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大帝国城塞都市ドレッドノート③訪問者たち..


 帝国へ拐われてから1月が経とうとしている。あっという間だったような気がする。一人長く苦しむと思ったが色々と良くしてくれるからだろう。しかし、私は今の状況に狼狽えてしまう。尋問されているからだ。考えてみればここは帝国。深いローブを着た男性が私の目の前に座る。そう、昔は私を殺そうとした相手。黒騎士団長が目の前に座っているのだ。少し悩ましい。


「煙草吸ってもよろしいか? ネフィア嬢」


「は、はい」


 私は初めて黒騎士団長と二人きりになった。彼は懐からケースを取りだし嗜好品を嗜む。


「舞踏会から久しいですね。陛下に了承をいただき謁見を許されました」


「………グラムお爺様は何故こうも私に優しくしてくれるのでしょうか?」


 厚遇、一室に閉じ込められているが不自由はしていない。お風呂についても時間で許されている。逃げられないように衛兵がついているが自由だ。


「それは歌を歌われている。陛下が『気に入った』と言うことです」


「ええ。グラムお爺様は………慰めてくださいます。お返しできるのは歌だけですから。精一杯歌わせてもらってます」


「トキヤは元気ですか?」


「………子供が亡くなってずっと二人で泣いてました。その時に拐われましたので。どうなったか私はわかりません」


「子が? 魔族と人の子が出来ると?」


「出来ます」


 言い切った。


「………いい情報です。気を付けましょう」


 きっと帝国に魔族を入れないように注意するのだろう。それでいいと思う。私のようにならないためには触れ合うべきではなのでしょうから。


「次にランスロット殿は剣に何か言っておりましたか?」


「剣ですか? エクスカリパーですか?」


「エクスカリパー?」


「偽物の剣をいたく気に入っておりました」


「…………偽物ではないですが? まぁいいでしょう。何かの手違いで偽物っと思ったのでしょうね」


「偽物でしょう? 抜けましたよ皆さん?」


「………ん? そうですか。偽物ですねそれは」


 仮面の奥の表情が読めない。私の知り合いに好き好んで仮面を被る優男がいるけれど。少し違う、自分を隠そうとしている。


「色々、ありましたがこうやって話が出来ると言うのはいいですね。中々有用な情報を持っている。連合国も編入が終わりそうですし魔国へ攻めるのも時間の問題ですね。魔王が不在な今がチャンスです」


「…………陛下は『諦めた』と言っておりましたが?」


「四方騎士団がやる気ですから。ですので急所を教えろ」


「急所をですか? ええっと…………中心ですか? 商業都市は名前もついていないほど纏まっておりませんから。制圧できれば中心に位置しますし………なんとかなるのではないでしょうか?」


