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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第五章 春休みってすぐ終わる

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第243話 思い出の場所は綺麗にしておきたいので

 ランディがハイゼンベルグの港へたどり着いたのは、島を出てから凡そニ十分程だった。小さな船だが流石ブラウベルグが誇る駆動装置を搭載しているだけあって、中々の速度が出るようだ。


 そうして港へたどり着いたランディだが、もちろん入港許可も何も持っていない。一瞬で港を守る屈強なブラウベルグの海軍の兵士に取り囲まれた。……のだが、


「待て」


 一人の男が兵を押しのけ、ランディの前に現れた。


「この紅髪……ランドルフ様かもしれん」


 男が呟くと、兵士達が分かりやすく騒ぎ始めた。なんせ彼らの姫君を救い、主たるルシアンと共に様々な事業を展開している青年かもしれないと言うのだ。


 そんな人間に槍を突きつけたとなれば、彼らが慌てるのも無理はない。オロオロする兵士達に、ランディが「しまったな」と苦笑いを浮かべた時、彼らを止めた男性が頭を下げた。


「無礼は承知ですが、我々には面識がない故、しばしお待ち頂けますか?」

「もちろん。こちらこそ、考えもなしに申し訳ない」


 頭を下げる男に、ランディも急に来たこちらが悪いと頭を下げた。二人がそうして頭を下げ続けている時、ようやく連絡を受けたのか【暗潮】の女性が一人現れた。


 フードとマスクで目元以外見えない【暗潮】独特のスタイルだが、その気配はランディがよく知るそれだ。


「ご無沙汰してます、ミランダさん」


 笑顔で手を上げたランディに、ミランダと呼ばれた【暗潮】がフードを取りマスクを下げれば、確かにジト目のミランダが現れた。


「ランドルフ様。一応お聞きしますが、ここで何を?」


 呆れ顔で、何をしているのかと首を傾げるミランダに、ランディが獰猛な笑みを見せた。


「ちょいと、行儀の悪い連中を狩りに」


 それだけでランディの言わんとする事を理解したミランダだが、「はぁ」と大きなため息をついた。


「なるほど。それであの伝言ですか」


 ため息の止まらないミランダに、「伝言」とランディが思わず笑みを引っ込め首を傾げた。


「お嬢様より伝言です『無理しないで下さいね』だそうです」


 ジト目のミランダに、ランディは恥ずかしそうに頭を掻いた。格好つけてリズだけ家に返してみれば、まさか全て見抜かれていたという。


「まあバレてたなら仕方ないですね。最近ちょっと運動不足なんです」


 ランディの言う通り、最近は転移門の解析ばかりで身体を動かす機会が少なかったのだ。もちろん毎日の鍛錬は欠かしていないし、港ではアーベルの代わりにガルハルトという分隊長や、ヴォルカンとの鍛錬もしている。


 だが実戦で言えば、最後に鳥人間の頭を吹き飛ばしたのが最後だ。つまりかなり長い事遠ざかっていると言える。


「二週間離れた程度で、かなり長いですか……」


 呆れ顔のミランダが、「これがヴィクトール……」と呟いてため息をついた。どこまでもミランダでは測りきれない感覚だが、今この瞬間ランディの助力は有り難いのも事実だ。


「では、お手伝い頂けますか?」

「もちろん! そのために理由を付けてここまで来ましたから」


 力こぶを叩いたランディが、「では早速」と徐ろに着ていた服を脱ぎだした。


「なぜ脱ぐんです?」

「肌着にルーンを施してるんですよ」

「だったらなぜ……?」


 訝しげなミランダに、周りを囲む兵たちも同意するように頷いた。服で強化出来るなら、わざわざ脱ぐ必要はないだろう。そんな視線にランディが、施してあるのが〝抑制〟や〝加重〟だということを伝えれば、全員がドン引きした顔を見せた。


