天使の反乱①
僕は女王の号令。「全員起きろ!! 敵襲」で目が冷めた。冷めた瞬間、頭がハンマーで殴られたような気持ちのまま無理矢理体を動かす。それはきっと「状況を強制的に押し込まれたからだろう」。僕と同じように起きた者達が灯りをつけて避難や魔法で空に防壁を張り、臨戦態勢に移っていた。鏡を見つめる青年姿の僕は服を脱ぐ。そのままベットで唸る人を見て悪態をつかれた。
「デラスティ、起きてるな……全くねむれなかった」
「起きてる。それよりも竜姉。空に上がるね」
赤い長い髪の赤黒い竜人である。彼女はそれに疑わず僕に任せるようだ。
「わかってるわ。ここは任せて空に上がりなさい」
起き上がり、揺りかごにある卵を竜姉は護るように翼だけを出して被せる。僕とつがいになった結果、最近になって産んだ有精卵である。
「竜姉が動けないこの時に狙ったのかな?」
「ネフィアもでしょ。彼女は首都にいない。それはありそうね。やるなら、今が絶好の機会。空飛べる亜人が少ない今だからこそ」
「うん」
僕はそれに小さく頷いて窓から屋根に登り姿を変える。ワイバーンの竜人である僕はイヴァリースの都市中から空に照らされる夜の空を飛び続けた。天使や、亜人が警戒する中で複数の悲鳴が上がる。
「何が?」
夜の空を深く注意してると天使と天使が戦い出しており、同士討ちも始める。その行為に僕は「不味い」と考えて声を荒げる。
「堕天使族は全員都市に降りて!! 敵は君たちと同じ姿で潜伏してる!!」
味方と敵がわからない。入り乱れた夜の空。その中で膨大な魔力を感じ、もっともっと上の空を見上げた。光る翼に赤い髪の天使に竜姉のようなキツイイメージが沸く。強敵の臭いだ。
「そこの居る」
天使の手には槍がそのまま大きく振りかぶり、攻撃動作を終えて大きく振り下ろした。真っ直ぐ進む槍は都市の魔法障壁を砕き。「空からの攻撃を通す」事が出来るようになる。
魔族の凄腕魔導士たちの結界を破るほどの魔法。槍に意味がありそうだ。
「4天使、ミカエルの『神槍』ですね。僕は驚くよ。ネフィア姉さん、『女王』の恐ろしさに」
彼女の情報がある、相手がわかる。捕まった天使から抜き取られた情報が。そして槍は持ち主に戻り第二波を打ち込もうと構える。もちろんそんな状況なんか予想出来た。だからこそ、僕は土手っ腹に体を当てた。
一瞬で空にいる天使へ、体当たりをしたのだ。
「ぐへっ」
痛みを発する声と共に大きく天使は上げられたが、衝撃は上手く逃され、距離を取られる。そのまま、勢いに乗ったままで離脱を初め僕の周りに天使が集まった。
「行くぞ、邪竜を倒し制空権を奪取する」
「おお」
血気盛んな、天使兵士に僕は遠慮せず。僕の尻尾で叩き落として行くのだった。
✽
私以外全員起きただろう。そして、私は力を使い。起きれなくなった。夢には誰もおらず、逆に困る。
膨大な能力の代償は「気を失い、疲弊し、当分の間は起きられなくなる事だろう」。死なないだけマシである。現に英魔族全員を夢魔として叩き起こしたのだ。暗い黒い空に、私の灯りだけがある。そんな世界。目も耳も生きてるのに今の状況が全くわからない。
「こんな何もない島にお客さん? あらら」
「どうした? 何か流れついたか?」
聞き覚え、いや。私はトキヤの声に驚く。
「トキヤ? 二度寝? ここは?」
「その声!? え、え。なんであなたが?」
さざ波の音と一緒に二人の人影、トキヤに似ている誰かと私に似た人が立っていた。その姿に思い出す。
「え、ヴァルキュリア?」
「おい、ヴァル。ヤバいぞ。流れついたぞ」
「おちちつつついて。深呼吸深呼吸」
いったん空気を大人しくして彼女たちはカンテラを持った状態で胸を撫で下ろす。落ち着いて聞く体制になったようで声をかけてくれた。
