化け物①
俺は現実世界を得た。あまりにもあまりにも。襲撃が予想外だったが連絡は取れた。起きた瞬間に船長が慌てて寝室にくる。遠くで佐藤の「あのアマああああああ」との叫びも聞こえた。
「帝から、すぐにこの『修羅が攻撃船を寄越しており、危険なため島から離れよ』と言われた。夢で修羅にあったんだな副船長。生きてるな」
「ああ、夢で『魂切りの技』を見るとは思わなかった。あれはなんだ?」
「桜刀、童子切を見たのか。本当によく生きていたな」
「妻が殿をしてくれて脱出時間を稼いでくれた。短時間、夢も閉じ込める力もあった。あと『魔法が使えない』のか?」
「魔法? ああ、風水師か。そうだな。放出する魔法は全て力を土地に吸われる。だから、物に力を入れるんだ。修羅国ではそうだな。しまったな……夢でやられたな。説明不足が祟ったか」
「ああ、銃があってそれに大きくやられていた。記憶喪失だったのは幸いだったな。あれで追っ手を巻けてたみたいだ。ネフィアが大怪我で当分動けないだろう。肉体ではなく魂のほうを削りに来やがったのは賢いな」
あんなのをずっと相手にしてきていた事を知る。あまりにもあまりにも「災害」である。意志のある災害であり、武だけならネフィアと相性が悪い。俺でも無理だ。
「天才の刀使いが修羅で合ってるな?」
「ああ、だから倒せないで困ってるんだ。唯一無二の越えれる存在は……帝だけだ」
「夢の帝はそうでもなかったが……」
「若すぎるんだ。少年なんだよ。まだ、正面からは無理だ」
「朱里と叫んでいたな。帝は」
「…………帝が?」
「聞かされてないのか?」
「朱里……朱里………ま、まさか。そんな事が」
船長が神妙な気持ちのまま思い出したように俺に教えてくれる。
「数代前の皇后が朱皇后と言われていた。帝の転生前の代だ。そうか、そういう事か。朱皇后は刀が得意だったが……」
「人の身体を乗っ取る術はある。知っている」
俺自身が他人の魂を喰らい強化して生きてきた。故に同じ下法を行なっているのかもしれない。
「朱皇后の情報がいるな。副船長。船の準備が出来たようだ。行くぞ」
「ああ、行こう」
「出航だ」
身を引き締める。首を突っ込む気はなかったが敵として理解する。あれは「抑えない」と行けない奴だと言う事を。
*
修羅は完璧ではないと言うのが分かる事がある。現に情報戦は弱い。そして、その結果後手後手に回るのだろう。だからこそ、島の周りにいる船は全く包囲が出来ていなかった。船長の号令で帆が張られず、船自身にある推進機器が動く。
「突破するぞ。ボイラーを焚け、燃料は全部使い切って帰港を目指す。ボイラーが壊れてもいい。全速で行くぞ。佐藤はすまない。物理行けるか?」
「こういう事?」
翼が変化し、螺旋の槍を作る。それを打ち出す事をお願いするらしい。
「それが『切り抜ける方法』とメモにある」
「ふーん、でこれを何処に打ち込めばいい?」
「近づく船の底に穴を開けてやれ」
「オーケー。修羅の部隊なら、仕返ししないとね」
天使が両手の腕を回しながら笑顔で準備する。一応砲があるらしいが使わず。他に力を回すらしい。ということは俺は。
「副船長は右舷を佐藤は左舷をお願いする。だから、接敵を許すな。特攻してくるぞ。防衛は2人に任せる。魔法は使うなよ。無効にされるぞ」
「船長……どうやってやれと?」
「そこは任せる」
「あらー今世の勇者は『そんなことも』できないんです?」
「無茶言うな……」
最悪だ。
「秘密兵器出したんだ。行くぞ副船長」
大きいため息のあと。右舷へ移動する。数隻がそのまま包囲せずに突っ込んでくるのを目視で確認し、再度ため息を吐く。
「はぁ、やるしかないか」
遺跡で拾った武器を取り出す。この時代に不釣り合いで威力がないが。魔法で強化すればいい。
「ねぇ、ネロリリスさん。それ使えるの?」
「さぁな、保証期間外だ。連絡も取れねぇ。佐藤も使うか?」
「暴発してもしーらない。銃なんて弱いし」
「まぁ、そうだな。使えるぞ。誰でも使えるようにマニュアルがあったからな」
取手を持って構える。鉄の筒を肩に担ぎ、この世に相応しくない時代の武器を構える。付与魔法で威力、射程を伸ばして考え込む。
「物体には効くだろうが人には効かないかもな」
「将を射るには先ず馬から。副船長も知っているだろう? それにそれはまぁ、なるようになる」
「そのとおり」
