本日休載のおしらせ+おまけ
タイトル通り本日休載です。
ということで、おまけをどうぞ。前話「人であること」の冒頭ボツです。
三〇〇〇文字近くあるのですが、冒頭です。ふざけたという事が分かるかと。
是非、皆様で供養して下さい。
※昨日の保険を使用します!
無理でした。
ということで、おまけをどうぞ。意外にも要望がちらほらあった、前話「人であること」の冒頭ボツです。
三〇〇〇文字近くあるのですが、冒頭です。ふざけたという事が分かるかと。
是非、皆様で供養して下さい。
☆☆☆
ゆっくりと開いた扉を潜って出てきたのは、ランディよりも大きな筋骨隆々の男であった。無造作に伸びた茶髪も、垂れ気味の瞳も、ランディにはどこか見覚えがあるのだが、良く思い出せない。
(俺よりデカいなら覚えてそうだが……。しかもあの格好だ)
遠目に見ても分かる上等な服。ランディなど相変わらずの訓練着だというのに、相手は戦いに上等な服で来られるらしい。つまりは貴族かそれに準ずる金持ちだ。それらの情報がランディの中で一つに合わさっていく。
(あー。何か思い出しそうだぞ)
喉まで出かかる。そんなもどかしさをランディが飲み込んだちょうどその時、眼の前の男が「へぇ」とランディを見て笑った。
「誰かと思えば、【戦鬼】じゃん」
見た目とは裏腹の軽い口調に、ランディの〝思い出しそう〟は加速する。今も相手が「なぜこんな所に」と質問を紡いでいるのだが、ランディはそれどころではない。
(あとちょっと……アレは確か――)
眉を寄せ、ウンウンと唸るランディを前に、男がニヤリと口角を上げた。
「どうしたんだい? ビビってるのかい?」
小馬鹿にしたような口ぶりに、ランディの中に男の正体が降ってきた。本当に天啓の如く降ってきたのだ。
「思い出した。お前アレだろ?」
驚き目を見開くランディに、男も「へぇ。気付いたんだ」と嬉しそうに笑った。
「あのー。ほら……あれ。何とかっつー伯爵の息子」
「は?」
キョトンとする男に、ランディは幼い頃一度だけ参加した、公都で開かれたパーティで会った事を告げた。大公主催のパーティに、まだ幼いランディが父母と一緒に出席した時の思い出だ。
「ほら。あの、『僕はお前らと違う。ビッグになるんだ』って言ってたじゃん」
思い出しながら話すのは、年の近い子達が集まり、それぞれが微妙な牽制と子供ながらの好奇心で話をしていた時の事だ。一人の少年が輪の中で誇らしげに胸を張って、「ビッグになる」と宣言した、それが目の前の男だろうという話だ。
あの少年も、茶髪にタレ目の印象的な見た目であった。しかも貴族ならこの格好も納得だ、と感慨深げに頷くランディが、男へ親しげに近づいた。
「ほんとにデカくなったな……えーと。あの……名前忘れたけど」
とランディが男の肩をポンポンと叩いた。キョトンとしていた男だが、ランディが「にしてもデカいな。何食ったの?」と何度も肩を叩く度、わなわなと肩を震わせ、そして顔を真赤に染めていく。
「俺もデカいから分かるけど、そこまでデカくなると全部特注で大変……」
しみじみと頷いていたランディが、「おい待てこれ……」と男の服に注目した。
「嘘だろこれ、既製品じゃね?」
男のサイズと少しズレた服は、絶対に特注ではない。その事実にランディが「マジかよ」と驚き固まった。こんなサイズの既製品など聞いたことがないのだ。
「べ、別に服はいいだろ!」
乱暴に手を振り払った男に、ランディが名残惜しそうに伸ばしていた手を引っ込めた。
「服よりも言うことがあるだろう!」
眉を寄せる男に、「まあ……それもそうか」とランディがともう一度男の肩に手を置いた。
「大きくなるのはいいけどよ。ビッグの方向性、絶対間違えてるぞ。……何とか伯爵の息子」
「何だよそれ! 馬鹿にしてるのか!」
再びランディの手を払いのけた男が、大きいサイドステップで距離を取った。
「そもそも何だよ! 『何とか伯爵の息子』って。思い出せてないだろ!」
「いや思い出してる。ここまで出かかってんだ……」
喉元を示したランディが「思い出すから」と男へ手のひらを向けつつ、片手で頭を抱えた。
「確かそう……グラマー伯爵だ」
