表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/732

都市ヘルカイト⑬ 天国の塔..


 空から多くの岩槍が降り注ぐのが見えた。ドラゴンゾンビである私の体に幾つもの槍が突き刺さり肉を抉る。腐蝕のブレスを吐いても溶けきれずに突き抜けた。肉盾として役割は出来る筈だが、中々数が多い。


「私の下へ!!」


 私は槍を受け止めながら押し戻される。ゾンビの体を生かし肉壁となる。砕けようと裂けようと修復され何度も槍を肉で抜きながら耐える。あえて抜かずに盾にもする。


「くぅ!! 迎撃か!!」


「数が多い!! 兄貴!!」


「どけ!! ナスティ!! 吹き飛ばす!!」


「私ごと!! やりなさい!!」


 私は背後から膨大な熱量を感じ、体が炭化するのを感じる。ヘルカイトの大口からブレス、熱線が吐き出され私を巻き込み槍の雨に穴を開ける。そのまま私の体が再生し空を見上げ、塔を見上げる。


「遠い!!」


「兄貴!! 僕が穴開けた所から行く!!」


「ま、まて!! 坊主!! 一回だけじゃ無理だ」


「待ちなさい!!」


 私の背後からワイバーンが勢いよく飛び出し空を目指す。背後に魔方陣を展開し魔力の噴射で昇っていった。声が届かない程の爆音。ワイバーンの周りに輪が生まれそれを突き抜けた後に大きな音と衝撃波が空に響き渡る。


「くそ!! 速いのも問題だな!! 声さえ置いてくからな」


「でも!! あれなら穴をくぐって………」


 遠くに行ってしまったワイバーン。しかし、第2、第3の岩槍の雨が降り注いでいるのが見え、なんとかかわしながら昇る。


「行けるか?」


「あっ!?」


 ワイバーンの翼に槍が刺さる。横からの唐突な突出によってぶつかり。切り盛りしながら槍と共に落ちてきた。翼が破れている。


「あの馬鹿!!」


「速度が早かったからカウンターのようになったのよ!! 落ちるわ!!」


 二人でワイバーンの元へ飛ぶ。落ちて来た彼をヘルカイトが受け止め。私は上になり肉壁を継続する。


「あほか!!」


「ご、ごめん。助かった。行けると思ったのになぁ~」


「うぅぐ!! だめ!! 数が多い!! 受け止めきれない!! 熱線まだ!!」


「まだ!! 無理だ!! 連発出来ねぇ」


 多くの岩槍が私を削る。再生よりはやく削る。このままじゃ二人に当たる。この魔法は威力が高く鱗を突き抜けのだ。だからこそ、この塔は竜に危険と判断されている。


 じゅわっ………グウウウウウウウ!!


十二翼の爆炎(じゅうによくのツバサ)


 ガガガガガ!!


 魔力の高なりと一緒に私の目の前で火の魔力球何個も現れ、膨脹し爆発する。槍の雨を一帯吹き飛ばし、岩がくだけ散った。


 そして……背後から、赤い竜が抜き正面に立って咆哮をあげた。


「なっさけない。あんたたちエルダードラゴンでしょ!!」


「竜姉!!」


「火竜ボルケーノ!! どうして!?」


「………気になったからな。デラスティ!! 男なら!! そんな槍で飛べなくなるな!! お前はその程度か!! ヘルカイトも!! 長年戦わずで鈍ったかぁ!?」


「………厳しいよ竜姉」


「うっさいぞ!! 隠居のババァに言われたくねぇ!!」


「だったら!! こんな槍ぐらい!! 吹き飛ばせ!!」


 ワイバーンは槍の破けた翼で飛ぶ。全く影響はないようだ。


「わかったよ竜姉!! 腐竜の姉ちゃん!! 兄貴!! 今度は頂上に行くよ!! だから!! 道を作って!!」


 私たちは頷いた。そして、小さな体のワイバーンに託す。上の魔法の主を倒すことを期待して。





「愚かな!?」


 自分は狼狽える。外の奴もそうだが中のやつら。あれがかけ上がってくる。


「なんなんだ!? あいつら!!」


 瞳を通して見る姿に驚く。メンバーは変わってな

い。だが、勢いがある。特に先頭の女。


「何故倒せん!?」


 最初は後方支援や魔法での援護が主だった。しかし今は白い鎧に炎の翼を翻しゴーレム等の邪魔を倒さずすり抜けて上がってくる。罠も全てかわされる。前もって罠があることをわかっているかのように鋭い勘を持っていた。


