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第050話:悪意との邂逅

 ダンジョンの完全起動から1週間が経過した。24時間で200近くのダンジョンが一斉に出現したため、世界各地で混乱が起きた。ルーシー連邦の首都モスクワでは、大規模な暴動が発生した。ガメリカではIDAOへの加盟を見送った段階でこの現象が発生したため、ロナルド・ハワード大統領の支持率が大幅に低下し、次の再選は微妙な情勢だ。3月のスーパーチューズデーには勝利したが、4月に発生したこの現象に対して、ハワード大統領はリーダーシップを発揮できなかった。日本の浦部総理が1時間おきに記者会見を行なったことと対比させ『ハワードを北京ダック(ロナルドダッグだから)にしてやれ!』などの過激な言葉がSNSに溢れ、支持率は3割台前半まで堕ちてしまったのである。

 

 この状況で一気に盛り上がりを見せているのが、民主党の大統領候補たちである。特にその中でも注目を集めているのが、同性愛者であることを告白した38歳の大統領候補「ピーター・ウォズニアック」である。従軍経験があり、29歳で10万人都市の市長となった彼は、周囲が止めるのを聞かずに州軍と共にダンジョンに入り、魔物とも戦っている。スーパーチューズデーにおいて、彼はこう演説した。


「人類が国家を形成してから数千年、私たちは『国』という単位でまとまり、国という単位で政治を、経済を考えてきました。ですがいま、私たちは人類史の大きな転換点に立たされているのです。ダンジョンは、豊かな国も貧しい国も関係なく、地球全体に出現しています。たとえ国内すべてのダンジョンを駆逐したとしても、隣接するキャナダやメヒカノス、南米諸国のダンジョンから魔物が溢れ出たらどうなるのでしょう。人種、国籍、性別、貧富、宗教……魔物にとってそんなものは関係ありません。人類すべてを敵とみなしているのです」


「ガメリカさえ良ければいいという、自国第一主義の考え方では、ダンジョンと戦うことはできないのです。ですが残念ながら、その思考転換ができない人たちがいます。ハワード大統領であり、ベテランと呼ばれる他の大統領候補たちです。彼らは自国第一主義の考え方にどっぷりと浸かってきました。経験豊かなベテランであるがゆえに、パラダイムシフトができないのです。ダンジョン対策においては『国益』という考え方を捨てるべきです。人類全体の利益を考えるべきです」


「私は38歳、政治経験は、僅か9年間の市長職しかありません。ですが、だからこそ私なのです。党利党略や軍需産業との繋がりなどがない私だから、ダンジョンという未知の現象に対応することができるのです」


「人類はいつの日か、必ずダンジョンを克服するでしょう。その時、我々は新たな地平を切り拓くのです。ガメリカ人でもなく、ライヒ人でもなく、ルーシー人でもない。『人類(ヒューマニティ)』という言葉一つで足りる世界が来るでしょう。私は同性愛者です。ですが私は人類です。彼は不法移民です。ですが彼も人類です。彼女はムスラン教徒です。ですが彼女も人類なのです。人類という言葉一つで足りる新世界(フロンティア)を目指そうではありませんか!」


 若さ、新鮮さを武器にピーター・ウォズニアックは徐々に支持を集め始めていた。現時点でさえ、8月の民主党大会は接戦になると予想されている。このまま支持が広がれば、合衆国史上最年少の大統領が誕生するだろう。ハワード大統領の孤立主義政策によって、ダンジョン対策からも孤立してしまった合衆国国民は、若き気鋭の政治家に希望を見出そうとしていた。





【合衆国国防総省 アイザック・ローライト】

 24時間続いたダンジョン連続出現現象への対応とその後の対策検討で、僕は忙殺されていた。もっとも、ほとんどの仕事は秘書官であるレベッカにまかせている。僕の仕事は情報を分析し、推論を立て、方針を出すことだ。70過ぎの長官にダンジョンなんて理解できないからね。


「それで、ドクター・ローライトの意見は? 突然、ダンジョンが連続して出現した原因はなんでしょうか?」


「んー? そんなのミスター・エゾエが原因に決まってんじゃん。他の国が遅々としている中、彼らだけがぶっちぎりでダンジョン攻略進めてるんだから。単体のダンジョンではなく、ダンジョン・システムそのものに変化があったんだから、彼らが原因である可能性は極めて高いよ。というよりそれ以外に考えられない」


