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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第五章 春休みってすぐ終わる

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第242話 出来たと思ったけど、当初の目的と違う

 リズの転移で飛んだ先は、いつものホールではなくどこかの崖の上であった。


 鼻腔に届く潮の香り。直ぐ横には大きな灯台。それらにランディが、崖の先まで進んでみれば、そこには絶景が広がっていた。


 眼下に広がる大きな港

 その先に見える広大な海。

 アクセントのように点在する小島。

 そしてそれら全てを橙に染め上げる、沈みゆく太陽。


 全てが橙に染まる風景に、ランディが思わず息を飲んだ。


「ここは……」


 ランディの髪を潮風が舞い上げた時、「家のお向かいさんです」とリズが微笑んで振り返った。


「お向かいさん?」


 首を傾げながらランディが振り返ると、なるほど橙に染まったブラウベルグ邸と、その真下に広がる城下町が見える。


 どうやらここは、城下や港を挟み、ブラウベルグの屋敷と対面にあるようだ。


「……コッチもまた絶景だな」


 ランディの瞳には、夕陽に染まり、黄金に輝く城と街が映っている。あまりの美しさに、ランディはどこかノスタルジックな気持ちになってしまう。


 それは景色だけでなく、隣のリズの表情もあるからだろう。


「エリーが、見晴らしのいい場所へ行けって」


 リズの髪を潮風に攫う。夕陽に染まった銀髪を、寂しそうなリズが耳にかけた。


「見晴らしのいい場所か……」


 ランディが対面の侯爵邸を見つめた。あそこの屋根ならば間違いなく見晴らしは最高だろう。


 どうやらリズも同じ事を考えていたようで、二人してしばし街を挟んで向こうに見える侯爵邸を見つめていた。夕陽に照らされ、橙に輝く城は相変わらず美しい。まるで二人に道を示すかのような輝きだが、リズがそれに首を振った。


「今は忙しいでしょうから……」


 気にするリズは、本当なら今すぐにでもブラウベルグの屋敷に戻り、ルシアン達の顔を見たいだろう。だが今は【真理の巡礼者(ピルグリム)】への対応で忙しいはず、とリズは実家へ顔を見せる事を諦めたわけである。


 連中の活動は、このブラウベルグでも報告されているのだ。


 それでも爆破事件や、要人への襲撃事件が報告されている王国の直轄地に比べれば、ここから見えるブラウベルグの街は静かで穏やかである。


 訪れる夜を前に、人々が家路を急ぎ、そしてポツポツと明かりが灯っていくくらいで、特段テロに怯えている様子はない。


(閣下やセドリック様、あとは【暗潮】の頑張りだろうな)


 穏やかながら賑やかな街を見ているランディに、「そろそろ行くぞ」と入れ替わったエリーが声をかけた。


「行く、のは良いけど、どこに――?」


 首を傾げるランディに、「任せておけ」とエリーが呟き虚空から杖を取り出した。


「しばし待て……」


 エリーが杖で地面を突くと、波動のようなものが地面を這うように広がっていく。それは崖を下り、港を超え、そして海の向こうまで波及していく――。


「あそこじゃな」


 エリーが指すのは、海の向こうにいくつか見える小島の一つだ。この崖から見ても、特に何の変哲もない小島だが、エリーが言うならあそこに龍穴があるのだろう。


「小島か……」


 呟くランディも、先程見た時から気になっていた。教会の元荘園ではないが、あの大きさの小島なら、連中が潜伏するにはピッタリなのでは、と。


「心配しなくても大丈夫です。全ての島は調べた、と仰ってましたから」


 微笑むリズに「それもそうか」とランディは安堵のため息を返した。


「つっても、あそこまで行くのに船がいるぞ?」

「いえ。昔あの島に行ったことがあるので大丈夫です」


 拳を握りしめたリズが、だから入れ替わったのだと教えてくれる。


「なんつー偶然」


 驚くランディだが、ここはそれに乗っかった方が良い、と再びリズの転移で小島を目指すことにした。




 ☆☆☆




 転移の光が収まったランディの視界に映ったのは、ゴツゴツした岩肌と、その中央に作られた小さな祭壇だ。


 周りを見渡せば、風化した壁の跡。どうやら島の内側に作られた何らかの遺跡だろう、とランディは理解した。


「あそこに行ってみましょう」


 リズに促され祭壇に近づいたランディは、その上に乗るツルンとした球状の岩に気が付いた。


「何だこれ?」


 首を傾げるランディに、リズが大昔の精霊信仰の名残ではないか、と教えてくれた。今の教会が組織されるより前、つまりエリー達が生きていた時代や、それ以前の名残だというのだ。


「ブラウベルグでは、昔からこの丸い玉は、大海の覇者、リヴァイアサンの卵だと言われてきました」


「そりゃまたビッグネームだな……」


 流石にランディでもその名前は聞いた事がある。もちろんそれに見立てた岩か何かだろうが、ブラウベルグの船乗りの間では、近海が穏やかなのはこの遺跡のお陰と昔から言われているのだ。


