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二人の年末年始..


 今年、最後の日に都市は活気づいた。至るところで今年を労うために酒を浴びるように飲む人達が店に溢れ。歌い暴れている。


 もちろん、ギルド直轄の酒場も冒険者でごった返しているし受付嬢などが酒などを運び儲けていた。元気がいい給司の女性の亜人は両手がふさがっているので胸の谷間にお金を入れて貰っている。そこに関しても皆が騒がなくただ静かにしていた。理由は彼女のせいである。誰一人言葉を発しない。


~~♪


 綺麗なピアノの旋律と歌が冒険者を癒す。小麦酒より葡萄酒が売れている理由はきっと落ち着いて飲みたいのだろう。癒される音色にランスロットは驚いた。


「トキヤ。君の奥さん本当に多芸だね。歌が上手いのは才能だよ……」


「引きこもってるときはそれぐらいしか出来なかったらしいからな。まぁ全く気付かなかったけどな」


「わ、私の耳には恥ずかしすぎて………悶えそうです」


「ラブソングだけど。毎日、すきすき言われたら。嫌でもなれる。それよりか、旋律を楽しむ方がいい。歌詞が耳に入って来なくても楽しめるからな」


 彼女は年相応の少女である。だからこそ、あんなにも激しいのだ。いつか落ち着く日がくるだろう。


「毎日、君は幸せだね」


「ああ、そうだな……狙われてるけど」


 1日数回、必ず好きと言われて、二人のときだけの濃厚な絡み合い以外、平和であり、落ち着いている。


「ふぅ~おひねりください」


 歌い終えたネフィアが屈託のない笑顔で両手に灰皿を持って……ゆっくり床に置く。灰皿一杯に硬貨が投げ込まれ、溢れたり弾かれたりした。非常におひねりは多いが当然とも言える。


