魔国のワイバーンの群れ~名も無き商業都市観光 ..
空の旅は危険が少ないと思っていた。空に魔物が飛んでいるのを見るまでは。
「あれ………黒い点々と大きい鳥は………」
「ワイバーンの群れとズーですね」
都市から都市へ、世界樹の呼ぶ声を頼りに商業都市を目指していた。その空の途中に大きな黒い点の集まりを見つける。
遠くから確認する。ワイバーンが他の鳥型の大型魔物を補食していた。狩りを複数で行い何倍もの体長の鳥を倒している。
「迂回しましょう」
「ネフィア様残念ですが…………こちらから見えると言うことはあちらも見えるでしょう」
空は何も遮る物がない。だからこそエンカントしてしまった。ワイバーンの群れが私らドラゴンを恐れずに直進してくる。
「ちょっと!! 荒れます!!」
グワッ!!
ワンちゃんが急降下し、眼下の草原スレスレを飛ぶ。弱き地を這う魔物達が一目散に逃げだし。それに釣られワイバーンも急降下し、10匹ほど後ろについてくる。そう後ろから追いかける。
「戦わないの?」
「ワイバーンは個では無く、多で攻めてきます。ネフィア様の手を煩わせる訳にはいきません。それに…………我らがドラゴンが滅んだ理由はそう簡単な話じゃないのですよ」
「昔にワイバーン倒したことあるからなんとかなります‼」
「それは帝国側の素ワイバーンでしょう。魔国のワイバーンは………」
私は後ろを見る。大きな尖った尻尾を持ち、その先から魔力を感じられる。その先にトゲのように氷の槍が製錬されていく。
「魔法!?」
水魔法をワイバーンが唱えている光景にビックリする。
「ネフィア様。ドラゴンを退けた空の征服者に気を付けてください」
10匹の尾から氷の槍が射出されそれをワンちゃんは横に避ける。
「ガウウァ」
「ガウ」
キーン!!
人語ではない言語と何かの音でワイバーン達が別れる。10匹の4匹が順番に氷の槍を打ち出し。当てたり、回避を専念させ速度を落とさせる。ワンちゃんに当たってもダメージは微々たる物だが途切れないため大変うざったい。私はワンちゃんにしがみつきながら周りを眺める。
「ワンちゃん!! 側面から!!」
「さすが、ドラゴンより飛ぶ事に特化した奴らです」
側面両方から2匹と2匹が並び。頭上にも2匹がいる。気付けば塞ぐ形で囲まれてしまった。背後から攻撃も止み。今度は上空から槍が射出される。
「くっ!!」
ドンッ!!
「きゃぁ!?」
ワンちゃんが避けようとすると側面に待機していたワイバーンが体当たをされ衝撃が私を揺らす。ワイバーンは尻尾を突き刺そうと身構えた。それをワンちゃんは尻尾で弾いてなんとか耐えるワンちゃん。
「尻尾に毒もち!! 役割分担です!!」
「ワンちゃん………草原走って!!」
「ネフィア様?」
「不滅の炎は置いてきた。でも、戦えないことはない!! 全て落とします!!」
「ネフィア様………すいません。戦えず、逃げられず」
「いいえ。戦闘は不得意でしょうからね。ワンちゃんは」
得意だったらヘルカイトに翼をもがれたりしない。ワンちゃんが草原に足をつけ、勢いよく蹴りだしてワイバーンの包囲を逃れる。地面が抉れ後方に土を蹴りあげるワンちゃん。加速がついたワイバーンは土に当たるが気にせず突っ込んでくる。
「ちょっと!? たくましすぎない!?」
私は体の向きを後ろに変え右手で炎を圧縮し、炎弾を生み出す。赤から白へと明るさが変わる。
「懐かしい!! あのときもこの魔法で打ち落とした!!」
詠唱せずに炎弾を打ち出す。それをワイバーンは回避しようとした瞬間。曲がってワイバーンの腹部に進入して炎が膨張しワイバーンが草原に転がる。草原の草木が魔法で鎮火させるのを私は見た。草木たちの生きる力を見てしまった。草木の力は不思議な感覚だった。
キーン!!
「ん!?」
不思議な感覚を高周波の音で我に帰る。ワイバーン9匹になった瞬間に全員がバラけた。各々が尾を向けて氷の槍を一斉に打ち出す。直感、なんとなく私は左手を剣の柄を握る。
「ワンちゃん。打って出ましょう」
「危険です」
「これを退けなくて冒険者は名乗れません」
「普通の冒険者は空飛ばないので会うこと滅多にないと思います」
「そんなことよりも。来ます」
氷の槍にヒビが入る。そして、それは細かく砕け散り小さな矢じりへと変化した。ワンちゃんを狙った攻撃じゃない。
私だけを狙った飽和攻撃だ。
チャキ!!