「で、どうなんだ? 大魔法使い――」

「概ねリズの言う通りじゃな」


 頷いたエリーが補完するのは、恐らく航海の安全を願うために作られたのは間違いないらしい。


「ただ……それに隠れて、別の思惑も刻まれておるがのう」


 不満げに鼻を鳴らしたエリーが言うには、祭壇に刻まれた魔法陣やルーンから、ここが人々の集合的無意識を集め、同時に拡散する装置の役目を果たしているらしい。


「なるほど。昔からある遺跡を利用したってわけか」


「もしくは目的を隠して、それっぽい理由で建てたか」


「どっちにしろ、洞窟の子分みたいなモンだろ?」


 眉を寄せたランディに、「左様」とエリーが頷いた。


 【聖女の洞窟】がクラウドサーバーだとすると、ここはその基地局のようなものだとランディは理解している。


 クラウド(洞窟)に保管されている、聖女の集合的記憶を無意識として基地局《龍穴の遺跡》からは吐き出し、それらが人々の中で成熟する度、基地局を通じてクラウドに保存される。


「つー事は、龍穴どころか、それを利用しても耐えうる素材が眼の前にあるわけだ」


 悪い顔のランディに、「そうじゃな」とエリーも悪い顔で笑った。


「では、サクッと書き換えてやろう」


 元々エリーの魂を自分好みに仕上げる為の気持ち悪いシステムだ。それを書き換えた所で、ランディもリズもエリーも、誰も心は痛まない。


 そうと決まれば小さな島全体の中央に当たる祭壇にエリーが昇り、一枚の紙を取り出し杖を構えた。


 紙に描かれているのは魔法陣だ。その紙を球体の上にゆっくりと置いたエリーが、ランディに紙を抑えるように言った。


 助手ランディが大急ぎで紙の両端を押さえると、エリーが杖を掲げて魔力を練り上げていく。



「『雷光は筆となり 大地にその理を刻む

 影は墨となり 時を超えし霊刻の力となる

 伝承の紋 契約の環 導きの線 すべての理を束ねよ。

 集え 天上を記す大いなるかたち

 秘奥の理 今ここに顕現せん

【霊筆顕現】』


 エリーが持つ杖が光輝く巨大な筆のような見た目に――


「え? これ、俺大丈夫?」


 ランディの質問には誰も答えてくれない。


「『記せ 大地に

 かたどれ 我が意のままに

 秘紋よ拡がり ここに刻まれん

 【魔陣展開】』」


 その筆で紙を貫いた瞬間、遺跡の周囲に光が走り、一瞬で地面に魔法陣が出現した。


「おま……マジかよ」


 巨大な魔法陣の出現に、ランディも苦笑いを抑えられない。


「敬え」


 カラカラと笑うエリーが、この遺跡を構成する特殊な石材にベースの魔法陣を施し、そして杖を突き立てた球体に、重要かつ強度の必要な座標を刻んだと教えてくれた。


「良く分かんねーけど、相変わらずスゲーな」


 難しい説明は分からないランディは、凄い以外の感想が出てこない。ただそれよりも……


「これ、向こうから飛べるかな?」

「試してみよう」


 一度ヴィクトールの港にある転移門へ戻った二人は、そこに施されている座標を認識する部分を急いで書き換えた。


 これで理論上は、ブラウベルグの小島に飛べる事になるのだが……


「確認してきてやろう」


 そう言って門を起動し、転移魔法で消えたエリーが、直ぐに戻ってきた。


「バッチリじゃ。向こうにも門が出現しておる」


 それを聞いたら、飛び込まないわけにはいかない。


「行ってみるか……」


 意を決したランディだが、ふと思いついて「ちっと待っててくれ」と一度小屋の外へ飛び出した。





 少々必要な物を取りに港へと駆けたランディが、小さめの船を担いで戻ってきた。


「これは何じゃ?」

「船がないと、向こうで大変だろ」


 ランディの言葉に、「一理あるの」と頷いたエリーが船を虚空へとしまい込む。小さめの船と言っても、五人くらいは乗れそうな大きさだ。転移門を潜るには大きすぎる。


 ようやく準備が整った事で、ランディが思い切って転移門へ飛び込んだ……一瞬の浮遊感と光に包まれたランディだが、直ぐに足元の違和感に気付いた。


 港の小屋と違い、少し悪くなった足場にランディが目を開くと、そこには夜に包まれたブラウベルグの遺跡があった。


「お、おおお!」


 ランディがガッツポーズを見せた頃、同じ様に転移門を潜ってエリーが現れた。


「さすが妾。天才じゃな」


 満足そうに頷くエリーに、ランディが「すげーぞ!」と再び抱きつき……かかったそれを、エリーが短距離転移で躱した。


「ば、馬鹿者! 所構わず盛りおって」


 頬を赤らめるエリーに「盛ってねーよ」とランディが口を尖らせるが、エリーからしたらまた抱きつかれては敵わない、とランディから距離を取っている。


「まあいい。お前の身体を取り戻したらダブルハグしてやるからな」

「馬鹿め。妾がお主に捕まると思っておるのか」


 ケラケラと笑うエリーだが、彼女は失念している。ランディが今、ルーンによって力を抑制している事を。


 とにかくブラウベルグとヴィクトールが繋がった事に、ランディが喜んでいたのだが、ふと重要な事に気がついた。


「ちょっと待てよ。これ、一方通行が逆じゃね?」


 そうなのだ。帰ろうと思えばリズは転移で帰れる。どちらかと言うと、ルシアンやフローラがリズに会いたい時に、転移門を使ってほしいのだが、このままではルシアン達は使えないのだ。