「くっ!! やめろ!! 塔を!! 上がってくるな!!」


 自分は焦り出す。汚されてしまう、邪魔をされてしまう。


「やめろおおおおおおお!!」


 叫ぶが目の前の女は真っ直ぐ止まること知らない。炎の翼で跳びながら。





「ね、ネフィア!! 速い!!」


「ネフィア姉さま!! 待って!!」


「ネフィアさん!! 一人で出すぎです!!」


「皆はゆっくりでいい!! 私は………彼に………会わなくちゃいけない気がするの!!」


 階段を駆け足と跳び越えで進む。真っ直ぐ。塔を進んでいくとわかった事がある。上には行けば行くだけ生活感の名残を。この塔は誰かと住んでいたことを。もう一人。居たことを。


「何故だ!! 何故上がってくる!!」


 悲痛な声が耳に入る。背後の瞳が私を追う。


「もう一人!! 誰がいたの!!」


「なぜそれを!?」


「私を!! 呼んでいるから!!」


 声が聞こえる。仲間の声とは違う。女性の声。「彼を救ってと」言う嘆きが。


「何が聞こえるんだ!? 何が見えるんだ!?」


「女性の声と!! あなたを止めるように!!」


「女性の声………女性の声だと!?」


「忘れた!? あなたが天国へ目指す理由を!!」


「……………理由」


 声の主が静かに唸る。私は駆け上がる。呼び声に導かれ。そして………到達した。


 一面の青空。雲一つ無い晴天。冬空の透き通った空気を吸い込む。背中の炎を仕舞いながら深いローブを被った魔術師に対峙する。顔は見えない黒い影が顔を隠す。その脇に………白骨し風化した骨が転がっていた。


 風は無い。きっと魔法で防いでいるのだろう。


「はぁはぁ………」


「くっ………登り詰めたか」


「ええ。素晴らしい景色ね」


「………お前は何故。ここまで上がってきた」


「セア……」


「セ……ア……」


「思い出さない? そこにいるのに………いいえ、ずっと居た」


 ローブの男は頭を抱える。


「セ………ア………」


「塔を護る理由は? 塔を伸ばす理由は?」


「天国へ至るために。護る理由は護らなければ………護らなければ………」


「退いて………」


 彼の横を抜けて風化した骨を拾う。骨の主は「セア」と言う。彼女が私に教えてくれた。


「その、骨……ああなんだったか……」


「長い時があなたを風化させた。もう一度思い出しなさい」


「………くぅ!! 思い出せない!! 重要な事を!!」


「…………思い出して。彼女を」


 思い出してほしい。


「彼女……セア……セア!!」


 ローブの男が膝をつく。


「わ、私はいったい!? まだついていない!! まだついていないのか!! あああセア!!」


「………思い出した?」


「ああ、ああ。思い出した!! 思い出した!! ああいったいどれだけたった? いったいどれだけたったんだ!!」


「………」


「はぁはぁ……私はどうやって天国へ行けるんだ………どうやって………彼女にまた逢えるだ……」


「セアさんは私を呼びました」


「きみ!? そうだ!! どうやって名前を知った!!」


 私は手を上げ指を空に向ける。


「私は聖職者です。愛の女神を信奉しております」


「か、彼女は!? 彼女は天国へ行けたのか!?」


「いいえ、まだ空であなたを待っています」


「待っている!? まだ!? 私を? リッチを!? 死ぬことが出来ない私を!! そんな!!」


 ローブの男が杖を落とす。そして私の足元へ。


「教えてくれ!! 彼女はどこに!!」


「……会いたいですか?」


「会いたい!! もう一度!!」


「では、目を閉じてください」


 私はローブを外し骸骨の頭に手を乗せる。そして、一言。


「フェニックス。歪んだ輪廻焼ききれ」


 手から炎が彼を包む。その彼に抱くように一人の女性が現れた。


「あ、ああ………こんな近くに。天国へ行こうと思ったのに。こんな近くに……き………み………が………」


ガシャン!!