「意味が分かりません」

「アレですよ。重りをつけて訓練するみたいな」


 笑ったランディが、肌着を脱ぎ、もう一度シャツを着直した。


「何か指示はありますか?」


 完全に準備万端になったランディに、ミランダがしばし悩み、そして首を振った。


「私の指示より、ご自由に動かれた方が良いかと」


「分かりました」


 頷くランディに、ミランダが処理係に数人をつけると言うが、ランディはそれを断った。折角手伝いに来たのに、片付けに人手を割いては本末転倒だ。


「リズの故郷ですから。今回は綺麗にやりますよ」


 笑ったランディが、死体の運搬程度で済むように、と付け加えた。確かに【暗潮】としても、血や臓物の片付けでなければ、非常に楽なのは間違いない。


「心遣い感謝致します」

「いえいえ。では――」


 ランディが「行ってきます」と下げた頭を戻したその時、その姿が消えた。


 一瞬で姿を消したランディは、流石のミランダをしても姿を追う事が出来ない。もちろんこの場にいた兵士もだ。


 相変わらずの怪物ぶりに、ミランダの頬を汗が伝う。と、同時にこのままでは、ランディが全てを片付けてしまいそうな予感がしていた。


 流石に客人だけに任せてはまずい、とミランダが夜の闇へ向けて胸元の小さな笛を吹いた。全く音が聞こえない笛だが、それが合図かのように【暗潮】が数人現れた。


「各員手筈通りだ。【真理の巡礼者(ピルグリム)】は見つけ次第、容赦なく刈り取れ。ランドルフ様に後れを取るな!」


 指示を出したミランダが、絶対に一人で行動しないよう厳命したかと思えば、彼女を含む全員が夜の闇に紛れてその姿を消した。








 ミランダ達【暗潮】も行動を開始した頃、ランディは既に怪しい気配を察知してそちらへと向かっていた。ハイゼンベルグの通りは不慣れだが、今向かっている場所は他より目立つので迷うこともない。


 建物の屋根を駆け、長い階段すら数歩で飛び越え、ランディがたどり着いたのは、夕方来たばかりの崖の上だ。



「よぉ。楽しそうなことしてんな」


 崖下から飛び上がってきたランディに、灯台の基礎部分で屈み込んでいた男達が、慌てて飛び退いた。


「何者だ!」

「見りゃ分かるだろ。通りすがりの観光客Aだ」


 小馬鹿にしたように鼻を鳴らしたランディに、闇に紛れる男達が腰を落として距離を取った。


「で? おたくら【真理の巡礼者(ピルグリム)】は、こんな所で何してんだ?」


 ヘラりと笑ったランディに、男達が顔を見合わせそして不気味な笑みを返した。


「言うと思うか? ……だがそうだな。この灯台がお前と愚民どもの墓標に――グェ」


 ニヤリと笑っていたかと思えば、男はいつの間にかランディに喉を掴まれ、その身を宙に浮かせていた。


 一瞬で彼らの間に現れたランディに、他の男達が慌てて距離を取り、掴まれた男も「は、はなせ――」と必死の抵抗を開始した。


 言葉が発せるくらいに、優しく掴まれてるおかげか、男の抵抗は中々に激しい。


 ランディの手を両手で締め上げ。

 バタバタさせた足でランディの腹を蹴る。


 だがそんな男の頑張りも、ランディを動かすには至らない。


「墓標が、何だって?」


 底冷えするランディの視線だが、命がかかっている男は、文字通り死に物狂いに「はなぜぇぇ」と抵抗を続ける。


 そんな男を無視し、灯台の基礎に目を向けた。月明かりがなく判別しづらいが、何かしらの魔法陣らしきものが見えた。


「大方灯台を爆発させて、街の方に倒そうって魂胆か」


 ため息を吐いたランディが、「クソだな」とその瞳に殺気を宿らせた。


 ――ゴキン


 と鈍い音が辺りに響き、そして男がぐったりと手足を放りだして動かなくなった。


「き、貴様――」


 残った男達が殺気を放ち身構えるがもう遅い。男を放りだしたランディが、大きく肩を回し、男達を睨みつけた。


「安心しろ。全員首をへし折るだけにしておいてやる」


 ここから見た景色も、そしてこの場所も、リズとエリーとの大事な思い出だ。その場所も街と同じで、連中の血で汚すのわけにはいかない。だから……連中を睨みつけたランディが、その姿を消した。


