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夜のとばり..


 私たちは教会に戻り。外の状況をエリックたちに伝える。夜のように都市は暗黒の空に包まれ街灯が灯される。


「夜の帳が降り、劇場が一変しましたね」


「夜になっただけじゃないだろう…………」


「ええ、きっとこれは夜の眷属に対する強化魔法でもあるでしょう。私たちは以外の………これは護って明日に繋げることは難しい。やるなら今しかないでしょうね」


「行くのか?」


「はい。最初からそのつもりでした。それが早まっただけのことでしょう?」


「………」


 トキヤが厳しい顔をする。目を閉じ悩んだあと口にそた。


「俺は雇われだ。誇り高い騎士でもなんでもない。忠義のために死ぬ気はない。降りるところは選ばせて貰うぜ。だが……途中までの付き添いはする」


「ええ、どうぞ。あなたはそうですね。彼女のためにだけしか自分を賭けないのでしょう。いいですねぇ………劇場栄えします」


「ご主人様は………どうされますか?」


「残りましょう。帰る場所無くなってはいけません。私にはここを護る義務がある。インフェ………大変でしょうが。頑張ってください」


「はい、ご主人様。ただ2、3日は消えるでしょう」


「はい。頼みますよ………我が天使」


 吸血鬼の首に幽霊の少女が腕を絡める。少女の笑みが吸血鬼に勇気を与えていた。私はその姿に熱を感じる。しかし、熱すぎない感情。長い間、認めあった夫婦のような雰囲気。空は暗いのに少女は輝いているのだ。私は光を見ている。


「インフェさん。頼みましたよ」


「はい」


「トキヤ、私は?」


「エリックに聞け」


「姫様、姫様はヨウコと一緒に壁から私たちを見守っていてください」


「ええ、わかりました」


 そうして欲しいとの意見に頷く。


「エリック………」


「ヨウコ嬢を頼みましたよ。他の者はここで防衛をお願いします」


「…………はい」


 何かを含んだ言い方に。気になりはしたが私は黙って移動するのだった。死地へ行く怪人は少し笑っているようだ。


「グランギョニルを演じるのは初めてですね」


 そう、不気味に笑うのだった。





 私は定位置につく。スペクター、悪霊等は時間的にまだ出てこないのか全く会わなかった。都市にはゾンビとスケルトンが徘徊してるだけである。


「………」


 そして途中、移動する中で魔方陣の上に婬魔の死体の山が積まれた場所をいくつも見つけた。


 地面に黒い液体。そこから黒い霧のようなものが立ち上ぼり、鉄臭い。とにかく鉄臭かった。


 魔法の触媒としての犠牲者たちは悲痛の表情。死体は四肢を丁寧に切り落とされているわけではなく裂けていた。拷問後の死体である。


「……………」


「う、うぷ………」


「ヨウコ、大丈夫?」


「だ、大丈夫。壁の上へ上がる階段があるのじゃ」


「無理してない?」


「……………ここって。本当に同じ世界なのか?」


「同じ世界」


「はぁはぁ、本当にエリックはこれを見てきたのじゃな」


「しらない。あなたが一番知ってるのではなくって?」


「…………話してくれんかったのじゃ」


「そう」


「落ち着いてるのじゃ………流石じゃのぉ」


「監禁、魔王から裏切り。そして女にされた」


「………?」


「スケルトンの蔓延る滅びた都市の死んだ王」


「…………」


 私は過去を振り返る。


「ウルフの群れ。沢山の魔物たち。盗賊ギルドの拉致。逃避行。ダンジョン攻略。ワイバーンの群れ。出会い……そして死別。黒騎士の襲撃。数々の刺客たち。幽霊怖いけど、いっぱい色んな事を味わってきた。今さらこれぐらい………ね?」


 濃厚な時が私に肝を鍛えさせる。元男であるのも強い理由かもしれなかった。


「そうじゃの。強くなくちゃいけないのじゃの………お主は」


「………ええ。彼は全てを退けた。でも今は彼を失う方がもっと怖い。あなたと同じ。だから他の事は耐えられる。我慢できる。そう、信じてる」


「そうじゃったのか………わしは、手が震えるのにのぉ……失うのが怖くて怖くてのぉ……信じたいがの………」


「気持ちわかるよ。でも、女は待つ生き物よ」


 私たちは階段の前まで来る。階段の下は濡れていた。階段から、滴る液体は石が黒いため目立たない。しかし、それがなんなのかわかる。たまに白い物が転がっているのきっと、脂だろう。


