十六. 1868年、江戸
山崎 烝の亡骸は、白装束を着せられ、白木綿の布の上に横たえられていた。安らかな眠りを浮べている様に見えるその白い顔には、綺麗な死に化粧が施されていた。
1868年、江戸
―――尾形が黒い喪服を着、黒い数珠を親指と人差し指の間に掛けて経文を暗誦した。逆なのではないかという位、山崎の白い姿も、尾形の黒い姿も似合わなかった。忍は常に暗い色の装束を着る。黒衣で葬る男は少なくとも、忍よりは彼岸側に近い人間であった筈であるのに。
喪服の用意があるのは、近藤と良順、そしてこの尾形だけであった。
近藤が、喪主として追悼の詞を詠む。
参列者が、棺とも謂える白布の上に花や各々の贈り物を置き、山崎の亡骸を其で囲む。焼香を上げ、贈り物を捧げた後、皆山崎の枕元に控える黒衣の男に礼をした。殆どの者が、山崎の生命を吸い取ったかの様に甦ってこの場処に存在するこの男に絶句した。
全員が山崎と尾形から離れた後、尾形は山崎の胸元に、山崎が愛用していた手裏剣を置いた。黒だった。加えて、短刀を山崎の手に握らせる。この場合、短刀は小脇差であった。刀を置くのは、彼が武士を全うした証だ。
出棺の前に山崎の遺骸を布で包むのは墓守である尾形の役目であった。贈り物ごと、山崎の身を横たえていた白い布で縛り、四隅に大砲の弾丸を括り、重みとする。その際、尾形は佐倉に手伝いを頼んだ。時間が掛るからと言ったが、内実はこの娘に、この豪傑放胆に生きた男をよくよく見葬って欲しかった。後悔しない様に。
佐倉は、同期では決して成し得なかった、山崎を信頼させた人間である。
山崎の顔が白布に覆われて視えなくなるのをこの娘はどの様な面持ちで見ていたのだろうか。其は、この物語の本当の作者に尋ねてみなければわからない。
土方が、隊旗を遺骸を包んだだけの簡易な白い棺の上に被せた。『誠』の字が穏かな風に漂い、青い空の下に緋い旗の色が映えた。
艦長が来て、ささやかだがと土方の被せる隊旗の隣に日章旗を被せた。之を見て、近藤は遂に泣いた。山崎は賊軍として死んだのではない。国に認められたのだ。彼等全員が理想とする死に方だった。
「山崎君は実にいい隊士だった。こういう葬られ方をして、彼は本当に幸せ者です」
近藤は艦長に礼を言った。土方も隣で頭を下げる。島田から近藤を引き取って、彼を支えた。島田は隣にいた近藤に泣かれて、我慢できずに涙を流している。
沖田は船橋に続く階段に腰掛け、空と海の境界線を眺めていた。あれが・・・彼岸だろうか。
ざぱぁん・・・
麻縄を切り、山崎の亡骸が海中へ落され、ごぽごぽと泡を作りながら海底深くへ沈んでゆく。肉体とも別離。簡易な葬式だった。彼の墓は無い。
背中で、だぁん、だぁんと銃の音がした。
―――全員を甲板に帰した後も、尾形は船の舳先に留まった。左腕に巻きつけた数珠を解き手に提げ、右手には位牌を、海の闇に消え往く山崎の躯の真上に差し出す。彼を包む白い布は青く染まり、軈て灰に、そして暗黒に、段々と視認しづらくなってゆく。
「―――・・・顕光院貫月義実居士。之が、貴方の彼岸の名」
戒名である。彼岸という別の道を拓く彼の、新しい名と呼べるもの。尤も彼は、変名の達人とも言えたから目新しいものでもないが。彼の此岸での姿は最早影を残すのみとなっていた。
「――――・・・・・・」
踵を返し、尾形も甲板へ下りようとする。その時、奇妙な事が起った。
ぷちっ,
「―――・・・?」
尾形が腰から上だけ艦首を振り返った。当然の事ながら、目の前は空と海の水平線しか見えない。波が少し出て来始め、ざ、ざ、ざざん、ざぁんと耳を擽る。