 零になる彼我の距離。

 誰も反応できぬ速度のまま、ランディが一人の頭を叩いた。


 インパクトをズラした、叩くというより押すに近い一撃。


 叩かれた男の頭が勢いよく傾く。

 骨が折れる音が響くよりも早く、反転したランディのラリアット。


 これまたインパクトをズラすが、その一撃が別の男の首を粉砕する。


 吹き飛ぶ男の足をランディが掴み、それを別の二人へ放り投げる。

 避けきれず受け止めた二人が勢いに負けて転倒。


 そのうちの一人の首をランディが踏み潰し、そして……


「待て――」


 ……懇願する最後の男の首も、ランディが踏み潰して骨を砕いた。


 一瞬で四人が沈黙した事により、残る二人の男がジリジリと後退る。


「どうした? 逃げてもいいぞ」


 ニヤリと笑ったランディに、「そうさせてもらう」と一人が海側へ飛び降り、そしてもう一人が街の方へ飛び降りた。


「まあまあだ」


 それを読んでいたランディも迷わず男を追いかける。まずは海側……飛び降りた男と違い、勢いよく崖も蹴ったランディが崖の中腹で男に追いついた。


「馬鹿な――」

「お前がな」


 勢いそのままに男の顔面を掴んだランディが、「やめろーー」という叫びを無視して、男の頭を岩肌へ擦り付けた。


 肉が擦れる生々しい音が響き、次第にそれは骨に代わり、そして最後にはランディの手が岩肌を掴んだ。


 同時に力なく落ちていく男の身体。


 ――ドサッ


 と渇いた音を立てて、頭を無くした男の死体が港へと落ちた。傷口が摩擦で焼き切れ、血があまり出ない死体は、ランディなりにブラウベルグの港を汚さないように配慮した形である。


 落ちてきた男に、港を警護していた兵士が集まってきた。あまり騒ぎにならないのは、ミランダが上手く手配してくれてるからだろう。


 そんな彼らに後片付けを任せ、ランディは岩肌を掴んでいた手に力を込めた。指先に感覚を集中し、大きな岩肌を下へ押しのけるように、二頭筋を唸らせた。


 その勢いがランディの身体を上空へと運ぶ……勢いよく射出されたランディは、再び崖の上にたどり着いた。


 灯台に施された魔法陣を、クラフトで消し去ったランディが「さて」と街を見下ろした。


「最後の一人を追いかけるか」


 高所から見下ろすランディの視線の先には、今も灯台を背に逃げる男が見えている。いや、正確には先程覚えた気配が、遠ざかっているのが分かる、だが。


 通りを警戒する【暗潮】から逃れるように、あっちへこっちへフラフラする男だが、どうやら向かう先が決まっているような動きだ。


「巣に案内してもらうかな」


 とにかく逃げる男にロックオンしたランディが、崖の上を後にした。






 上がるはずだった狼煙が不発に終わり、街中では浮足立ってしまった【真理の巡礼者(ピルグリム)】が、ミランダ率いる【暗潮】に各個撃破されていた。


 そんな状況も相まって、ランディが追いかける男は、このハイゼンベルグ陥落の為のキーマンの元へと向かっていた。


 何としても作戦の失敗と、変更を告げねばならぬ男。急ぎ駆けるその背後には、気配を完全に殺した、化物が迫っているとは夢にも思っていない。

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