「ならば、日本政府に対してその点を追及すべきではありませんか?」


 50過ぎのオッサンの言葉に僕はため息をついてしまった。もう少し考えてから発言してよ。


「追及してどうすんの? 証拠は一切、無いんだよ? 『大量破壊兵器を持っているはずだ』で戦争はじめた20年前のようにはいかないよ。日本はバチカン教国と提携した。つまりEU全体が日本の味方ってことになる。さらには大東亜共産国とも和解しちゃったし、ガメリカが引き篭もっている間に、日本は外交環境を激変させちゃったんだよ。ガメリカが文句言ったところで、世界の誰も相手にしてくれないよ」


 僕は科学者だから政治のことには触れたくない。だが結果としては、ハワード・ドクトリンは間違いだった。ガメリカは同盟国を見捨てて自国に籠もってしまった。こちらにはこちらの言い分があったとしても、同盟国側から見れば「身勝手な国」と思われても仕方がないだろう。平時であれば「ガメリカ・ファースト」も通じたんだろうけど、ダンジョンという全世界共通の問題を前にして「俺は俺で勝手に解決するから、お前らは知らん」という姿勢では、世界から見捨てられてしまう。


「ハワード大統領は失敗したのさ。年始の演説で『ガメリカ・ファーストを捨てる』と宣言すれば良かったのに、これまでの自分の思いや考え、成功体験に引きずられてあんな演説をしてしまった……」


「ドクター、それ以上は…… ここは政府機関ですから」


 僕は頷いて口を閉じた。民間人である僕でも、防衛省内で好き勝手言えるわけではない。民間軍事会社からのヘッドハントに応じようかな。ダンジョン冒険者部門を全部任せるって言ってるし、そっちの方が面白そうだよ。あ、なんか顔色変えて飛び込んできた。ダンジョンでも出現したかな?





【十字軍 ロルフ・シュナーベル】

 およそ750年ぶりに蘇った「第10次ダンジョン十字軍(クルセイダーズ)」は、マスコミの注目を受けていた。だが俺の中に浮ついた気持ちなどない。カズヒコ率いるバスターズの覚悟と姿勢を目にしてしまったら、そんな気持ちなど持てるはずがない。僅か1ヶ月間ではあったが、ダンジョン内で経験した過酷にして濃密な時間によって、お調子者のマルコでさえ少し変わったように見える。


「ダンジョンが連続して出てきた事件だけど、やっぱカズッチが関係しているのかな?」


「可能性は高いだろうな。だが関係していようがしていまいが、私たちには関係ないだろう。今は目の前にあるコレをなんとかしよう」


 後ろでマルコとアルベイダが話し合っている。そう、俺たちはいまダンジョンの入り口を目の前にしている。周囲は軍によって封鎖され、さらにその周りを多くの人々が心配そうに見守っている。安心しろ。情報では、このダンジョンはDランクだろう。ならば俺たちで討伐できるはずだ。


「これより、第10次十字軍遠征を開始する。ヨーロッパでの最初のダンジョン討伐は、フランツェのパリ、シャンゼリゼ・ロータリーから始まる。先は長く果てしない。だが皆と共になら、必ずレコンキスタを成し遂げられると俺は確信している。行くぞ! 旗を掲げろぉ!」


 三大騎士団の旗が掲げられ、人々の熱狂的な声が聞こえた。





【江副 和彦】

 東京都江戸川区鹿骨町に出現したダンジョンについては、ダンジョン・バスターズに管理と討伐を任せる。日本政府が意図的に小さく公表したため、バスターズの周囲が騒がしくなることはなかった。日本中に出現したダンジョンの取材で、記者たちも飛び回っているのだろう。


「次、来るぞっ!」


「あいあい……」


 ンギーエが張った結界によって、ゴブリンソルジャーたちの動きが遅くなる。巨躯を活かしたシールドバッシュを叩き込むと数体が吹き飛び、煙となった。その戦いぶりを見て頼もしく思った。頭は少し弱いようだが、それを補って余りある守備力がある。壁役として十分に活躍できるだろう。


==================

【名 前】 ンギーエ

【称 号】 戦鎚の巨人

【ランク】 C

【レア度】 Legend Rare

【スキル】 盾術Lv8

      鎚術Lv8

      守護結界Lv5

==================


「よし、第五層に向かうぞ。恐らくBランクが出てくるはずだ」


「よろしいのですか? 彰さんや他の方々はいませんが?」


 彰たちは新メンバーの育成を兼ねて、劉師父とエミリを連れて船橋ダンジョンに入ってもらっている。今、深淵にいるのは俺と朱音とンギーエの3人だけだ。ンギーエがCランクになったことで、次の層に進めると判断した。


