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都市ヘルカイト②~腐竜ナスティ、防腐剤の農場..


 昨日。俺はヘルカイトから腐竜ナスティに交渉してほしいと頼まれ、ネフィアも「用事がある」と言い。オークの商人に会いに来た。


 商人は商業区にある、商会の建物で仕事をしているらしい。待合室で椅子に座り壁に貼り付けられている大きな地図を見ながら待つこと数分後、彼は現れた。小太りのオークだ。


「ああ!! お久しぶりです。母娘共々お世話になりました」


「こんちは。トンヤ」


「こんにちは。トンヤさん」


「いやぁ~お二人の活躍は聞いてます聞いてます‼ 特に!! ここを教えていただきありがとうございました。全ての商売を掌握出来る権利は素晴らしいです。それに娘もしっかり根を張ることができました。本当に!! ここを教えていただきありがとうございます!! ありがとうございます!!」


 商人らしく捲し立てる。ライバルいない場所だからこそ、素晴らしい商売地なのだろう。


「そこまで喜んでくださいますと嬉しい限りです。で………その………トキヤさんがですね」


「ああ、話を伺っています。これがここら一帯の地図です」


 待合室の壁にかけられている地図。非常に大きな地図だ。誰が描いたか知らないが、素晴らしい出来である。


「娘が一晩で書きまして、今の冒険者たちがこれを複写して探検をしています。そして、ここに彼女はいるのです」


「彼女?」


 地図を指差した、カルデラの大きい泉の縁にいるらしい。農業地と書かれている。そして、俺は疑問に思った。


「いま、『彼女』て言ったか?」


「はい。素晴らしく凛々しい女性です」


 おかしい。俺の喰った魂記憶では男だった記憶がある。ドラゴンゾンビは雄だった。


「何百人かのアンデッドの部下を持ち。畑を持っております。それを『利用させて欲しい』とお願いしたいのです。無駄に育てているようでした」


「はぁ………まぁいいけど」


 俺の知っている奴じゃないのか。ネフィアが首を傾げて聞いてくる。


「お話、終わりました? 向かいます?」


「ああ、わかった。向かおう」


「トキヤさん。それはいいんですが一つ聞きたいことあるんです。トンヤさんに」


「なんでしょうか? 答えられる範囲でお応えします」


「ええっと………ユグドラシルちゃんに私は会いました」


「ええ、娘から聞いております。会いに行ったと」


「ヘルカイトからユグドラ汁をいただきました」


 サッ!!


 オークの商人が顔を逸らす。そしてネフィアは問い詰める。


「それって道徳的にどうなんですか?」


「わ、私はですね。娘から実が取れる事は驚きましたが……その。『売るために作る』と言うので………まぁええっと。申し訳ない。売れる商品なんです。目を瞑ってください。皆はユグドラシルがドリアードとは知らないのです」


 心境は複雑なのだろう。だが、彼は金を取った。


「…………まぁ。手伝うために成長したんでしょうけど」


「も、もちろん!! 私は口にしておりません!! 娘の液を飲めるほど……おかしくはないです‼」


「その娘の液を皆が『うまいうまい』と飲むんですよ?」


「娘が喜んでますので………ええ。目を瞑っています。複雑なんですよ。同じ種族ではないですからね。植物と生体は違います。価値観も違います」


「娘は生体ですよね?」


「もう、よしてください。わかってます。ですが…………うまいんですよ。あれ、もう止められないでしょうね」


「飲んだの?」


「娘が持ってきた時に………ええ。見つけて来たと言って騙されましたよ」


 娘もやり手である。黙っていたのだ。


「ああ、俺。なんか複雑だな。ネフィアの体からの液と考えるとな………」


「それ、いいですね………トキヤのだと思うとゾクゾクします。悪くないですね」


「やめろよ!? ネフィア!?」


「はぁ、姫様も娘と同じですかぁ。娘も一部の男性に教えてるそうです……」


「冗談ですよ~」


「やる気だったろ」


「もちろん」


「はぁ……トンヤありがとう。交渉行ってくる」


「はい。いい報告を期待します」


 俺は呆れながら商会を後にした。まぁ遠い場所だが。半日でつくだろう。一度家に戻り、仕度をして都市を出るのだった。





 舗装されていない土道を進む。深い森、山を登る。ネフィアはドレイクに乗り、俺は手綱を引きながら進む。予想より険しい。寒い時期だが、風の魔法によるベールで寒さは感じない。汗をかかないように調整はする。


「ワンちゃん……私を背負って登るの大丈夫?」


「ワン!!」


「喋っていいぞ? もう、誰も見てない」


「問題ないです。ご主人」


 深い、渋い声がドレイクから発せられる。


「大変になったら言ってね?」


「大丈夫です。姫様」


「そう?」


「心配しすぎです。我はエルダードラゴンです。そこいらのドレイクとは違うんですよ」


 鼻息を荒くして喋るドレイク。黙っていた理由は嫌われたくないから、らしいが。杞憂に終わる。喋れる事を知ったネフィアは抱きつきながら喜んでいたし。「流石私のワンちゃん」と胸を張っていた。


