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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第五章 春休みってすぐ終わる

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第237話 技術者ですからね。みんな技術者ですから

 エリーを伴ったランディが向かうのは、この港町に作られた工房だ。そこはランディがアイデアを出した、圧縮コイルばねを形にした工房でもある。


 もちろんアイデアだけでなく図面を引いて渡したのだが、平面図形から満足のいく物を作り上げるガストンの腕は流石というところだ。始めて馬車をプレゼンした時に、ルシアンは約束通り凄腕を送ってくれたわけである。


 そんなガストンやランディの突飛なアイデアに惹かれて、いまやヴィクトールはドワーフ達からも人気の就職先だ。


 先の地中熱式暖房機の試作に立ち会ったドワーフのほとんどが、わざわざヴィクトールに来たもの好き達である。


 故に港のすぐ近くに作られたドワーフの工房は……


「デカいの……」

「ほんと、デカいよな」


 二人の言う通り、ガストンの工房は――港の近くというより――ほぼ一つの港と言っていいくらい大きい。荷物の搬入出をスムーズに行うため、工房は二つの桟橋へ直接繋がっている。


 大型船も入港できる巨大な桟橋が二本、直接繋がっているのだ。その大きさだけでもインパクトが大きいのだが、地下、地上、上階の三層構造の堅牢な石造りに頑強な門を構える工房は、下手をすると小さな城塞と言ってもいい。


 工房がここまで頑強な作りなのは、爆発事故などが起きても問題ないようにしてあるらしい。


 ちなみにそれを聞いたランディの感想は、「爆発させるなよ……」である。もちろんガストン達も爆発させたことはない。だが鍛冶工房だけでなく、魔石の保管庫や、鋳造場、精錬炉も兼ね備えている以上、事故の時の対策は十分にしておかなければならない。


 大きすぎて距離感が分からない建物は、丘の上にある代官の屋敷よりも確実に大きいのだ。それどころか……


「屋敷より立派ではないか」


 ……エリーの言う通り、間違いなくヴィクトールで一番大きな建物である。


「そりゃうちの領の要だからな」


 笑顔のランディの言う通り、この工房は大小の鍛冶場に加え、保管庫、それに整備室から木工(造船含む)、革細工、魔道具まで様々な研究施設も兼ねている。様々な技術を一箇所で研究開発することで、それぞれの相乗効果も狙っていたりする……のだが――


『馬鹿か! 金槌一本で鍛えてこそドワーフよ!』

『何を言う! 古来より「我らドワーフ、土の精霊の加護を持って武器を造らん」と言うだろう!』


 近づいてきた工房から聞こえてくるのは、威勢の良い口喧嘩の声だ。


「おーおー。今日もやってんな」


 苦笑いのランディに、門番を努めていたドワーフが気付き「おお! 若」と大きく手を振った。


「よぉ。今日は何を、いやどこが揉めてんの?」


 苦笑いのランディに、門番のドワーフが口喧嘩は鍛冶場と魔導工房との争いだと教えてくれた。


「なるほど。武器を作るのにトンカチか、魔導かってことね」


 相変わらず聞こえてくる内容に、門番のドワーフも「じゃな」と頷いた。ちなみにこの門番二人は、鋳造場と合金工房の人間だが、少し前に彼らの職場は揉めてたりする。


 合金と鋳造。合金側が新たな配分で作り出した金属に、鋳造場が文句をつけた事で喧嘩になった。


 ――新合金、溶けても硬すぎるだろ。

 ――この程度もまともに加工できねえのか。


 この一言で鋳造場に文字通り火が付いた。試行錯誤を繰り返し、完璧に金型に流し込み見事に成形してみせたのだが、結局合金工房が期待した程の効果が得られなかった。


 ――使いにくくしただけかよ。


 この一言で合金工房にも火が付いた。そうして揉めていると聞いたのは、つい最近のことだ。今は大人しそうに見える門番の二人を見るに、どうやら解決したのだろう、とランディは期待を込めて口を開いた。


「そーいや、お前らの揉め事はどうなったんだよ」

「そりゃあ今もバチバチよ!」

「おうよ」


 ガハハハと笑うドワーフに「さいですか」とランディはまた苦笑いだ。


 言い合いを重ねながら、技術が進歩して行く。これが彼らの流儀なのだという。技術の進歩があるなら、激しい言い合いは大歓迎だが、あまり白熱して工房を吹き飛ばす事だけは止めてほしいランディだ。