「第五層の様子を見るだけだ。俺も朱音もBランクだ。ゴブリンソルジャーをどれほど倒しても、ランクアップはしない。第五層で少し戦ってみて、問題ないようならば彰たちと共にAランクを目指す。まずは情報が必要だ」


==================

【名 前】 江副 和彦

【称 号】 第一接触者ファーストコンタクター

      種族限界突破者ピーシズリミットブレイカー

      第一討伐者(ファーストバスター)

【ランク】 B

【保有数】 219/∞

【スキル】 カードガチャ(23)

      回復魔法

      誘導

      転移

      鑑定

      ------

==================


 ランクアップで選んだのは「鑑定」というスキルだ。このスキルの最大の特徴は、冒険者のスキルのみならず「ステータスを発現していない人間のスキル」まで鑑定できるという点だ。無論、魔物やアイテムの鑑定もできるが「冒険者候補者」を鑑定できるというのは助かる。


「Bランクカードがあれば、Super Rareのアイテムをもっと増やせるだろう。そうすればメンバーの育成も捗る。無理はしないが、倒せるようなら第五層を活動の場にするぞ」


 そう言って、第5層に入る。見たところはこれまでと変わらない。暫く進むとT字路の手前で朱音が止まった。そして様子を見ようとした瞬間、まるで火炎放射器のような凄まじい火柱が目の前を横切った。


「来ますわ。旧き(エンシェント)魔術師(マギ)です! ンギーエは結界を全開に!」


 T字路から出現したのは魔法攻撃主体の魔物だった。ゾンビがフード付きコートを着て、両手に水晶玉のようなものを持ち、宙に浮いている。立て続けに5発の火弾を放ってきた。普段はボーっとしているンギーエが、歯を食いしばって盾で食い止めている。まるでエミリの魔法攻撃だ。


「シッ!」


 次の攻撃が来る瞬間、朱音が横から飛び出し天井を駆け、旧き魔術師に斬りかかった。だがSR武器「黒霞」の斬撃が、見えない壁で阻まれる。


「クッ……物理防御結界ですわ!」


そこに火球の攻撃が迫る。俺は盾を構えて朱音の前に飛び出し、そのままエンシェント・マギにぶつかった。魔術師はふわりと後ろに飛び退くと、魔法攻撃を連発してきた。


「もう十分だ! 撤退するぞ」


 ドンドンッという攻撃を盾に受けながら、俺たちは第五層から後退した。





 第一層の安全地帯に戻った俺たちは、そこで休憩と食事を始めた。深淵の管理を任されているため、DIYした安全地帯はそのままにしてある。魔法の革袋から材料を取り出し、電気フライヤーをバッテリーに繋いで揚げ物を始めた。


「ンマッ……ンマッ」


ンギーエが厚さ3センチのトンカツを旨そうに食っている。ソースでもいいが、俺は味噌カツが好きなので、味噌ダレをかけて丼の飯と共に食らう。朱音は薄切りを希望していたので、半分の厚さにして揚げてやった。


「Bランク以上は、チーム編成が必要になるな。今回のような物理偏重のチームでは第五層は突破できない。鑑定を使えば、魔法適性を判別できる。これからしばらくは、人材登用に力を入れよう」


「私が忍術を使えば、決して倒せない敵ではありませんが?」


 朱音はそう言うが、それではダメなのだ。俺だけが突破できても意味がない。


「今後は、クルセイダーズのような『バランスの良いパーティー』を用意する必要がある。それも複数だ。そしてAランク以下のダンジョンの討伐を優先させる。Sランクは暫く放置だ。少なくとも、Sランカーのパーティーが複数できるまでな」


 ダンジョン・システムは悪辣だ。下手にSランクダンジョンを討伐したら、大氾濫までの残り時間が短くなる可能性もある。仮にSランクダンジョン1つを討伐するごとに1年ずつ短くなるとしたら、7つで7年になる。それくらい最悪の可能性を考えておくべきだろう。


「2年以内にSランクパーティーを複数用意する。それが当面の目標だ。もちろん、S以外のダンジョンの討伐は逐次進めるぞ。Legend Rareカードもさらに集めたいしな」


 朱音は頷き、ンギーエは悶えている。どうやらカラシを付けすぎたらしい。





【防衛省 石原由紀恵】

 その報告を受けた時、最初は信じなかった。ありえない話だった。すぐに部下に指示し、大使館への確認などを急がせた。報告は、南米「ベニスエラ共和国」で政変が起きたという内容だった。あの国は共産主義に毒された左派政権の経済政策失敗によって、ハイパーインフレーションが発生し、暴動が頻発している。ただの政変だけだったら、私も驚かなかっただろう。


