都市ヘルカイト⑳吸血鬼と聖霊..
数日後、ヘルカイトとの会議でエルフ族長はヘルカイト都市で教会を新設することが決める。教会と言ってもギルドの支部に似て領民の管理をそこで行うらしい。モデルは都市インバスの教会と言う組織との事。
そして話にあった都市インバスは今、勢力争いが激化しているが、表はおおむね平和らしい。教会が存続できるのは「教会のシステムが非常によい」との事だ。聖霊と言うシステムや聖霊から若い世代の教育が熱心であり、愛を啓蒙しているために横の繋がりも強力とのこと。
そんな色々な話を商店の人と私は会話をし、情報を集めて家に帰ってくる。話す内容が多いほど井戸端会議では上を目指せるし話に相づちがうちやすい。
でも、一番の理由はトキヤと話す時間が長く出来る。長く会話が続くのがいいのだ。そう「いっぱい話を聞いてほしい」と言う女の子のわがままである。
「はぁ………いけませんね。ついつい」
甘えてしまう、それもとびっきり。この一瞬でも愛しさが溢れ出る。
ドンドン
「あら?」
玄関を叩く音。お客さんである。
「最近多いですね。この前はエルフ族長でした………今日は誰でしょうね」
ガチャ!!
玄関の扉を開けて外を覗くと………マントに身を包んだ紳士とそれに付き従う幼女が立っていた。
幼女はお人形らしい可愛く紅いドレスに身を包み。深くお辞儀をする。実体があるように見える。
「こんにちは。姫様」
「こんにちはですね。姫様」
「ええ。こんにちはインフェさんにセレファさん」
ご挨拶する少女は聖霊と言う生者に憑く幽霊と吸血鬼として血を啜る種族の公爵だ。肌が誰よりも白く。犬歯が鋭い。
「どうぞ、上がってください」
「はい。お邪魔します」
「お邪魔しますね。ネフィアさん」
聖霊インフェは靴を丁寧に脱ぐ。靴を脱いでいる彼女のその行為に私は首を傾げた。
「幽霊なのに?」
「姫様、これはですね人形なんです」
「人形?」
人形と言われ不思議に思っていると。階段の隅に座りそのまま動かなくなる。しかし、そこから抜けてフヨフヨとインフェちゃんが主人の場所に立ち絡み付いた。本当に幽霊だ。
「はい、インフェの体はですね。オペラ座との国交で人形劇が流行り。小さな人形を操る遊びですね………それを見て私は気付きました。憑依して動けるのではないかと」
「それで………これ?」
「はい。成果は抜群でした。しかし、非常に労力を使い1日数時間しか憑依出来ませんが皆。好きに人形で私たちと触れ合っています。ね、インフェ」
「はい、人形を通して………ご主人様の肌を触れたとき涙が出そうでした」
「これも愛の女神が降臨し。助言をくださったためです。姫様………女神が会いに来ます。それを伝えに来ました」
来るとエルフ族長も言っていた気がする。トキヤに教えてもらったのだ。
何故か、女神が降臨したらしい。理由はなんだろうか。
「お茶、用意するわね。都市インバスの話を聞かせてよ」
「わかりました。インフェいいかい?」
「はい。ご主人様………でも私動き疲れました。申し訳ないですがご主人様の中で眠ります」
「ああ、おやすみ」
首についていた煙が消える。聖霊は生者から力を貰い受けているために今度は宿主に憑依したのだろう。
「………人形に憑依は大変なんですが。可愛くて仕方がいんですよ。私」
「だから、無理をしてしまう」
「はい………でも。幸せです」
紅茶を淹れてセレファの前へ置き。一口、彼は啜る。
「ふぅ……美味しい。それで都市インバスですが嬉しいことに支援をいただき。今、最大勢力となりました。あと、死霊術士の負の遺産として四天王アラニエのゾンビがいましたが絶命させることが出来ました。インフェのお陰でね」
「彼も相当の実力者だなぁ」と思いつつ話を黙って聞く。
「後ですね。オペラ座の怪人ことエリックが私たちと同門になり………色々と手伝って貰えてます」
「オペラ座の怪人さんが?」
「ええ、非常に働き者ですよ。姫様」
彼も私を姫様と呼ぶ。流行っているのだろうか。
「にしても、エルフ族長もセレファさんも似てますね」
「似てますか?」
「口調とか、物腰の柔らかさが………そう、歳のとった男の人って感じで。でもエルフ族長は私にだけこうなんだと思う」
「実は私も似ていると思いましたが話してみると全く違っていましたよ」
「ん?」
