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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第五章 春休みってすぐ終わる

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第249話 最初はまあ様子見だよね

 王国の北を守るヴァルトナー。その歴代当主の中でも最強と言われる男、【北壁】ロルフ・フォン・ヴァルトナー。この大陸で彼に対抗できるのは、王国騎士団長ブルーノ・ランス、そして帝国最強の将軍、【暁の獅子】の異名をとるライオネル・アウレウスくらいだと言われている。


 そしてヴァルトナーが誇るのは、【北壁】だけではない。ロルフの娘であるアイリーンや、その兄であるアーヴィンを筆頭に、猛者揃いなのがヴァルトナー騎士団だ。


 間違いなく王国随一の戦力。中央を守る王国騎士団ですら敵わないと言われるのが、このヴァルトナー騎士団である。


 だから……


「我らヴァルトナーも舐められたものだな」


 ……苦虫を噛み潰したようなロルフに、アイリーンも「そうですね」と頷いた。平原の向こうに見える帝国の旗はおびただしい数だが、ライオネルが率いる精鋭たる第一部隊の旗がないのだ。つまり帝国はヴァルトナー相手に、ライオネルは必要ないと判断したわけである。


「今直ぐにでも食い破ってしまいたいです」


 獰猛な顔を見せるアイリーンに、ロルフが「そ、そうだな」と引き気味に頷いた。やたらと殺気立つアイリーンに、ロルフが近くに控える息子アーヴィンに小さく手招きをした。


「……機嫌が悪くないか?」

「……何でも、アーサー少年からまた手紙が届いたそうで」


 苦笑いのアーヴィンに、ロルフも「ああ」と微妙な顔をして天を仰いだ。何もこんな大事な時期に娘の心を乱さずともいいものを。そう思えば恨み言の一つでも出てきそうなのだが、相手にするのも馬鹿馬鹿しいと、大きなため息をついた。


「ウェインがいたら、違ったかもしれませんね」


 苦笑いのアーヴィンだが、ウェインは既に学園の始業式に合わせて一週間以上前に旅立った後だ。元々ロルフ達も子供を参加させるつもりはなかったが、せめて街にでもいてくれたら……と思わなくもない。


「……アイリーンの勢いに乗ってもいいのだが」


 大きくため息をつくロルフが軍を動かせないのは、未だ相手は帝国領から出てきていないのだ。川向こうに布陣した帝国軍と、ただにらみ合いを続けるという具合である。


「時間稼ぎ……いや、ヴァルトナーをここに留める事が目的か」


 国境付近に兵が集まれば、この場を動くことは出来ない。今から王国内に別ルートで帝国軍が侵入しようと、ヴァルトナーはここを動くことが出来ないのだ。それがまたアイリーンのフラストレーションを加速させている。


「誰かのように軟弱だな」


 今にも噛みつきそうなアイリーンに、ロルフとアーヴィンが顔を見合わせた。


「ハリボテとはいえ、無視するわけにはいくまい」


 面白くはないが、予定通りと言えば予定通りかもしれない。その事にロルフは小さくため息をつき、「監視部隊を入れ替えつつ休憩を取れ」長期戦への一手を早めに打つのであった。




 ☆☆☆



 ちょうど同じ頃、ハートフィールドとガードナーが守る港付近にも、帝国の戦艦が姿を現していた。


「北ルートで現れたか……」

「まあ予定通りといえば予定通りですね」


 遠眼鏡を覗く騎士コンラッドと、その隣で海を睨みつけるルーク。今はまだ海の上でガードナー有する海軍と、帝国の戦艦が睨み合う形だが、やはりというべきか、戦艦の数では帝国が多い。


