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都市ヘルカイト⑲ エルフ族長の訪問..


 家ではトキヤの帰りを大好きな童話を知っている人物でキャラを変えて読んで待っていると誰かが訪ねてきた。慌てて本を閉じ背筋を張る。


 妄想から現実に戻された私は非常に恥ずかしい思いのまま玄関に顔を出した。よだれをふく。


 顔を出した玄関では鏡で見た私そっくりの女の子がおり、驚く。そして隣を見ると騎士の礼服軽装をしたエルフ族長が笑顔で立っている。呪いの品々を贈ってきたご本人様登場で私は拳を握しめた。その笑顔に苛立ちを覚える。


「あら………こんにちは可愛い人。あと、エルフ族長グレデンデ!! あなたねぇ!! 呪いの品贈りすぎ」


「姫様………申し訳ありません。ですが………姫様以外に処理出来る方も少ないですので仕方ないのです。お金はお支払いしております」


「…………まぁそうね。でも断りも入れず贈ってきたのは許せない」


「はい。良くわかっております。ですのでお詫びの品と謝りに来ました」


 女の子が恐る恐る木の箱を渡す。渡された木の箱にはイチゴが入っていた。


「えっ? あら………」


「あと、こちら。金貨です。本当に助かりました」


 私は金貨の入った袋を受けとる。手にズシッと来る重さにビックリする。


「えっ? こんなに!?」


「いえいえ………ほんの一部ですよ」


 ニコニコと笑う。お金で解決しようとするのは些か癪だが。「終わったことだし」と思う。


「まぁいいでしょう。許しますよ」


「姫様、ありがとうございます」


「ありがとうございます…………姫様」


 女の子とエルフ族長が頭を下げた。まぁ愚痴を言い過ぎても………女の子は関係ないし可愛そうなのでここまでで切ることにした。それよりも気になることがある。


「お二人さん。お茶でも飲みませんか?」


「いただきましょう」


「………」


「ふーん」


 この私に似た女の子、意思が薄い。


「お邪魔します」


「お邪魔します………」


「ええ、どうぞ」


 私は二人をリビングへ案内し、台所へ立つ。いつもの茶葉でいつもの動作でいつものお茶菓子を用意する。二人はテーブル席に座り私を待つ。


「はい、どうぞ」


「いただきます」


「いただきます………」


 私の分は淹れない。飲んでしまったからだ。それよりもチビチビと飲み。用意したクッキーを少しかじる私のそっくりさんを眺める。無言の時間が過ぎる。


「美味しいですか?」


「………はい。美味しいです」


「そっか………よかった」


 にっこり笑ってあげるが顔を伏せてしまう。恥ずかしいのかもしれない。


「姫様………色々。実は頼みごとがありまして。ヘルカイトの領主様に私をご紹介してほしいのです」


「それが目的ね。族長がこんな辺境まで来るんだから」


「辺境? こんな立派な都市が? ご冗談を。新興都市ヘルカイト。今、話題ですよ。特に木になる実が美味とか」


「私は好きじゃないかなぁ~変な気分になるの」


 ユグドラ汁。流行ってるのかしら。


「いいわ。紹介する。今すぐ行きましょう」


「姫様、彼女は置いておいて良いですか?」


「いいですよ。ソファーでくつろいでも」


「ははは。ええ………いい子にしてるんだよ」


「はい、ご主人様」


 私たちは立ち上がり。彼女を置いて領主に会いに行く、彼女を置いて。





 領主へ向かう本通り。出店や、呼び掛けが多く賑わっている。皆、私を見るや挨拶して「買って買って」とせがまれた。まぁ冗談で噂話や領主の悪口から面白話をしたい、という人ばかりだ。種族も多種多様に富んでいる。変わり者が多いのが特徴だ。


「本当に賑わってますね。あとご友人が多いのですね姫様は」


「皆と話を色々ね。それよりも姫様姫様と言うのやめませんか?」


「すいません、姫様………あっ」


「ふふふ……無理そうですね」


「面目ない」


 エルフ族長も大分柔らかくなった。昔は四天王一角で魔国を睨み付けていたのに変わったものだ。私は色んな人に挨拶しながら………本題を話す。


「ヘルカイト領主に会って何するつもり?」


「秘密ですが………宗教を少し」


「宗教?」


「教会をご存知ですね。あれです………」


「ふーん。あなたも聖職者?」


「いいえ、信者です」


「そっか。愛は偉大だもんね」


「もちろん」


 手を上げてハイタッチする。私は今までの事を全部許した。


「じゃぁ………次。こっちの方が知りたい本題だけど。あの子はもしかして?」


「ええ、姫様を模した奴隷です。トレインは彼女の下で摂政を行い。彼女に魔剣のレプリカ贈呈式を行い。捨てる予定だったんです。毒殺でね。まぁそれは全部、姫様が譲位したから良かったのです」