する・・・と、尾形の手首の先にあった数珠の糸が緩くなる。反射的に左手をぐっと握り締めた。が、黒い真珠は尾形の掌から零れ落ち
ばらばらばら・・・・・・
「―――――」
―――数珠玉が総て散り散りに広がり、紀伊半島の沖深くに吸い込まれてゆく。尾形の手に残ったのは同志の無念を此の世に繋ぎ留めていた糸だけだ。本体である弔いの玉は、山崎の亡骸より早い速度で姿を消し、あっという間に視えなくなった。
・・・・・・数珠房だけが海中に沈む事無く、波を漂い、併し其も水平線の向う側へと流されて、尾形から離れてゆく。
「・・・・・・・・・」
・・・・・・尾形はぼんやりと、房が彼方へ向かう広さと珠が落ちてゆく深さのどちらも持つ海を見つめた。此岸と彼岸の出入口であるこの舳先で。
「―――俊!」
―――之岸へ彼を引き留める者の声がする。
・・・尾形は今度こそ甲板へ下りた。数珠が切れた事で、彼は葬送人という役回りから解放された。之は比喩ではない。
尾形の葬送人としての仕事は、山崎の葬儀が最後だった。
一つ一つに宿る同志の心血。犠牲となった同志との絆。死んだ同志を迎える約束。其等も、境界から彼岸の彼方へ旅立った。或いは、山崎が一緒に連れて逝ってくれたのやも知れぬ。
「―――尾形」
・・・少し酔ったのかも知れない。彼岸の扉を閉じて帰って来たばかりで足下の確りしない黒装束の男を、土方が現実へ引き戻す。
「・・・・・・はい」
「俺と局長は、之から士官室に戻る。―――お前も来い。後の事は島田と山野にさせろ」
・・・・・・。通常は涼しげに切れ込んだ目が、隈取でもしたかの様に黒く、険しく、土方を睨んでいる。その凶相とも謂える貌に
「トシ!山崎君は尾形君の―――」
「―――承知しました」
「尾形!」
ともすれば一触即発の状況に、近藤が割って入る。併し尾形はまつげを落すと・・・素直に従った。解っているのだ。副長助勤がいない事を。
原田と永倉は別の船に乗り、既に江戸に着いている。
尾形が礼をし、二人の後に付いて歩く。彼等三人が連なり此方に近づいて来る経緯を、沖田 総司は最初から見ていた。彼の表情に翳が落ちる。
「・・・・・・」
彼等の足音が聴こえてきたので、沖田は口角を頑張って引き上げた。彼は不意に、この局面になって近藤・土方から恃みとされる尾形を、そう遠い昔ではなかった筈の過去の自分と重ねて仕舞ったのだった。
パサッ
「・・・・・・」
腰を下ろすなり衣服を膝の前に抛り出され、尾形は暗い眼で投げ渡した主を見た。無論土方。続いて、確認する様に近藤を一度見るとするりと衣服に手を伸ばし、襟元を上になるよう畳んであった其を広げた。―――洋服。
「――――」
「幹部用に仕立てさせた西洋式の軍服だ。旧幹部に作った物だから寸法が合わないだろうが、2着余っている。自分の体格に近い方を択べ」
其は井上 源三郎と山崎の為に用意された物に相違無い事は明かだ。山崎の為の物だと思われる、己の腕より長い袖の服を元の通りに畳むも、井上の為の其には手を伸ばさなかった。この時点で尾形には、土方が既に言っている事が解っている。
「・・・私は、山崎の代りにはなれませぬぞ」
「当然だ。アイツの代りになれる奴なんざいねぇ。己惚れられても困る」
トシ!近藤が堪え切れず怒った。土方の尾形に対する態度は誰に対する其より遙かに冷たく、苛烈だ。同族嫌悪からきているのだろう。だが近藤は尾形を懐刀としている。土方にとっての山崎と言い切る程に。とはいえ、土方ほど掛替えの無い相手は近藤にとっても在ない事は言う迄も無い。近藤は結局、土方の様なタイプが好きなのだ。