「あり得ないわ。魔物が、地上に溢れ出したなんて……」


 問題は、その政変の様子だった。無数の魔物が街を跋扈し、警察や軍隊に襲いかかったらしい。中央政府も議会も崩壊し、マドゥーラ大統領は一族ごと殺されたらしい。


「もしこれが事実なら、魔物を操っているのは間違いなく『ダンジョン討伐者』のはず…… でも、江副和彦がこんなバカなことをするはずない。合理的に考えても、日本人の彼が南米の貧困国で政変を起こすなんて、意味がないもの」


 この点は自信を持って断言できた。ダンジョン・バスターズは一切、関わっていないだろう。となれば、まったく知られていない別の冒険者が引き起こしたことになる。


「とにかく、情報収集が最優先よ。それと念のために、彼に確認を取らないといけないわね。転移が使えるのであれば、ベニスエラにだって簡単に行けるでしょうから……」


 それは口実に過ぎない。彼は言っていた。「ダンジョンを討伐させまいとする人間のほうが危険だ」と。それが現実になったのではないか? ダンジョンがもたらす超常的な効果と、人間の悪意が結びついてしまったのではないか? 彼と話すことで、その不安が少しは解消されるかもしれない。それが私の本心であった。





「20歳の時に初めて作ったパスポートだ。赤色パスポート3冊、確認してくれ。ベニスエラには一度も行ったことがない。つまり転移したくてもできないんだ」


 彼は開口一番にそう断言した。こちらが知りたい情報を最優先で渡してくれる。やはりこの男とは仕事がしやすい。局員が受け取り、別室へと向かった。念のために取り寄せておいた外務省の出国履歴と見比べるためだ。もっとも、見比べる必要もないだろう。政変を起こした男が、こんなところで紅茶を啜っているはずがない。


「ごめんなさい。貴方のことは信頼しているけれど……」


「いや、構わない。それが仕事だろ? 俺はまったく気にしていないよ。ところで、このアールグレイは美味いな。ウィリアムソンか?」


「いいえ、これはマリアージュ。私の私物よ」


 会議室内に、防衛省らしからぬ華やかな香りが漂う。同席する局員が、さっそくファイルを取り出した。無粋ね。もう少し茶を楽しめないのかしら。それじゃモテないわよ?


「江副さん、早速ですがこの写真を見てください。ガメリカから入手した偵察衛星の写真です」


 彼はティーカップを置いて、渡された写真を見ている。私は秘書官にニルギリのミルクティーを持ってくるように指示した。こういう状況だからこそ、落ち着いて対処すべきだろう。


「……Dランクのオーク、これはCランクのゴブリンソルジャーか? 武器を持っているゴブリンだが、少し違うような気もするな。これはヘルハウンド、Cランク魔物だ。だがこのダチョウのような奴は知らんな。全部で5種類くらいの魔物がいるようだが、見てみないと判断できん」


「解像度の問題から、これ以上に鮮明な写真はないのです。ベニスエラは完全に封鎖され、外国人記者もかなりの数が行方不明です。辛うじて隣国のコロビアンに逃げた英国人記者が、こんな写真を撮っていました」


 差し出された写真に、私は胸が悪くなった。子供を喰らっている魔物の様子だ。


「Fランク魔物、ゴブリンだ。本当に、魔物が地上に出てきたんだな」


 江副はそう言って、タバコを取り出した。恐らく無意識の行為だろう。本人も気づいたらしく手を止めたが、私は携帯灰皿を取り出した。


「構わないわ。私が許可します。こんな写真、タバコなしで見てられないもの」


 そう言って私も一本、取り出した。





【江副 和彦】

 ダンジョン・システムは悪辣だが、ある部分では公平(フェア)だ。一部のダンジョンだけ魔物を地上に溢れさせるようなことはしないだろう。それに大氾濫という割には規模が小さい。魔物の数は不明だが、氾濫(スタンピード)は、地平の彼方まで魔物で埋め尽くされるような状況のはずだ。つまりこれはダンジョン・システムではなく、人間によって引き起こされたものだ。ダンジョン討伐者が魔物を顕現させたという可能性が、もっとも高いだろう。


「ベニスエラは中南米の国だ。ガメリカにも近い。米軍が動く可能性もあるな」


「IDAOでも対策が話し合われているわ。特に隣国のコロビアンとブレージルからは、国境の警戒のために国連軍を派遣してほしいと要請が出ている。さすがに、バスターズを送ってくれとは言われていないけれど……」


「必要があれば行ってもいいが、その前にもっと情報がほしい。これは間違いなくダンジョン討伐者の仕業だろう。だがソイツは一人なのか、複数なのか。ランクはCランクか、Bランクか。そして、なんのために魔物を地上に顕現させたんだ……」