「うぷっ………おえぇえええ」


「…………上がるよ」


ニチャニチャ


 足裏にへばりつく脂。血の粘りが不快な音を立てる。壁の上まで行くと魔方陣の上に何人もの婬魔の死体が腹が裂かれて放置されていた。死体から紐が伸び、それを貪る烏が何羽もいた。


 そして、物音を聞き一斉に飛び立つ。食い散らかしながらカンテラが怪しく全てを映してしまう。


「くぅ………何処行っても死体」


「そうですね」


 食い散らかされた死体に火を落とす。死体は燃え上がり。辺りに焦げた臭いを振り撒く。今は火力が低く。臭いが出てしまうが供養ぐらいは出来る。


「トキヤ、こちらネフィア。壁についたよ」


 私の声を音を風に乗せて届けさせる。ヨウコ嬢の声も怪人に送ってあげる。


「そうか、こっちもついたよ。二人だけで城に入って暴れろってんだ。面倒な仕事だ」


「敵は?」


「デーモンたちは都市に溢れかえって各々が生きたまま皮を剥いだりして遊んでやがる。好き勝手に暴れてな」


「………そう。本当に悪魔だね」


「俺も大概、悪魔悪魔言われてきたがまぁ。本家には敵わないな。ネフィア支援頼むな」


「うん。トキヤ………一応同族だけどさ」


「なんだ? 同情したか?」


「ふふ、同情しないこと知ってる癖に………情け無用。好きなだけ暴れてね」


「任せろ。暗殺や殺しは得意だ」


「知ってる」


「…………あなたたちの『本当の顔』て恐ろしいわね」


 隣のヨウコ嬢が溜め息を吐く。


「恐ろしいだってトキヤ」


「なんだ? 誉めてくれるのか?」


「ばーか。誉めてないよ」


「知ってる。ははは」


「ふふふ」


「……………ちょっと笑えるなんて引くわ」


 ヨウコ嬢が微妙な顔をした。エリックとの会話もあまり普通なので変わらないと思うのだが……不思議である。


「ネフィア、今から門を開ける」


「わかったよ」


 彼の声が真面目になった。背中の剣を抜く姿が想像出来る。


「エリック…………お願い………生きて」


 隣で彼女が悲痛に祈る。何故か胸騒ぎがし、剣を強く束を握りしめ。勢いよく抜けるように待機する。隣の女の子護るために。今は女を忘れよう。





 トキヤは大きな城の前の広場で斧を持った巨体のデーモンの足を切り落として倒れたところを突き入れ引き抜く。


「同じ赤い色か」


 剣の血を風で拭う。


「門を入った瞬間。デーモンがお出迎え」


「これは、これは。醜い生き物ですね」


「醜いとは思わんが。大きい巨体は脅威だ」


「そうですか? でしたらこっそり忍び込んで仕留めましょう」


 カサ、カチャ!!


「………こっそりですか? お二方」


「おうおう、もう四天王のお出ましか?」


 目の前、城に入る扉の前に黒い服を着た優男が笑いながら手をあげる。すると、庭の骨が集まり錆びた剣を持ちながら立ち上がった。その数は数えきれないほど、庭を満たす。


「これは、これは。ネクロマンサーですね」


「囲まれたか。どうする? 怪人さん」


「そうですね。一体づつ倒せたらいいですね」


「………いいや。俺が活路を見いだし扉の先へ導く。あとは探してくれ」


 トキヤは剣を構え直し、道筋のスケルトンを吹き飛ばそうとした瞬間、思い止まる。目の前に火の粉がフワッと目の前を過ぎたのだ。


 匂い立つ、火の起こり。トキヤはネフィアの匂いに気が付いた。


「さぁ二人ともこれだけの相手に私を相手できますか?」


「残念だが、お相手は違うようだな」


「?」


 広場の淀んだ土から火の粉が吹き出す。スケルトンたちがそれに触れた場所から燃えてゆっくりと炭化する。


「な、なにが!? 起きて………!!!!」


 ネクロマンサーが1歩2歩と後ろへ下がった。そして彼の耳に大きな鳥の産声が響く。


「トキヤ殿、これは一体!?」


「俺もわからんが。状況は一転したらしい」


 火の粉が炎を産み。それが集まり一つの鳥の形を象る。大きな、何本の尾、燃え盛る翼。スケルトンたちを火葬し。目に見えて魂たちが鳥に吸い込まれていく。巨大な鳥が城の広場一帯を焼く。


「くっ!! 仕方がない………傑作を」


ガシッ!!