「流石ドワーフじゃな」


 苦笑いのエリーが呟いた時、『なぁんじゃと!』『やったるわい!』と一際大きな声が聞こえてきた。


「ったく。とりあえず今日は止めるか。なんせ俺の剣の相談だ」


 門番二人に扉を開いてもらい、工房へと入ったランディを迎え入れたのは、強いアルコールの匂いと春とは思えない熱気だ。


「やっぱりか……」


 外にまで聞こえていただけあって、先程の喧嘩は入口ホールで起きていた。取っ組み合いを始めそうな二人のドワーフを取り囲むのは、他のドワーフや技術者達だ。中には酒瓶を片手に、完全に観戦モードのドワーフまでいる。


(閣下はこいつらをどうやって管理してたんだろうな)


 ランディは知らないが、ドワーフはヴィクトールのこの緩い環境だからこそ、こうしてノビノビとしていたりする。ブラウベルグでは、まるで軍隊のように一人の親方の下、一糸乱れぬ連携を見せている。


 ちなみにブラウベルグだけでなく、ドワーフの国でも基本的に工房長の下、規律正しく仕事をする職人集団が本来のドワーフなのだが……ここのドワーフは良くも悪くもヴィクトールに完全に染まっている。


 実際酒瓶を抱えるドワーフが、「早うやらんか!」と声を張り上げ喧嘩を助長する始末だ。


 そんなドワーフの頭を鷲掴みにしたランディが、「おいこら。昼間っから飲んでんじゃねえよ」と顔をしかめてドワーフを持ち上げた。


「若だ!」

「若が来たぞ!」


 口々にランディに歓迎の言葉をかけたドワーフ達を押しのけ、喧嘩の真っ最中の二人がランディの前に現れた。


「若、ワシが叩いた剣の方が強いじゃろう」

「いいや。若、ワシの魔導鍛造製の剣の方が――」


 二人が見せるそれぞれの剣を、「あー。はいはい」とランディが掴んでいたドワーフを放して剣を受け取った。それぞれを暫く見ていたランディだが、おもむろに二人へそれを返した。


「ちょいと持ってろ」


 ランディの言葉に、全員が頭に疑問符を浮かべた瞬間、ランディがマジックバッグから、大剣を振り抜いた。


 綺麗に真っ二つになった二つの剣先が、クルクルと宙を舞って、床へ落ちた。これもヴィクトール流だ。本来ならドワーフもブチギレ案件なのだが、彼らもヴィクトールに染まってるので問題ない。


「はい同点」


「「ぐあーーーー!」」


 頭を抱える二人が、「ドラゴンは卑怯じゃ!」「そうじゃ!」と口を尖らせランディに詰め寄った。疑似ドラゴンブレスで、ランディ達が竜素材を持っていると知っているだけに、ランディの持つ大剣の正体に気付いたようだ。


