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大帝国城塞都市ドレッドノート⑤地の王..


 俺は草の上で寒い中。風の音を聞きながら座り、成り行きを見届けていた。見届けていると言っても城を囲むように高く壁がそびえ立ち。中で何か行われているかを見る術がない。空も飛べないために。


「………」


 主人のトキヤ殿は忍ぶのが得意だ。得意だからこそ問題なく潜入出来るだろう。しかし………もう一人のネフィア殿は無理だ。とにかく目立つ。


ぐいぃ


 首を上げて空を見上げる。ワイバーンに乗る人とワイバーン達が空で優雅に羽ばたいていた。空はまだ寒そうだが。楽しそうではある。


「………暇ですね」


 そう。待つだけ。昔はドレイクでただ寝るだけ、食うだけ、暴れるだけだった。今は食ってただ寝る事は出来ず。ユグドラシルと言う緑髪が綺麗なお嬢さんのお守りをしている。


 そう、楽しい日々を過ごしている。だからこそ今のこの待つだけと言う行為が辛い。何も出来ない事が。


「トキヤさんを待っているんですね」


「破廉恥な女神さん!?」


「それ、やめません?」


 俺は声の主を探すように首を回す。しかし、何処にも羞恥の女神はいない。


「私はあなたの中にいます」


「何でついて行かなかったのですか!!」


「私に力は無く。何も出来ないですから…………」


「俺と同じでしたか………」


「いいえ。同じじゃありません。体があります」


「ありますが………」


 ドレイクにどうしろと言うんだ。肉片になるだけだ。


「実は勇者が負けそうです」


「な!? トキヤご主人が!?」


「才能の差で負けてます。凡才と秀才では開きがあるんです」


 俺は立ち上がる。行かなくちゃいけない。ネフィア殿を連れ帰る約束をユグドラシルとしたんだ。


「いかなくてはいけない。だが………」


 城まで行っても帰りはどうする。俺は空を見上げる。見上げて焦がれる。ワイバーンたちに。そして………あれを相手にして城まで……「騎士を相手にしていけるのか?」とも思う。


「悩んでますね」


「一人では行き着く前に切り殺されそうだ」


「ええ、ですから………そろそろ来ますね」


 ぶわぁああああああ!! バサバサ!!


