでしたから」


 微笑むリズが、「あそこで怒ってこそですから」とランディの手を握った。


「相手が誰であれ、利用される事を黙っていられない。己の中の筋を通す。それでこそ、私の信頼するランドルフ・ヴィクトールです」


 リズの見せた完璧な笑顔に、「お、おう」とランディも微笑み返した頃……


「ランディ、後ろ後ろ」


 ルークの言葉にランディが振り返った。そこにいたのは、笑顔に青筋という器用な表情のルシアンだ。


「ランドルフ君は、時と場所を弁えるという事を覚えねばな」


 それはリズとイチャついていたことか。それとも先ほど議場で盤面をひっくり返そうとしたことか。どちらにせよ、ルシアンの言うことは最もで、「申し訳ありません」とランディとしても頭を下げるしか出来ない。


 頭を下げたランディに「ただ……」ルシアンが申し訳無さそうに言葉を切った。


「私こそすまなかった」


 王城の廊下ということもあって、頭こそ下げなかったルシアンだが、彼が続けたのは王国と教会を叩き潰す事だけに注力しすぎていた、という話だ。


「あのまま聖女を巻き込んでいれば、私も彼らと同じ恥ずべき存在に堕ちていた。ランドルフ君の怒りに気付かされたよ」


 微笑んだルシアンに、「いえ……」とランディも歯切れの悪い言葉しか返せない。ランディとて単純に、あの場で怒りをぶつけそうになっただけで、深く考えていたわけではない。


 その怒りを諌め、更に最良とも言える結果を引き出したのは、紛れもなくリズだ。


「リズが、一番の功労者でしょう」

「違いないな」


 納得した二人が笑顔を見せ、リズに「ありがとう」とそれぞれがお礼を告げた。


「二人のお力になれたのなら」


 そう照れたように微笑むリズに、ルシアンが「強くなったな」と満足そうに頷いていた。








「それでは、私は先に失礼するよ……」


 一人馬車に乗り込むルシアンは、今からセドリックと共にカメラのお披露目会があるのだ。ランディやリズも誘われたのだが、やはり侯爵家という看板を前面に出したほうがウケがいい、とランディは丁重にお断りしている。


 そもそもそういったプレゼンは、ランディのあまり得意とするフィールドではない。間違いなくセドリックの邪魔にしかならないだろう。


「ではリザ。また夜にでも」

「はい」


 嬉しそうに微笑むリズは、侯爵がこちらに滞在する間は、侯爵家の別邸で過ごす予定だ。既に王国にも侯爵とリズが繋がっている事などバレているので、もう隠す必要もない、という訳だ。


「ランドルフ君も、重ね重ねになるが今回はすまなかったね」


 微笑むルシアンに、ランディも「いえ」と首を振った。


「私も思い出させられましたから。……力だけでは解決しないことがある、と親父殿に言い含められていた事を」


 頭を掻いたランディに、「やはり」とルシアンが納得するように頷いた。


「私は君の父君が一番恐ろしいかもしれないな」

「親父殿も同じ事を言うかと」


 そう言って二人が笑い声を上げ、「いつでも遊びに来たまえ」と馬車はルシアンを目的地へと運ぶために動き出した。


 侯爵の馬車を見送りながら、セシリアが「それにしても……」と呟いた。


「やはり侯爵様は恐ろしく、それでいて頼もしいお方ですわね」


 苦笑いのセシリアの言う通り、リズやランディの怒りこそあったものの、終わってみたらほぼルシアンの提案通りに着地しているのだ。しかも相手に意趣返しまでしつつ。


「お父様は、やられたら徹底的に、というお方ですから」


 頬を掻くリズに、ランディも納得したように頷いた。ルシアンを敵に回した王国に、同情すら覚えつつ王宮を振り返った。


「そーいや、あの場に王太子はいなかったよな」


 当事者なのに。言外に含まされた意味に、リズが苦笑いで王宮を振り返った。


「エドガー王太子殿下は、少々思い込みが激しくて正義感の強すぎる方ですからね」


「なるほど……」


 頷いたランディは、あのパーティの日を思い出している。なんせ完全な思い込みでリズを断罪したのだ。少しの間とは言え、婚約者としてそばにいた女性の言を信じず、自分が正しいと思ったことを信じた男。