無茶苦茶なのはずっとだ。黒騎士から今までずっと。無茶苦茶だ。俺らはそのまま船1隻を見定めて突貫する。膨大な歯車で動き出した船によって。
✽
夢から皆が脱出出来たのを確認しながら私は息を整える。隣に立つ、私に似た姿のヴァルキュリアが加勢に来てくれた結果。均衡を保てている。お願いすれば来てくれるからこそ。彼女に頼ってしまった。
「逃げられたかい。いやぁ……強いねぇ、やっぱり。『時を喰らうもの』はね」
「ハァハァ」「こいつ……」
私は後衛、ヴァルキュリアは前衛で戦ったが。決定的なダメージを負わす事は出来ないが、少なからずダメージは通った。やれば均衡は崩れるだろうが。その前に逃げるだろう。
「察したかね? もう、目的は達せない。逃げさせて貰うよ。『時を喰らうもの』と『時を抹消するもの』の同時戦闘は本当にクソゲーだねぇ。怒られるよ、そう言う難易度は」
刀を仕舞い、銃も仕舞い。空を見上げる彼女。そのまま霧のように消えて私たちだけが残る。
「ヴァルキュリア来てくれて本当にありがとう。夢だから渡れたのね。本当にありがとう」
「ワザと『死ぬぐらいのダメージ』受けて、呼んだクセに。やめてよね、心臓に悪いから」
勘では、死なないと分かっていたから。ワザと技を受けて攻撃方法を皆に共有した。素晴らしい手合いだった。本当素晴らしい手合いだ。
「どれくらい炎で『焼けた』かな」
「どれくらい霜で『焼けた』かな」
同じ姿で同じ事を言い合う私達に共通認識がある。悪夢として実体に影響をもたらすように攻撃していた。致命傷は与えられない。ならばと言う事である。1人なら魔法の逃げ打ち込みだったが。2人なら逃げと攻撃を両立出来た。
「あと、時を喰らうものってなんだろうね。ヴァル」
「あーそれはね……私が英魔のために運命を曲げているから。観測されない筈の存在だったけど。あまりにも深く深く縁が結びついてしまったから」
「なるほどね。あなたもフェザーなのね」
「そういうことになると思う。フェザーの羽根は根深く。皆の心にあり続けるほどに強いもの。決められた運命を辿るなんてのを『許容』する覚悟と器に敬意を持つわ。ネフィア、あなたもでしょ。あなたが始めた物語だもの」
「……ですね。決着、つけないといけないですね。修羅……帝と赤い縁を紡いでいたので恋仲だったんでしょうね。朱里とも言ってました。えっちして経産婦なので皇后だったのかも」
「ネフィア、流石淫魔ね。忘れてた」
「私も忘れそうになることある。役に立つこともある。あれ、私は勝てる?」
「場所を突き止めて膨大な魔法を何かに付与して爆弾とすれば……場所による」
私は魔法を使う。威力が下がったそれを見ながら大陸とルールの違う世界を考えた。
「鎖国って強いね」
「ええ、私は帰るね。もし同じ事をあれば今度は仕留める気で行くわ」
「勝てるの?」
「勝つの。絶対に、私は終わらせない」
「そっか」
魔法を使えば魔力が鎖になる。それは強固の魔法であり、「全く何物にも出来ない」。無害化されるのだ。私には相性が悪い。だが、魔法より武が強いヴァルキュリアなら相性いいのだろう。別れを切り出し私は旅行準備のために夢を降りたのだった。
✽
「ゴホゴホ……」
「起きましたか。朱里皇后陛下」
「ああ、起きた。ケガは?」
「裂傷と凍傷、打撲に火傷、骨も何本か折られていますのでずっと治療させていただきました」
「ほう、それでそこに寝ている者たちは治癒師か。寝ましてあげな」
「はい。夢での収穫はありましたでしょうか?」
「大陸の化け物もわしと同じように満身創痍だろうさ。時間は稼げたねぇ。全く……『どこのバカが時を歪めて敗北を書き換えちまったから、化物がもっと化け物生んじまった』よ。あれがおる間は鎖国外の夢は渡れないのぉ」
「『運命を喰らうもの』に出会ったと? よく無事でしたね」
「無事なもんかい。大怪我されちまったよ。まったく……一匹なら、もっと時間稼げたものを」
「そうですか。すぐに動かれますか?」
「無理やねぇ。体は大丈夫でも魂が動けないわねぇ。そして、感覚も鈍いわねぇ。そこの治療師。百目組の目よ。聞こえてるわ。百目鬼に気をつけなさい、百目鬼が『やる気』を出すじゃろなぁ。はぁ、帝の城を攻め決めきれんかったのが痛いわい」
「わかりました。朱里皇后陛下様」
「ああ、そろそろ終われせようかの……皇帝支配を」