己を責める様に尾形につらく当る土方を、近藤は遂に見ていられなくなったのだ。
併し、土方も尾形も、互いから眼を逸らす事無く、悲しみを隠して理性で意見を戦わせている。
「副長助勤に戻れ、尾形」
「――――・・・・・・」
尾形は否も応も答える事無く、只口を噤んでいた。応じるのは本心でないが、拒否する事は出来ないのだろう。尾形はこの点で非常に判り易い。
副長命令は未だ簡単に逆らえる程地に墜ちたものではない。だが異見しただけで切腹に処せる様な強固な法度は―――
尾形は張り詰めていた息を吐いた
―――もう存在しない様だ。
「・・・・・・斯様な、夷狄の服を着て、夷狄の如き振舞いで、敵が山崎を殺めた様に、旧幕府軍も敵を射殺すと」
「―――お前も見ただろう。山崎は銃弾一発で死んだ。井上 源三郎も似た死に方だった。刀や槍で応戦しても無駄に死人が増えるだけだ。其に、西洋の調練は屯所が西本願寺だった頃から取り入れている。其もお前は見ている筈だが」
判り易いのは、屹度教えてくれているからなのだろうと思う。新選組局長・副長の実力が、移ろい易い世情の中でどれだけ通用し得るのかを。そして今迄は黙っていただけに過ぎない―――
「―――我々は何と戦っているのでしょうな」
土方はかっとして眼を見開いた。土方の最も嫌うこの科白をこの男は言った。インテリが悩み、新選組を去る迄に幾度となく呟いたであろう言葉を、この男も言うのだった。
「―――脱退するか?」
土方は掬い上げる様にして尾形を睨む。併し尾形は怯まない。寧ろ揚げ足を取る様に
「脱退者は切腹の取り決めであった筈。切腹は嫌です」
と返した。実際、負傷者と同数程度の脱走者が京と大坂で出ていた。その者達を連れ戻して切腹させるある種悠長な事は、もう行なう余裕が無い。そういった意味でも鉄の隊規は、機能を失い始めている。自覚がある故に土方は歯噛みした。
「佐幕にせよ尊皇にせよ、攘夷を掲げてお国を護る事が浪士組の頃からの我等の目的で御座いました。貴方がたが武士となるを、私は全力で支える心算だった。武士とは、戦いの中にも対話を重んじるもの。仮令敵であろうとも、生きていた証・志の証人として死した者とは向き合わねばならぬ。武士は大量殺戮の兵器であってはならぬ。なれど我々は、全く逆の道を進んでおりますな。心まで西洋に被れようとしている。衣服も武器も凡てを西洋式にし、無差別に人を殺戮する。その対象は同国の日本人。・・・往く末は武士の世などではなく、日本人の貌をした外人の世なのやも知れませぬな」
・・・・・・近藤と土方は黙った。遠い54万石の雄藩から来たこの武家の末裔の歎きは大きい。残念ながら、結局は多摩の百姓上がりといわれる彼等にはこの武士の歎きの奥深くはわからないが、自分達は武士にはなり切れないのだと言われている事はわかった。
「・・・感傷に浸っている場合じゃないぞ。旧幕府からの御達しだから仕方が無いんだ。仮令武士の道から外れていると言われようとも忠義を尽すべき相手が在なければ意味が無い。其が俺達にとって・・・・・・たった一つの武士道なんだ」
土方と尾形は夫々近藤を見た。土方はその後尾形を見る。睨んでいる様に見えたが、一点の曇りも無い、其は強い目力だった。近藤と全く同意見である事を彼の眼は語っている。
・・・・・・。近藤と土方の揺るぎ無い視線を受けて、尾形は大きく溜息を吐いた。彼にしてはあからさまな反応であった。
「・・・・・・お好きに為さるが宜しい。私から貴方がたに申せる事は、最早何もありませぬ」
「尾形」
近藤が申し訳無さそうな顔をする。武士とは何たるか。位は上がれど決して埋らぬ差を、浸透させるべく動いてくれたのに。
