世界樹の樹の下..
私は片手を伸ばして目を覚ます。天涯付きベットの上で布団を蹴り飛ばし窓をあけて大きな声で叫んだ。
「大地の王!! すぐに支度を!!」
「ネフィア様?」
「世界樹へ向かう!!」
庭で寝そべって寝ていたドラゴンが顔を上げる。それを見たあとに私は鎧をすぐさま着込んだ。エルフ族と妖精の使用人が騒ぎを聞き慌てて部屋に入ってくる。残念ながら窓の鉄格子を魔法で破壊したあとだったが。
「ネフィア様!? どちらへ!?」
「世界樹へ。鉄格子直しておいて」
「えっ!? ここから飛び降りるのですか!?」
「外にドラゴンがいる」
私は窓から身を乗り出し飛び降りる。大きな背に降りて手綱を掴んだ。
「無茶苦茶しますねネフィア様」
「急いでるの!! 場所は昨日教えた場所よ!!」
「……何かあったか知りませんが振り落とされないようにお願いします」
「私を誰だと思ってるの? あなたの背で何度も耐えたわ」
「………わかりました、行きます!!」
大きく翼が振れ空を飛ぶ。向かう先は昨日見た地図の場所。ここから西側の山々の場所だ。日差しはまだ寒いがゆっくりと太陽は昇る。エメリア姉様はまだ寝ているのか声が聞こえない。
「ネフィア様。朝早くから何を見られました?」
「ワンちゃん。世界樹マナが『さようなら』と私に言いました。『さようなら』と」
「…………急いで向かいましょう。嫌な予感がします」
眼下に見える都市が幻影で消え去り。ワイバーン数匹が飛んでいるのが見えた。こちらを確認すると逃げるように飛び立って行く。
「ネフィア様。ワイバーンの群れが近くにあるようです。逃げる様に見えますがもしかしたら呼びに行ったのかもしれません」
「先に世界樹につけばいいと思う」
「わかりました」
私は手綱を強くつかみ。胸騒ぎを落ち着かせるのだった。
*
私は地図に記された場所をワンちゃんの背中から見たとき。声にならなかった。
何も言わずワンちゃんが私を下ろしてくれたときには心が傷んだ。やっと絞り出した言葉は怒りだった。
「…………エメリアどういうこと」
私は女神を問いただす。強く。
「エメリア!!」
「…………ネフィア」
背後から声が聞こえ振り向く。悲しそうな顔をした女神を睨み付ける。
「知ってたの!! エメリア!!」
「いいえ…………知らない。わからない………私も起きて驚いた。どうして………」
エメリアが自分の体を抱き締める。
「どうして!! 枯れているの!!」
「………つぅ!! 私が聞きたい」
そう、世界樹の樹は大きく根本から折れ。湖もひやがり枯れていた。周りの木々は緑で生い茂っているのにこの世界樹だけは世界から取り残されたかのように朽ちていた。根っ子もカビ等でズタズタになり。ゆっくりと土に帰ろうとしている。長い時間がたっているのが伺い知れた。
ただただ夢と変わらない剣だけが根っ子に刺され、そこだけは根っ子がしっかりしていた。
「どうして…………あの夢は何だったの?」
「………わかりません」
「グルルルル!! ネフィア様、誰か来ます」
ザッザッ
深い森のなかでローブを着た背中が曲がった女性が現れる。魔女と言えばいいのか非常にギラついた瞳を持つ女性で。私はその人を知っていた。何故ここにいるのかわからない。しかし、居ても不思議でもない。今ならわかる。彼女は賢者だ。
「久しいねぇ………元の名をネファリウス。今はネフィア・ネロリリスだったかいね?」
「占い屋の店主さん!?」
「おお、覚えてくれてたのかの? そうじゃ………名前はグランドマザーと言われちょる」
過去、トキヤさんを黒騎士に導き。占いで彼の人生を歪ませ。私の元へと寄越してくれた恩人とも言うべき人だ。何故ここにいるのかは占いで何かを知ったからだろう。
「ネフィア様の知り合いですか?」
「トキヤの知り合いでもある。トキヤさんの魔法の基を教えた人」
「そうじゃの………まぁここまでなるとは思いもせんかったのぉ~。でじゃ………ここで何かあったかを知りたくはないかの?」
やっぱりそうだ。枯れていた理由を彼女は知っていて私に伝えようとしている。
「枯れた理由を教えてくれるのですね」
「ああそうじゃ…………昔々にの帝国が出来る前の頃じゃ。その時に話題になったんじゃよ……あの剣は世界を制する事が出来るとな」