「えっと、お久しぶりね。ネフィアさん」
「お久しぶりです。ここは……どこなんでしょうか?」
「夢の世界と言ったら納得出来るでしょうか? 無意識が流れ着く場所。だから島の形と浜があり、海のようなのが打ち寄せているのです。問題は……ネフィアさん生きてますよね?」
「生きてるはずです。ただ……」
私は説明する。今の状況を。それに二人は納得する。
「なるほど、全員が忙しいのですね。これは……大丈夫でしょう。解決後に起こされると思いますから、それまで家にどうぞ。一時的な忙しいために忘れてる状況でしょう」
「家があるの?」
「ええ、豪勢な郷宅ではないですが」
カンテラを照らせる中でふと浜から海岸へと道が続きその奥に岸の上にある邸宅が見えた。白い壁に窓から光が漏れ、夜中に1軒だけ異質な風貌、ポッカリ空いた穴に1点白を入れているような雰囲気を感じた。そして、それを感じた時にこの世界が私の知る世界ではないことも肌で感じた。
「二人だけですか?」
「……それは『この近く』と言えばそうです。しかし、そうでもないと言えばそうです。あまり詮索されますとこの世界は消えてしまいます」
「……淡いバランスの世界なんですね」
「はい。ですが、非常に愛しい世界です。どうぞ、お入りください」
同じような鏡写しのような彼女に案内された家は暖かいストーブが部屋を温めている。賢者が世を捨てた場所のような雰囲気をもち、暖色の揺りかごのように私を受け入れる。コーヒーを淹れるトキヤに似た誰かを私は知っている気がする。
「コーヒーでいいですね。そう、流れ着く物は多彩です。例えば冷蔵庫の奥で忘れられた食材などはそうでしょう。まぁ、鮮度は落ちますが食べれます。何か昼食も入りますか?」
「……昼食?」
「ここはずっと暗く、霧があり、そして静かなのです。深い深い底なのですよ」
「そっか、昼食はいいかな。それよりも彼は……髪色違うけど全身がどう見ても、匂いも彼に似ている。あなたも、名前もなぜか知ってる」
「詮索は世界を壊しますよ」
「……わかった。そういうレベルなのね。異世界の私たちは異世界でも夫婦なのね」
「夫婦………」
少し、照れた彼女に私はそのまま静かに考える。
「話をするのが難しい世界。私の世界の話は聞いても大丈夫?」
「それは大丈夫です。全く影響ありません。逆に私たちがネフィアさん含めた影響が大きいんです」
「そう、わかった。じゃぁ……世間話をしましょう」
私の知らない世界は本当に本当に多い。「途方もない世界が続いている」といつも驚かされるのだった。
✽
「デラスティ、全員逃げたようだ。降りてこい」
竜姉ボルケーノの声に羽を下ろす事にした僕は天使は落としたが、撤退を許し、都市に降りてやっと状況を知ることになる。多くの魔法の炎は消されているが衝撃跡は残り、多くの種族が後片付けなどを行いながら悪態をつく。夜間攻撃は正直ムカツクのだ。
「デラスティ、無事だと思うけど。私はこのままギルドに行き、状況を衛兵と共に確認する。とにかく死傷者も出ただろう」
「わかった。ギルド長だもんね。あっ、保育所は?」
「アラクネ族長が防ぎきったようで無事。子供たちの避難先としては優秀でここよりも砦に近い。ただ、鳥亜人用の孵卵施設職員は大怪我。身を投げて護ったようね。うちの子もそっちに移動したわ」
「……攻撃は失敗かな」
「思った以上の被害者は出なかった。そうね、『全員起きてしまった』からね」
叩き起こされた事は本当に紙一重だったのだろう。逆に殺意が集まり、都市がドロドロとする。
「……竜姉」
「族長達に任せましょ」
そして、予想どおり、日が昇る頃に族長からの発表があった。「残党天使との抗争」との移行。命令体系が確立し、徴兵がなされるのだった。