 何故ならピアノの音さえも魔法で表現し、誰の耳にさえ遮ることなく音を届ける彼女はそこらの歌手とは一線を越えて存在感を示したのだ。


「お姉さん。君はオペラハウスへ行くべきだ」


「全くだ!! 来年、オペラハウスで春前に歌手等の募集があるから行くべき‼ ファンになるよ!!」


「えっと。そんなに褒めてくださりありがとうございます。そろそろ喉が疲れました。ふぃ~」


「にしても……大浴場であったけど本当に婬魔?」


「そそ、こんな。汚れを知らない歌声を持つのに婬魔なんだよなぁ~」


「ふふ、婬魔ってすごいでしょ? これからは婬魔の子に会いましたら。愛してみてください。きっと素晴らしい子になりますよ」


「そうかぁ~ちょっくら探してみるかなぁ~!!」


 ネフィアが男たちに囲まれて、会話をする。別にセクハラとかじゃなく。女友達のような軽い絡み合い。しかし、それを睨んで見つめる女性の冒険者たち。


 ネフィアは色々と女性に喧嘩を売られる程、嫌われているが、ネフィアはそれを知ってて気にしてないようだ。ネフィア曰く、女性の性らしい。俺にはわからない。


「いいよなぁ~君みたいな人が………あいつの嫁なんて」


「本当に羨ましいが………」


「ふふ、皆さん。頑張って彼みたいに竜狩りまでになりましたら。きっと、いい人に出会えますよ。応援してます」


「ああ、彼。そんなに強いのかぁ。そうだよな~賞金首を護る程だもんな」


「そうか。俺も頑張ってランクあげて君みたいな人を探すよ‼」


「やっぱ、冒険者でも出会いはあるんだ‼ 頑張ろうぜ‼」


「皆さんファイオーです。お悩み、女の子の気持ちとか、色々相談に乗りますよ? 女の子の気持ちとか男の気持ちとか知ってますし」


「はは、本当に男の気持ちとか知っててすごいよなぁ~」


「そそ、男の好きなもの分かってるのは流石だなぁ~フェチは大切だよ」


「そうですね。フェチは大切です。あそこの夫もいっぱいありますから」


「へぇ~」


「ネフィア。お前が暴露するなら嫌いになるぞ?」


 嘘でも、彼女はオドオドしだす。廻りも嘘なのがわかっていてニヤニヤする。


「お、脅しは卑怯な………」


「本当に仲がいいよなぁ~いいなぁ~」


「いいだろ? 苦労して手にいれた俺の嫁だ。お前らにはやーらない」


「と、トキヤ!?」


「おお、暑い暑い。『まーたイチャイチャしてる』て怒られちまうぞ~」


「怒られるから。もう諦めて絡むわ~ほれーネフィア~」


「や、やめて!! 皆が見てる!!」


「珍しいな……恥ずかしがってるの」


「本当、本当!! いつも夫がーとか言ってる癖に」


「「「はははは」」」


 酒も入り、和やかな空気のまま時間だけが過ぎていく。このまま、夜まで飲み。歌い、踊り。明日の昼まで祭りは続くのだった。





 本当に僕の親友の奥さんは花があると思いながら。僕も隣の女性と葡萄酒を頂く。


「…………はぁ~」


「リディア、どうしたんですか?」


「ネフィアは花があって、綺麗で、羨ましいですね。歌もうまいし…………私は何もない…………」


「綺麗だよ、リディア。君には僕がいる。何もないわけじゃない。僕は君だけの王子さまになる」


 リディアが顔を手で押さえて唸る。僕も恥ずかしいが。親友を見ているとあれよりかはマシだと思えた。


「ランスロット………そ、その」


「愛してるよ。僕だけの姫」


 親友の口癖を真似る。彼は昔から何故、そこまでする理由をついに僕も手に入れた。


「服も似合っているよ」


 親友の奥さんに選んでもらった服は白いニットのセーターであり。彼女の豊満な胸が強調されついつい目が行ってしまう。親友の奥さんは僕が何を好きかを理解しているらしい。恥ずかしいが………大好きだ。


「ランスロット。あ、ありがと」


「どういたしまして。姫様」


「や、やめて。姫様扱いしないで。私はそんな………事ない」


「リディア、君の名前は?」


「リディア・アラクネ・アフトクラトル?」


「僕の名前は?」


「ランスロット・アフトクラトル」


「そう。名家、アフトクラトルの皇子だ。皇子の奥さんが姫様なのは普通じゃないかい?」


「あ、あう………」


「頑張って慣れてほしい。これからもきっと名家らしい人になってもらう。僕のためにね。勉強教えるから」


「が、頑張ります‼」


 リディアと一緒になってからわかった事だが。


「僕は君を独り占めにしたい」


 親友のより僕の器は狭いようだ。





 日が沈み、日付が変わる数分前。酒場で飲んでいた人達が皆。こぞって外へ出る。もちろん、酒が入ったコップを持って。中には、屋根に上がる人もいる。そう、私たちみたいに。


