勇者抹殺後の亜人たち..
トキヤとダークエルフ族長以下200名は商業都市の大きな酒場を貸し切りにして宴会を開いていた。気が抜けたと言うよりも皆が一人も欠けずに達成したことが何よりも嬉しいようで。「生きている」と言う事を賛美し、ネフィアを敬う賛美歌から始まった。
一糸乱れず。直立し短く歌う。この場にネフィアが居ればその歌に心当たりがあっただろう。ゆっくりの戦慄で短く。静かに苔が蒸すまでの長い平和を歌う。いい曲だと思うトキヤは思う簡単だ。しかし、そのあとの祈祷は長かった。
「祈祷10分は長い。短くしろ」
「トキヤは姫様になにも浮かんで来ないのでしょうが。一応我等は姫様のために集まってる」
「祈祷は1分これをルールにする」
「横暴な!? 姫様の配偶者であると言うだけで!! トキヤ殿!! 横暴!!」
「トキヤ。俺もそれは短いと思う」
「うっせ。ネフィアから言わせたる。1分だけでもありがたいと思え」
祈祷後、すぐに乾杯しビール酒が入った瞬間に皆が騒ぎだし。トキヤも横柄な態度を取る。トキヤのテーブル席にはダークエルフ族長グレデンデ。隊員代表のノワールと言う悪魔が席についていた。他にも隊員がいたのだがこの席の重圧に耐えられなくなり何処かへ逃げてしまった。
それでも3人。酒が入り饒舌になった結果……仕事の話になってしまう。
「トキヤ、これからはどうする?」
「エルフ族長からお達しで先ずは国内をどうにか内政で国力をあげるそうだ。あとはネフィアと合流。帰ってからだな。グレデンデは?」
「衛兵を遠征に出す。道路を繋ぐのに護衛がいるらしいからな。魔物が邪魔くさいだろう」
「ノワール隊長は?」
「約束した聖職者の亡骸を供養しに帝国に入る」
「約束した?」
「ああ、俺と同じ陽の信奉者か」
「ええ、陽の信奉のために命を捧げた聖職者の鏡だ。供養してやらんと我の信奉に傷がつく」
「聖職者か………まぁ仕方ないな」
「ええ、仕方ない事でしょう。トキヤ殿が特別だったのです」
ノワールが若い少女だったと言い。次の生の幸せを願う。しかし、彼は後で全く違う任務について祖国から長く離れるようになってしまうのは今の彼には予想は出来ないのだった。
「姫様はここで待つのだろ? トキヤ」
「もちろん。変なところに行かれないようにここで待ち。餌とする」
「自分を餌とは………いや」
「「「……」」」
暗黙の了解。ネフィアの愛馬鹿は知れに知れ。何も言わなくても伝わるのだ。「ネフィアを動かしたいならトキヤを使え」と言われるのは時間の問題である。
「これから。帝国はどうするのでしょうか?」
「攻める場所は決まっている。残念だが………」
「トキヤ、今のままで勝てるか?」
「負ける。だから国力を増やそうとしているんだ。ネフィアがたとえ………頑張っても0パーセントを100には出来ない」
暗黙で能力の話をトキヤがダークエルフのバルバトスに振った。納得したのかバルバトスはそのままグラスのビールを飲み干して真面目な表情になる。
「何年後だ。予想は」
「帝国が連合国をゆっくり手に入れている。疲弊した力を戻すのに1、2年」
「短いな」
「兵士は腐るほどいる。人間はいっぱい産むからな」
人間本当に良く産む。大多数は体が弱いために他種族より産まれやすいと聞く。オークよりも。
「数の暴力か………」
「バルバトス。ノワールさん。俺からいい一言がある」
「ん?」
「なんでしょうかトキヤ殿」
「一人で1000人殺せばここの3人で3000人だ」
「む、むちゃくちゃな!?」
「トキヤ。お前出来るのか?」
「一人で1000人殺せるやつを数人殺っている。出来るぞ? ん? ん? 3、4人俺はやるぞ?」
トキヤが珍しくバルバトスを煽る。バルバトスは不敵の笑みを浮かべ……指を出した。
「じゃぁ、俺は5人」
「なら6人」
「………10人でどうだ?」
「やれよ絶対に」
バルバトスは角を避けてトキヤのおでこを手で擦り笑みを浮かべた。ノワールはそのプレッシャーに背筋が冷えて逃げ出したくなる。
「英魔族最強は俺だ」
「オーク族長もいる。果たしてそうかな?」
「トキヤ、1、2年後が楽しみだ」
「………頑張れ応援してるぜ。ククク」
そのあと、二人が殺す方法を議論しあい。ノワールは知らぬうちに約束させられたのだった。首級の数を競う物に。
*
ふんわりした。穏やか寝室。帝国のトキヤ家。風呂上がりの美女ネフィアの羽根が入ったカンテラに部屋が照らされる。非常に明るく。昼間のような明るさにネフィアの金色の髪はキラキラと輝いていた。ネフィアは椅子に座り魔法で髪を乾かす。
「お姉さま。入ってもいいですか?」
「どうぞ」
部屋にサーチと言う名前の聖職者の美少女が入ってくる。彼女もまた。整った顔立ちでネフィアのように金髪なのだが少し癖毛が入っている。
「髪をとかしてもよろしいでしょうか?」
「ん? やってくださるの?」
「はい。お姉さま」
