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【書籍1巻発売中】モブの俺が悪役令嬢を拾ったんだが〜ゲーム本編無視で、好き勝手楽しみます〜(旧サブタイトル:ゲーム本編とか知らないし、好き勝手やります)  作者: キー太郎
第五章 春休みってすぐ終わる

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第198話 街作りはコンセプトが重要

 日も暮れた頃たどり着いた街は、作りかけの城壁と同じように、ポツポツと建物ができ始めていた。


「スゲーな。街の向こうが見えねーぞ」


 笑顔を見せたランディの言う通り、ランディ達が見ていた反対側へ街は大きく拡張しているのだ。


「かなり大きな街になりそうですね」


 確かにランディ達が通っている大通りだけでも、公国一の都市であるリヴェルナントに引けを取らない立派さである。まだまだ通りを囲む建物の数は淋しいが、いくつもの基礎をみる限りそのうち多くの建物で通りが賑わうのだろう。


「良いな! 何か分かんねーけどテンションが上がるな!」


 賑わう声すら聞こえて来そうだ、とランディはリズと二人で盛り上がっている。


 そんなランディの視界に、見覚えのある看板が映った。


「冒険者ギルド……流石アーロンさん、仕事が早え」


 苦笑いのランディの言う通り、大通りに面し、しかも入口からさほど遠くない絶妙な位置に作られたギルドは、既に明かりが灯っている。つまりは稼働中というわけだ。


「魔の森までは遠いのに、需要があるんです?」


「この辺は弱い魔獣が多いから、新人冒険者には丁度良いんじゃねーか?」


 ランディの言う通り、ヴィクトールの端だと中位の魔獣が現れるので、冒険者としても活動しやすい場所だ。加えて街が大きくなり、人や物の行き来が多くなれば、それだけ様々な依頼が増える。何も魔獣退治だけが冒険者の仕事ではないのだ。


「街並みに関しちゃ俺らは素人だから良いとして……既に基礎まで出来てるって事は、入居者が決まってるって事だろ」


「そうですね」


「コンセプトが通るかな」


 肩を落とすランディだが、「町長さんに話を聞いてからですよ」とリズに元気づけられ、ひとまず馬車を今夜の宿を兼ねた代官の屋敷へ向かうのであった。



 ☆☆☆



「……うーん。なんでうちの人間は、揃いも揃って欲がねーんだ?」


 苦笑いのランディが言う通り、代官の屋敷は小ぢんまりとした石造りの屋敷だ。もちろん立派な街並みに映えるよう、オシャレな外装になっているが、言われなければ代官の屋敷だと分からぬほど、周囲の景色に溶け込んでいる。


 港町は小さな砦。新しい街は控えめな石造りの屋敷。


 どちらも流入しているお金を考えれば、もう少し欲張ってもバチは当たらないというものだ。


「そこがヴィクトールなのでは?」


 笑顔のリズが言う通り、ヴィクトールらしいと言えば、そうなのだ。


 そんなヴィクトールらしい、代官の屋敷へたどり着いた二人を迎え入れたのは、嬉しそうな顔の町長と、彼の横に控える……


「あれ? キース?」


 ……そう。ヴィクトールの家令である、キースがランディとリズを出迎えたのだ。


「長旅ご苦労さまでございました」


 恭しく頭を下げたキースに、ランディは御者台から飛び降りつつ口を開いた。


「屋敷で姿が見えねーと思ってたら」

「はい。旦那様の代わりに、こちらの建設指示を賜っておりました」


 キースが光らせたモノクルに映るのは、馬車から降りるリズの手を取るランディだ。


「なるほど。それでこんなに理路整然と進んでるわけか」


 普段からアランの補佐として、様々な改革を進めてきたキースなだけあって、街のデザインや建設指示もお手の物というわけだ。


「あれ? ならこの手紙は……?」


 ランディは首を傾げながら、キースとランディを見比べている町長へ手紙を差し出した。


 町長もまさか自分に手紙が来るとは思っていなかったのか、驚いたような顔でそれを開いた。しばし手紙に視線を落としていた町長が「確かに賜りました」と納得の表情を浮かべて息を吐いた。その様子に首を傾げるランディに、キースが「手紙を――」と町長に声をかけた。