「彼は用が無くなったからあなたが譲り受けたのね」


「ええ」


「………でも元気が無かったね」


「知ってます。いつもビクビクしていまして……虐められていた事を忘れられないのでしょう」


 エルフ族長が頭を抱えた。


「何度も話かけてるんですが………あまり元気にはなってくれません」


「そう………」


 元奴隷。何かされていても不思議ではない。私たちはその会話を深く掘り下げながら歩き領主の館まで出向いた。領主に謁見し、後日また会議を開いてくれるそうだ。領主は心が広く大きく飛び込みでも許してくれて、それに私は感謝しながら家に帰るのだった。






「ただいま………あれ?」


 俺は仕事を早めに切り上げて帰宅した。重役が来ると連絡があったからだ。


 お帰りの挨拶をするといつもなら可愛い嫁が出迎えてくれるがそんな気配はしない。靴を見ると嫁の靴がなく。新しい靴がある。買ったが履いていないのだろうなと思う。


 物静かな玄関、この時間は買い物にでも出掛けたのだろうか。


「………!?」


 リビングに椅子に座る嫁が居た。ピシッと身を縮めて座っている。小動物のような雰囲気だ。


 挨拶がなく眠っていたのだろう。俺はいたずらを行う事を決め近寄る。優しく起こすために。今日はお人形のようなドレスで少しお洒落しているが気にせず触る。


「ネフィア~ただいまぁ~」


 むにゅう


 後ろから胸を揉む。だが、なぜか、いつもと違うと感じた。


「………んん??」


 いつもより柔らかく小さく乳房も位置が違う。しゃがんで腰や、太ももを触る。再度立ち上がり抱き付いて見た。ネフィアらしき女性が怯えた表情で振り向く。


「…………んんん!?」


「ただいまぁ~あっトキヤ帰って…………」


 俺はネフィアではない女性を抱き締めながらご本人がリビングに入って固まる。その背後に今日来る予定の重役。エルフ族長が顔を出して腹を抱えて笑っていた。


「どうしたのト・キ・ヤ?」


「ええっとこれは………その………」


 慌てて離れる。ヤバイ、口元笑ってるけど目が笑ってない。


「ま、まて!! 起こる前に彼女に謝らせてくれ。間違えて色々してしまったんだ。えっと………君。名前はわからないけど………すいませんでした」


 土下座して、間違った少女に頭を下げる。


「うん………大丈夫………です。なれてます」


「すいませんでした………」


「…………はぁ。トキヤ、まぁ今回は!! 許しましょう。間違ったのは仕方がないです」


「あっ………いや………多分途中で気が付いた」


「確信犯ですかぁ? トキヤあぁ」


「違う!! 色々やっちまって!! あああ!! 余計なことを俺はあああ!!」


「…………何したか後で聞かせてね?」


「………はい」


 ネフィア怒ると怖いが、凛々しい姿で怒る姿は「綺麗であまり苦にならない」と「俺はきっと変わってるんだなぁ」と考えた。怒っても可愛いは犯罪だ。


「何でにやけるの?」


「あっ……いや。まぁ色々………凛々しくて可愛いなって」


「…………許しませんよ?」


「いいよ。一人で満足するから」


 そのあと少しネチネチ言われて日が暮れた。エルフ族長に止めてもらい開放される。エルフ族長には感謝し、そして酒を誘われたので二人で酒場へ向かう。彼は何か理由があって俺はそれに従い家を出る。





 男二人は飲みに行く。仕事話以上に何故か私と彼女を二人にしたい理由があるのだろう。それがわかり。空気を読んで彼女と二人になる。今日、泊まって行くことも視野にいれる。何故なら鞄も用意されているのだ。エルフ族長は何かを企んでいるが………私は何もわからなかった。


「ご飯。夕飯何か食べる?」


「…………えっと。何でもいいのです」


「好きなものは?」


「お腹に入ればいいです」


 私は悩んでしまう。本当に奴隷として扱われていたようだ。私と違い泣きホクロがあるが………本当に泣いているような錯覚になる。


「…………わかった。待っててね」


 私は静かにエプロンをつけて料理を始めた。






 軽くペンネというパスタで市販の瓶詰めトマトソースを和えるだけの簡単な料理をした。私に似た彼女はしっかりと残さず食べてくれた。


「美味しかった?」


「えっと……はい………姫様」


 ちょっと明るく姫様と呼ぶ。食器を片付けて紅茶を用意し、無言を貫く。彼女は喋ろうとし、黙り。でも喋ろうとする。何かを言いたいのは何となくわかっていた。食事の時も私を見ては伏せていたから。