艶の含んだ声でサーチがお姉さまといい櫛を片手にネフィアに近づく。
「うわぁ………すごい。一本一本艶々で手から溢れるようにサラサラです」
「いい髪でしょ? 自慢なんです」
「はい。お姉さまの髪は本当に綺麗です」
櫛でとかしながらサーチは髪の感触を味わう。
「お姉さまは本当に強く。気高く。優しく。無慈悲で平等で。綺麗な人ですね。英魔族女王の座を手に入れて。なんでも望むものが手に入る地位ですね」
「すごく私を誉めてくれて嬉しいけど。私は普通の女の子ですよ?」
「ネフィアお姉さまのご普通はですね。普通ではありません。激しい謙遜は妬みや僻みを生みます」
「社交辞令ですよ」
「では、ネフィアお姉さまはどう思っているのですか?」
「…………」
ネフィアは少し考え吐露する。
「私は自身の今の姿は好き。綺麗な姿は非常に男にとって美味しそうに見えるし、楽しいから」
「ですよね。綺麗な姿を演じていらっしゃいます」
「そう、最高の女を演じています。自分が大好きです。トキヤが愛してくれるこの自分が」
「お姉さま。喋ればトキヤ様の事ばっかり。ネフィアお姉さまは英魔族の王です何でも手に入りますよ? 男でも富でも………なんでも」
帝国の家の一室に誰も王がいるとは思わない。王なら手に入る物はなんでも入るとサーチは思っていた。しかし、サーチは笑顔で聞く。答えを知っているが本人の口から聞きたいのである。サーチは途中から、本でしか彼女を知らない。だからこそ、聞いたのだ。
「なんでもですか………本当になんでもです?」
ネフィアは手机に置いてある手鏡を手に後ろにいるサーチを見て問いを返す。
「お姉さま。私は何でもと思われます。お聞きします。手に入らないものを教えください」
「………私が欲しくて手に入らないのは」
ネフィアはお腹を撫でる。優しく。優しく。
「トキヤとの平穏。普通の家庭で皆さんが持っている物。もう二度と手に入らない物。そして………トキヤとの子も手に入らない」
「………そうですね。手に入らないですね」
サーチは不謹慎だがその悲しむ姿も美しいと思い。心の中で感動する。こんなに変な人は一握りだろう。
「………他にも死んでいった人は戻りません。いろんな方の死を見てきました。王になっても手に入らないのはたくさん。たくさんあります。だからこそ………世界は美しいのでしょう?」
「お姉さまの言う通りです」
ネフィアがそれを聞くと。「ありがとう」と言って席をたち。ワインをグラスに注ぐ。一口含んで、ため息を吐く。サーチはその姿にも心打たれ。一つ一つの動作がまるで劇場のように見えりほどに流暢であり。魅せる。
サーチは今さっきの言葉を反芻し、ネフィアの異質性を見る。王になる物は全員欲があるが殆んどが大きい欲だ。ネフィアの欲は小さい。しかもそれは庶民的だ。「果たして令嬢にはそんなのを望む者はいるだろうか? いや、居ないだろう」とサーチは思う。なのに……王のような堂々とした振る舞いや。強さと人脈を持ち。聖剣さえ持っている。特に監禁からの返り咲き。完璧に近い王と言える。
「これからは………女神を倒した先は………どういった生き方をすればいいんでしょうね?」
「………ネフィアお姉さま。多分ですが」
「なーに?」
「『勝手気ままに生きる』と思いますよ?」
サーチは「何となく馴染むのだろう」と思う。郷に入っては郷に従うのがネフィアお姉さまの良いところだ。
「………ええ」
「トキヤ様と一緒の時はさぞワガママと聞いております」
「…………」
沈黙。
「さぁ~どうかしら?」
「ネフィアお姉さま。実際トキヤ様以外要らないのでは?」
「……………」
ネフィアが無表情になる。そして低い声で感情を吐露した。
「…………秘密ね」
サーチは頷き。ネフィアお姉さまの危うさを見つけた。分かりやすい地雷だと。別に女神様は………荒神でないと誰も言っていない。荒神を奉る理由は一つ。暴れないてとお願いする物だから。
「ネフィアお姉さま………ゾクゾクします」
「ごめんなさい。そっちの趣味はないの」
サーチの「変態的な趣向があるのだろう」とネフィアは引く。サーチは「勘違いしてます」と言いながらもネフィアの手を掴み逃がさない。真面目な顔で。
「ネフィアお姉さま。まだ、陽の女神について………お話があります」
「エメリアに聞いて頂戴」
「聖なる太陽の化身。女神ネフィア」
「…………」
「知ってました?」
「耳に入ってくる。たまたま同じ名前よ」
「はい。同じ名前です。しかし………私は思うのです。裏切った理由でもあります」
サーチが真っ直ぐ言い放つ。
「女神ネフィアはきっとお姉さまが『なられる』と信じております」
「そんな大層なもん。なれない………諦めなさい」
「…………はい」
サーチは知っている。ネフィアお姉さまは嫌がる。本心で謙遜する。でも…………誰が見ても。本人が否定しようとしても。「そうさせよう」と皆が動いている。太陽の女神はネフィアさましかいないのだから。