 それでも帝国が迂闊な海戦を仕掛けられないのは、この海域を知り尽くしたガードナーが相手だからだ。


 潮の流れから暗礁の場所。そういった情報は帝国も――交易商人などを通じて――有しているだろうが、知っているからと突っ込めるかと言われれば無理である。


「まだしばしの睨み合いだろうな」

「本番は今宵、でしょうか」


 呟く二人の言う通り、今のところ帝国が動く気配はない。闇夜に紛れ、分散して上陸するのを防ぐため、コンラッドとルークはそれぞれ防備を固めるために動き出すのであった。





 ガードナーと帝国。両者の睨み合いを見つめていたのは、ルークやコンラッドだけではない。


「あーあ。ホントに来ちゃったよー」


 彼らから少し離れた場所、以前【聖女の洞窟】を探しに来た崖に腰掛けるのは、二代目【剣聖】リヴィアとそのお守りのユリウスだ。


「……お前は帝国軍所属だろう?」


 呆れ顔のユリウスに、リヴィアは「うーん」と唸り、考え込んだ。事実ユリウスの言う通り、リヴィアは帝国軍所属であり、第一皇子ラグナル直轄の部隊の人間なのだ。


 本来ならばこんな場所で、ノンビリ見学していい身分ではないのだが……


「リヴィアが言われてるのは、ユリウスを守れってことだけだしねー」


 崖の上で足をブラブラとするリヴィアに、ユリウスが「そうか」と呟いて同じ様に崖に腰を下ろした。


「もし……もし俺が、帝国軍と戦うと言ったら、リヴィアはどうする?」


 真っ直ぐ海を、いやその先に見える帝国戦艦を見つめるユリウスに、リヴィアが再び「うーん」と唸り声を上げた。


「分かんない。でも……ユリウスは、戦いたいの?」

「戦いたいわけないだろ」


 不当な理由とは言え、帝国軍にもリヴィアのような知り合いがいないわけではない。彼らも命令で戦っているだけなのだ。


「それでも……兄上達の企みを止められなかった以上、皇子としての責任は果たさねば」


 拳を握りしめたユリウスに「元、なのに?」とリヴィアが首を傾げた。


「元、でもだ」


 力強く頷くユリウスに、「よくわかんない」とリヴィアが困った笑顔を見せた。


「良く分かんないけど、ユリウスが戦うならリヴィアも戦うよー」


 力こぶを見せたリヴィアに、「ならばルーカス達と合流しようか」とユリウスが立ち上がった。隣の領とはいえ、二人の身体能力ならばこの崖を駆け下りて一直線に進めば夕方には戦場へとたどり着けるだろう。


「ここの守りはいいの?」

「もうすぐハートフィールドの騎士達が来るさ」


 ユリウスの言葉に「そっか」と頷いたリヴィアが勢いよく立ち上がった。


「行くぞ。遅れるなよ」

「誰に言ってんだよ。もー」


 膨れるリヴィアを連れて、ユリウスがガードナー領側へと崖を駆け下りていった。




 ☆☆☆



 そんな緊迫しつつも硬直する王国側と違い、既に戦端が開かれていたのは、意外にもヴィクトール……いや、正確には公国であった。帝国軍を直接派遣するのが難しい土地故、帝国軍が現れたわけではないが、街中に潜ませていた【真理の巡礼者(ピルグリム)】が一斉に蜂起した形である。


 公国全土で【真理の巡礼者(ピルグリム)】を一斉蜂起させた理由は単純で、王国への支援を遅らせるため、また帝国が王国へ進軍する理由に厚みを持たせるためだ。


 王国で活動が盛んなカルト教団が、付き合いの太い公国にまで侵入した。最早発生源である王国を放置することは出来ない。


 それらしい理由など、いくらでも思いつくのだ。下手をすると、王国の次は公国……そんなつもりもあるのかもしれない。


 とにかく国中で一斉に暴れ出した【真理の巡礼者(ピルグリム)】相手に、公国は二週間前の王国同様てんやわんやしている。


 だがそんな公国にあって、唯一落ち着いているのが、我らがヴィクトールである。


「確保」

「こっちもだ」


 元々田舎かつ近所付き合いの濃い地域なだけあって、領都や他の村々では少しでもおかしな人間は目立つのだ。


 港町や新しい街で洗脳にあってしまったのだろう。


 そんな人間たちは、地元では非常に目立つ。だが今日この日まで怪しい人間は完全に泳がされ、一斉蜂起の瞬間を利用され、逆に一網打尽にされていた。


 連中の策を、あえて潰さず放置する。潰してしまえば更に潜るか、別の策が来るかもしれない。それを見越した完璧なタイミングでの検挙に、【真理の巡礼者(ピルグリム)】といえど成す術なく捕らえられてしまった。


