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譲位する元魔王..


 壁の外、野草や花たちが魔力の光を放ち、草原が輝く。魔力の残り香が蛍のように舞い世界を照らしている。帝国よりも綺麗な場所だ。そこで僕ことランスロットは待っていた。


「ただいま」


 馬は繋がれていない大きな馬車。ここまで引いてきたのは女蜘蛛、アラクネ族であるリディアだ。ニコッと笑い。おかえりと言って迎えてくれる。魔物と人の間の綺麗な女性だとつくづく思う。


「ネフィア姉は?」


「大丈夫です。準備が出来たことを伝えました」


「そうですか!!」


「…………舞踏会はよろしかったのですか?」


 ネフィアさんにお願いすれば参加は大丈夫だった筈。現に僕もエルフ族長の許可証で入場した。


「…………綺麗じゃないですか? この草原」


「綺麗ですね」


「舞踏会は多くの人が集まりますが。ここよりもいい場所でしょうか?」


 興味がないらしい。それなら気にしない。


「それは僕にはわからないです」


 しかし……人に触れることはいいことだとも思う。言わないですが。


「…………ええっと。二人っきりがいいのです」


「ごめん。全く気が付かなかったよ」


 思っていることと全く違っていたようだ。


「いいえぇ~そんな鈍感な所も好きですから」


「…………」


 口を塞ぐ。ニマニマとふだしらな顔をしそうになり。自制を促す。連合国の騎士と戦ったときよりも同じ同胞に手をかけた時もここまで狼狽えなかった。「だらしない」とも思う。


 違う意味の狼狽え方。恥ずかしいような嬉しいような、もやっとした感情。そう……これはこの感情は「悶える」だ。


「ランス? どうしたの?」


 体を低くし顔を覗き込んでくる。綺麗な瞳だ。顔を剃らし言葉を発する。


「い、いえ。少し考えを事を」


「私がいるのに? 私が二人っきりでいたいっと言ってるのに? 他の事を考えるんですか?」


「あっいや!?………ごめん」


「いいですよ~こういう悶えそうになる感情。好きですから。『ヤキモチ』て言うんです。こう、構いたけど恥ずかしさで触れられなくなることとか………でも幸せなんです」


 「言葉に出すのはズルい」と恥ずかしい思いをしながら僕もまだまだ子ともだなと思う。かわいい女性は卑怯だ。だからか、心を許せるのだろう。男と言うのは短絡。簡単な生き物だ。


「はぁ………せっかく二人です。独白でも聞いてくれませんか?」


 蛍のような光を手で受け止め眺める。悩みごとではないが。少し、聞いてもらいたいっと思うのだ。


「はい」


 彼女は短く。返事を返してくれる。


「では、僕には多数の義妹がいます」


「私もいる。全員死んじゃったけど」


「はは………まぁそうですね。僕の義妹も沢山死にました」


 理由は省く。帝国では当たり前だ。淘汰する。強い指導者、姫を作るために。


「しかし、生き残った義妹の一人が今日。この地で久しぶりに会いました。その義妹は………トキヤ。親友のことが好きです。しかし、ネフィアさんに出会って諦めなければいけないことを悟ったようでした」


「トキヤさん。モテますね」


「モテますよ。彼は興味がないだけで。それは………どうでも良く義妹が好きになった理由は僕がわるいんです」


「……………どうして?」


「僕はトキヤに依存した。皆、僕を利用しようとする者。恐怖を持つ者、同じ血を持つものでさえ、裏切りを気にします。婚姻も親の都合ですね。だから、一人ぼっちだったのです。笑いますが…………実母実父以外の家族間に距離があるのです」


 騎士になったのも自分を守るために。だが、多くの物を手にすることが出来た。


「距離??」


「ええ、距離です。赤の他人の状態が多かったです。そんなとき彼に会いました。彼は全く、そう全く敬意を持たず。誰とも変わらずに僕に接してくれました。本当は不敬であるのですが………居心地が良かったです。僕を見ている唯一の他人でしたから」


「たまーに喧嘩してるよね。子供みたいに」


「そ、そうですね。ただ、本当に彼だけには皇子らしくない罵声を浴びせますね」


「ちょっと。妬けます」


「妬いてください。かわいいですよ」


「はうぅあ!?」


 とにかく着飾らなくていい。これは凄く難しい。「身分の差なんて関係ない」と言える親友。そして、自分には無いものを持つ豊かさも羨ましい。


「ん? 顔を隠してどうしました? 続けてもいいですか?」


「………うん、素で褒めてくれたんだ………大丈夫、恥ずかしいだけだから」


「出会って、そう。毎日一緒に居ましたから有名になりまして。庶民の生活に馴染む貴族とは珍しいらしく。どうしても目立ってしまいます。相談も受けて依頼をこなしたりしている途中。妹に声をかけられました」