「彼は夢を持っています。それにひた向きに向かっています。私は長い時をインフェと過ごすだけが望みですから熱さが違うんです」
「………初めて知った」
「隠し事は多いですね。彼」
私は唸る。隠し事をするのは私に不利益を被るからだろう。
「教えてくれたりは………」
「残念ですが。約束しましたので………夢の端を掴んでいます」
「…………ヒント」
「ダメですね」
それからも、何度も何度も聞くが答えてはくれなかった。
*
私は会話の後でグレデンデ………エルフ族長に会いに行く予定だった。姫様はご飯の準備をすると言ったが、ごちそうになろうかと悩む。しかし、予定があり断念する。姫様は残念がっていた。
「ふあぁ~よく眠りました。姫様とは何をお話に?」
「都市での事を少々です」
「ご主人様。甘い話しはされませんでした?」
「いいえ」
「…………まぁ私もお話ししたいのですがご主人様が『用がある』と言ってましたので我慢しました」
「ありがとう。お陰で姫様の耳に女神が来ることをそれとなく伝え、都市インバスが変わっていく事を報告出来ました。ありがとう。インフェ」
私は隣の憑依している人形に声をかける。手を握り歩きながら、都市の中心に向かう。
「お二人さん。こんばんわ」
都市の中心、日が暮れ。カンテラ片手に大樹の木ノ下でグレデンデとその従者が待っていた。非常に姫様に似た美少女がお辞儀をし、私の従者インフェに近寄る。
「インフェさん。こんにちは。初めてではないですが………ご挨拶を再度。ネフィアです。フィアと呼んでください。姫様と同じ名前ですが………私は姫様と同じではないのです」
「インフェです。使用人をしております。フィアさん………移動しましょうか」
「はい」
二人は席を外してくれる。私は支援者のグレデンデにお礼と、これからの話をした。そして………決まったあとに無駄話をする。
「姫様から、私はあなたに似ていると言われました」
「そうですか。そんなことはないでしょう?」
「『口調と落ち着きが』と」
「…………はははは!! 騙せているんですね!!」
「そうですね」
「ええ!! いやぁ~姫様の前で思いをぶつけるのをどれだけ我慢したか!!」
私は吸血鬼だが司教をやっている。しかし、ここまで盲信は出来てはいない。
「はは、いやぁ~すいません。取り乱しました」
「いいえ。でっ……フィアは影武者にさせるのですか?」
「影武者にさせますよ。いつか、戻ってきた時用に。それと………ネフィアの名で。善行を行っていきます」
「わかった。ここの都市での布教はやめることにするよ」
「ありがとうございます」
彼は盲信している。姫様に。そして………姫様を非常に高位な存在と信じて疑わない。
「太陽に賛辞あれ」
「愛の女神から愛あれ」
新しい宗教が少しづつ魔国に広がっている。
*
「ただいま」
「おかえりなさい」
私は玄関の速足で向かい。彼の剣を受け取った。壁にかける。トキヤはそのままリビングへと入りソファーに座った。
「トキヤさん。トキヤさん」
「ん? なんだ?」
「今日はインフェさんとセレファさんが来ました」
「ああ、ギルドにも顔を出してたな」
「インフェさん人形で可愛いんですよ‼」
「ありゃ~ご主人の趣味だな」
「ですよね~可愛い」
「………ネフィア。今の生活楽しいか?」
「ん? どうしました?」
「俺は楽しい」
「私も楽しいですよ………」
「そっか…………うん。わかった。お前の好きにするといい」
「なんですか? それ」
「………なんでもない」
トキヤは含んだ言い方をし、静かに笑うのだ。言われないとわからない。だけど、彼は何かを考えている。考えて私に任せると言っているのだ。
「トキヤ~教えてよ」
私は彼を後ろから抱き締め。囁く。
「教えてくれたら………今晩頑張るけどなぁ」
「……魔王に復帰したいか?」
「…………全然」
「それなら……お前の好きにすればいいさ」
「なーんだ。『トレインだめだなぁ』て言われてるんだ。なら私でもダメですよ」
きっと、誰も魔王はできない。魔国は広いのだ。そして、魔王はすげ替えが簡単に出来る。強さで決まる。
「ネフィア。今夜は頑張るんだな」
「うん……いいですよ」
「覚悟しろ。寝かせないから」
「……はい。覚悟します」
深く繋がって抱き締めてくれるから。覚悟なんかいらず全てを受け入れよう思う。今夜は………激しそうだ。