 ネクロマンサーの足元に骨の手が強く掴んだ。


「離せ!! 名も無き物たち」


 骨の手を蹴り飛ばす。しかし、周りのスケルトンが集まり抱き付く。


「くぅ!!……はぁあああ!!」


 捕まれている骨たちが黒い霧に包まれ、骨が地面に散らばる。ネクロマンサーは大きな角と蝙蝠羽根の姿形に変化し、怒りを目に宿す。


「この醜い姿を晒すとは。情けない失態!!」


 デーモン。蝙蝠羽根をもち、黒く頑丈な肉体を持つ。悪魔の上位種。彼の右手にもった黒い石が魔力の黒い塊を産みだし、それを目の前の炎の鳥に投げつけた。


 黒い塊が周りを集束し、飲み込む。炎の鳥も黒い塊に抵抗する。拮抗し、それを包んで抑えた。


「どうです!! 最高傑作は!! 重力球は!! 吸え!!」


バシィン!!


 ネクロマンサーが叫ぶと……黒い塊にヒビが入り中の圧縮したものがバラバラに飛び散る。


「な、なに!? この魔法を吸えないだと!?」


「我はまだ魔王なり。故に四天王ネクロマンサー。あなたを四天王の座から追放する」


「ど、どこにいる!! 魔王ネファリウス!!」


「目の前に」


「くぅっそ………体勢を立て直す!! いくらでもゾンビはいる!!」


ザッ!!


 ネクロマンサーは振り向こうとしたその瞬間だった。ゆっくりと顔を下げるネクロマンサーの目に真っ赤に血塗られた剣先が見える。真っ直ぐに突き入れられ体の芯から突き刺されている事をゆっくりと理解する。