「卑怯っつってもな……。これはリズに頼んで剣の形にしてもらっただけだぞ」


 ニヤリと笑うランディに、「ぐっ」とドワーフ二人が言葉に詰まる。


「竜相手じゃ、流石のドワーフ製武器でも駄目だなー」


 分かりやすい挑発だが、二人のドワーフの目に炎が宿る。


「おい、ちっと面をかせ」

「ああ。若の鼻をあかすぞ」


 二人共、折れた剣を手になぜか一緒の工房へと消えていく。


「さっすがじゃ!」

「容赦ないのう!」

「竜素材をくれい!」

「ずるいぞ! ワシにも!」


 口々に賛辞を――たまにただの願望を――述べて散っていくドワーフに、「ったく……」とランディがため息をついて、先程掴み上げていたドワーフへ視線を移した。


「親方はどこだ?」

「ガストン工房長か? たしか今日は鍛冶場にいたはずじゃ」


 それだけ言うと、そそくさとその場を離れようとするドワーフに、ランディは「おい」と声をかけた。


「飲みすぎるなよ」


 ランディの言葉に、「分かっとるわい」と笑顔で酒瓶を握りしめたドワーフが駆けていった。


「さて、丁度鍛冶場にいるらしいし行ってみるか」


「お主、ようこれで直ぐに戻って来るだの言っておったの」


 ジト目のエリーからランディがそっと目を逸らした。確かにまだ工房に入ったばかりでこれである。


「大丈夫だって。親方に頼むだけだし」

「ルーンプレス機……」


 ジト目のエリーから逃げるように、ランディは地上階にある鍛冶場へと急ぐのであった。




 ☆☆☆



「おう。若様にお嬢様……じゃねえな。魔女様かい?」


 手を挙げたガストンに、ランディが「喧嘩を止めろよ工房長」と顔をしかめて近づいた。


「良いんだよ。活発な意見交換ってやつだ」


 ガハハハと笑うガストンに、ランディも「まあいいけど」とため息混じりでその話題を終わりにした。


「それで今日は何の用じゃ? 転移門をワシらに弄らせてくれるのか?」


「馬鹿か。お前らに任せたら、直ぐにバラバラにされるだろ」


 顔をしかめるランディに、「失敬な」とガストンも顔をしかめるが、あの喧嘩ぶりだ。どこの工房がメインになるのか、どんな調査をするのか、などで揉めに揉めて、結局バラされて各々が持って帰りかねない。


 だからガストンだけを指名して、更にランディの監視の下で協力してもらっているのだ。


「転移門は解析が済んだら、親方達にも協力してもらうよ」

「約束じゃぞ」


 未知の技術への興味が尽きない。そんな顔のガストンに、ランディがニヤリと口角を上げた。


「まあこれを見たら、転移門より興味を持つかもしれねーがな」


 マジックバッグから竜の角製大剣を引き抜いたランディが、それをガストンの前にある机に置いた。


「おいおい。まさか……」


 驚くガストンはどうやらランディの目的に気付いたらしい。


「こいつを鍛え直してほしい」

「いいのか?」

「親方じゃなきゃ頼まねーよ」


 嬉しそうに目を輝かせるガストンが、ランディの大剣を恐る恐るさすった。以前竜の素材の一部は見たが、その中でも高価な角を丸々一本使った大剣など、世界中を探しても見つからないだろう。


 それを鍛え直す。鍛冶職人の腕がなるというものだ。ランディはガストン以外に頼む相手がいないと肩をすくめた。


「ただ鍛えるにしても、他の連中にちょっかいかけさせないように……」

「任せておけ。むしろ連中も喜んで協力するじゃろう」


 目を輝かせて大剣を擦るガストンが、ここにいるどのドワーフも、竜の角など扱ったことがないと教えてくれた。貴重な体験になる以上、いつもとは違い全員が一致団結して事に当たってくれると、ガストンが自信タップリに胸を叩いた。


「よし。なら一安心だな。試作が出来たら連絡をくれ」


 ランディの言葉にガストンが頷き、早速取り掛かろうとウズウズしているのだが……


「楽しみを邪魔するようで悪いんだが……。ルーンプレス機の相談にも乗ってほしくてな」


 今度の提案に、ガストンは分かりやすく顔を曇らせた。ガストンが言うにはかなり難しいらしい。


 均一な刻印技術に均一な魔力伝達。それらを実現するだけでも、精密な金型と魔力制御回路が必要だ。さらにルーンを彫る際に必要な魔力をどうするかの問題もある。


「ルーンは彫る物によって魔力の質が違うらしいのじゃ」


 ガストンの言葉に頷くのはエリーだ。例えば温度を上げるルーンなら、魔力を熱へ変換させつつ……のような形である。もちろんそこまで単純ではない。もっと複雑な魔力操作が必要だが、それをプレス機に記憶させねばならないのだという。


「魔力変換装置、魔力記憶、そもそも魔力の供給の問題。問題だらけじゃ」


 ため息混じりのガストンに、「そうか」とランディもため息をついた。だがそんな中、エリーだけは何かに気付いた様子でしばし考え込んでいる。


「何か思いついたのか?」

「いや……どれもこれも、転移門に似た機能があったなと思うてな」

「おお! まじか!」


 嬉しそうにするランディに、まだ解析は終わっていない事をエリーが伝える。


「てことは、結局ふりだしに戻るのか」


 苦笑いのランディに、「早う戻れという暗示じゃ」とエリーが意気揚々とランディの腕を引っ張った。何だかんだであの小屋で三人だけの解析が気に入っているのだ。


 それを分かっているからこそ、ランディもガストンに剣を頼むとだけ伝えて、来た時とは違いエリーに手を引かれて帰っていった。


「ルーンプレス機に転移門か……。まったく恐ろしい事ばかり言う男じゃ」


 見えなくなったランディの背中に、ガストンが感心した表情を見せた。失われた古代の技術だけでなく、それを現代でしかも大量生産しようというのだ。そうでなくとも、この竜の角だ。


「やりがいがあるの」


 笑顔のガストンが、工房全体に集合をかけた。その日から騒がしかった工房が恐ろしいほど静かになったと、港町で大きな噂になったのはまた別の話。

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