 あのときは背筋が冷えた。妹も、帝国の姫なのだと。父上の血が色濃く容赦がない。


「それで?」


「ああ、それで…………聞かれたのです。『下町は楽しいか?』とバカにされる勢いで。今でこそ『お兄様』と言ってますが昔は呼び捨てでしたね」


「どうして変わったのですか?」


「呼び捨てより、『お兄様』と言った方が印象がいいっと考えたらしいですね」


「うわぁ…………」


「仕方がないです。そういう教育の元、育ってます。そう、バカにされていたのですが。親友をバカにされ………妹を初めて怒りましたね。胸ぐらつかんで、それが彼女に興味を抱かせ。『そこまで言うなら会わせなさい』といわれて会わせてしまいました」


「会わせちゃったんだ」


「ええ、僕もどうかしてたんです。トキヤに『殴り倒してくれ、完膚なきまでに』と依頼する程」


「めちゃくちゃ怒ってる!?」


 トキヤがドン引きしていたなぁ~。ホモ疑惑もそれからだった。


「でっ? どうなったの?」


「トキヤが決闘申し込んで容赦なく気絶するまで殴り倒した」


「ひぇ!?」


「ま、まぁ僕ら二人で手当てはしたけどね。トキヤは強かったよ。まぁ看病もして、会話を少しと妹の頭を撫でていたね。それからか、ちょくちょく妹が『遊ばせろ』て駄々をこねたのは。彼は『好きな人がいるから』と注意はしてたけど。色々迷惑かけたなぁ…………」


 とにかくトキヤが僕に頼んできた時は困った。彼も振り回された。黒騎士団長に妹は陰口を言い続けて、黒騎士団長が折れ、無理やり護衛させたりと無茶苦茶だった。黒騎士団長にも相談を受けた。大きくなって大人しくなるまで。


「ランス………目が曇ってる」


「い、いや。はは。フラれて当然だったわぁ………はは。そういえば手下を使ってネフィアさんを拐ってたね。同情していたのを返してほしい」


「ランス!? 大丈夫!? 目が死んでる!?」


「まぁ大丈夫です。ざまぁみろ。だからあれほど権力を使うなと…………まぁ。僕やトキヤが本当に優しいから構ってしまうんですよね。トキヤは『殺されないだけまし』と言うことで泳がせていたんでしょう」


 ネフィアさんは全てにおいて義妹に勝ってます。あなたがトキヤの伴侶で良かった。勝ってくれてよかった。


「ちょっと。罪悪感あったのですが、思い出すと楽になりました。ありがとう………聞いてくれて」


「う、うん」


「そういえば今さっきですね。黒騎士団長に同胞殺しを咎められましたが。別に気にすることはないですね」


「えっ?」


「遠からず、白騎士は潰れるのが早まっただけでした」


「そっちの方が罪悪感持つのでは? 私が魔物だから変な価値観を?」


「こればっかりは詳しく後で説明してあげます」


「い、いえ大丈夫。それより…………時間ありますね?」


「ええ」


「じゃぁ………すこし。くっつきませんか?」


「いいですよ」 


 彼女はありがたい。やりたいことを口に出すので僕は

楽です。





 少し物想いに耽る。テーブルの面々は皆が私を見て首を傾げる


「…………」


「あなたがそんな顔をするなんてね」


 代表するようにエルミアが私をバカにした。ひどい。


「エルミアお嬢様。旅で色々あったのですから……真面目な顔もしますよ」


 顔を上げる。色々あったがまだ終わってない。


「エルフ族長。魔剣は?」


「ご用意させております。寝室から盗んで来ましたので」


「トレインはいつ来るの?」


「鐘が鳴りしだい。壇上にあがるでしょう」


 壇上では出し物が行われている。魔法を使わない術であり、皆を楽しませていた。魔法ではないのでどうやっているかわからない。真っ二つの箱等は本当にわからない。体が切れていないのに真っ二つだ。よくわからない。私は一番前で見たい衝動をグッと堪える。いい出し物だ。


「大丈夫です。何があれば私とバルバトスがなんとかします。姫様、目を強く閉じ震えていらっしゃるのは、やはり、緊張されているのでしょうか?」


「ええ、俺も腕には自信がありますから緊張しなくて大丈夫ですよ」


「ありがとう」


 我慢、我慢だ。あいつが出てくるまでの。


「「「おおおおおお」」」


パチパチパチパチパチパチ!!


