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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第五章 春休みってすぐ終わる

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第244話 相手が悪かったよね。相手が

 灯台のある崖から逃げた男は、通りを走り、時に人混みに紛れ、時に闇に紛れ、【暗潮】の気配と追手を最大限警戒しつつ、アジトへと急いだ。


 彼が不運だったのは、ランディが非常に冷静だったことだ。最初ランディは連中の前に現れるまで気配を消していた。だからこその不意打ちだったわけだが、その気配遮断の事実を隠す為に、わざとこれみよがしに殺気を放って連中を屠ったのだ。


 殺気と圧倒的な暴力。そのせいでランディの気配が、男の中で固定されてしまっている。ただでさえ魔獣すら欺くランディの気配遮断に、先入観まで加わっては、男がランディに気づけるはずもない。


 後ろを振り返り、周囲を伺い、何度も遠回りを繰り返し……それでも気配を消したランディを捉える事が出来ない男が、ようやく一軒の屋敷の前に着いた。屋敷とは言うが、ランディとリズが王都で借りている高級住宅くらいの大きさである。


 屋敷から漏れる光に、楽しげな笑い声が混じっている。どう考えてもテロリストのアジトには見えない。


 そんな屋敷の塀を男が軽々と乗り越え、そして庭先にある物置小屋へと駆け込んだ。


 ランディも男を追いかけ、物置小屋の扉を静かに開く……が、そこには男の姿はなく、ただ雑然と庭を手入れする道具が置かれているだけだ。


「お? おお?」


 思わず首を傾げたランディだが、男の気配は間違いなくこの物置の下へと続いている。


(隠蔽魔術的なやつか)


 物置の下へ続く扉を魔術で隠している。そう当たりをつけたランディは、「物は試しで」と地面に手をつき、力を込めて押し込んだ。


 地面とは思えぬ金属が歪むような音が周囲に響き、そして……「ベコン」と一際大きな音を立てて何かが外れた。


「ビンゴ。隠蔽してても物はある、ってな」


 笑顔のランディの眼の前には、土の地面と、それが歪み開いた穴。魔術の隠蔽は解けずとも、物があれば壊せるだろう、という力技で扉をこじ開けた形だ。


 歪み、ひしゃげた土の地面に、ランディが手をかけ、思い切り引っ張った。


 鉄が軋む音が響き、まるで引きちぎられたように扉だろう地面が外れる。完全に開いた穴の先に、下へ続く階段が現れた。


 昇ってくる生温い風が、うめき声のように響く。常人なら躊躇うだろう場所へ、ランディは迷うことなく降りていった。







 長く暗い階段を降りた先は、想像以上に広い地下空間が広がっていた。


 ボンヤリと灯る魔導灯が照らすのは、綺麗に整えられたレンガのような壁と、奥へ続く扉。そして…………ランディが扉を破った音で臨戦体勢だった【真理の巡礼者(ピルグリム)】の面々だ。


 扉から出てくる人間もいる事から、扉の向こうは連中の居住空間かもしれない。


「よぉ、邪魔するぞ」


 ニヤリと笑うランディに、【真理の巡礼者(ピルグリム)】の面々が、武器を握りしめ腰を落とした。


「ンだよ。『邪魔するなら帰ってー』くらい言えよ。つまんねーやつらだな」


 顔をしかめて頭を掻いたランディだが、「まあ仕方ねーか」と気持ちを切り替え拳を握りしめた。


「どうやってここを嗅ぎつけた?」


「嗅ぎつけたも何も、案内して貰っただけだぞ」


 笑うランディに、逃げていた男が苦虫を噛み潰したような顔を見せた。


「なるほど。功を焦って突っ込んできた馬鹿か」


 別の男が鼻で笑った。確かにそいつの言う通り、アジトを見つけたなら仲間に報告して制圧するのがセオリーだ……ろうが、彼らの眼の前にいるのはランディだ。下手な味方が周りをウロチョロするくらいなら、一人で暴れた方が速いという事を、彼らはまだ知らない。