「ん!?」


 大きな羽ばたき音と風が草を揺らす。そしてゆっくり音と風が収まっていく。砂埃も舞い。俺は目を閉じていた。


「おい。グランド!!」


 聞こえてきた声は図太く太く逞しい男声。声の主は紅のドラゴンの最位種。覇龍ヘルカイトの声だった。


「グランド。お待たせしました」


 目を開けて私を撫でる芯を持ったハスキーな声の主の女性は死ぬことのないドラゴンゾンビ。腐った龍ナスティ嬢。


「グランドじいちゃん。ちっす」


 若く少年の男とも女とも取れる可愛らしい声。声の主はワイバーン通常種でありながら。エルダードラゴンに認められた。新しい世代を見せている飛竜デラスティ。


「…………エルダードラゴンが首を突っ込むのはいけないけど。デラスティがしょうがなくね」


 若い少年の頭を小突くきながら大人の落ち着いた声を持ち主。昔より柔らかくなった火の赤いドラゴン。火龍ボルケーノ。


 目の前に都市ヘルカイトの近隣で棲んでいる。遥か昔に弱肉強食の頂点だったものとそれに類する人物が集まっていた。


「お前ら!? どうして!? すぐに出ても一月はかかる!!」


「そりゃ~地上より飛んだ方がはえーわ」


「まぁ、ギリギリ間に合わなかったみたいだけどね」


「仕方ないよ。皆、生活や立場に仕事とか色々あったしね。僕は龍姉説得があったし」


「はぁ~全く。世界をつつくような事を。私は止めたんだがな。仕方なく説得されて仕方なくだ」


「全面戦争よりましじゃよ。ヘルカイト」


「いや!! どうして!?」


「ネフィアさんとトキヤさんの人徳ですね」


 フワッと白い服を着た女神の幻影が現れる。


「「「「破廉恥!!」」」」


「………緊張感ないですね………ねぇ……」


「ワシら。ドラゴンぞ。緊張感なぞ昔に捨ててきた。あと、ネフィア嬢に『破廉恥言え』と言われててのぉ。いや、人型をしるワシも破廉恥思うぞ」


「ですね。ヘルに同じです」


「龍姉。どうして僕の目を隠すの?」


「見ちゃいけない。デラスティ」


「………人徳ありすぎですよ」


 空気が緩くなる。俺は首を振って叫ぶ。


「そんなことよりも!! ご主人が危ない!! 緊張感は拾い直せ!!」


「グランド!! 待て!!」


 俺が駆け出しそうになるのをヘルカイトが止める。


「帰りはお前らが姫様を運んでくれ。俺は行く!! 行きたい我慢できん!!」


「まぁ!! 落ち着け!!………お前だけに行かせるとは言ってない」


「???」


「集まった理由を聞け。皆、ネフィア嬢奪還に来た精鋭だ。都市で何人も来たがる奴を黙らせる事とユグドラシルが実や都市を守らない作らんと駄々こねたりと、まぁ………色々あった。それを落ち着かせるために来たんだ」


「簡単に言うのヘル。大切な『領民拐われた』となって都市ヘルカイトは黙ってないの。急いで纏めて寝ずに飛んできたわ」


「まぁそういう事だ。デラスティ!! 説明をしてやれ。冒険者として何度か帝国来てるだろ」


「うん。グランドさん。飛んではダメです。帝国は大きな大きな呪法とバリスタがあって実は空から行くと迎撃されるんだ。野良ワイバーンがここを避けるのはそういうこと」


「………何が言いたいのですか?」


 ヘルカイトが地図を出す。帝国の地図だ。それにナスティが指を差しながら説明をする。


「折角、人数がいるし。迷惑をかけてやろうと思う。グランドは門から城に向かって侵入。私たちは空から騒ぎを起こして目線をそらす。そして、より騒ぎを起こして行きやすくするわ」


「そういうこった。行ってこい。絶対帰ってこい。少しは動きやすいだろうから絶対にヘマするな」


「お前ら…………」


「ただし。グランド………時間は30分ほどしかしないわ。帝国に迷惑だし。スッゴい騒ぎになる」


 俺は既にエルダードラゴンが結託して事に当たることはすごい騒ぎな気がするが、黙る。嵐龍テンペストぶりだ。結託するのは。まぁあれは結託と言うよりもただただムカつくから皆で戦っただけだが。


「では、私たちが飛んでから始まりね」


「デラスティ!! あの新しい竜騎兵団がどれぐらい強いか調べよう。技や魔法なしで殴りのみだ」


「ヘルカイトの兄貴。OK!! 昔やった撃墜数勝負だね」


「やめなさい!! 遊びじゃないのよヘルカイト!! デラスティ!!」


「うわぁ!! ババぁが怒った~」


「ぶっ……ヘル兄!! それ言っちゃダメだよ」


 バサッ!!


 変化後のヘルカイトのドラゴンに変化後のワイバーンがついて飛んでいく。


「あっ!? 待ちなさい!!」


 そして、火竜が続いた。残ったのはラスティだけ。


「グランド。トキヤ殿に会ったら一言、言っておいて」


「………何と?」


「一人で向かったこと皆、怒ってる。帰って怒られなさいと伝えてね」


「わかった」


 ぶわぁああああああ!!!!