「………やはりそこか」


「その………私はあまり才能はなく。しっかり助言は出来かねます」


「ふん。裏切り者から聞く情報は鵜呑みにするほど愚かではないが………聞くだけ聞けば何かが掴める。最後になるが…………女神とはなんだ?」


 黒騎士団長が煙草を吐きながら聞いてくる。


「女神ですか………」


「ネリス嬢が連れてきた男だ。確かに容姿は奴でありネリス嬢が言うには『女神が授けてくれた』と言う。全く情報もない…………一から人間を作るなぞ」


「…………でも目の前にいますよね?」


「ああ、不気味だ。女神がいるということが不気味だ」


 黒騎士団長が皿に煙草を押し付ける。そしてもう一本取り出して火をつける。香草の焦げる臭いが部屋に満ちていく。


「そんな高位な存在がいるのかどうかを聞いている」


「結論はいます。世迷い言でしょう。しかし、いるのです。そして…………私たちに囁くのです。悪魔のように。我が子を呪い殺したように」


「…………その話は誰が知っている?」


「知っている方は少ないと思います。少なくとも勇者に類する方は知っています。聖職者であればわかる方はわかるでしょう」


「そうか…………わかった。今のところ新しいトキヤは益になっている。今のところはな」


「…………」


「だが、出る杭は打たれる」


「信用してないのですか?」


「お前は信用出来るのか?」


 首を私は振る。信用はしたくない。我が子を殺されたのだ。その女神の尖兵に「信用しろ」と言うのは難しい。それに…………違う理由で苦手なのだ。


「ふぅ………全く。何かが始まろうとしているのは思っていたが………わからないままだ」


 たばこを深く吸い込んで吐いた。わっかの煙が空に上がっていく。黒騎士団長は何を考えているか私にはわからなかったが複雑な心境なのは察する事が出来た。


 味方を疑うのが仕事なのだ。黒騎士は。







 昨日、黒騎士団長の尋問は夜まで続き。根掘り葉掘り聞かれた。嘘は言っておらず。嘘を言えば鳴るベルを用意していたらしい。逆に嘘を一つも言わなかった事に驚きのお言葉と「アホ」と言うお言葉をいただいたのだった。


「おはようございます。ネフィア嬢」


 監視と身の回りのことを相談係りとして新しくご用意された騎士が私を起こす。私は今、能力が制限されているのか………夢が一切見れない状態が続いている。しかし、良かったと思ってもいる。


 子を失った事を。子を孕んでいたときを思い出して夢に見たらきっと…………起きたとき泣き叫ぶ。絶対に。


「おはようございます。衛兵さん」


「すいません。おやすみの所ですが………謁見依頼がありました」


「はい」


「服を着替え、ご用意ください」


「わかりました」


 衛兵がそそくさを部屋を出る。私は出たことを確認し………お花を摘みに行った後に白いドレスに着替える。


 着替えが終わると扉を開け、衛兵に用意が出来たことを伝えた。朝食が運ばれ私はそれを口にする。


 陛下が来るまで食事の喉を通らなかったが。少し元気が戻ったのか食べられるようになった。少し痩せたがまた戻りつつある。食事を終えるとそれをゆっくり下げ。そして………私は座りながらその時を待つ。