 完全にランディを取り囲んだ男達が、一斉に壁に手を当て、何か呪文を呟いた。一瞬で壁に魔力が通い、ランディが入ってきた入口や扉がレンガで覆われた。


「これで逃げる事も出来んぞ」


 ニヤリと笑う中央の男が、「何か言い残すことは?」と一歩前に進み出た。


「そうだな。ここは今から、【ランディ探検隊】ブラウベルグ支部の秘密基地にすることにしよう」


 ランディの言葉に、男が「何を?」と眉を寄せた瞬間、その頭が弾け飛んだ。


 遅れて「パァン」と音が響き、男だった物が膝から崩れ落ちた。


 頭を無くした死体。

 その首元からドクドクと流れ出る血。

 彼の心臓は、まだ死を受け入れられていないのだろう。


 そんな不気味な光景を前に、【真理の巡礼者(ピルグリム)】の何人かがゴクリと唾を飲み込んだ時、誰かが「ドゥームハウンドを解き放て」と声を張り上げた。


 一瞬固まった男達だが、全員が慌てて詠唱を始めた。ブツブツと呟かれる呪詛のような詠唱が部屋全体に広がり……


「影に潜みし終焉よ、来たれ!」


 ……一人の男の号令に合わせ、全員が地面に手をついた。するとランディの眼の前に巨大な靄が現れ、それがゆっくりと大きな四足歩行の獣を象っていく。


「我ら【真理の巡礼者(ピルグリム)】が契約せし、大いなる存在だ」


 自慢げに笑う男だが、ランディからしたら巨大な狼の影にしか見えない。


「これが?」


 眉を寄せるランディに、男達が勝ち誇ってご高説を垂れてくれる。


 曰く、人々の死の恐怖を煮詰めた魔獣。

 曰く、幽相に潜む狩人。

 曰く、物理も魔法も届かない。

 曰く、敵を殺すまで姿を消さない。

 曰く、絶対に倒せない。


 そんな事を早口かつ自慢げに述べるのだが、ランディからしたらどうでもいい。唯一気になったのは、最後のフレーズだけだ。


 ――絶対に倒せない。


 そんな事を聞けば、倒してみたくなるのがランディという男だ。


「かかってこい。俺の伝説の一頁にしてやろう」


 ニヤリと笑うランディに、ドゥームハウンドが「グルルル」と怒りに満ちた唸り声を上げ、ランディ目掛けて一気に飛びかかった。


 眼の前に迫るドゥームハウンドの牙。

 それを引き付けたランディの右ハイキック。


 ドゥームハウンドの横っ面を捉えた一撃……だが、ランディの蹴りは空振りに終わる。正確にはドゥームハウンドを通り過ぎた。


「お?」


 目を見開いたランディへ、ドゥームハウンドが爪を突き立てる。

 わずかに回避が鈍ったランディ。

 その胸元をドゥームハウンドの爪が引っ掻いた。


 裂けた皮膚にジワリと滲む血。

 繰り出される追撃に、ランディがバックステップで距離を取った。


「見たか。直撃は避けたが、ジワジワと――」

「うるせー。黙ってろ三下」


 男のヤジをかき消したランディが、「今良いところだろ」とドゥームハウンドを前にニヤリと笑った。


「俺の攻撃はすり抜けるのに、お前のは当たる……か。なら――」


 睨み合う両者が、ゆっくりと距離を測り……ランディが一瞬で間合いを詰めた。


 ランディの右拳。

 ドゥームハウンドを通過。


 ランディの拳が突き刺さるドゥームハウンド。

 その身体はゆらゆらと揺れるように歪むだけで、ダメージは全くない。


 ゆらりと揺れたドゥームハウンドが、ランディの拳を脇に避け爪を振り下ろした。

 ランディの肩に吸い込まれる爪……次の瞬間、ドゥームハウンドが吹き飛んだ。


 床を滑るドゥームハウンドに、男達の顔が驚きに染まる。


 物理や魔法が効かない。

 それが吹き飛んだ。


 良く分からない現象だが、牙を剥き出しに怒るドゥームハウンドを見るに、確実に何かしらの攻撃を貰ったのは事実だ。


「おら来い、ワン公。遊んでやるぞ」


 手を叩き、手招きをするランディは、犬と戯れる飼い主のようだ。


 完全に馬鹿にするようなランディの挑発に、ドゥームハウンドが姿勢を低くして一気に駆け出した。


 低い位置からランディの喉笛目掛けて飛び上がる。

 牙が届く……かという瞬間、ドゥームハウンドが地面に叩きつけられた。


 地面にぶつかったドゥームハウンドは、慌てて飛び退くものの、間違いなく何らかの衝撃で攻撃をキャンセルされたのは事実だ。


「攻撃が当たるなら、その瞬間は実体があるんだろ?」


 拳をくるくる回して見せたランディの言う通り、ドゥームハウンドが吹き飛んだ正体は、ランディのカウンターだ。


 相手の攻撃が物理的に通るなら、攻撃の瞬間実体化するのでは、という仮説でランディは拳を叩き込んだわけだ。


 結果、ランディの予想通り、ドゥームハウンドは攻撃の一瞬だけ実体化する。それも本当に攻撃が当たる直前だ。普通のカウンターで繰り出した一撃目のハイキックが当たらなかったように、カウンターのタイミングはいつも以上にシビアである。