 ニルギリのミルクティーを啜って、俺は2本目に火を付けた。局員が気を利かせて、灰皿を持ってきてくれた。なんだ、あるじゃないか。


「犯人の狙いは不明ね。というより、こんなクレイジーなことを仕出かす奴の考えなんて、理解したくもないわ。どうせロクでもない理由なんでしょうよ」


 局員たちと今後の対策を話し合うが、やはり情報不足のため方針が決まらない。取り敢えずは静観するしかないというありきたりな結論で落ち着きそうだった時、会議室の扉が叩かれ、若い局員が入ってきた。


「失礼します。局長、動画サイトに犯人と思しき人物の犯行声明が出ています」


 俺と石原は顔を見合わせ、同時に同じことを口にした。


「「すぐに見せてくれ(頂戴)!」」





【動画サイト ???】

「ハロー。各国政府首脳の方々、そして愛しき人類諸君。私はベニスエラを崩壊させた犯人だ。もっとも、種族限界突破という称号を得たため、もう『人』ではないがね」


 画面には、ピエロのような化粧を施した男が映っている。英語で挨拶しているため、石原が横で同時翻訳してくれた。


「私が犯人だという証拠をお示ししよう。これは見たことあるかね? 魔物を倒した時に得られるカードだ。通常、これは地上では顕現できない。だがダンジョンを討伐すると討伐者は特別な能力を得られる。魔物を地上に顕現できるようになるのだよ。よく見ていなよ? ジャジャーン!」


 ポンッという音と共に、男の横にゴブリンが出現した。間違いない。ダンジョン討伐者だ。


「どうですかお客様! 種も仕掛けもありません。本物の魔物ですよ? 素晴らしいでしょう? あ、私の名だが……そうだな。ハリウッドの人気映画にあやかって『ジョーカー』と呼んでくれたまえ。魔物を使役するから『魔王ジョーカー』なんてどうかな」


 ヒヒャヒャッと手を叩いてピエロ男が嗤っている。完全にイカレていると思った。ジョーカーはひとしきり嗤うと、急に真顔になった。


「さて、私がベニスエラを崩壊させたということは、これで信じてもらえたかな? ベニスエラを崩壊させたのは、まぁ大統領が嫌いだったからだ。平等な世界を掲げておきながら、裏では賄賂を受け取り、自分ひとり贅沢しようとする。美しくない! 私のように正々堂々と、股を開く美女は殺さないでいてやると言えばよいものを!」


 今度は一転して、殺された大統領を罵倒し始める。石原も翻訳するのを躊躇うほどに、汚い言葉らしい。そんな雑言が1分ほど続き、そしてジョーカーは息を吐いた。


「あー、話が飛び飛びで申し訳ない。私が今回、このように顔を出したのは理由がある。世界の人々にお伝えしたいことがある。一部の人間のみが知る、重大な事実だ」


「コイツ……」


 俺は思わず腰を浮かした。だが画面の男は口元を歪めて、その事実を口にした。


「人類諸君。魔物大氾濫モンスタースタンピードは、あと10年で発生する。10年後に世界は滅びる! 老いも若きも男も女も……みーんな魔物のウンコになっちゃう! 君たちの寿命は、あと10年だ!」


 手を叩いて大笑いする画面の男に釘付けになりながら拳を握りしめ、唇を噛んだ。口端から赤い雫が溢れた。


第ニ章:了

 第ニ章の完結までお読み下さり、誠にありがとうございます。今後は、登場人物の整理やサイドストーリーを追加します。また第三章の構成も考えたいので、少し更新がお休みするかもしれません。ですが10月中には第三章をスタートさせたいと考えております。その際は、活動報告にて具体的な日時をお伝えいたします。


 評価や感想を下さった方、ブックマーク登録をして下さった方、全ての読者様に御礼申し上げます。ブックマークやご評価をいただけると、創作活動の励みになります。これからも頑張って書いていきます。


 今後も応援の程、何卒、宜しくお願い申し上げます。

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― 新着の感想 ―
冒険者の犯罪者 ダンジョン攻略者特典の悪用者あらわる!!
[一言] Sランクダンジョンが7つ、という事は、7つの原罪だな! まだ、途中だが、ぐいぐい引き込まれます! 書籍も購入しましたよ!
[一言] 前から思ってたんですけど、 主人公らはとにかく魔物カードを使わずに自力で戦ってますよね。 魔物カードを使えば、人員や人数の面はあっさり解決すると思うんですけど、 なんで頑なに使わないんですか…
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