 ひときわ大きい喚声が起きる。壇上の出し物が終わり拍手喝采で見送られた。エリックが司会を担当しお辞儀をする。さすが彼は魅せるのがうまいと思う。


「そろそろ。お時間です」


 ゴーン……ゴーン……


 エルフ族長が時計を見た瞬間。鐘の音が響く。音と共にシャンデリアの魔力が切れ周りは暗くなり、壇上だけを照らす光が灯る。


「ご登場です」


 壇上に照らされた場所。そこに黒翼を持つ男性が女性ともに現れる。身長の高い、青年。悪魔らしい角を持ち。豪華なマントを身に付けている。隣の女性は………私によく似た女性。革の首輪をつけていた。


「今日の戴冠式に来ていただきありがとうございました。魔王トレインと元魔王ネファリウスでございます」


 二人は頭を下げる。そして私は感心する。本当によく似ている。


「すごい、似てる。すっごーい似てる!!」


「えっ? 姫様?」


 隣のエルフ族長が奇異な目で私を見た。


「やっぱり婬魔は変身能力があるのですね。でもお顔が優れてませんねぇ~」


「姫様。トレイン殿については?」


「あーうん。悪魔だね」


「あっはい、いいですね。そういうの」


 エルフ族長が笑みを溢す。なにか背筋冷えた。何を考えているのかわからない。


「どうしましょう? 今、出て行っても…………」


「ああ、それはご安心を。今から照明を消すので、その間に壇上へお上がりください。そこからは姫様が一番得意とするでしょうからお任せします」


 なるほど。パパッと済ますわけね。


「壇上へあがるのが得意なんて事はまるであの日みたいね」


「聞き及んでますよ。オペラ座でのご活躍」


「ネフィア。余も知っているのじゃ………魔王で上がるんじゃない。演技をすればいいのじゃ」


「それではいいですね。では消します……」


 エルフ族長が指を鳴らし、壇上の灯りが消えた。すべてが真っ暗になる。私は立ち上がり音を頼りに壇上へかけ上がった。


「なんだ!? これは!!」


バッ!!


 明かりが灯され、トレインと私を照らす。エルフ族長は偽物を引っ張り裏に隠し、そのままダークエルフ族長に預け後方に下げる。


 トレインが睨み付ける。青年、中々の好青年だ。若い、若くなっている姿にこれが彼の本当の姿だろうと思えた。


「久しぶりね。トレインさん」


「魔王ネファリウス。やはり現れたか………話は聞いていたぞ。来るとな」


 観衆がざわつく。しかし、あまり騒ぎにはならない。皆が知っているからなのか行く末を黙って見ている。そう、魔国の魔王を吟味しているのだ。敵を知るために。ここはそう、吟味する場だ。


「ええ……残念ながらあなたに私は嫌われているでしょう。長く止まる気はありません。魔剣を」


「はい、こちらに…………」


「魔剣!? なぜここに!! エルフ族長………お前が手引きを!? ここで戦い、勝てばいいが………客人を巻き込んで戦うのは愚策。交渉する気か?」


 鎖に繋がれた黒い刀身。金の柄。魔王を示す剣。くそダサいデザインの剣。それを私は受け取ろうとする。


「布を貸して」


「クロスでよろしいですか?」


「ええ」


 布を手に巻きつけ鎖に繋がれた剣を掴む。重たい剣を持ち上げて彼の元へ。用件は短く。結果は後でついてくる筈。


「トレイン!! あなたにこの剣を譲ります。王位と一緒に。譲位の証はこの大衆が証明するでしょう」


「!?」


「受け取りなさい。今日は皆さんがあなたを見てきている。無様な姿は晒さないでね」


 真っ直ぐトレインに近付き剣をつき出す。真っ直ぐ彼の顔を覗く。私を殺そうとした相手。彼にだけ聞こえる声で伝える。


「トレインさん。あなたのしたことは全て許しましょう。私の代わりに魔王になってください。私には全く興味のない世界です」


「な、何故だ!?」


 理解が出来ないらしい。気持ちもわかる。


「エルフ族長グレデンデに聞いてください。以上、この汚い剣………持ちたくない………早くとって」


「…………」


 彼は剣を握った。譲位は上手くいく。





 俺は驚いていた。目の前の女性があのネファリウスだとは思えないからだ。視線の前でありながら胸を張り。落ち着いた姿にと煌めく髪。あまりの美しさに驚く。用意した奴隷よりも数倍も本人は輝いている。