「それと……何か関係が?」
「………こぞってここに押し寄せた。そしてのここで殺戮が行われたのじゃ。亞人、人間、妖精がの。剣を護る側、剣を奪う側。各々の使命でここら一帯は炎が放たれ焼け野原になり。湖は血と死体で汚れ………ついには剣が抜けないのは世界樹が生きているからと思われての。斬り倒されたのじゃ」
老婆が物語を詳しく話してくれた。ある意味想像できたことだった。なのに失念していた。
世界が樹を求めても。何故見つからなかったか………それはすでにこの世に無かったからだろう。
「それから………人間は誰も抜けず。模倣した剣を奉り、帝国で皇帝選別の儀式に用いた。そして抜けないその剣を忘れた。知っているのは極々一部じゃ。そして、今になって剣を抜く者がやっと現れた訳じゃな。ワシは好奇心でここへ来たのじゃ。抜く瞬間をみとうての」
「そうですか…………」
「ネフィア様……」
ワンちゃんが私の頬をナメる。わかってる。抜けるか抜けないかの話じゃない。
「ワンちゃん。もっと夢に呼べば良かった」
私は3人に踵を返して錆びずに刺さっている剣の元へと歩き。乾いた湖を歩き、根っ子を跳びながら昇る。夢で見た光景を綺麗だった聖域を思いだしながら。
「…………ん」
そういえば夢で剣の側まで来たことは無かった。剣の近くへと向かい良く観察する。刀身は銀白色であり装飾も施されていない質素な剣だ。私の剣と良く似ているが刀身は太めである。
「…………マナ」
私は世界樹の名前を呼ぶ。しかし剣は答えない。剣の柄を掴む。目を閉じ力を入れる。そして………力を入れる手の上に優しく誰かの手が添えられるのを感じとるのだった。
*
ネフィア様が剣の元へと向かっていった。真っ直ぐに剣に向かうお姿は非常に頼もしくも悲しげであった。そして………ネフィア様の背には大きな翼が、あのトキヤ殿を救った奇跡の時と同じように翼が生えていた。
それは幻影である筈なのだが。本当に翼があるかのようにネフィア様は軽やかに根っ子を駆け上がる。
私はネフィア様の奇跡を数度見れる機会をいただき。うれしく思うと共にドレイクに身をやつしたことを素晴らしく良かった事と感じながらネフィア様を見続ける。
ネフィア様は目を閉じながら剣の柄を掴んだ。その瞬間、彼女の足元から魔力が広がり。世界に緑が溢れる。清らかな湖に大きくしなる根っ子。緑が生い茂りそして天にそびえる世界樹がある。そう昔にあった夢で見た光景が見え、私たちを驚かせる。
そして、剣が引き抜かれた。ネフィア様はそれを目の前に掲げ、悲しそうに祈るようにじっと動かない。翼を閉じ、剣を掲げる姿に自分は目に焼き付かさんと見続けた。眩しく輝いて見え。涙が溢れそうなほど美しく思う。
トキヤご主人にも見せたいほどに。その瞬間は女神と言われても問題ないほどに神々しい光景だった。
*
私はゆっくり目を開ける。目を開けると引き抜いた形見の剣が見えた。美しい刀身は淡く緑色の魔力の光を放つ。それをもって、私はワンちゃんの所へ向かった。体が軽く、スッスと根っ子を踏みしめながら。着地する。
「ネフィア様。抜けましたね」
「ネフィア………やっぱり抜けたね」
「そうですね。抜けました…………そしてこれが形見になるなんてね」
私には思入れの強い剣がある。トキヤから頂いた剣だ。だから………新しい剣は「欲しい」とは思わなかった。だけど、マナの剣だけは形見として持つことになりそうだ。柄を掴む瞬間。優しくマナの手を感じたのは気のせいじゃないだろう。
「………何か言いなさいよねマナ」
私は友達に悪態をついた。
「嬢ちゃんや。美しい光景だったのじゃ。その剣見せてくれまいか?」
「ええ………」
私は感傷に浸りながら剣を老婆の元へと持っていく。そして嫌な予感が過る。
「懐かしい剣じゃ。ワシでは抜けんかったのじゃよホホホ………じゃからありがとうの!!」
老婆が剣の柄を掴み、老いを見せないほど機敏に剣を私の腹に突き入れる。白金の鎧を突き抜けて私の体に剣が差し込まれた。
「ネフィア様!?」
「ネフィア!?」
「ククク、魔王。お前は危険だここで消えてもらう」
若い老婆の枯れた声ではない。大人の女の声であり。若返ったかのように彼女の体が真っ直ぐになる。
シャン!!