「すまない、僕たちは別の場所で見るよ」


「ランス? どうしてだ?」


「君は本当にわからないのかい?」


「んんんん………二人きりがいい?」


「そう、正解。リディアと二人で見るよ」


「わかった。また明日な」


「数十分後にね」


「トキヤ!! あっち行こう!!」


「ああ」


 屋根を飛び越えて端の方の屋根へ渡る。他にも酒を持った亜人達が各々空を見上げていた。月も欠けた夜。夜風が冷たいのか、色んなカップルが抱き合っている。


「屋根へ上がるのは………恋人同士ばっかりだよ」


「なんで?」


「それは、二人っきりの世界だから。ロマンチックなの」


「へぇ~どうでもいい」


「知ってる。これはね、女の子が喜ぶ事だから。覚えるように‼」


「はいはい」


 自分達も横にくっついて空を見上げる。月明かりだけが自分達を照らす。


「トキヤ、今年は色々あったね」


「本当にな……たった数ヵ月なのに」


「私は、生まれて一番の年になりました」


「それは、良かったな」


「うん、ありがとう。女にしてくれて。城から連れ出してくれて。そして………お嫁さんにしてくれて」

「喜んでくれたなら、幸いだ」


「トキヤ、こっち見て」


「ん?」


「すーき………ん」


 振り向いた瞬間。柔らかく暖かい感触が触れる。それは、何度もやってきた事だが。何度でも飽きない行為。深く深く結び付いて。そして、離れる。


「…………はぁ」


 ネフィアの顔が少し惚けている。


「トキヤ、来年もよろしくね」


「もちろん。よろしくな」


「………私って幸せ者だなぁ」


 首を回しながら、彼女は笑う。美しく、綺麗に。自分だけに向ける笑顔。


「好きな人と年を一緒に迎えられて、そして一番始めに年初めに挨拶できるんだよ~幸せ者です」


「はは………照れるなちょっと」


「ふふん~♪よっと!!」


 彼女が自分の足の上に乗り、首を回して姫様抱っこのような形になる。


「あと、数秒間だね。来年もいい年になりますように」


「いい年にしてやる。安心しろ」


「ふふ、うれしい。信じてるよ、私だけの勇者様」


 ネフィアが言い切った瞬間。上空に炎の魔法弾が打ち上げられる。年が明けた。夜空に幾多の炎が舞い上がり、破裂し花を咲かせる。


 いつも見た瞬間、感じる。遠い懐かしさと共に魔法で色々な色を出す花火にいつも心を奪われる。爆発の衝撃音が体を揺らした。何発も打ち上げられ破裂する音が心地いい。


「魔法使いの夜」


「ネフィアは初めてか?」


「いいえ、鳥籠の窓から眺めてました」


「そっか、今年も派手だな。帝国も何処行っても」


「だって、魔法使いの魔力を全力で打ち上げて誰が一番かを競うのでしょ? 力一杯だよ。派手に決まってる」


 魔法使いの夜。魔法使い達がばか騒ぎする夜。誰にも咎められずに夜空に魔力尽きるまで魔法を打ち続ける行為。そして、誰が一番最後まで残るか、一番綺麗かを競い。楽しむ遊びだ。


 花火の魔法は人に向けてのそこそこの威力だが。見た目重視のためあまり実用性はない。だが、皆が認める素晴らしい魔法だった。


「きれいだね~」


「ああ、綺麗だよ」


「トキヤ………花火見てないじゃん。私を見ても何もないよ?」


「ああ、綺麗だよ」


「………バーカ」ぷい


「照れてるなぁ」


「不意打ち!!」


 彼女が腕のなかで悶える。かわいい。


「………明けたね。今年も一年よろしくお願いします」


「ああ、今年もよろしくお願いします」


「へへ………トキヤ。花火の魔法教えて」


「ああ、教えてやろう。人に向けるなよ。死にはしないが痛い」


 呪文を口頭で伝え、彼女は自分から離れて空に向かって手をつき出す。大きな炎の玉が打ち上がる。


「愛を想えば………」


 打ちあげられ、みるみる上がる。


「えらい、上へ行くな」


「私の愛は天井知らず‼」


「あっそ」


「ええ!?」


「にしても………高いなぁ」


「そろそろだよ」


ドゴーン!!!


 重たい音と共に膨大な花が夜空を彩る。大きな大きな花が咲き誇る。そしてハート型の花弁となって舞い。夜に消えていく。


「はぁ~魔力は一級品だ。まぁちょっとハートが余計かな」


「一番重要。でも、私自身。驚いてる………胸の内から力が湧いてくるの」


「才能が開花したかな? 魔力使えば上がる奴もいる」


「開花しましたので。これからも愛でてくださいね」 


「わかったよ」


 その後は、仲良く抱き合って空を見続けた。









 


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