「……王太子も操られてた、とか言い出さねーよな」

「止めてください」


 ジト目のリズに、ランディも「悪い」と肩をすくめた。いくら国王や法務卿が馬鹿でも、それは力技が過ぎるだろう。王太子も操られていて、婚約破棄をしてしまった……などと。そんな馬鹿げた事を言い出そうものなら、恐らくルシアンが黙ってはいまい。


 そもそもリズの言うエドガー像を考えるに、彼がその嘘を飲み込めるとも思えない。


「あの方々も、そこまで馬鹿ではありませんわ」


 苦笑いのセシリアだが、王宮前で国王を馬鹿呼ばわりするのは止めてほしい。そんな非難の目をルークに向けるが、ルークは黙って視線を逸らした。


 従者なら主人の手綱くらい握っておけ、と言いたい所だが、こんな場所で言い合いをするのもそれこそ馬鹿の所業だろう。頭を切り替えたランディが、もう用はないと王宮へと背を向けた。


「まあ何はともあれ……とりあえず腹が減ったし、飯食ってからセドリック様の活躍を見に行こうぜ」


 大きく伸びをするランディに、「シュガースター・パフじゃな」と嬉々としたエリーが現れた。


「馬鹿か。飯だっつってんだろ」

「飯の後にはデザートがあるものじゃろ」

「ちゃんと飯食ったらな」


 そうして四人は賑やかに王宮を後にした。




 ☆☆☆




 それぞれの腹を満たした四人は、カメラのお披露目会があるという、大通りの一角へ向かっていた。


「さてさて、セドリック様が、どんなプレゼンをするかな」


 セドリックから頼まれた幾つかの試作品。それらをセドリックがどう使い、そしてこのお披露目会が、どうやって教会への打撃へと繋がるのか。


 既にランディの手を離れた作戦だけに、ランディとしても興味がある。


 もちろん大まかな流れは理解している。スキャンダルをもって、教会上層部へ打撃を与え、隠されていたゴーストの真実を突きつける。その上でダメ押しとばかりに、王国から王太子暗殺事件の真相発表だ。


 その作戦における第一の楔とも言えるスキャンダル。それへの布石が、このお披露目会でもある。


 そんな事を考えながら歩いているランディの横で、「あれ?」とリズが声を上げた。


「どうした?」

「いえ……今、キャサリン様の馬車とすれ違いまして」


 リズの言葉に振り返ると、なるほど。聖女の頭と同じピンクの馬車が通りを上っていくのが見えた。


「向こうに教会もあるし、その帰りじゃね?」

「そうですね」


 キャサリンの事を頭の隅へと追いやったランディ達は、既に多くの人だかりが出来ている大通りの一角へとたどり着いた。


「すげぇ人だな……」

「今や侯爵様は、時の人ですもの」


 セシリアの言う通り、王国で……いや大陸でルシアン侯爵を知らない人間はいない。馬車の改良に加え、美容液の販売。そして最近では冷蔵庫の小型化から、冷凍庫の開発まで。ランディのアイデアを、クラフトで形にした玩具のようなものを、次々と世に送り出しているのが侯爵だ。


 既に王都でもコリーの実家と手を結び、庶民向けの販路も軌道に乗ってきている。


 そんな侯爵が、新たな商品を発表するとなれば、このにぎわいも納得出来るというものだ。


「恐らく競合相手も紛れてるんだろうな」


 人混みにため息をつくルークだが「問題ねーよ」とランディがそれを笑い飛ばした。


 カメラは本体を購入して分解したら仕組みがバレるだろう。


 例えばレンズやシャッター。

 例えば撮影と同時に噴霧される定着液。


 向こうの世界のカメラとは違うが、作り自体は単純なものだ。本体の再現は競合相手でも可能だろう。


 だが感光紙はあのヴァリオン製で、定着液に至ってはゴーストもとい瘴気にまみれた魔素である。簡単にたどり着けるものではない。


 もちろん行く行くは魔素の発表をするのだが、それを真似出来たとしても、ヴァリオン製感光紙が立ちはだかる。あれを狩るのは普通の冒険者では難儀するだろう。もちろん最適な配合バランスもである。


「絶対に無理な経年劣化試験を越えた特別性だぞ。どう足掻いても閣下の一人勝ちだ」


 そんなランディ達の会話を他所に、大通りに面した大きな建物の前に一つの台が置かれた。同時にザワザワと落ち着きのなかった群衆がピタリと静まり返った。


 台に上がるのは、もちろんルシアンだ。


(スティー◯・ジョブズみてーだな)