尾形はこの様に、武士の在り方を示しながらも新選組の在り方を節目節目で問答し、時に近藤を試したのだろう。
純粋なだけではいとも簡単に染め上げられる。文学師範で隊士を隊に繋ぎ留めた業を、この男は局長・近藤にも行なったという事か。だが、結局は狗の様な盲目的信念に立ち戻って仕舞う。叉、そうならなければ右腕が動かぬ焦燥を誤魔化す事を出来なかった。
「貴方がたの武士道に合わせては、本来の武士道は貫けませぬな」
尾形は近藤の肩甲骨を肩越しに見遣る様な遠い眼をした。科白の割に表情が柔かい。懐かしがっている様でも、安堵している様でもあった。
「―――・・・貴方がたは本当に変らぬ」
・・・・・・尾形の最後の問答が終った。
尾形が懐から短刀を取り出す。尾形・・・!? 近藤が尾形を凝視する。土方が近藤の前に出た。尾形は己の後ろ髪を掴むと、抜いた刀を元結の上に当て、一直線にその髪を切った。・・・ぱらぱらと、弧を描いて顎に髪の束が滑り落ちる。
―――残った髪より多い其を、解けた元結で結んで纏め、近藤の前に提出する。短刀を鞘に戻し、断髪した髪に添えた。
「―――承知しました。副長助勤の命、謹んでお受け致します」
尾形は顔を上げ、今度は土方を見つめる。この男が武士を捨てた瞬間だったが、土方は之ぞ武士の究極体の様な気がして目を細めた。
「併し、私には江戸の地理は馴染みあるものではありませぬ故」
「江戸に着いて暫くは、怪我人も多い事だし各人で動いて貰う。その間に新八か左之助に案内して貰え。其と、その間の残り二人の動きだが、島田には明日横浜で降りて病院での介抱世話に当って貰う。山野には俺達と同道し、和泉橋医学所で手伝いをして貰う心算だ。・・・近藤さんも、之でいいか?終着までこの船に残るのは、近藤さん、俺、総司、山口、尾形、山野、佐倉になる」
「ああ」
近藤はすぐに了承した。ほっとした顔だった。今度ばかりは尾形が去る可能性を考えたのかも知れない。
「内、治療が必要なのは近藤さん、総司、山口。・・・山口が意外と重傷だ。世話人が山野と佐倉。江戸での巡検担当が先に到着している新八と左之助、そして尾形。俺は江戸城登城の用事があるが、其が終り次第、今度は隊士募集に出る。巡検担当に新隊士を指揮して貰う事になる。いいな?尾形」
「・・・なるほど。私を知る者が存在しないと確信しての採用なので御座いますね」
「そうだ。だからお前の軍師を容赦無く揮え」
・・・・・・土方は少し、臆病になっている。
無理も無い。山南 敬助の時に感じた苦悩が、このところは立て続けに押し寄せて来ているのだ。其を清算してくれる者も在ない。
「・・・・・・」
尾形の生存など、つい先隊士全員に知れた。だが彼等は恐らく、今後尾形に会う事は無いのだろう。
抑々がこの男、新隊士の教育係という側面が強かった。
「―――承知しました」
尾形はもう何も訊かず、切り上げる様に早々に返答した。井上 源三郎の遺品とも謂える西洋の軍服を抱えると、その場を立つ。
―――尾形が出て往って暫くしたのち
「―――なぁ、トシよ」
・・・・・・近藤は、奉上された尾形の髪を見下ろす。
「・・・・・・君主になるよりも、武士になる方が難しい事かも知れんな」
・・・・・・。土方にしてみれば君主になる事だって十分に難しい。だが近藤はいつも、天賦の才能で人を惹きつけ、この人にならば命を預けてもいいと簡単に想わせて仕舞う。自身の補佐があったとはいえ、この男は幕臣に迄成り上がって仕舞った。併し自身の補佐だって近藤 勇でなければ決して無かった。凡て人望故の立身出世。何と美しい歴史の遺り方だろう。