「………」


 つき出された剣を握る。弾かれずしっかりと吸い付いてくる。こんなあっさり手に入るとは思わなかった。委託がしっかりされている。簒奪ではない譲位だ。


「統治は素晴らしいです。ですから、才能はあるのでしょう。私はそう思いますよ」


「ね、ネファリウス!?」


 俺は一体、誰と会話をしているんだ。俺が殺そうとした奴はいったい何者だったんだ。

 

「今からのネファリウスはあなたです。トレイン・ボルバルグ・ネファリウス。魔王ですからね。私は、ネフィア・ネロリリスです。ええ」


「……………ネロリリス」


「はい!! では、魔国はあなたの物。私は隠居します。それでは失礼」


 何も言うことなく壇上から、彼女は下りる。静かに。周りがざわつかず静まったままで。彼女の一歩一歩が上品であり物語の姫を見ているような錯覚になる。呆気ない………すごく呆気なかった。


「ま、まて!! 何か一言でも文句は出ないのか!!」


 去ろうとする彼女に声をかけてしまう。振り向く彼女は満面の笑み。凜とした声だけが響く。


「許すと言いました。全てを」


「…………俺はお前を」


「だから『全て許す』と言いました。しつこいです」


「…………つぅ」


 俺は疑いようのない実力者と思っていた。しかし、目の前に現れたネフィアという女に俺は奴の器の広さを垣間見た。許せる話じゃないだろう。


「……はぁ……えっと、そうですね。最後に一言と言うのでしたら。『美味しかった』とシェフにお伝えください。御馳走様でした」


 口が開きそうになる。こんな周囲の目線の中で緊張せずにご飯についてだけ。それ以外は何も言わない。どんな精神をしているんだと思う。


「~♪」


 鼻歌混じりで彼女が去る。俺は扉が閉まった瞬間に兵士に彼女の護衛を指示をした。


 そして俺は今は恐ろしいほど運がいいと感じている。もしも、最初から彼女が魔王で統治していたなら。私は側近のままだっただろう。だからこそ、運がいいと言える。今さっき、多くの臣下が奪われそうになった。


 たった、一瞬。風のように現れて風のように去っていった。少し、嫉妬のような感情があったがそれが大きくなる。そして、それは大きな大きな劣等感へと変化し黒い影となった。





 私は、扉から少し廊下を歩きしゃがむ。


「んんんん!!」


 唸りながら、力をためる。そして勢いよく立ち上がり叫ぶ。


「やったああああああああああああ!! 自由だあああああああ!!!」


 あまりの開放感。城を走り回ってもいい。魔法で城を丸ごと焼けるかもしれない。そんな蛮行はしないけど。


「やった!! やったよ!!」


パチパチ!!


「上手く行きましたね姫様。兵が集まっておりますが如何致しましょう」


「えっ!? 捕まえに!?」


「護衛です。まぁあなたさまの位置を知りたいのでしょうが考えが読めませんね」


「他の皆さんと挨拶は済ませてませんが。『ありがとう、また会いましょう』と言っておいてください」


「どちらへ?」


「すべての用件が終わりましたので国へ帰ります」


「ですから、その国とは?」


「都市ヘルカイト」


「新興都市ですか………」


 私は窓を空けテラスの縁に立つ。風が気持ちいい。

 