「えっと………姫様」


「なぁに?」


「…………どうして………私は姫様と違うんでしょう」


 私に似た女の子は喋り出す。名前は無い女の子が喋り出す。


「あの………ええっと…………どうして………私は幸せになれないのでしょう………どうして姫様と同じ容姿なのに………こんなに差があるんでしょうか?」


 唐突に言い出す彼女の嘆きは………自分の不幸を呪う言葉だった。


「…………いっぱい色んな事をされました。いっぱい色んな事を聞いてきました。なのになんでこんなにも婬魔の姫様と違うんでしょうか?」


「……………そうね。違うわね」


「…………妬ましいです」


「ふふ。そう………羨ましい?」


「……はい」


「うん。答えは本当に残酷だけど生まれた場所、それからの人生、そして運。すべて平等ではないの。残酷だけどね」


「…………」


 きゅっと彼女の顔が辛そうな顔になる。同じ私の顔でそれは何となく懐かしさを覚えた。辛かった時の顔を。


「名前………無いんだったよね?」


「はい、ご主人様はつけてはくださいません」


「それは寂しいわね」


 後で問いただそう。エルフ族長を。


「ねぇ、そう思わない? ネフィアちゃん」


「えっ?」


「名前無いなら。私がつける。ネフィア………いい名前でしょ?」


「えっと!?………姫様の名前ですよね? そ、そんな奴隷と同じ名前なんて」


「ネフィア。そんなに自分を卑下しないの」


「!?」


 私は微笑む。何かの縁だ。同じ彼女には笑ってほしい。


「姫様………えっと」


「ご主人様は優しい?」


「は、はい………優しいです。今までのご主人様たちよりずっと」


「じゃぁ………エルフ族長にお願いするわ。『あなたを幸せにしてあげて』と」


「えっと………そんな………」


「幸せになりたいんでしょ?」


「………そうですけど」


「なら、きっかけは作ってあげる。だけど、そこからは努力をしなさい。エルフ族長の元で愛される努力を」


「は、はい………ありがとうございます」


 私は何となく彼が私に託した理由がわかった気がする。きっかけを作って欲しかったのだ。


「ネフィアちゃん、風呂入って布団に一緒に入って童話でもお話ししてあげるよ」


「姫様がですか!?」


「そう」


「ど、奴隷で………」


「ネフィア。今からあなたは『奴隷』と自分で言うのを禁止にするわ。命令」


「は、はい………」


「ネフィアと言うこといいね?」


「はい」


 少しづつ明るくなっていく。希望が見えたのだろう。そう…………小さな希望が。





 ギルドの酒場。俺は酒を含んで嗜む。


「ネフィア、上手くやるかな?」


「姫様で変わらないなら。お手上げです」


「………ご執心だな」


「ご執心と言うよりも……あそこまで似ている女性を無為には出来ませんでした。頑張った結果でしょう」


「………あれも婬魔だよな」


「ええ。お気づきですか?」


「婬魔の恐ろしさにな」


「ええ、恐ろしい。変化出来る力は」


「だから婬魔か、相手の理想を自分に投影し形を変えていく」


「姫様の『愛が深い種族』というのも納得です」


「…………」


 俺は何となく気が付いていた。ネフィアの近くで。


「婬魔が虐げられるのも無理はない話です。魅力的な雌は色んな種族で邪魔です。雄を奪われる。だから危険で嫌われてるんです。しかし、まぁいつかはそれも失くなっていくでしょうね」


「なぁ教えてくれ。お前はまだ夢を追いかけるのか?」


 ネフィアを「魔王にしたい夢」を俺は聞く。


「はい………諦めておりません。神託がありましたよ」


「妄言か」


「いいえ、直接会いましたから」


「?」


「教会をご存知ですね?」


「ああ」


 インバスの都市にある宗教集団だ。愛の女神を信奉し、末永く一緒にいることを望む者が集まる場所。


「現れたんです。女神が」


「………頭がイカれた?」


「いいえ。引き寄せられるように…………姫様によく似て、お美しい方でした。少し破廉恥な姿でした」


「女神………嘘はよくない」


「まぁいずれですね。教会を作りますし出会いますよ、きっと」


「そうかぁ………いるのか………」


 俺の中に何故か納得している自分がいる。本能的と言えばいいのか。体の感覚では女神はいることを知っていた。考えでは「居ない」と思っているのにも関わらずだ。


「俺は嫌だが、ネフィアは喜ぶな」


「ええ、喜ぶでしょうね」


 俺たちはゆっくりと時間を過ごす。皆が寝静まる時間まで。





 深夜、玄関をゆっくりあける。寝静まった家ではやはり、物音はせず。魔法で聞く限り寝息が聞こえた。音を消しながら階段を上がり寝室へ行くと。ダブルベットに寝間着姿で抱き合って寝ている二人がいる。俺は穏やかな気持ちで嫁を撫でる。


