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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第五章 春休みってすぐ終わる

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第250話 開戦前から色々準備するのが戦い

 王国各地で帝国軍が目撃された翌日。


 そのニュースが届いた王都では――箝口令を敷く間もなく――瞬く間に広がった情報に王都民が動揺したのと同時、【真理の巡礼者(ピルグリム)】が、ついに王都にも出現したのだ。


 〝教会を虐めないで〟デモどころの騒ぎではない。王都は朝一番から、完全に混乱の最中にあった。


 終末を説く煽動者。

 それを追いかける衛兵。

 通りに人影は少なく、そして家々の扉は固く閉ざされたままだ。


 爆発などの大掛かりなテロこそ起きていないが、一夜にして現れたカルト集団に、住民達は完全に怯えきってい。


 無理もない。【真理の巡礼者(ピルグリム)】と帝国軍のダブルパンチだ。しかも帝国軍に至っては、既に昨晩から散発的ではあるが、戦闘が開始された事も伝わっているのだ。


 カルトの説く終末が、王都民に現実としてのしかかっていた。



 今もまた、衛兵が応援を呼ぶ笛の音が遠くで響いている……そんな王都の通りを、ランディとリズは学園に向かって歩いていた。


 高級住宅街も。

 学園への近道になる酒場の裏通りも。

 そして学園へ伸びる大通りも。


 いつも通っていた道は、いつもと違う不気味な静けさに包まれている。


「まだ王都からは遠いのに、えらく過敏だな」

「仕方ありませんよ。ここ百年、王国は平和でしたから」


 苦笑いを見せるリズは、昨日今日のお陰で殆ど普段通りになった。不安と心配は拭いきれていないだろうが、アランとヴォルカンが約束してくれた以上、それを信じるのだと笑っていた。


 とはいえ気にならないわけではない。


「セシリーは大丈夫でしょうか」


 既に本来の始業式は終わっているというのに、セシリアはまだハートフィールドに残っているのだ。領主の娘として、ここで一人逃げるわけにはいかない、と。


「まああっちはルークがいるからな。しかもアーベル達も派遣するって言ってたし」


 分隊長三人が揃い踏みだ。正直言って、あの三人を破ってハートフィールドまで辿り着こうと思うなら、かなりの戦力を投入せねばならない。


 そして万が一ルーク達が抜かれたとしても、本丸であるヴィクトールにはハリスン、キース、ヴォルカンがいる。公国自体は混乱のさなかにあるが、意外にも冒険者達は落ち着いているので、アーロンと連携も取っているので、ヴィクトールにはまだ余力があるのだ。


 冒険者達も、帝国軍ではなくカルトのテロリストであれば、遠慮せずに戦えるというものだ。


「ブラウベルグも、順調みたいだし」


 風の噂で届いたのは、ブラウベルグ海軍の精強さだ。今のところ帝国海軍を押し留める素晴らしい戦いを見せているらしい。


「唯一気になるのは……」


 ランディが眉を寄せた瞬間、路地から【真理の巡礼者(ピルグリム)】と思しき男が飛び出してきた。完全に目がキマった男が、奇声を上げながらリズへ手を伸ばす――


 男の顔面にランディの裏拳がめり込んだ。


 路地へ弾き飛ばされ、ゴミ置き場に頭から突っ込んだ男が、ピクピクと痙攣している。手加減が上手く行った事に、「よしよし」と頷いたランディが、チラリと男を見やった。


「唯一気になるのは、なーんで帝国は【真理の巡礼者(ピルグリム)】を王都にも出したんだろうな」


 再び歩き始めるランディに、リズが「王都を混乱させるためでは?」と首を傾げて続く。


「確かにそうなんだが……」


 腕を組んだランディが、話すのは元々【真理の巡礼者(ピルグリム)】が王都に出現していなかった理由だ。


 今回の帝国進軍の理由は、「カルト教団に怯える王国民を憂慮して」というお題目、王国のためという、おためごかしである。


 故に必要以上に時間を掛けての進軍は、他国からの誹りを免れない。だからこそ帝国からしたら、超短期決戦が望ましい。


 そして超短期決戦で重要なのが、ここ王都だ。王都を落としてしまえば、実質帝国の勝ちである。


 この危機を招いたのは王国政府の責任。


 だとか何とか言って、王都を占拠、政府を解体。同時に【真理の巡礼者(ピルグリム)】を引っ込めれば……あら不思議。帝国が政府に代わって指揮を取った瞬間、カルトは壊滅、王国の民に平穏が訪れる。という筋書きである。


 だから王都以外で、【真理の巡礼者(ピルグリム)】を暴れさせたのだ。鎮圧に騎士団が迎えば、王都は手薄になるからだ。更に王都というお膝元は無事なのに、他の直轄地を平定できねば、王族及び政府への不満も膨れ上がる。


 政府が代わった時に、溜まった不満は帝国への期待へ変わるわけだ。


 それを狙って、王都では【真理の巡礼者(ピルグリム)】を暴れさせなかった。ランディはそう考えていた。


 そしてその帝国の思惑を潰したのが、〝教会を虐めないで〟デモである。【真理の巡礼者(ピルグリム)】とは違うが、政府のお膝元で大規模なデモだ。騎士団を王都へ留める為の理由にもなる。