 堂々たる様子で、カメラを持つルシアンにランディは前世の記憶を思い起こさせられていた。


「お集まり頂いた皆様。この度、我々が紹介するのは――」


 そうして始まったカメラのお披露目会は、困惑から驚愕、そして称賛の嵐へと一気に会場が変化していった。


 無理もない。急に「一瞬を切り取って保存できる」などと言われても、初めての人からしたら「なんのこっちゃ」である。それが、実演を経て驚き、そしてそれをなし得た事への称賛。


 上がり続ける歓声に「凄いですね」とリズも興奮気味でピョンピョンと跳ねている。


(いつかビデオも作ろう)


 そう心に決めたランディの前では、ルシアンに代わりセドリックが台へと上っていた。


(さて、お手並み拝見)


 視線があったセドリックが、ランディへ一瞬だけウインクを見せた。まるで「見ていろ」とでも言いたげな仕草に、ランディの口角も自然と上がる。


「さて、今日お集まり頂いた皆様には……折角ですから体験していただこうと思っています」


 セドリックが指を鳴らすと、おそろいの服で統一したスタッフが数人程現れた。


「ご希望の方先着三〇〇名様限定ですが、整理券の配布を行います」


 そうして始まったセドリックの説明を端的に表すとすると、体験型写真コンテストだ。


 題して『私の好きなもの』。


 今日から一週間、このギャラリーを受付として希望者にスタッフ同行でカメラとフィルムを二枚貸し出し、各々がカメラを直接使用して好きなものを撮る事が出来る。


 もちろんスタッフ同行だが、自分で操作して写真を撮るという貴重な体験が出来るわけだ。


 そして撮った写真は、撮影期間終了後、一週間限定で眼の前のギャラリーに飾られ、人々に見てもらう事になる。もちろん。見てもらうだけではない。


「展示した写真は、それぞれ住民の方に投票していただきます。そしてなんと……優勝者にはこのカメラとフィルムをセットでプレゼント」


 何とも大盤振る舞いの発表に、会場のざわつきが大きくなる。ちゃんと投票してもらえるように、投票者には侯爵家の息がかかった商会共通のクーポン――クーポンの概念はランディ発――まで配るという大盤振る舞いである。


「もちろん、撮った写真は後日お返ししますので、ぜひ参加してみてください」


 王子スマイルを残したセドリックが、台を降りると早速とばかりに動きの早い人間がスタッフへと駆け寄った。恐らく他の観客を誘発するためのサクラだろうが、それに釣られるように集まっていた人々が一斉に群がった。


「押さないで下さーい。整理券を貰った方はこちらへどうぞ」


 侯爵家の家紋入り整理券は、集まっていた人間殆どに行き渡ったようで、既に整理券を片手にスタッフを連れて街へ繰り出す人間も見られる。


 体験型のお披露目、そしてそこに隠された本当の狙いに、ランディはセドリックという男の真価に唸っていた。


「なるほど。こりゃ俺では考えつかねーな」


 元現代人だったからこその盲点。写真は未知の存在だという認識。ランディにとって写真は当たり前だが、この世界の人間にとってはそうではない。


 それへの理解を深めるために、セドリックはこうして体験型のお披露目会にしたのだろう。自分で撮って、自分が見たものが写真になれば、写真という存在への信頼が生まれる。


 つまりこの後に控える、教会のスキャンダルをすっぱ抜いた写真という存在を、抵抗なく信じる事が出来るわけだ。


「派手にやるか……流石だな」


 そしてこのコンテストも、布石なのだろう。多くの人に写真を見せるという。


「木を隠すなら森の中、いや、木を見せる為の森を作ったのほうが正しいかな」


 ランディの視線の先では、セドリックがドヤ顔を見せていた。



 ☆☆☆



 写真が盛り上がりを見せたその日の夜……


「なあ知ってるか? 墓地に教皇のゴーストがでるらしいぜ?」


「何で教皇様のゴーストが出るんだよ」


「あ、それ俺も聞いたことがあるぜ。西の墓地だろ?」


 ……酒場の一角では、教皇に関する不穏な噂が静かに広がっていた。

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