「エルフ族長の言う通りか」


 1階へ降り俺はソファで横になった。まだ寒い時期なので暖炉に火をくべる。魔力炉なので火をくべると言うよりも魔力を流して火を出させるみたいな物だ。


「起きたときどうなるだろうな」


 目を閉じて自分は酒場での会話を思い出しながら眠りついた。







 朝起きてソファーで寝ているトキヤさんに御礼をいい。ネフィアちゃんに朝食をお出しする。


 朝食後、トキヤの隣にネフィアちゃんがソファーに座りエルフ族長のお迎えを待つ。トキヤが私との出会いを語って彼女を楽しませ時間を潰す。トキヤは家を遅く出るようだ。音の魔法でエルフ族長が来るのを待ち、玄関前に来たところで私は玄関へ向かう。


「エルフ族長」


「おっと、おはようございます。姫様………何故、今来られるとお分かりに?」


「魔法よ魔法。それより、私と来てほしい。話がある」


 自分はエルフ族長と一緒に路地裏へ移動した。移動した先で頭を下げる。


「エルフ族長。領主に取り合った御礼をください」


「ああ、そんな頭を下げないでください。もちろんご用意させていただきます。あまり大きな金額は見込めませんけど」


「いいえ、お金がほしい訳じゃないの。あの子に対してお願いがある」


「何でしょう?」


「幸せにしてあげて。ただそれだけ…………そんな贅沢とかじゃなくていいから」


「………奴隷ですよ?」


「………あなたはそんなこと言う人なのね。ショックです」


「あっ……いえ。すいません。試したんです。すいません」


「言い訳はどうでもいい。それよりも報酬はネフィアを大切にしてね。仕事もしっかりと教えて」


「姫様?」


「名前無かったのでしょう。『ネフィア』て名乗らせたわ。私と一緒、姫様と尊敬するなら。蔑ろに出来ない名前ね」


「はは、そういう事ですね。わかりました引き受けます。ネフィアさんは責任もって相手をします」


「ありがとう」


 偽善者と言われるだろう。でも同じ婬魔、同じ顔に容姿の子の幸せを願ってもバチは当たらないだろう。私は彼女と出会ったのだから。


「いいえ、最初からそのつもりでした。いい名前です」


「でしょ!! 私も大好き。名付け親………私の世界で一番愛しい人だから」


 新しい私に幸が多からんことを。





 久しぶりに出会って感じる。姫様は姫様だった。尊敬する姫様であった。私は奴隷だった女の子。ネフィアと言う名前の女の子を引き取る。たった1日で彼女には笑顔が浮かんでいた。年相応の可愛らしい笑顔。


「ネフィア……姫様はどうだった?」


「はい!! 私みたいな子と分け隔てる事なく優しくしてくださいましたご主人様」


「良かったですね。ネフィア」


 私は名前を呼び続ける。ネフィアと。


「ご主人様………お優しいですね。すごく」


「どうしたのです?」


「いえ、今まで。ありがとうございます。気にかけていただいて嬉しい限りです」


「そうですか」


 彼女の頭を撫でる。私はそこまで素晴らしい人ではない。何故なら。


「ネフィア。帰ったらしっかりと仕事を教え込みます。大変ですが頑張ってください。仕事を覚えれば自立も出来るでしょう」


 残念だがそれはさせない。彼女に首輪をつける。私は偽善者だ。私の物として働かせる。


「ありがとうございます!! ご主人様!!」


「お礼はいりません………仕事で誠意を見せていただければ大丈夫。奴隷のような仕打ちはないです。私が許しません。姫様と約束しました。君を幸せにすると」


「姫様が!?」


「ええ、あなたは運がいい。ネフィア………まるで姫様のように」


 自分は彼女を使う。道具として。いつか罵られようとも…………私は彼女を使う。


「ありがとうございます!! ご主人様……感謝してもしきれない程に」


 無垢な少女は嬉しそうに微笑えんだ。「いつかは私の右腕になってもらわないとな」とも考える。


 似ている彼女は影武者として利用できる。だからこそ姫様に合わせた。


「私も姫様みたいな………人に近付けるよう頑張ります」


「ええ、期待してます。誰よりも」


 姫様を見てそれに近づければ…………姫様居なくとも動ける。己の野心のために。この子を利用する。





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