「な、に!?」


「痛みはないか。薬かなにかだろう。そうそう、動くなよ。切りにくい」


「いつの間に背後に!!」


「スケルトンやネフィアの時間稼ぎだな。お前は自分で戦うことがなかったのだろうな。動きが鈍い」


「くぅ!? あがぁ!! 抜いてやろう!! こんなもの!!………!?」


「残念。俺もお前と一緒で少し力強いんだ。デーモンと殴り合えるぐらいに」


 トキヤが相手を持ち。勢いよく剣をもっと突き入れる。十字の返しがついているところまで。


「ネフィア!!」


「ええ!! お願い!! 私の火!! 邪な悪魔を焼き払え!!」


 トキヤは火の鳥が触れる瞬間離れた。火の鳥が炎の翼で抱き締めるように囲い触れ、飲み込み……炎の球体に変貌した。そして、フワッとした火の粉を撒き散らす。


 残ったスケルトンたちも燃え上がり。炭化から、一切の塵も残さないほどに燃え尽きた。


 デーモンの断末魔すら聞こえないほどに一瞬で全てを焼き付くしたのである。


「………ネフィア嬢はここまでお強いとは……トキヤ殿を隠れ蓑にし、相手を騙し仕留める手際。さすが魔王ですね」


「たまたま隠れ蓑になってるだけでふかーい意味はないぞ。そこまで考えてないだろ」


「トキヤ~聞こえてるよぉ~確かに!! 伏兵の炎鳥はたまたまこの前に逃げるため置いてただけだね」


「ほーら、考えてない!!」


「結果よければ全てよし!!………まぁそれよりネクロマンサーの魂はある?」


「…………あるな」


「トキヤ、魂食いの禁術に魂を操ることは出来ない?」


「肉体を持っている奴は出来ない。肉体を失った者は舌だけを用意すれば話を聞き出す事は出来る。しかし魂の強さによる。大体無理だ。世の中上手くはいかないものさ」


「じゃぁ、わかった。ネクロマンサーを潰せ」


「お怒りだな」


「お怒りはそこで使役されている者たち。私は手伝っただけ」


 トキヤは熱せられた剣を掴む。熱いが火傷するほどでもない。剣先に黒い塊があり、ドス黒く強い魂だ。


 それを掴み。魔力を流しながら握り潰した。痛みに震えているだろうが舌がないがため発声もない。塊はひび割れ砕け破片が燃える。


「トキヤ殿。今何をされたのです? 火の粉が手から出ましたが?」


「ネクロマンサーという者がこの瞬間に存在は消えた。魂さえ亡くなり。来世もない完全な滅びが行われた」


「…………それは、それは。愉快ですね‼ 愉悦です‼」


 怪人の口元が笑みに歪んだ。嬉しそうに。








 何とかなったようだ。一安心する。四天王の一人を倒せたのは大きい戦果だ。


「なんとか、なったのかの?」


「なんとななりました。私の落とした火が役に立ったようです」


 パタパタ!!


 小さな火の小鳥が長い尻尾みたいな羽尾を引っ張りながら私の肩に止まる。


「なんじゃ? それは? 魔法?」


「そう、私の魔法。おかえり」


 小鳥を手で包み胸に当てる。囚われた魂は無事開放されたようだ。他の方も居るだろうけど。全てを救おうというのは偽善者であり無理と思う。目についた者だけに留める。


「チュッ」


 小鳥が私の胸のなかで消える。胸の中が少し熱いが。すぐ収まるだろう。


「ヨウコ嬢、無事にデーモンの前まで行けそうですね」


「……………」


「こっからです」


 勇者は正面から潜入が成功したようだ。声が飛び飛びだが何とか聞こえる。聞こえる声は断末魔混じりであるもで無双しているのだろう。昔も今も通り名【魔物】は健在だ。





「ま、まってください!! 王の間までご案内します!!」


「?」


 城の通路で一人の兵士が手を上げて近付いてきた。奥からは笑い声が響く。


「バルボルグさまがご案内しろと………お相手致すと申しており……!?」


 俺は剣で悪魔に近付いて切り払う。悪魔は距離を取り避ける。


「罠だ。気を付けろ避けたぞ………こいつ」


「罠でしょうね」


「罠ではございません‼ この先に大きな扉があります!! そこ王の間でございます!! 私の仕事終わりましたから失礼!!」


 悪魔が廊下のドアに入り。鍵を締める。


「警戒していこう………誘われている」


「ええ、誘われていますね」


 奥から笑い声がする。デーモンの王。王に相応しい場所で彼は笑っていのだろう。


 罠を警戒、身構えながら歩き。大きな鉄扉に行き着く。何もなく誰もおらず、カンテラの明るさが不気味に揺らぐ。


「ここまでだな。あとは」


「ええ、エスコートありがとうございました」


 自分は壁に背中を預ける。ここまでの護衛は終わりだからだ。そして耳に手を当てる。ネフィアの声は途切れ途切れだが聞こえるからだ。目を閉じ、中を魔法で様子をみる。


 趣味の悪い部屋。棺桶と吊るされた者たち。奥に鎮座するデーモン。赤黒い皮膚に大きな蝙蝠羽根。そして、四天王エリザが立っていた。


「エリザ!?」


「では、ここからは私のお仕事です」


「ま、まて!!」


 静止を聞かずに扉の中へ入る。仕方がない、期を見て援護だ。二人同時は無理だ。


「…………エリザが生きてる?」


 何故だ。


「これはこれは、お久しゅうございます。デーモン閣下」


 玉座に座るデーモンが笑う。


「ああ、久しいな脱走者。なぁエリザ」


「ええ、懐かしいですね。味は覚えてます? 母親の味は?」


「ええ、美味しかったですよ。泥の味でした………殺すぞ女」


「………ひひ、いい顔」


「殺したいのか?」


 ガシッ‼


「んが!? えっ? あなた? え?」


「残念だったな」


「あああ!! やめて!! どうしたの!?」


 バシンッ!!!


「…………」


 中で信じられない事が起きる。仲間の頭を握り潰した。それも妻らしき人を。


「これで殺せなくなったな!! ガハハハハ!!」


「狂喜の王………」


 エリザの死体がピクピク跳ねる。廻りに飛び散った肉片に虫が集った。吊るされた者たちが揺れ、新しい死者に歓喜する。


ブァン!!