勢い良く剣を引き抜かれる。その瞬間。
「ネフィア様、お願いします」
マナの声が響くのだった。
*
私は滅びの疫病蒸し機の起動装置の鍵を魔王から引き抜く。
占いの予言で彼女が剣を抜き私の元へと持ってきてくれることはわかっていた。そして………貫かれる事も。その先は暗く予言は出来なかったがこれで不安分子を取り除けるのだから。問題はない。
それに暗く予言が出来なくなるのは知っている。トキヤと言う若造が占い結果を書き換え……いや。きっと書き換えたのはあの倒れている天使のような魔王が行った結果だ。あいつが咲き誇るときから未来が不安定でわかりづらくなったのだ。
だからこそ、排除しなければいつか牙を向かれる。そう、我々の復活の支障になるのはわかっていた。
「これで占いがまともになる」
「ネフィア様!!」
彼女が倒れた。翼が消え失せる。
「くっ!! 女神エメリア殿!! 私が抑えている間に連れて逃げてください‼」
変なことを言っている目の前の生き物は確か………ドラゴンの変異種。そう変異種が私の前へと立ち塞がる。過去の実験体だったのを実験投入した生き残りだ。
「あなたは彼女の足ね。まぁもう、足になる必要はない」
「グルルル!! お前は一体何者だ!!」
「私はしがない占い師さ!!」
私は天に指を向けて呪文を詠唱せずに魔法を打ち出す。大量の魔方陣が上空に展開され一つ一つに魔力を込める。
「風矢の雨」
魔方陣から風で作られた矢を雨のように降らせる。ドラゴンと彼女を削り取るように。
「くっ!! ネフィア様の盾にならなければ!!」
「退きなさい」
「「!?」」
空中で無数の火の玉が12個生まれ。膨張し矢を飲み込んで爆発する。
「十二翼の爆炎」
「ね、ネフィア様!!」
私は声の主に驚きを隠せずに睨み付ける。突き込んだ筈だこの剣で。
「大地の王退きなさい。彼女の相手は余だ。そう、余の獲物」
「………」
お腹の辺りは全く風穴が空いていない。おかしい………確かに突き刺した。感触は軽かったが………しかしどうして。
「占い師、何かを隠しているようだが………形見の剣は返してもらう」
私の手の剣が緑色の粒子、魔力になり消え失せる。そして目の前の魔王の手の緑色の粒子が集まり具現化した。始めてみるこの剣の能力に歯軋りをする。まただ、また占い通りにならなかった。
「剣の鞘は今は余だ。故に剣は我の元へ帰ってくる。教えてくれたよ友人が。グランドマザー!! 亡き友人の遺言に従い!! このネフィア・ネロリリスがお相手してやる!!」
「………ふふふ………はははは!! ここまで恐ろしい存在になるとはね!! いいじゃろ!! 賢者として勇者の変わりに魔王を消してやろう」
目の前の翼を広げた魔王を今ここで倒さなければきっと次はないことを私は感じ取り。魔力を高めるのだった。