 骸骨が崩れ落ちくだけ散る。彼女の遺骨も風化して交ざりあい。魔法がとけ風が靡き灰を空高く舞い上げる。


「彼等に祝福を」


 膝をつき手を合わせて祈る。何も知らないが………塔の理由は悲しいことぐらいわかる。私は皆が来るまでそうしていた。





 上空へ雲より高く塔の天辺に僕は到着した。ワイバーンの非力な体で槍の雨を抜けた先。綺麗な光景を目にした。幻のような。


 そして一人の女性が祈りを捧げている。大きな白い翼を広げ。周りに白い羽が舞う。僕は目を擦る。


 何もない。ネフィアお姉さんがいるだけ。でも確かに一瞬…………そう見えた。


「?」


 僕は首を傾げながら縁に降り立った。ちょうど槍の雨が収まり。何か起こった事だけがわかる。


「ネフィアお姉さん?」


 声をかけるとネフィアお姉さんは立ち上がる。綺麗な顔は悲しそうな、伏し目がちで、下をみている。


「デラスティくん。来たんだね……全て終わったよ」


「何があったの?」


「………リッチを浄化した」


「そっか!! 流石ねぇさん」


「ええ………ふぅ。皆さんまだですかね?」


「もうじき来ると思う?」


「ふふ!! たっぷり報酬貰わないとね!!」


 ネフィアお姉さんがいつもの優しい笑みになる。そして、階段からトキヤの兄さんが現れた瞬間。お姉さんはすでに彼の胸へと飛び込むのだった。






 知らないところで知らないことが起き、知らないうちに解決する。塔の頂上に登りきった彼ら皆が私に説明を求めた。


 トキヤに抱きついているのを離れ。四方をドラゴンに囲まれる。威圧的な光景だか、彼等は知り合いだからこそ安心できる。


「ネフィア………何があったんだ?」


「女神から信託がありました」


「信託?」


 私は頷いた。私は感じる。強く、私の背後にいる女神の存在を。皆が私の言葉を待つ。


「ここに居たのは過去、この土地を治めていたリッチキング。彼の寝城がこの塔の最上階。正室と一緒に住んでいたみたいです」


 私は塔を駆け上がる間にこの塔の過去を覗き見た。ナスティが地図の赤いラインを記入したあの場所は過去の建物が立っていた場所。今は砂になってしまっている。砂漠は魔法によって草木を生やすことを許されない場所となっている。わかる。わかってしまう。


 頭の中に勝手に知識を刷り込まれた物語を語る。


「そして、正室が死に………リッチキングはもう一度、会いたいとの一心で塔を作った。リッチキングは死ねない事と天国へ行く事が出来ないと考えたから。しかし、時は無惨に彼を忘れさせる。塔の意味もなにもかも………いつしかリッチキングは動かなくなり。時がたって冒険者が現れ。目覚めたの」


「俺たちが家捜しをするからか………」


「一応は愛しい人と住んでいた場所。本能か体が覚えていたのでしょうね。だから墓荒らしは嫌われるのよ。ドラゴンの迎撃は都市を護るための防衛装置みたいね………ここに都市を隠してドラゴンの目から盗んで繁栄。しかし……時は無情にも何も残さなかった。砂を掘ればあるかもね。昔の名残が」


 私は話終えて周りを確認した。


「ネフィア。ではその主は何処へ? ワシは領主………非礼を言わなくては」


 天に指を差す。


「二人仲良く天に召しました。ここには誰もいません。ただの塔です」


 強くはっきりと宣言する。


「冒険者が探ればいいと思います。もう、終わったのです。きっと、沢山………彼等の物が見つかるでしょう」


「いいのか?」


「ええ………それがセアと言う女性の報酬ですから」


 声の主は二人だった。そして………願いは叶えた。


「帰りましょう。洗濯しなくちゃね」


 明るい声を出し。私は先に階段を降りる。心は晴天のように軽く。そして「ありがとう」と言う彼女の御礼と共に。

 










 






 

 






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