魔国イヴァリース④傍若無人..
私は酒場からそのまま、エルフ族長に会いに彼の建物に行ったが断られ宿屋に戻ったあと、鎧を脱ぎ捨ててベットに横になる。ワンちゃんが不安そうに駆け寄ってきた。尻尾をだらりと下げて顔を覗いてくる。
「ネフィア様?」
「なーに」
「ムッとしたお顔です」
「愚痴を聞いてよ。私は情報を求めに足を運んだの」
「ええ」
ワンちゃんの顔を掴み逃げないように睨みつける。
「エメリアが情報統制して私の耳に一切何も伝えないのよ。自由にしていいと言いながら情報を隠すの。おかしくない? もう私はカンカンよ」
「何かお考えがあるのでしょう」
「………なんで教えてくれないの?」
「敵を騙すのには味方からと言う言葉がありますが?」
「………なんかね。皆、私に黙ってるの。コソコソとしてる」
そう、疎外感。私の事を見ているが距離を取っている感じがひしひしと伝わっていたが。それが確信へと変わったのだ。
「一人だけ………一人だけ………仲間外れな気がして………」
「くぅ~ん」
「ごめん。強く当たっちゃった。ワンちゃんは居てくれるもんね」
「はい」
私はドレイクに顔を寄せて頬をスリスリする。
「あーあ………せっかくこっちに帰ってきたのになーんも出来ないなんてね。エルフ族長にも会えないし」
「忙しいのでしょう」
「ああ、もうやだぁああああ!! 素直に帰ればよかった!!」
なんか変な噂を聞きに来たら。なーんにも出来ない。これならトキヤに会いに帰る方がよかった。
「今から………帰りますか?」
「もう少しいる。ちょっと焦げ臭いようなムワッとするような気分。遊んでから帰る」
「そうですか」
「ええ、もうコソコソするのやめる。もう女神のためとかどうでもいい」
そう、身分を隠す必要なんてなかったんだ。なんでそうしたのか理由を思い出す。結局は命を狙われていると聞いたから。だが………もうそれもどうでもいい。
私はヤケクソになる。なーんも教えてくれないなら。勝手にやるまでよ。
*
次の日、ローブを燃やし白金の鎧を着て胸を張って大通りを歩く。色んな人が私を見るが気にせずに買い物を楽しもうと思う。最初から。コソコソせずに堂々とすればよかった。話しかけられるのが嫌とか命を狙われて巻き込まれるのが嫌とか考えていたが吹っ切れた。来るなら来い。余は逃げも隠れもせぬぞ。
「と言うわけで。お邪魔しまーす」
カランカラン~
私は良さそうな店を見つけて扉を開けてから店に入る。店はお上品で品が良く、窓に硝子の大きな物を使い店内を見えるようにしている。店の中は女性服が売られており店頭には人形が立って服をアピールしていた。
鈴の音色に反応した店員がこの店で作ったのだろうドレスを着ている。令嬢用の服と言える高級感漂うお店だった。中も……広い。
「いらっしゃいま………!?」
店員のエルフ族の女性が固まる。黒いドレスなので肩などの白い肌が良く際立っていい。いい服のセンスだ。
「可愛いですね。そのドレス」
「あ、ありがとうございます。姫様」
おそるおそる頭を下げる店員。私はそれを見ながら手をヒラヒラさせる。
「そんなに畏まらなくていいです。いつものようにしていれください。勝手に見ますから」
「そ、そうですか? では、お客さま………どういったのがお探しで?」
店員が手を横に出し営業的なスマイルになる。綺麗な笑みは令嬢なのではと思うほど上品だ。この店も人型魔族の富裕層が買う店なので店員もそこそこ富裕層なのかもしれない。
「そうね。今、こんな鎧しかなくてね。表通りでも歩ける私服が欲しいの。色は………黒と白一着づつかな? 黒と言っても紺色でもいいわね。白は純白。自分で選んでみるわ」
「そうですか。ごゆっくりどうぞ。何かありましたら一言声をかけてくださいね」
「ええ、そうさせていただくわ」
私から店員が離れる。他の客はいないようなので気にせずに買い物を楽しむ。
服を選ぶときに私はうーんと唸る。そろそろ春も終わりごろであるが、魔国首都は北側であり夜は冷え込む。なので1枚薄着で、重ね着することで温度調節を出来るようにするべきだ。ワンピースっぽいドレスに上から同色でも羽織ってもいいかもしれない。同色にするなら刺繍はしっかりしたものがいいだろう。そうすると下は無地がいいのかな。
「ふふふん~ふふふん~♪」
私は色々と服を見ながら妄想で自分を着飾る。かわいい服が好きでそれが似合う容姿で生まれたのは運が良かった。問題は男受けする衣装が多いことで都市ヘルカイトでは冒険者に声をかけられたこともある。「人妻です」とお断りばっかりだった。
「楽しいですね。全部欲しいですが………ここは資金とご相談です」
何着かを手に取り。それを持って店員を呼んだ。そそくさと私の元へ来る。
「これとこれを試着したいのですが? 羽も広げたいし」
「試着室でしたらあちらにございます。どんな大きいお客さまでも入れますから羽も広げられても大丈夫です。え、羽ですか?」
店員がすらすらと喋った後に首を傾げる。しかし、すぐに営業スマイルになった。流石プロ。
「えっと。ご案内します。商品は預かりします」
「うむ」
店員が商品を持ってくれる。最初のプラン通りでいい服というよりも素晴らしく美しい服があり私はそれとブーツを用意した。試着室は大きな箱と鏡がある。用意した服はもちろんスカート。
「どちらから試着しますか?」
「黒い方から。お願い」