「姫様、長い帰路でしょう。幸あらんことを」


「エルフ族長!! ネフィア嬢は!?」


「ネフィア様は何処!?」


 数人の兵士が私を探し、驚きながら指を差す。


「ネフィア様!? 危ない!?」


「皆!! 取り押さえろ!! ご乱心だ!!」


 彼らは知らないから、予想がつかない。


「グレデンデ、衣装。門兵にお返しします。ヨウコに譲ってあげてください」


「はい。それでは………」


「さようなら」


 私は後ろに倒れるように飛ぶ。夜の風を感じながら落ちた。テラスに多くの兵士が顔を出し叫ぶ。


フワッ


 途中、背中に大きな圧力を感じゆっくり速度が落ちた。そしてゆっくりと落ちていき、私は彼に受け止められる。


「トキヤ、終わった」


「知ってる。大声で叫んでただろ」


「聞こえたの?」


「すっごく五月蝿かったが。嬉しかったんだろうなって………良かったな」


「うん!!」


「何か兵士に追われてるし、ささっと消え去ろう」


「うんうん!!」


「………自分で歩けよ」


「今は逃亡の姫様ですよ~さぁ!! このままだっこした状態で走って!!」


「重たいんだぞ?」


「茶化す。私は軽いでしょ?」


「…………軽い」


「なら!! よし!!」


 私は彼の頬に顔を擦り寄せた。





 途中、ドレイクに乗って駆け抜け。ランスロットたちが用意した馬車を壁の外で見つける。大きな馬車の荷台に布が被せられ形的に蜘蛛だと思う。


 ネフィアが馬車の中で着替え、それをついてこさせた門兵に手渡す。


「脱ぎたてほやほやですよ。嗅いじゃだめよ」


「姫様!?」


 兵士が驚きの声が聞える。ネフィアの冗談だ気にするまい。


「ランス!!」


「前に」


 馬車の前に親友が、艶っとし、疲れた表情で立っている。始めてみる姿にわかったことは一つ。黙っておく。待つ間にやったな…………こいつら。だからリディアが寝ている。


「ドレイクに取り付ける。馬車用の手綱は?」


「これです」


 馬車用の長い手綱をドレイクに取り付け、馬車を引かせる準備をした。


「よし!! ネフィア、行くぞ!!」


「はーい!! うーん。リディア幸せそうに果ててますね。ランスさーん」


「ネフィア、ランスも恥ずかしいからやめとけ」


「い、いえ。大丈夫です。何なりとお答えしましょう!!」


「自暴自棄になるなよ。女っ気ないやつが無理しない」

 

「…………はい」


 馬車が動き出す。少し速めに。


「ネフィア、追っ手は?」


「来ない。情報が錯綜して場所がわからないだって」


「夜に出歩く方が珍しいしな」


「私も寝る~美味しかったし。お腹一杯で一杯で」


「わかった。おやすみ」


「うん、おやすみ」


 ネフィアが布にくるまり、目を閉じたお疲れのようだ。


「トキヤ、道はわかるかい?」


「ああ、インバスから商業都市行かずにトロールの都市へ向かうんだ」


「わかった。長い旅ですね」


「ああ、少し長い帰路だな」


 全て、終わった。後は帰るだけ。そう………帰るだけだ。穏やかなネフィアとリディアの寝息を聞きながら起こさないようにランスとこれからを話し合う。彼女らが起きるまで、そう、日が登るまで。





 小さな待機場所に一人の少女を待機させている。


「うぅ………ぐす………ごめんなさいごめんなさい」


 替え玉として用意され。役割を果たせず怒られるのを恐怖している。私は姫様を見届けたあと彼女に会いに来た。譲位の姿は立派であり、彼女を救ったとも言えた。彼女は自由である。


「ああ、君。名前は?」


「ごめんなさい………何も出来なくて………」


「…………」


 昔なら、弱い者は見捨てて来た。今もだ。しかし、姫様の容姿に似ている手前。無下には出来ない。いや、違う。気になるのだ。だから、私はそっと頭を撫でる。


「君を買いました。今は私がご主人様です。名前は?」


 女の子は顔を上げる。怒られない事に安堵した表情。


「ないです………」


「そうですか。では、ここで待っていてください。後で迎えに来ます」


「……はい」


 幼さの残る顔。姫様と違った顔。それを覗き、頭を撫でた後に部屋を出た。


「グレデンデ」


「バルバトスか」


「買ったって嘘はないなぁ~」


「今から買うんだから嘘ではない」


「丸くなったなぁ~」


「ええ、丸くなりました。姫様のお陰でね」


 昔と違い。「手に届く範囲で助けるぐらいはしてもいい」と思っている。忌み嫌われてる婬魔だろうと関係ない。


「でっ………どうする?」


「これからですよ。私には姫様の居場所もわかる。これからが勝負です。譲位は成功でしょうが、私は認めてない」


「悪い笑みだ」


「あなたもでしょ?」


「楽しい」


「ええ、楽しいです」


 楽しみながらゆっくりと魔国を変えていく。私の今後は焦らずにゆっくりとゆっくりと女王陛下への導きを浸透させるつもりだ。


 私たちはこれから。気を引き締めて伝言を伝えに会場に戻る。戦いは始まった。















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