「転移門をこっちに持ってくるか?」

「阿呆。ヴィクトールの龍穴は、魔の森の奥じゃぞ。それに元はクラリスの移動手段じゃろう」


 呆れ顔のエリーに、「そうだった」とランディも肩を落とした。流石に護衛無しで、魔の森の奥は危険過ぎる。それに元々はクラリスの移動手段として、転移門を持って帰ってきたのだ。


 新しい街の為の施策の一つでもある。ヴィクトールにとって重要な遺物だ。


「まあ時間をかければ、この遺跡から門を作れん事もないじゃろうが……」


 ため息混じりのエリーが、時間がかかるのと、集中を要するので、万が一を考えると後回しだと言う。


「確かにそうか。日蝕の正確な日も分かんねーし、お前の身体を取り戻し損ねる方が問題か」


 頷いたランディの言う通り、あの実習で行った遺跡とブラウベルグでは、距離がありすぎて日蝕の見え方が違うのだ。


 つまり最悪見逃してしまう恐れがある。それだけは避けねばならないランディ達だけに、今は長距離転移の実験ができただけでも満足か、と頭を切り替えた。


「妾の身体を納める棺も、良い材料になるじゃろ」


 エリーがそれを、クラリス専用の門にすれば良いと付け加えた。


「じゃあ今日はここまでだな」

「うむ。妾は疲れた」


 気配を消したエリーに、「お疲れさん」とランディが呟いて見上げる空には、いくつもの星が瞬いている。


「腹も減ったな」


「美味しい魚なら……」

「侯爵邸でいいだろ」


 笑顔を見せたランディに、リズが「でも……」と言葉に詰まった。リズとてルシアン達の顔を見たい気持ちはあるだろう。だがここに来た時も言っていたように、迷惑にならないかを気にしているのだ。


「迷惑になんてならねーよ」


 笑顔で首を振ったランディが、「むしろ陣中見舞いだ」とリズに微笑んだ。セドリックやルシアンなら、疲れていてもリズの顔を見たらそれが吹き飛び、また明日からも頑張れるだろう。


 そんなランディの言葉に、恥ずかしそうなリズが「そうでしょうか……」ともじもじと頷いた。


「ではランディも――」

「いんや。俺は今回は遠慮しとくよ。それこそ気を使わせて迷惑になる」


 首を振るランディにリズが寂しそうな顔を見せるが、ランディがちょっと海釣りを楽しみたいのだ、とマジックバッグに忍ばせていた釣り竿を見せた。先程船を持ってくる時に、祖父ヴォルカンのお古から一つ拝借してきたやつだ。


「……分かりました。では、明日の朝にはここに迎えに来ますね」


 少し名残惜しそうなリズが、虚空から船を取り出し、転移でその姿を消した。リズのいた場所を眺めていたランディも、寂しさを紛らわせるように殊更大きく伸びをした。


「さて……と。夜釣りにでも出かけるか」


 ニヤリと笑うランディは、船を担いで一路島にある桟橋まで駆け出した。



 ☆☆☆



 リズが家族に迎え入れられ、そしてランディが船で島を出発した頃、ブラウベルグ領ハイゼンベルグの路地裏では……


「ブラウベルグめ。想像以上に手強いな」

「それにしても、本当にあの小島の防衛はしなくていいのか?」


 闇に紛れて囁かれる声に、「馬鹿」と別の影が声を発した男を叩いた。


「あの場所を口にするな。どこで誰に聞かれているか分からん」


 辺りを伺った影が、あそこは重要だからこそ、元のまま手つかずにしていると教えてくれた。


「あの場所で戦闘でもして遺跡を壊してみろ。我らの悲願にどれだけの影響を与えると思っている」


 鬼気迫る影の声に、他の影も気圧されるように頷いた。


「とにかく今夜こそ、絶対にハイゼンベルグを恐怖に陥れるぞ」


 その声にまた別の影が頷き、彼らは夜の闇に紛れて散り散りに消えていった。


 彼らは知らない。彼らが重要だからと、敢えて放置しブラウベルグの目を逸らした遺跡が、既に魔改造されてしまった事を。





 そして……


「お。港が見えてきたな」


 ……船についた魔石駆動装置を唸らせ、〝釣り〟と称した【真実の巡礼者(ピルグリム)】狩りに、とんでもない男がハイゼンベルグに向かっている事を。

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