「炎刃、炎のロングソード」
勢いよく私は剣を抜き、振り上げた。鞘から炎が吹き荒れ、剣にまとわりつき。空気の魔力と摩擦を起こしながら剣圧と炎が混じり壁となって矢を凪ぎ払う。目の前が炎で見えなくなり剣圧を避けるようにワイバーンが隊列を乱す。
ギュリュン!! ドゴッ!!
ワンちゃんが地面に杭を打ち込み速度を一気に落とす。振り落とされないようにしがみついたあと。反転し、ワイバーンの一匹に飛びかかった。
翼に噛みつき、地面に引きずり下ろしたあと。顔面を叩き潰す。そして咆哮をあげる。
「ワオオオオオオオオオオン!!」
咆哮ではなく。遠吠えをあげる。ワイバーン達が距離を取り集まる。左右に顔を見せあい何かを伝えているらしい。
「グルルル!!」
「ワンちゃん。殺意が無くなった」
ワイバーンが全員踵を返して明後日の方向へ飛んでいく。深追いはしないようだ。そして………私は胸を撫で下ろして恐ろしさを実感した。魔物なのに引き際や隊列。的確な連携を用いる事に。こんなん滅びる。魔族さえ。
「ドラゴン。滅びますねこれは」
「ええ。補食者から補食される側に落ちました」
「これも自然の摂理ですね」
エルダードラゴン以下であって。ドラゴン以下でないことが分かり。昔に戦ったワイバーンは魔国側を追い出された最下種なのだろうと思ったのだった。
「弱肉強食の世界と思ってましたけど。魔物は恐ろしいですね」
「ええ。今からは歩いて行きましょう。群れに突っ込んでしまいそうです。100匹相手は無理です」
「骨が折れそうですね。それ」
私は頭が潰れたワイバーンをワンちゃんの背に括り。徒歩で都市を目指すことになったのだった。
*
名も無き商業都市。名前はある。しかし………それは全部勝手に名前をつけた物だけだ。
ここの領有を宣言する族長は多い。だからこそ小競り合いも少しはある。この都市は魔国の中心にあり。魔城よりもそういった意味で栄えているとも言える。何処とも変わらない外周の壁だ。そういえばあの故郷だ。
「ここ。ユグドラシルちゃんのお母さんの故郷だったね」
「そうなのですか?」
「そう。今はもう………枯れ木ですね」
ワンちゃんの首に大きな輪をつけて鎖でひく。こんな鎖で縛れはしないが一応従えている素振りを見せないと騒ぎになってしまうための処置だ。
「ワン。ごめんね。首輪」
「まぁ皆が恐れているのでこれがいいでしょう。あとこの死骸。大きいです。この状態でしか持てませんから」
「うん」
首輪を引きながら並んでいる行商に私たちも並ぶ。皆の奇異な物を見る目があるが………私は気にしない。慣れていると言えば変だが。オペラハウスのオペラ座の視線よりマシである。あの視線はすごい。燃えそうになる。
「よし。次、通行証は!!」
「冒険者です。これを………ワイバーンを狩ったので売りに来ました」
門の前で犬耳の獣人の衛兵に冒険者のカードを見せる。キラリと輝く冒険者の認定カード。魔法でしっかりと記録が保存されている。ワイバーンを狩ったのは見てわかるだろう。
「えっと………!?」
「どうかされました?」
「い、いいえ。どうぞ………都市にお入りください」
少し驚いた顔をした。何か気になることがあるのだろうか。
「行きましょう」
「ええ。喋っていいのワンちゃん?」
「気にしなくていいでしょう。誰かわかるすまい」
開け放たれた門を潜り抜け宿屋へ向かおうとする。そこでワイバーンを卸そう。馬小屋は広い場所がいい。少し歩いて背後を見ると衛兵が数人集まり話し出していた。
「………盗み聞いてみましょうか」
私は音を拾う。
「今さっきの方が本当にネフィア様なのだな?」
「間違いない。見えるだろ。あの大きい魔物を従える姿を」
「噂は本当だったのか? 隠居をやめたと」
「らしい。魔国へ向かうのだろうな」
聞けばなにやら私は魔国へ向かう予定のように広まってるらしい。それ以上に。
「ワンちゃん。聞いた?」
「聞きました」
「何故、私は噂になり。衛兵とかに色々知られてるの? 自分は目立つのは………色々やって来たからだけど。おかしい」
「誰かが任意で噂をしてるのでは? 例えば今、魔王は打ち取られ不在です。次に魔王になるのは?」
「そうですよね。彼は新たな刺客に倒れた。しかし、私はここにいる。結果………次はと安直に考えればそうですね」
魔王は今はいない。しかし………国は回っている。誰かが回している。
「魔王はいなくても大丈夫そうですね」
「ええ。ネフィア様………それより宿を探しましょう。ヘトヘトです」
「ふふ、わかった。後でマッサージしてあげるね」
「あっ………いや。その」