トントン


「どうぞ」


 戸を叩く音に返事をした。すると、扉が開け放たれ。一人の小柄で黒い長い髪の女性がおじきをして入室する。私も立ち上がり頭を下げる。


「ネフィア・ネロリリスと言います。初めまして」


「アメリア・アフトクラトルと言います。初めまして魔国の姫様」


 魔国の姫様ではないが私は黙っておく。関係ない話だから。それよりも私は名前に驚く。


「アフトクラトルですか!?」


「アフトクラトル家です。私はランスロットの母親でございます」


「ランスロットさんのお母様でございますか!?」


 私は狼狽える。別にトキヤのお母様でもないが知り合いのお母様と聞くだけでもドキマギしてしまう。きっと息子についてだろう。


 本当にどうしよう。アラクネと人間と言う付き合いを伝えるのは勇気がいる。


「席をどうぞ」


「ありがとう………本当に魔族なんですか?」


「はい。悪魔と婬魔のハーフです。皆さん疑いますけどね」


「ごめんなさい。失礼を」


「いえ!! 気にしません!! それに………お堅いのは少し疲れるので自然体でいいですか?」


「はい。私もその方がよろしいです」


 席に座る少女みたいな女性。出るとこは出ているが体が小さく。黒長い髪と相まって若く見える。


 ランスロットが成人を越えた年なので40~50以上と思うのだが成人したての女性のように若々しい。肌の張りもシワもない。雰囲気だけは大人である。


 使用人がお茶とお菓子を用意してくれる。用意が終わったのを確認してアメリアさんは口を開いた。


「ランスロットはお元気ですか?」


「はい。1ヶ月前ぐらいの情報ですが新しい都市で冒険者を纏めるギルド長をしております」


「そう………良かった。一人息子だから………気になってたの。手紙で奥さん見つけた事が書いてたのどんな方?」


「えっと………」


 目線を剃らしてしまう。奥さん蜘蛛ですなんて言えばどうなるんだろうか。考えたくない。しかし、追々言わなくちゃいけないとも。


「お名前とか教えてほしいです」


「リディア・アラクネ・アフトクラトルです。その…………人間じゃないです」


「知ってます。ただ………容姿については一切書かれてませんでした。手紙には」


「驚くからと思います。アメリア奥様。驚かれますが………容姿については不思議な種族です」


「覚悟しております。どうやってその方と出会ったのでしょうか?」


 私は覚悟を決めて全てをお話しする。水浴びを覗いた時から始まった魔物を恋に落とした話を。話を終えたとき、アメリア奥さまは驚いた表情で私を見る。


「そんな稀有な事があったのですね」


「はい、ありました。今では家で夫を待つただ一人の女性です。魔物とか侮蔑されるかもしれませんが………深く愛し合ってますので許してあげてください」


「帝国には息子が好む令嬢はいませんでした。きっと魔物でありながら美しいのでしょう。貴女のように………本当に彼の子。家の事なんて気にせず愛に生きるなんてね」


「ランスロットさんのお父さんはどんな人ですか?」


「物語の王子様に憧れる子供のような人です。息子をまるで王子様のようにするのは違うと思うんですが……言うことは聞かなかったですね。息子もそれが合ったのか本当に物語の王子様みたいになちゃって…………一人息子だったから期待してたんです」


 深い溜め息を吐くが。節々に愛を感じる言葉だった。


「愛を感じます。恵まれてたんですね」


「そうですね。自分で言うのもあれでしょうが恵まれてるでしょう。私よりも親に恵まれてます。母上父上のように放任主義では無かったですから」


「同じですね。私も母親に売られて。父親も放任主義でした」


「ふふ、でも親は関係ないです」


「はい。関係ないです」


「旦那様は好きですか?」


「大好きです。大好きです…………」


「会えるといいですね」


「はい………望みはまた二人で暮らしたいです。でも難しそうですね」


 少し瞳が涙で滲んでしまう。思い出さないようにしていたのだが………つい。大好きと言葉にしてしまい幸せだった日々を思い出してしまう。


スッ


 アメリア奥さまは立ち上がり私に近付いて手を握る。


「辛いでしょう。でも…………私たち女性は待つしかないのです。弱いから。不安でしょうけど。信じて待つしかないのです」


 深い言葉だと思った。何故か頷けるほどに。


「…………はい」


「楽しいことを考えましょう。お子さまのご予定は?」


「……………流産しました」


「………あっ…………ごめんなさい」


「いいえ。知らなかったので仕方ないです」


「もしかして、流産して拐われたのです?」


「………はい」


「……………」


 ギュウウウ!!


「ネフィアさん。今までよく頑張りました」


「アメリア奥さま?」


「私も母親としてその気持ちがわかります。ランスロットは難産でした。若かった事と体が小さく弱かった事で危なかったのです。それがあったのか………二人目は流産しました。その気持ち痛いほどわかります。私も」


 座った私を抱き締めながら頭を撫でてくれる。ランスロットの母親は優しさに溢れた女性だった。きっとこの優しさに彼の夫は好きになったのだろうとも予想できる。


「だから、出産の大変さを知っています。辛いでしょう。ですが………生きていればきっと王子さまは現れます」


「………はい、知ってます」


 私はアメリア奥さまの胸の中で少し気が楽になったのだった。







 その夜、アメリア奥さまと日が暮れるまで話し合った。「主人が帰って来ます」と言い。奥さまは私を撫でて帰って行く。入れ換わるようにある人が入ってくる。


「………話は終わったようだな」


「はい、勇気をいただきました」


「勇気ですか?」


「はい。私の王子さまは現れます。そして………私を救ってくれますきっと」


 真っ直ぐ私は彼を見つめ返す。睨むように。敵意を剥き出して。


「…………いい顔だ」


「そうですか。綺麗な顔でしょう?」


「自分で言うのか?」


「王子さまが好きな顔ですから」


「ああ、そうだろうな」


 彼がゆっくり近づく。私は苦手意識があり一歩後ろへ下がった。


「近付かないで」


「…………何故だ?」


「苦手なんです。あなたは似ている。私の愛する人に顔も仕草も。何もかも彼を思い出す材料なんです。辛いんです!! 会いたいって!! 思ってしまうです!!」


「…………同じトキヤだ」


「違う!! あなたは偽物で私が愛したトキヤとは似ている別人!!…………だからお願い。私の前から消えて」


すっ!!


