第129話 本日休載のお知らせとオマケ
スライム美容液も軌道に乗った頃、ランディはコソコソと人目を気にするように王都のある一画に来ていた。巨大な建物が立ち並ぶ一画だが、昼間はまるで火が消えたように静かな一画。
花街。
ランディのような学生には不向きな、いや縁のない場所にランディが来た目的は、目の前に見える巨大な屋敷――ベルベット・ローズと呼ばれる、王都でも最も有名な娼館だ。
やる気こそないが、優秀な護衛であるハリスンがいるからこそリズを置いてこんな場所に来れたわけだが、何もランディは花街に遊びに来たわけではない。
ここに来たのはあくまでもビジネスだ。
意を決して大きな扉を開けば、ムワッとした独特の空気がランディを包みこんだ。中に待ち受けていたのは、胸元が開けたドレス姿の女だ。
「すみません。ランドルフと申します――」
「オーナーより話は伺ってます」
妖艶に微笑んだ女が、「こちらへ――」とランディを上の階に促した。後ろ姿も背中が大きく開き、何とも目のやり場に困る女性だが、歩き方を見るにかなり高度な教育を施されていることだけは間違いない。
(さっすが王都イチ)
妙な納得を覚えながら、ランディは女に案内されて二階の奥にある部屋へと通された。
扉の中に待っていたのは、落ち着いた雰囲気の女性だ。柔和な微笑みを浮かべてはいるが、前世の取引先で見た熟練社長の雰囲気が漂っている。たった一代で会社をデカくした、そんなやり手の雰囲気だ。
「なんでも、私達に売りたいものがあると?」
首を傾げる女性に、「ええ。まずはこれを――」とランディが、売出し中の美容品の中でも、高位貴族向けの高級セットを差し出した。
「あら、女性の扱いが分かっているのね」
微笑む女性がそれを脇に、ランディに椅子を勧める。長居をするつもりはないが、この場で断るのも無礼か、とランディがソファに腰を下ろし早速本題に入った。
「私がベルベット・ローズへ提供したいのはこれです――」
ランディが取り出したのは、瓶に入った液体だ。パッと見は美容品と変わらないそれに、オーナーの女性が眉を寄せて瓶を持ち上げた。
「これは……?」
「ローションですね」
「ろーしょん?」
その使い方をランディが説明すると、始めは怪訝そうな顔を浮かべていたオーナーも、興味が湧いたと言わんばかりに笑顔を見せていた。
「子どもなのに、色々詳しいのね」
「貴族の嗜みですよ」
肩をすくめるランディだが、言えるわけがない。前世ではかなりポピュラーな商品だったなどと。女性の負担を和らげ、かつ没入感も得られる。しかも美容成分入りだ。
スライム美容液を作るにあたって、絶対にこっち方面に売り込んでも金になると睨んでいた商品だ。
「これの効果を、あなたが教えてくれるのかしら?」
妖艶な笑みを見せるのは、ここまでランディを案内してくれたあの女性だ。見るものを誘惑するその笑顔だが、ランディは澄まし顔で「いえいえ」と首を振った。
「試供品として提供しますので、もしご興味がある場合は、ご一報下さい」
それだけ言い残すと、ランディは礼を残して部屋を後にした。
そんなランディの背中を見送ったオーナーが、案内役の女性に微笑んだ。
「ナンバーワンとして、振られた気分はどう?」
「相手があのブラウベルグの姫君ですから」
仕方がない、と言わんばかりの女性にオーナーがローションの瓶を揺らして「だとしても、面白い子ね」と微笑んだ。
その後、ランディの持ち込んだローションは、女性だけでなく男性からも大好評だったようで、定期的な注文が入るようになった。もちろんその注文は全てセドリックにぶん投げたわけだが、ランディは自分名義での特許料的な物を、定期的に受け取っているのだ。
当面の金銭対策として、ぶっこんだ作戦は大成功だったと言える。ただ一つ……
「ランディ、服から女性ものの香水の匂いがするのですが?」
「は? え? いや、これはビジネスで……」
「ふーん」
ジト目のリズに、結局全てを話す羽目になったのはまた別の話。
「さくらん坊やのくせに、なぜそんな事を知っておるのかの」
「お前と同じ、耳年増なんだよ!」
エリーからの鋭いツッコミを躱しながら。