 そのタイミングを、二回目で当てるランディが異常なだけだ。


 もちろんドゥームハウンド側も、ランディのカウンターに気付いている。だからランディを嫌がるように距離を取ったドゥームハウンドだが……


「来ねーならこっちから行くぞ」


 ランディが姿を消し、一瞬でドゥームハウンドの前に現れた。

 繰り出される右拳。

 またドゥームハウンドを通過……するかと思われたが、その一撃はドゥームハウンドを歪ませ吹き飛ばした。


 吹き飛んだドゥームハウンドが体勢を整える先に、ランディの左拳。


 拳を中心に、ドゥームハウンドが歪む。

 だが今度は一撃では終わらない。


 ランディの両拳が唸りを上げた。

 ドゥームハウンドの身体に、拳を中心に波紋が大きく広がり……大ぶりの右で、ドゥームハウンドが大きく吹き飛んだ。


 完全な異常事態に、男達の一人が「なぜ」と呟いた。だが誰も答えることなど出来はしない。


 なんせランディがやってるのは、幽相という別の空間を、衝撃波で攻撃するという離れ業なのだ。ランディ以外で出来る人間を探すほうが難しい。


 本来なら特定の魔法を使い、周波数の振動で、幽相と現実とのズレを強制的に乱すのだが、ランディはそれを物理で行っているわけだ。


 しかも勘で。


 拳を勢いよく空気へ叩きつけるように、敢えて直前にインパクトを持って来る。その時震える空気の振動で、幽相へ直接ダメージを届ける。


 次元の壁すら殴って壊すランディだ。空気を震わせ波を起こすくらい朝飯前だ。


 次元ならぬ、位相、いや異相崩しの一撃。


 そう呼ぶべき攻撃に、流石のドゥームハウンドもランディを前に及び腰である。


「こらワン公。どうしたよ。そんなんじゃ、ランドルフ・ヴィクトール伝には載せてやれねーぞ」


 顔をしかめるランディを前に、ドゥームハウンドも覚悟を決めたように、低い唸り声を上げた。逃げに徹しても勝てぬ事を、先程の攻撃で理解したのだろう。


「いいね。畜生にしては悪くねーな」


 拳を握りしめたランディが、「こい」と呟いた時、ドゥームハウンドが目にも止まらぬスピードで一気にランディとの距離を詰めた。


 振り降ろされる爪。

 それがランディへ当たる瞬間、ランディの左拳がドゥームハウンドの爪より速く、その身体を捉えた。


 トン


 と触るような一撃だが、ドゥームハウンドの身体全体を大きく揺らし、そして――


 ランディの眼の前で、黒い影が四方八方へと飛び散った。


「まあ、伝記の一行くらいにはしてやるよ」


 笑ったランディが、「お前らは……どうかな?」と男達を振り返った。


 虎の子のドゥームハウンドが一瞬でやられ、完全に及び腰の男達だが、自分達で逃げ道を塞いだ以上、逃げる事すら出来ない。


 それでも逃げ場を探し、ジリジリと下がる男達を前に、ランディが「さあ、遊ぼうか」と笑みを見せた。


 およそ人とは思えぬ、獣じみた獰猛な笑み。


 それが、最後だった。彼らがランディを視界に捉えたのは。


 まず端の男が吹き飛んだ。

 何の脈絡もなく、胸に大きな風穴を開けて。

 まるで何かに振り回されるように吹き飛んだ男は、ランディの拳で胸を貫かれ、そしてそのまま放り投げられたのだ。


 それを見上げてしまった男の頭が吹き飛び、ほぼ同時に隣の男が勢いよく別の男へ突っ込んだ。


 一人一人殺すのが面倒になったランディが、男の手を引っ掴んで振り回した形である。


 ぶつけられた男が落とした剣が、地面に跳ねた。

 その柄をランディが蹴る。

 勢いよく飛んだ剣が、別の男の胸へ。


 剣が刺さり吹き飛ぶ男の横では、ナイフで頭が半分吹き飛ぶ男。


 それに目を見開いた男は、ランディの飛び蹴りで弾け飛んだ。


 剣、ナイフ、蹴り。ほぼ同時、間髪を入れぬ攻撃の波は、止むことはない。


 誰かが落とした武器が、ランディの鬼のような投擲術で、別の人間の命を奪う。

 逃げようとした男は、哀れ武器の代わりに振り回される。


 気がつけば無数にいた男達は一瞬で沈黙し、残ったのは壁や床に縫い付けられた男達だったものだ。


「さて……」


 手を払ったランディの目の前には、見えなくなっていた奥へ続く扉が現れていた。


「そろそろ出てこい。無駄に時間をかけさせんな」


 ランディの言葉に答えるように、扉が軋みながらゆっくりと開く――

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