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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第五章 春休みってすぐ終わる

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本日休載のお知らせ+おまけ

 ロルフ達が王国騎士団の背中を、見送っていた頃……ブランクルフト内に作られた救護施設には、横になるアイリーンの姿があった。


 ヴェリタス商会跡地に作られた簡易テントであるが、中は衛生兵と無数のベッド、そして底に横たわる負傷者でいっぱいだ。作戦が噛み合い、今のところ死亡報告こそ届いていないが、それでも重傷者がいないわけではない。


 そんな救護施設の一画で、アイリーンは軽い治療だけを施され、ベッドに横になっていた。他の重傷者に比べれば、軽い火傷と魔力欠乏、そして極度の疲労から来る失神なので、これ以上の処置は不要との判断だ。


 そんなアイリーンに付添うのは、浮かない顔のウェインだ。無理もない。衛生兵達はこれ以上の処置は必要ないと判断したが、いつもの透き通るような真っ白な肌は、泥にまみれ、所々火傷の痕も目立つ痛々しい姿なのだ。


 それだけ戦いが激しかった事が良く分かる。


 それでも満足そうな寝顔のアイリーンに、ウェインが人知れずため息をついた。


 ――良かった。


 そんな安堵のため息だ。アイリーンの助けになれば、とコッソリ残って戦争に参加した形だが、戦争はウェインが想像するよりも、残酷で激しかった。


「何も出来なかったな」


 呟いたウェインは、悔しさを滲ませた顔で俯いた。あの場にいたのが自分ではなく、ランディであったら……そんな事を考えてしまう自分が、いや友人を少しでも妬んでしまった自分が酷く情けなかったのだ。


 しばし俯いていたウェインだが、口を真一文字に結んで勢いよく顔を上げた。


(ウジウジするな、ウェイン・ベルシュト! 今出来ぬなら、出来るようになればいい)


 ウェインが勢いよく両頬を叩いた――その音が救護施設内に響き、衛生兵達から咳払いと「静かに」と言いたげな非難の視線が向けられた。


 恥ずかしさと申し訳無さで、ウェインが再び背を丸めた。自然とアイリーンに近づいたウェインの鼻腔を、甘く優しい香りがくすぐった。


 戦場では必死で気付かなかったが、今この場ならよく分かる。


「……この匂い――」


 ウェインにも馴染みがある匂いは、学園のご令嬢たちがこぞって髪につけている香油のそれだ。ブラウベルグが販売している美容品の一つで、香油の中でも一番人気の香りである。


 ちなみにアイリーンがつけているのは、ランディとリズが持ってきた、お土産だったりする。


 ウェインにとっても、馴染みのある香り……女子をイメージさせる香り。


 今まで女性らしい仕草など見せたことがなかったアイリーンが、ふと見せた一面にウェインが思わず顔を赤くして立ち上がった。


(ヤバい。キモすぎるぞ、俺!)


 思わず何度も自分の両頬を叩くウェインだが……


「ん、ンン!」


 ……大きな咳払いとともに、ウェインの真後ろに医療将校が現れた。


「静かに出来ないなら、外で待て」


 不良のような見た目の医療将校に、襟首を掴まれたウェインは、問答無用で外へ放り出された。




「――ったぁ」


 恥ずかしさと申し訳無さから、立ち上がれぬままウェインが真っ白なテントを見上げたその時、


「ワフ!」


 ウェインの背後に、妙に色艶の良い一匹のアイスウルフ――山田――が現れた。


「……お前か」


 山田に気がついたウェインが、その頭をゆっくりと撫でた。


「お前もお嬢様が心配なのか?」


 微笑むウェインに、「クゥン」と山田が返事をする。元来賢いアイスウルフだが、まるで会話が成立しているような受け答えに、ウェインが思わず笑みをもらした。


「大丈夫だよ。気を失ってるだけだって」


 笑顔を見せたウェインに、「ワフ!」と山田が嬉しそうに尻尾を振る。どう考えても会話が成立している事に、ウェインが驚くのと同時、ある噂を思い出した。


 ――最近アイリーン様が、一匹のアイスウルフを可愛がっているらしい。


「それは、妙ちくりんな名前で……」


 そこまで呟いた時、山田に詰め寄った。


「お前、まさかお嬢様に名前を貰ったわけじゃないよな?」


 何と羨ましい。そんなウェインの熱の籠もった瞳に、山田は困ったように首を傾げた。なんせ山田と命名したのはランディなのだ。だがそんな事など知らないウェインは、「吐け、お前の名前を吐け!」と山田に詰め寄っている。


「こらウェイン。ヤマダを虐めると、アイリーン様にどやされるぞ」


 軽傷者がヘラヘラ笑って通り過ぎていく。その背中を見送ったウェインが「ヤマダ……?」と山田に向き直った。


 確かに耳馴染みのない名前だ。だが、アイリーンならあり得る。なんせそういった方面には壊滅的なセンスを持つ彼女だ。本来アイスウルフは、それぞれ相棒から自分の名前の一部を貰うのが慣例だ。本当の名前があるはずなのだが……それが今や〝ヤマダ〟である。


 普通なら「不憫だな」となるところだが、そこはウェイン。


「お嬢様にあだ名をつけてもらうなど……羨ましすぎる」


 妙な所で山田に対抗心を燃やすウェインが、数日後アイリーンにあだ名を直談判するのは別の話。





 ……そして、


「ヤマダ? ああ。ランドルフ少年がつけたからな。そんなに欲しいなら、私から頼んでおいてやろう」


「え? うえ? ランドルフ?」


 まさかのランディに命名権があったことに、ウェインが膝をついたのも、そしてランディが「やだよ」と眉を寄せたのも、また別の話。



「当たり前だろ! 何でお前にあだ名つけられねえといけないんだよ!」


 ウェインがそんな逆ギレをかましたのも……。

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