土方も尾形も、幕府などもう関係無いのだ。特に尾形は、近藤に最後の確認を入れている。・・・総てを捨て、特攻の覚悟さえ決めた。
(・・・あんたが君主だったなら、武士になるのも簡単なんだろう。尾形が武士を捨てたのは、あんたのせいじゃあなかったんだな)
土方はその言葉を口には出さなかったが、心の中でそっと言った。
―――江戸に到着した。
品川台場(現・お台場)に船が入港する。錨を下ろし、土方の述べた終着まで残った7人の隊士は、取り敢えず全員が神田和泉橋の医学所へ移動する事となった。駕籠を呼び、土方を除き相乗りの形で乗り込み、出発する。
「・・・・・・」
山野 八十八は山口 二郎と相駕籠となった。珍しい組み合わせである。入隊以来、副長助勤と言えば沖田 総司か尾形と共にいる事が多かった八十八は、無口で単独行動の多い山口と関る機会が殆ど無かった。
ぶらり駕籠に揺られながら
(・・・・・・併し、過し易いな・・・・・・)
尾形という之叉無口で単独行動ばかりの男と長く付き合っている為か、山口との二人の空間に慣れるのは非常に早かった。
「・・・・・・」
八十八は駕籠の隙間からちらちらと見える景色を覗く。この八十八も大概気兼ねしない気風のいい男であるから、山口が傍にいようと別に関係無い節がある。余談だが、この八十八、年末に例の「やまと屋」の娘との間に一女を儲けた。その所為かこの誰もが老け込む様な時に、一人時刻や時勢に逆らって若々しい。
「―――江戸は初めてか?」
黙って駕籠者が一歩一歩土を踏みしめる音を聴いていた山口が八十八に訊いた。斎藤 一だった男である。併し、山口 二郎という名も近い内に変える心算でこの男はいる。
「へ、へィ」
八十八は間抜な声で答える。この美男は他人との会話に期待をしない。積極的にコミュニケーションを図る事はせず、話したければ話せばよいし、そうでなければ話す必要も無いと思っている。言葉を交そうと交すまいと通うものは通おうし、通わぬものは通わぬ。
だから八十八は、今か今かと気を張る事はしないのだ。只、意外だ、などとは思う。
「・・・江戸では、この時期にはもう梅の花が咲いてんですねィ」
「おぬしの郷では違うのか」
「加賀では後一月程かかりまさぁ。雪の多い藩ですからね。江戸は京より北東にあるのに、雪降らないんですねィ。京より暖かい気ィするし。へぇー、結構な都会なんですねィ」
八十八が愈々興奮して景色に眼を奪われる。山口は八十八の秀麗な横顔を暫く見ると、刀を引き寄せて目を瞑った。
近藤と尾形が同じ駕籠に乗っている。尾形は後ろをついてゆく山口並みに何も喋らなかった。だが近藤も、その沈黙を気にする事無く安穏とした表情を浮べている。
「・・・なぁ、尾形」
八十八ほどあからさまでないが外の景色を隙間から眺めている尾形に、近藤は話し掛ける。
尾形は近藤の方を向く。髪を切ったからなのか其とも、京に居た時より若く、いや幼く視える。瞳が幾らか澄んでいた。
「今度・・・試衛館に行ってみるか」
・・・・・・。尾形は眼を大きくして近藤を見つめる。幼さが一層増した。近藤は、何をそんなに愕く事があるかと豪快に笑った。
「あそこも結構、変っているぞ」
近藤が尾形の肩を叩く。まるで父親の様だった。尾形はぎこちない笑みを浮べ、・・・・・・そうですね。と照れくさそうに言った。
和泉橋医学所に到着した。
近藤・沖田・山口を預け、土方と尾形の二人はすぐさま品川宿の釜屋へと向かう。釜屋には永倉 新八・原田 左之助が陣を張っている。彼等が体力の回復を試みている間にも、この国の何処かで戦争が始っている。