 デーモンが立て掛けてある大きな幅が広い剣を掴む。その大きさは人より大きく鎖が巻かれていた。鎖で縛られているのは死体。ミイラが縛り付けられている。手を足、頭を全て縛り付けられている。


「くくく、愚かな矮小な生き物よ。耐えられるかな?」


 エリックが黒い球から赤い魔力の槍を生み出し掴む。黒魔法だ。デーモンは剣を地面に刺し、ミイラを見せつける。あまりの狂気を孕んだ剣に見るものの脳を焼くような錯覚に陥らせる。


「では、こい!!」


「ええ!! そのつもりです‼」


 エリックが走り出す。そして、槍をデーモンの顔目掛けて突き入れる。その瞬間にミイラが口を開けた。


「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!」


 城を揺らすような絶叫。苦痛の叫び。呪いの叫び。俺は耳を塞ぐ。


「つぅ!?」


 衝撃波がミイラから発せられ吹き飛ばされるエリックが見えた。


「ほう!! 耐えられるか!! 恐怖せず!! くくく!!」


 ミイラの絶叫が収まる。収まったがミイラは体を震わせる。


「デーモンランス!!」


「ん?」


 エリックは呪文を唱え終わり。デーモンの王の背後から無数の槍が生み出した。勢いよくデーモンを突き刺す。堅い皮膚を突き入れたのだ。


「ぐはぁ!?…………くそ!! わっぱの癖に!!」


「死ね王よ!!」


「ぐわああああああああはははははははは!!」


「!?」


 デーモンの王が黒い霧になる。そして同じ所にデーモンの王が姿を現す。


「デーモンランスが効かない……」


「くく。当たり前だ。悪魔に悪魔の黒魔法は効きづらい!! まぁ存分にワシを殺すがいい!! 殺せればだがな!!」


 デーモンの王が仁王立ちになる。誘っている攻撃を。これは、骨が折れそうな戦いだ。相手は化け物なのだから。


「くく、悪夢を見せよう」





「悪夢だな。致命傷だろうが攻撃が全て効いていない」


「悪夢?」


 私は状況を聞き焦る。


「………エリックが困ってるな。何故効かない?」


「苦戦してる?」


「ああ、あっ!?」


 私は伝わる苦戦情報に冷汗が出る。


「トキヤ? どうしたの?」


「…………すまん。相手の罠にかかったようだ。エリックがやられたかもしれない。深淵に引き摺り込まれた」


 私はトキヤの声に震える。


「エリックが!?………トキヤ………逃げて」


「すまんが逃げ場所もない。デーモン王が俺を指名してる。残念だが………やるしかないようだ」


「トキヤ!?」


「相手の得意な場所での戦闘は厳しいな」


「逃げて!! だめ!! 私も行くから!!」


「…………無理だ。本気で殺らないといけない。エリックと共闘をしなくちゃな」


「トキヤ!! トキヤ!!」


 呼び掛けに答えない。途切れ途切れだった声も聞こえなくなる。


「ネフィア、何が起きてるのじゃ?」


「…………罠にかかった。デーモン王が予想以上に強い。聞こえる状況では判断出来ない」


「………そうなのじゃな。エリックが負けたのじゃな?」


「まだ、確かなことは………」


「よい………じゃから……狐火!!」


 ヨウコ嬢が手をかざす。その手の中から青い炎の球が打ち出され暗闇の夜空に消えていく。


「ヨウコ嬢?」


「………………ネフィア。すまぬのぉ」


ガシャン!! ガシャン!!


「!?」


 壁の外、後方から大きな音が響く。暗闇の中で松明が焚かれ。チラッと遠くが見える。見えた物は劇場。門を潜ることの出来なかった物が動き。燃え上がった。劇場がバラバラと崩れ落ちる。


「あれは!? オペラハウスの壁にあった遺物!!」


 壁の上に鎮座していた砲台が目の前に立っている。


「…………狐火!!」


「えっ!?」


 私は横から青い炎で吹き飛ばされ、壁から落とされるのだった。


「ヨウコ!?」

























 







 




















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