 そうして捕まった、少し言動のおかしな人達はというと……


「しっかりしろ!」

「何が預言者だ!」

「信じられるのは己が肉体だろう!」


 ヴィクトール流、洗脳解除――という名のビンタ――を受け、続々と洗脳から復帰している。ちなみにただのビンタではなく、エリー謹製の解呪のルーンを施した手袋でのビンタだ。


 ヴィクトールの住人や騎士達は、「流石未来のヴィクトール夫人」とエリーの発明を称賛してやまないのだが……本来は殴らずに、大量の魔力を込めて触れるのが正しい使い方である。


 そう……大量の魔力である。つまり彼らはルーンをただのおまじないに、普通のビンタで殴っているにすぎない。殴る方も殴られる方も、全員がもれなくヴィクトールだからこそ起きた奇跡。


 単純に「何か凄いらしい」もので殴った、殴られた。

 だからもう大丈夫。


 という超プラシーボ効果での解呪である。もしくは洗脳を破壊する超強力な自己暗示。どちらにせよエリーが聞いたら頭を抱える案件だが、とにかく【真理の巡礼者(ピルグリム)】や帝国軍にとって、最も誤算だったのはやはりヴィクトールという土地であろう。


 その快進撃はもちろん新しい街や港町でも発揮される事となり……


「これで最後?」

「恐らくそうかと」


 首を傾げるアーベルに、部下の騎士が頷いた。


「……拍子抜け」

「副長より領内の片付けが終わり次第、分隊長二人にはハートフィールドへ出張に行っていただくと」


 騎士が続ける説明は、直ぐに港へ直行し、そこから高速艇にてアーベル、ガルハルトの両名はレール大河を下りハートフィールド最南端へ。そこから崖を一気に下って……という超強行軍だ。


 これほど無茶な行軍は、【探検隊】である二人くらいしか無理だろう。


 向こうでルークや、数人の先遣隊と合流するよう説明を受けるアーベルが「ここの守りは?」と首を傾げた。


「この街はキース様が管理し、港はヴォルカン様が――」


 その言葉にアーベルが「へぇ」と嬉しそうな笑みを見せた。


「師匠達か……なら安心だね」


 まさか引退した二人まで引っ張り出すとは思っていなかったが、確かに二人共未だに現役でこのヴィクトールにおいてランディに匹敵する大きな戦力だ。


「ちなみに、未来のヴィクトール夫人の実家はどうすんだろ」


 アーベルの言葉に、部下が「それはですね……」と先程届いたばかりの作戦書の上に目を走らせた。街の防衛、騎士隊の編成、予備隊の動員、それらの項目をすっ飛ばし、騎士の男の目がようやく派遣人員の項目で止まった。


 かと思えば、その手がプルプルと震えだした。


「なに?」

「隊長です」

「え?」


 驚いたアーベルに、部下の男が驚きで張り付いてしまった喉に咳払いをしつつ、もう一度震える口を開いた。


「た、隊長御自らだそうです」


 その言葉にアーベルが固まったまま部下を見つめた。


「……それ、俺も一緒に行ったら駄目かな?」

「駄目です。私が行きます」

「いや、俺が――」


 ヴィクトール騎士隊全ての者が憧れる男。その実戦が見られるかもしれないニュースは、【真理の巡礼者(ピルグリム)】の騒動など一蹴して、領内を一気に駆け巡ったのであった。

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