「馬の手入れもするものですよ」
「そういえば。私をいつも手入れはネフィア様でしたね。トキヤ様ではなく」
私は宿屋の馬車を置く駐車場にワイバーンの亡骸を置き。ワンちゃんを置いてある場所へ向かった。
*
酒場とギルドが並列した場所。酒場は依頼を受ける場所や魔物を売り払う場所。まだ日は高く。マスターに身分証明書と手の指印でワイバーンの死体を売り払う。あとで取りに来るそうだ。マスターの後ろである角の生えた男性がマスターの肩を叩く。
「………なんだい?」
「お呼びだそうだ」
「冒険者ネフィア。ギルド長がお呼びです。お金は用意しておきますのでどうぞ中へ」
カウンターの扉を開ける。私は立ち上がり酒場の後ろからギルドの通路に入り。衛兵の悪魔に身分証明書を見せてお通し願った。驚かれながら話しかけられた。
「あんた!? ネフィア様ですか!?」
「ええ? ネフィア・ネロリリスです」
「ちょっとお待ちください!!」
衛兵がカウンターに向かい羽ペンとインクに羊皮紙を持ってくる。この流れ………前にもあった。
「さ、サインいいでしょうか?」
「少し待ってくださいね」
私はそれを受け取り。衛兵の待合所みたいな個室の場所で机に羊皮紙を置き焼き印とサインを行った。
「どうぞ」
「家宝にします」
「えっと……喜んでくれて嬉しいわ」
冒険者のサインを貰っても別に大きな意味はないと思いながら、丁寧に案内されギルド長の執務室にまで足を運んだ。
トントン
ノックをし部屋に入る。中は煙臭く、奥に大きな天蓋付きの椅子とカーテンがあり、そこでパイプを咥えた女性が腰かけていた。勿論私は彼女を知っている。
妖艶な婬魔のようなきわどい服を着た女性。鋭い瞳と丸い羊の角。種族は悪魔だろう。綺麗な女性やエロい人は全員婬魔じゃない典型的な例。名を悪魔ファウストと言う。
「久しぶりね。元魔王さん」
プカプカと煙草を吸っている彼女。
「久しぶりですね。煙草はだめですよ? 男に嫌われますよ? キスが臭くなります」
「いきなり何を言い出すのよ。男は金で買えばいいの」
「そうですか。まぁ独身者らしい発想ですね」
「………あんた喧嘩を売りにきたのかい?」
「ごめんなさい。綺麗な方なのに『勿体ないな』と思ったものですから」
「………まぁいいわ。そんなことよりも、なんであなたがここに来た?」
「呼ばれたからここに来ました」
「違うわよ。何故この都市に? 魔王になるためかしら? あなたなら出来るわね」
出来る。出来て「今更何をしろ」と言うんだろうか。それよりもだ。
「違います。その………黙って貰えないでしょうか? 結構、変な話なんですけど」
悪魔の眉がつり上がる。
「いいでしょう。黙っといてあげる。何処へ?」
「世界樹を探しに」
「世界樹!?…………そんなのはあるのかしら? 伝承の世界でしょ?」
「私たちは魔物に阻まれ。今まで見てきていない物が沢山あります。都市ヘルカイトの周りも未知でした。私も冒険者であり探すのは普通のことです」
「あてもなくかしら? 情報を何処で?」
「えっとそれは秘密ですが。あるにはわかってます。大体の位置も。たぶん誰かが隠している。どこかの権力者が」
ユグドラシルが教えてくれた。大体の場所を。
「わかった。てっきり首都へ向かうかと思ったわ。向かわないと言う情報をありがとう」
「はい」
「それと………ランスロットは元気かしら? 忙しい?」
「アラクネのリディアと仲良くしてます。忙しいと思います」
「わかった。ギルド長同士で話にしに行こうかしらね。遅くなった就任祝いに」
妖艶に舌をなめる。
「襲ってもダメですよ?」
「大丈夫。条件と欲を引き出せばいい」
「私より婬魔です!?」
「ふふ。まぁ………そうねぇ。独身なのは………食べるのが好きなの。人のものを」
悪魔じゃない。この人婬魔だ。
「えっと。それよりも私の噂はなにか知ってますか?」
「知ってるも何も。次期魔王復権はあなたと思われてるわ。人気も高いしね」
初耳である。憶測が当たったようだ。
「まぁでも。いいんじゃない? 魔王になるのも?」
「………今更ながら。私には才はないです。帝国の陛下のようにね。ありがとうございます情報。では………お腹すいたので帰ります」
「はい。どれだけ滞在を? 次は何処へ? 敵国陛下に会っている時点で他とは違うわよね」
「1日だけです。オペラハウスから妖精国へ」
「ふ~ん。いい旅になるように願ってあげるわ」
「ありがとうございます」
私は煙草の臭いを振り払いながら部屋を出る。お金は多くもらえたのでこれで酒場でご飯を買ってワンちゃんの元へ向かうのだった。