 つまりあのデモは、王都の防備を固める為の一手と言える。


 だからランディは、デモを裏で主導したのはブラウベルグだと睨んでいる。


 王都の守りを無理やり固める一手。戦争が終わっても、政府の無能ぶりが露呈し、彼らはまた別の窮地に立たされる。


 ルシアンらしい嫌がらせと実利を兼ね備えたスマートな一手だが、アランはそれに「遠からずだな」と笑うだけであった。


 そして事ここにきて、【真理の巡礼者(ピルグリム)】の暴動である。


 騎士団を王都に張り付かせる理由付けを、帝国自らが与えるとは思えないし、これ以上ルシアンが構う必要もない。


「そうなってくると……」

「騎士団の方々が、不在になった」

「しかねーよな」


 ランディの盛大なため息が通りに響いた。


 この大事な局面に、まさか騎士団を外に出すとは。王国政府はマジで馬鹿なのかもしれない。そんな感想が出てしまう。


「でも、アラン様が『おかしな事が起きるだろうが気にするな。想定内だ』と仰ってましたよね」


「まあ、そうなんだが……」


 苦虫を噛み潰したようなランディが、「それも気に食わねーんだよな」と更に顔をしかめた。


 アランの言う通り、変な事が起きた。そしてそれが大人達にとっては想定内らしい。だがその理由は分からない。今もニヤリと笑うアランとルシアンの顔が浮かんでいるのだが、二人共何も教えてくれないのだ。


「帝国には同情するぜ」

「順調ならばいいのでは?」

「そうだな。そういう事にしとくか」


 若干気になる事はあれど、今のところ順調に事が進んでいるのは良いことだ、とランディが頭を切り替え頃、目の前に学園が見えてきた。


「まあ……王都の混乱ぶりだと、学園は順調とはいかねーだろうな」


 眉を寄せるランディの前には、閉ざされた門と『臨時休校』の文字が書かれた紙だ。本来なら昨日が始業式、今日は入学式のはずだが、もちろん学園の周りには誰もいない。


「そーいやウェインとかは戻って来たのかな」

「どうでしょう。学園からは始業式延期の手紙が着てましたけど……」


 語尾が力なくすぼむリズに、ランディも「ウェインだしなー」と苦笑いを浮かべた。大事な手紙などは期日が過ぎてから親に渡すタイプ。それがウェインだ。ちなみにランディも同じタイプである。


「アホ面でも拝みに行くか」


 ニヤリと笑うランディに、リズが「駄目ですよ」と頬を膨らませた。


「学園長に呼ばれてるんですから」


 頬を膨らませるリズの言う通り、ランディ達は学園長ルキウスに呼び出されてここまで来たのだ。


「大事な日程の話なんですから」


 リズがランディを上目遣いで見たのとほぼ同時、門の向こうからルキウスが歩いてきた。


「わーお。学園長自らお出迎えか」


 そのくらい大事な話なのだろう。向かってくるルキウスも、いつにも増して真剣な表情なのだ。


「久しぶりじゃな」


 門を挟んで手を挙げるルキウスに、ランディとリズがそれぞれ「お久しぶりです」と頭を下げた。


「一ヶ月……長い一ヶ月じゃった」


 感慨深そうに頷くルキウスだが、ランディ達からしたらアレコレやっていたので意外に早かったな、という印象だ。


「ひとまず、儂の部屋へ来るといい」


 ルキウスに門を開けてもらったランディ達は、僅かな隙間から滑り込むように学園へと入った。




 誰もいない静かな学園を、ルキウスに先導される形でランディとリズが歩く。以前【時の塔】を探索する為に入った時は、夜中だったので特に思うことはなかったが、昼日中の誰もいない学園というのは、淋しくそして不気味なものだ。


 シンと静まり返った廊下。

 鳥のさえずりだけが響く中庭。

 開け放たれ、風が通り抜ける教室。


 どれもこれも、見覚えがあるのに見慣れない。そんな不思議な光景は、まるで別世界に入りこんだようで……


「……なんだか怖いですね」


 ゴクリと唾を飲み込んだリズに、「おばけが出そうだな」とランディが悪い顔で笑ってみせた。


「お、お昼にゴーストは出ません」


 頬を膨らませるリズに、「いやいや」とランディが首を振る。


「あっちの階段の下とか。あの廊下の角とか……」

「やめて下さい」


 更に頬を膨らませたリズに、「あそこ! 誰かが」とランディが叫んだ瞬間、


「キャッ」


 リズがかわいい悲鳴とともにランディに抱きついた。まさか抱きつかれると思っていなかったランディも、脅かしておいて顔が赤くなる始末だ。


 そんな二人を振り返ったルキウスが「若いのう」と微笑んだ時、リズの雰囲気が一変してエリーが現れた。


「早う離れんか」

「いや、お前がな」


 顔を赤くする二人が、微妙な距離で離れた時、ランディが指差した場所から人影が現れた。


「……なに昼間っからイチャツイてんのよ」


 額に青筋を浮かべたキャサリンが……。

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