 キースに促され、町長が手渡した手紙に書いてあったのは……


『恐らくいい案が浮かんでいるころだろう。ランドルフにも助言をもらうといいだろう』


 ……ただそれだけが書かれていた。


「親父殿め……」


 手紙を見たランディは、苦笑いが止まらない。あれだけ執務室で釘を刺したかと思えば、このアシストである。


 今ランディの脳内では、したり顔のアランが「要塞より良いだろ?」と言っている。


 ランディの性格をよく理解しているアランだからこその、執務室でのやり取りとこの手紙と言える。


 自分が何でも口出し出来ると思えば、それこそランディとリズなら要塞を作りかねない。だが補佐だと聞いて時間が経った今は、様々なアイデアの取捨選択が済んだ状態である。


「しかもキースがいるってことは……」

「はい。お目付け役でございます」


 ニコリと笑ったキースにランディはまた苦笑いだ。いくら冷静に街の事を考えたとしても、手綱を握る人間というものはやはり必要だ。


「親父殿にいっぱい食わされた気分だが……。まあ今は良い。ひとまずキースを交えて意見交換をしたいんだが?」


 ランディの提案に、「ならば執務室へ」と町長が大きく頷いてランディとリズを屋敷へと促した。



 ☆☆☆



 屋敷の執務室は、かなり広く作ってあった。聞く所によると、行政府としての役割も持つ屋敷なだけに、応接室を執務室と一緒に纏めたそうだ。


「この大きさで、効率よく部屋割りを考えた結果にございます」


 そんなキースの言葉通り、屋敷の中は理路整然とした機能美に溢れている。


「いいな。この合理的な雰囲気。ヴィクトールの屋敷も味があって好きだが、このシステマチックな雰囲気もいいよな」


 一人頷くランディにキースがこの設計は、ルシアンに頼んで雇い入れた、技術者集団が手掛けた事を教えてくれた。


「親方たちか……何でも出来るな」

「坊ちゃまの彗眼の結果ですな」


 嬉しそうに微笑むキースの言う通り、ランディが馬車の技術と引き換えに雇った技術者達だ。今や彼らの活躍のお陰で、様々な技術者がヴィクトール領で働きたいと言ってくれているらしい。


「いい感じに領の発展サイクルが進んできてるな」


 しみじみと頷くランディだが、まだまだ道半ばだ。発熱インナーはこの街の立ち上げで目処がつくだろうが、未だ作りかけで放置したままの地中熱式暖房器具もあるのだ。


「やること盛りだくさんだぜ」

「ですね。春休みはあっという間かもしれません」


 嬉しそうなリズと顔を見合わせたランディに、町長がソファを勧めた。建物の簡素さとは打って変わって座り心地のいいソファを堪能したランディが、早速話を……とキースと町長へ視線を戻した。