「近付かないで!!………何も出来ないですが………お願い近付かないで………」


 彼が無言で近付き気付けば壁に追い詰められ。見下げるように顔が近付く。


ドンッ!!


 壁に手を置いて彼は囁く。私が逃げられないように手を掴んで壁に押し付けて。私は目を閉じて顔を背ける。


「偽物だ俺は。作られた偽物だ。俺が一番知っている」


「えっ………自分自身が本物って」


 背けたまま言葉をひねり出す。怖い。襲われるのが怖い。似ている彼に妥協するのではないかと心が恐怖する。絶対嫌だと叫ぶ。


「君の目には偽物に写っている」


「………」


「記憶も全て作られた。結局、偽物だ」


「んぐぅ!?」


 私は彼の空いた手で顎を掴まれ顔を向けさせられた。そして奪われる。


「んんんん!!」


ガリッ!!


「痛っ!!」


 舌を私は噛む。血の味がし床に吐き捨て袖で拭う。涙を浮かべながら睨み付けた。


「酷い……ひどい………」


「…………ああ。ひどい。流産し弱っている所に奴と仲を引き裂いて。こうやって君を泣かせている」


「…………なら、何故こんなことを!!」


「俺は偽物でもトキヤだ。ネフィア嬢。綺麗な髪」


「さ、さわらないで!!」


 髪を撫でられながら下へと手が動く。頬に首に手に。そして顎に。


「この目、睫毛に何もかも好みだ。性格も……強い。聖女のように優しい時もあれば悪女のように激しい性格。声もいい。何もかも…………俺の好みだなんだ」


「…………偽物の癖に」


「この想いだけは本物だ。好きだネフィア」


「!?」


 彼が私の手を離して距離を取る。私は目線が合い瞳の奥に深い火を見る。嘘なんて言ってない。


「トキヤを殺し。君を俺のものにする。女神の尖兵だろうが………女神を裏切る行為だが………女神を説き伏せてみせる」


 彼が背を向ける。あまりにも似ている背に驚きを隠せない。唐突の告白から私は呆けてしまうのだった。





 彼女が元気になった。なってから想いを俺にぶつける。不満を俺にだけにぶつける。唇を奪い。部屋を出た瞬間だった。声が頭の中で響く。


「トキヤ、説き伏せるですって? ククク」


「………」


「聞こえないふりしても無理よ」


「見たならわかるだろ?」


 俺は天井に話しかける。


「ええ、わかる」


「交渉だ。殺した後は俺は自由に彼女を飼う。部屋で閉じ込める。外へは出さない。それでいいだろ?」


「いいわよ。飼い殺すのも面白そう。それに………ね? ふふふ」


「………なら。交渉成立だ。女神」


「ええ。頑張ってね本物の勇者」


 女神の高笑いが頭で木霊する。本当の女神は何故こうも醜く。魔族であるネフィアの方が女神に見えるのだろうかと思うのだった。


「酷い勇者ね」


「覗き見する女神に言われたくない」







「ネリス、あなたの言う通りになったわ」


「女神さま………そうですか」


「部屋で飼い殺すつもりらしいわ」


「わかりました。教えていただきありがとうございます」


「いいえ。私もあなたも彼女が邪魔なんですから利害の一致ですわ」


「そうですね。では………しっかり飼い殺しましょう」


「ええ。ペットは死んじゃう物ですから」



























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