店員から黒いドレスを受け取り鎧を脱いで着替える。下から着こんで袖に手を通しファスナーをあげた。足甲を取り。黒い薔薇の造花のロングブーツを履く。白い翼を生み出し、頭に白と黒のカチューシャをつけて全身鏡を見た。
非常に美しい美少女が妖艶な笑みを向けて満足げである。
「うん。やはり、白と黒は相反し似合うね」
「お客さま。お似合いですね!! まさか………翼をお持ちだったとは思いませんでした」
「よし。これ一着決定!!」
そして私は次の試着に移るのだった。
*
大体の服の試着が終わり。満足しながら値段をみると中々価格が太くて。それでも欲しいと言う感情が勝ち。支払いをしたときだった。窓ガラスの前に耳が垂れた猫の獣人の少女が輝く目でドレスを眺めているのが見えたのだ。
「あら?」
服をみる限りでは富裕層ではないにしろ、しっかり良いもの着せてもらっている気がした。
「お客さま。お釣りです」
「え、ええ」
少女は白い少女用のドレスを眺めて。ため息を吐く。確かにこの店は品がいい商品は多いが……悲しいことに値段相応なのだ。少女の小遣いでは買えないだろう。私でも大変なのだから。
なぜ非常に高いかと言うと驚くべきことに魔法によってひとつひとつ丁寧に縫われた物だからだ。職人の技術の高さを伺い知れ。そのため意味もなく魔法の効果をあげる事が出来る服になっている。無駄な高級品だが美しい。
「…………」
「お客さまどうしましたか?」
小さな女の子と目が合い。女の子がおじきをする。小さくても「女性なんだなぁ」と暖かい気持ちになり私は受け取った服をカウンターに置く。
「この黒い方を返品できるかしら?」
「はい、大丈夫です」
「でっ、替わりにこの展示されてる服を買います」
「お客さま? お客さまの身長では合いませんが?」
「大丈夫ですよ」
「わかりました。ご用意します」
店員が人形を脱がして服を畳む。ガラス前の女の子が驚きながら。残念そうな顔になり時間が経つにつれて「しゅん」と悲しそうな顔になった。
「どうぞ。お客さま」
「ええどうも」
新しい服を布でくるみ。紐で縛る。会計を済ませそれを受け取り、私は店を出た。
「ありがとうございました」
店員に感謝の言葉を背中で受け取り。小さな獣人の少女と目が合う。少女はうらめしそうに私を見て来る。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
そんな少女に私は声をかけながらしゃがみこんだ。同じ目線の高さで話しかける。
「お名前は?」
「えっと………イブナと言います。お姉さんは?」
私は名前を言うべきかどうかを悩んだが、黙っておくことにした。質問に答えず話をふる。
「そう、イブナちゃんね。この店の服は好き?」
「好きです。でも………お姉さんが買って………しまって。もう見れないです」
「ふふ。私もかわいい服は好き。イブナちゃんも女の子だね」
「う、うん………」
幼さない返答に私は頭を撫でる。小さい子………もし私が流産しなければこんな感じにかわいい娘が出来たかもしれない。
「お姉さん? なんで悲しい顔をするの?」
「昔にね。お腹の中で子供が死んじゃったの………もし、大きくなったらとか考えちゃってね。お姉さんじゃなくておばさんかな?」
「う、うん? お姉さん綺麗だもん。おばさんじゃないし………その元気だして。お姉さん!! 綺麗で金持ちだし!!」
「うん、元気出す。ありがとう。慰めてくれたお礼にこれあげるね」
「?」
イブナちゃんに私が店で買った服を渡す。イブナちゃんは真ん丸な目を見開いて交互に私と服を見て驚きを表現する。
「いいの!! お姉さん!!」
「いいんですよ。お姉さんと約束してくれたら」
「する!! する!!」
「じゃぁ………いい子になるんですよ。いっぱい勉強して立派な女にね」
「うん!! わかった!!」
私は立ち上がった。そして、再度頭を撫でてその場を去ろうとする。
「バイバイ!! お姉さん!! ありがとう!!」
「ええ、バイバイ」
私は優しい笑みを向けて手を振り別れる。「まだ、お姉さんか~」と喜びつつ。気まぐれの好意を噛み締めるのだった。
*
私は一度宿屋に戻り白いドレスの私服に着替えた。そして、再度宿屋を出て路地裏を歩く。一応は剣も持って歩くため。非常に変な格好に見えるが。気にしはしない。こっそり持ってきたアクアマリンのネックレスが谷間に挟まれる。
「ふふ~ん~」
白いドレスを着て遊びに行こうと建物の影になっている路地裏を歩いていると。目の前にトカゲ男が立ちふさがった。槍を持っているのを見るとリザードマンの兵士だろう。
「ネフィア・ネロリリスだな」
「いかにも余はネフィアだが?」
「すまないが一緒に来てもらおう。族長が呼んでおられる」
「余は忙しい。他を当たってはくれないだろうか? こんなところでダンスは嫌だろう?」
「生死は問わない。では………後は任せた」
トカゲ男がその場を去り。入れ替わるように後ろに牛の亜人。悪魔の亜人。前に人間二人が立ちふさがる。傭兵。お金で雇われているようだ。理由はどうあれ敵である。
「ふぅ。余は今…………手加減をする気はない。がむしゃらに暴れたいのでな」
傭兵が距離を縮めずに止まる。何も喋らず各々が武器を抜く。
「最後の忠告だ。動けば………」
傭兵が一気に駆け込んでくる。
「殺す」
私は手を振り上げて魔法を唱えるのだった。
*
その日、路地裏を爆音が響き。都市で噂が広がる。内紛が始まったと。