ドヤ顔のランディだが、男の顔は「?」に満ちている。
「誰だよそれ。聞いたことないんだけど」
「え? 違った? 公都に一番近い貴族だとかなんとか……」
眉を寄せるランディに、「公都に近い……」と男も思わず考え込んでしまう。
「……それ、グラウバー伯爵じゃないのか?」
「そう、それ!」
ポンと手を打ったランディが、「久しぶりだなグラウバー伯爵の息子」とまた肩を叩こうとするのだが、男が大きく飛び退いた。
「だから全然覚えてないじゃん! なんだよ『息子』って」
「いや、だってお前あの時も名乗ってねーじゃん」
肩をすくめるランディに、男が「だからそいつじゃない!」と大きな声で喚き散らした。
「いいか。僕はエリオットだ!」
男が思い切り名前を叫ぶのだが、「エリオットぉ?」とランディはピンと来ていない。無理もない。四聖の一人にして、【蒼翠の叡智】と呼ばれたエリオットは、ランディの中では既にロルフに叩き斬られて死んでいるのだ。
そもそもエリオットという名前すら覚えていない。いや覚えているかもしれないが、ランディの知るエリオットは、北にいた男で、南にはいないのだ。しかもランディの中では既に死んで以下略である。
とはいえエリオットにも事情がある。作戦変更によりブラウベルグの重要性が増したため、【真理の巡礼者】も本腰を入れてエリオットまで投入したのだ。
だがそんな事情などランディはしらない。だから今もまだ、〝グラウバー伯爵の息子〟だと思っているのだが……
「僕はエリオット。覚えていないのか?」
「お前、そんな名前だったのか。エリオット・ブラボーか。良い名前だな」
笑顔のランディに、エリオットが顔を真っ赤に声を荒げた。
「だから違うって言ってるだろ。しかもグラウバーって教えたのに、なんで最初より悪化してんだよ!」
エリオットの蟀谷に太い青筋が浮かび上がる。
「いいだろ。どっちでも」
「よくない。そもそも僕はグラウバーじゃない!」
霧が発生しそうな温度差の二人が、しばし見つめ合う。
「じゃあお前は誰だよ」
「だからエリオットだって言ってるだろ! ヴァルトナーで会ったじゃん!」
唾すら飛ばしそうな勢いのエリオットに、「ヴァルトナーで?」とランディが再び考え込んだ。向こうは知ってる風に名乗ってくるのだが、ランディには本気で思い当たる節がない。
それこそグラウバー伯爵令息の方が、顔は朧気だが思い出せる。
「余裕か? それとも油断させようって魂胆かい?」
少し落ち着きを取り戻したエリオットに、ランディが「いや、マジで分からん」と首を振った。
「いいよ。なら思い出させてあげる」
笑みを引きつらせたエリオットが、その巨体で両腕を広げて見せた。
「僕はエリオット。【真理の巡礼者】が四聖、【蒼翠の叡智】エリオットだ」
ニヤリと笑ったエリオットに、ランディは「叡智ぃ?」と眉を寄せた。
「脳筋みたいな格好して、【叡智】は止めといた方がいいと思うぞ」
呆れ顔を見せたランディに、エリオットが完全にキレたのか固まり動かなくなった。そうしてしばし固まっていたエリオットだが、怒りが振り切ったのか、肩を震わせ、「フフフ」と不気味な笑い声を上げ始めた。
「良く分かった……。君が僕の平静を乱そうとしてることは」
「いや、本気で――」
「いい! もういい!」
頭を強く振ったエリオットが、ランディを睨みつける。
「君はキーマンらしいけど……ここで殺すことにしよう」
殺気を纏ったエリオットが、ランディの周りをゆっくりと歩き始めた。間合いを図るエリオットが落ち着きを取り戻したようにニヤリと笑う。
「謝るなら一瞬で終わらせてあげるけど……どうする?」
「どうって……」
眉を寄せるランディに、エリオットがため息をついた。
「分かった。じゃあ言葉を変えよう」
ピタリと止まったエリオットが、全身から闘気を迸らせる。
「最期に……言うことはあるかい?」
蜃気楼のように靄がかかったエリオットを前に、「そうだな……」とランディが頭を掻いた。
「……その服。どこで売ってんの?」
「ぶち殺ぉおおおおおおす!」
一応緊迫したシーンのはずなので、これは酷いと、ふざけすぎたゆえのボツでした。