「さて。まずは俺のせいで苦労をかけたな」

「滅相もございません。むしろ、どのような意見が聞けるか今から楽しみであります」


 微笑むキースに、「普通だぞ?」とランディが肩をすくめた。


「大砲やバリスタですか?」


 おどけて首を傾げるキースに、「馬鹿か」とランディが鼻を鳴らした。


「普通だっつったろ。オシャレなカフェとかだよ」


 ランディの言葉にキースだけでなく、向かいに座る町長も驚きのあまり僅かに仰け反った。


「なんだよ……?」


「いえ……」

「カフェ、ですか」


 不思議そうな二人に、ランディは「いいだろ」と口を尖らせた。


「カフェは構いませんが……需要がそこまでありますかな?」


 首を傾げるキースに「〝ある〟んじゃなくて、作るんだよ」とランディがニヤリと笑って、街の雰囲気やコンセプトを語り始めた。


 ランディが思う街のコンセプトは、ずばり繊維工業をベースとした、服飾の街だ。発熱インナーやコタツ布団と言った繊維工業は既に利益も見えている。


 そこに加えてオーダーメイドのドレスから、既製品の服飾までを幅広く扱う事業を計画している。


 もちろん、その魁となるのがクラリスのデザイン工房だ。リズをしても「凄い」と唸るレベルのデザインは、キャサリンやセシリアに見せても大好評であった。


「まだまだ着想の段階だが、工房を立ち上げて、軌道に乗せたら、セドリック様にも声をかけるつもりだ」


 セドリックやルシアンの持つ商会を通しての販売。もちろん自分たちでも商会を立ち上げてもいいかも知れないが、販路を多く持つルシアン達に任せたほうが効率がいい。


「ファッションで火が付けば、確実にここを訪れる人間が増える。それも、貴族や商会のご令嬢といった類の人間が」


 ランディの説明に頷くのはリズだ。


「元々発熱インナーの生産ライン目当てで拡張した街だが、折角作るなら、販売もしたほうがいいだろ」


「確かに仰る通りですな」


 キースだけでなく町長も頷いた。


「ですが、それだけの馬力がありますかな?」


 モノクルを光らせるキースが続けるのは、元々発熱インナーだけの予定だった事だ。そこにコタツ布団が舞い込んだ形だが、それだけなら特に問題はない。どちらも特に難しい作業ではないからだ。


 だがそこにデザインを加え、さらにオーダーメイドのドレスや普通の服飾雑貨も扱うとなると、どう考えてもキャパオーバーなのだ。


「心配すんな」


 ニヤリと笑ったランディが、キースへ数枚綴の紙を放った。それは王都を離れる際、キャサリンから渡されたあの名簿だ。


「教会で僧服なんかを作っていた人間を始め、服飾関連に強い人材を大量に引き入れる予定だ」


 ランディの目の前で、紙を捲るキースと町長は目を丸くしている。キャサリンがわかりやすく纏めてくれただけあって、一目で誰がどんな技能を有しているか分かるのだ。


「もちろん、イグニフォリア(発熱草)と綿花の栽培畑も作らねーとだから、そっちに強い人材もいる。あとは他にも色々とな」


 ランディの言う通り、始めこそ繊維素材は輸入に多くを頼るが、後々周辺を巨大な綿花畑にする算段なのだ。そして街が出来るということは、他にも人手が必要な部分が出てくる。


 そういった部分にも――全部とは言わずとも――教会からの人員を充てる予定だ。


「とまあ、俺の中ではこんな感じでイメージしてたんだが……」


 頭を掻くランディに、キースがメモから顔をあげて微笑んだ。


「このキース、坊ちゃまを侮っていました」


 深々と頭を下げるキースに「よせよせ」とランディが手を振った。


「人員だの何だのは、完全に後出しジャンケンだろ。この辺の情報があれば、お前も親父殿も、この程度のビジョンは見えただろ」


 鼻を鳴らしたランディに「さて?」とキースは惚けるだけだ。


「坊ちゃまのビジョン……もちろん全部が思い通りというわけにはいきませんが、大きな指針として、参考にさせて頂きましょう」


「そうか。なら全体のイメージや諸々は任せるぞ」


 大きく息を吐いたランディに、キースが「構いませんが」と小さく首を傾げた。


「街並みや区画は、俺よりも町長やお前の方が向いてるだろ」


 ランディの言う通り、素人があちこちに箱を作ったところで、それが街として機能するかは微妙なのだ。ならば街に詳しい人間がやった方がいい。


「それに俺は、明日からリズと二人でやることがある」


「と、言いますと?」


「決まってんだろ。クラリスの工房作りだよ」


 笑顔を見せたランディに、「なるほど」とキースもまた笑顔で頷くのであった。

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