 4枚の翼を持つドラゴンゾンビが飛び立った。遠くでワイバーンが集まり出し上空で激しい戦闘が行われる。


「行きましょうか。私もついて行きます」


「女神…………」


「はい?」


「全力で飛ばしますよ」


「ええ!!」


 俺は駆け出すのだった。正門を目指す。風を切り、丘を下り。石で舗装された道路に体を晒す。運が良かったのは鞍が背中についたまま。皆が指を差して誰かの馬が逃げたのだと気にしない。それよりも………


「上空にドラゴン!!」


「しかも4頭だと!?」


「馬車を避難させろ!!」


「荷物を!!」


 石の道路の交易商人が騒ぎだし。それを横目に突き進む。


 願わくばもっと速く。速く。


「あっ!? ドレイク!? ドラゴンにビビって暴れてるのか!! 危ない!!」


「なんて日だ!!」


 門の衛兵を飛び越えていく。地面を強く踏みしめて前々へと進む。


 阿鼻叫喚だが気にせず前だけを見て走る。家等の建物が後方へ後方へと流れる。駆け抜けながら。感じるのは城の中心に姫様がいることだけ。高い位置。やはり翼が欲しい。あそこにいる。


「………ワン・グランド。願いなさい」


 走りながら女神の声が聞こえる。俺はヘルカイトに千切られた翼を想う。自分のためじゃなく。姫様のために。


「ワンちゃん。願いなさい」


 女神ではない。ネフィア姫の声が頭に響く。


「あなたが願う姿は?」


 やさしく姫様が問う。姿はそう、ワンと鳴いても違和感のない姿がいい。包み込むような毛並みも欲しい。触ってもらいたいために。


 身が焦げるような熱さを感じる。身から焔が揺らめいている。姫様のあの翼のように身を包む。


「俺は…………姫様の足だ。姫様の従者だ。諦め、滅びるのを待っていた俺に希望を持たしてくれた。たのしい日々をくれた!! 今度は俺がお返しする番だ!!」


 姫様を救いたい。そしてユグドラシルの喜ぶ姿をみたい。家がだんだん小さく見え出す。体が変わっていくのがわかった。体が熱い。熱い。熱い。


 失った筈の翼があるような錯覚。翼が熱く感じ取れる。


 ゴゴゴガチャン!! ドゴォンン!! ベキベキ!!


 俺は壁の閉じられた門に体当たりをかまして裏の閂を壊しこじ開けた。大きな爪や大きな牙を俺は生やすているだろう。


「ワオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」


 大きくなった体で俺は遠吠えを行い。大気を揺るがした。思い出した。俺は地のエルダードラゴン。昔とは姿形が全く違うが俺はドラゴン。


 俺の名前は地の王(ワン・グランド)だ!!





上空で俺は老いた体でワイバーンを噛み砕く。大きな下牙で刺し殺し。地面に肉片が落ちていく。


「ヘル兄さんあれ!!」


 遠くでワイバーンを撒いて来た飛竜デラスティが俺に手は翼なため尻尾で差し示した。


「あれは…………グランド!?」


 ドレイクが道路の真ん中で人を蹴散らしながら進むが。次第に焔に包まれる。地竜にそんな力はない筈なのに。


 何かが起こっているのがわかった。焔から顔が出たと思ったらその顔はドラゴンとは似て非なるもの。鼻が伸び、鬣があり、特長的な蹄がある。角も後ろに伸び。青く黒い。


 背中に翼の形をした焔がゆっくり形を作り立派なドラゴンの翼を生み出す。焔が消え失せた尻尾は毛並みを持ち。鱗の部分と鬣から背中の一部が白毛を持つ。


 キマイラを連想させる出で立ちに変わった友。壁を越え、扉を突き破る。そして大きく遠吠えをしたときに俺は感じ取った。


「翼を生み出し、手に入れたかグランド」


 一度は地に叩き落とした同胞が空を飛ぼうとしている。


「さぁ上がってこい。昔のようにな‼ ガハハハハ!!」


 ドレイクに身を落としたエルダードラゴンはまた翼を手に入れ。姫様の元へ駆けていく。








「願ったのは。新しい翼」



「願ったのは。姫様を救える翼」



「願ったのは。ドラゴンとしての空」



「そして、それは強い想いで成就された」



「ネフィア様。今、行きます」


















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