「まぁ………俺もワンはそのままで居てくれてありがたかったよ。考えてみればワンて鳴くのもおかしいし、ドレイクにしては力強いし体が大きい、怪しい事は多かったんだけどなぁ~」


「触りたくてウズウズしていたのは笑いそうになった」


「やめろ!! 忘れろ!! 仕方ないだろ!! ドレイクって馬より格好いいしな………」


「トキヤ!! 分かる!! 馬より格好いいよね!!」


 ネフィアが拳を握ってウンウンと頷く。


「いやぁ~愛されてるなぁワシ」


「畜生、知り合いだったなんて分かりっこないぞ………まぁ、もう、家族だし。今更だけどな」


「だねぇ~ワンちゃんは家族だよ。例え喋っても」


「…………」


 ドレイクが顔をそむけた。


「照れてるのか?」


「ワンちゃん~前見ないと危ないよぉ~」


「…………照れるぞ」


 新しい仲間みたいに増え、何とも楽しく道を進んだ。







 凍ったカルデラ湖の縁に平たい平原が広がっていた。ゴツゴツした火山岩も転がり、ここが火山地帯なのを思い出させてくれる。


 トキヤが複写した地図を広げながら指を差して凍った湖の浜を歩く。整備されているのか浜には草木は生えていない。それどころか…………湖の中心に向かって桟橋もあり。誰かが文明的な生活している事が伺えた。


 空も今さっきまで野生のドラゴン、怪鳥、ワイバーン等々が飛んでいたいたのに一切、魔物が姿を見せない。魔物が避けているのがわかる。


「あっ見えた」


 トキヤが平原を指差すと石で組まれた屋敷が見えた。人間か何なのかわからない生物が畑を手入れしている。冬でも生える野草なのだろう。蒼い葉を持っている。


「あれ、なに?」


「わからん」


 近付くとそれが作業服を着た亞人なのが分かる。種族はなんだろうか。肌は青いが。


「ん? そちら誰ぞ?」


「ええっと。腐竜ナスティに会いに来ました」


「ナスティお嬢様にか………ええぞ。都市ヘルカイトから来たのだろう」


「ええ、ヘルカイトが忙しくて代理で来ました」


「そうかぁそうかぁ………お嬢様も残念に思うなぁ」


「すいません………」


「いやいや、忙しいでしょ。ではお屋敷に案内します」


 私らは畑を横切り、屋敷へと足を踏み入れる。香水の強い匂いが鼻についた。ドレイクは表で待たせる。


「ああ、すいません。腐ったゾンビが多く。防腐剤も多くて多くて」


「ゾンビ?」


「ええ、ゾンビです。一度死んだが、何故か色々あった者たちが集っております。他にも転々と屋敷がございます」


「こんな辺境に………」


「辺境だからこそ、狩られる心配はないのですよ。私たちは人間魔族両方から魔物と同じ扱いですから。ここまで来るのも一握りですがね」


 屋敷を進むと女性のゾンビもいて、ビックリする。私が許しを得て触れると冷たかった。やはり死体なのだとわかる。冬は特に辛いらしい。冷え性なため。


「こちらです」


 案内され、入った部屋は待ち合い室で軽く装飾され。あまり何処とも代わり映えのしない待ち合い室だった。暖炉が焚かれ、私たちはソファーに座る。


「少し寒いですが、ここでお待ちください。暖かい紅茶をご用意します。寒い場合は魔力ストーブの火力上げてくださいね」


「………ど、どうも」


 何とも、辺境とは思えぬ場所。


「トキヤ………幻とかじゃないよね?」


「どうだろ?」


「イタタタ!! トキヤ!! なんで私をつまむの!?」


「かわいいから」


「なら、許す!! 痛いから夢じゃない」


「………お前、夢魔だよな。わかるだろ」


「そ、そうだった」


 夢なら分かるのだ。種族特性で。


「つままれ損」


「つまみ得」


 二人でイチャイチャしていると外の廊下で足音が聞こえ、慌てて離れる。お上品にお上品に。


「………お嬢様、こちらに使者が」


「わかった」


 扉を開け、黒髪の中性的な人は男服。執事服を着て長い黒髪を束ねて真後ろに下ろしていた。そして真面目な顔で入ってくる。使用人は別の方であり執事服を着て、紅茶を手早く紅茶を注ぎ、すぐに部屋を出た。


 黒髪の男っぽい人はソファーにスッと座り、足を交差させる。なんとも格好いい仕草をする。


「私が腐竜ナスティだ。ヘルカイトからはるばる来ていただき……………………」


 挨拶を途中で区切り慌てて立ち上がる。そして指を差した。


「お、お前!? 鋼竜ウルツァイト!? なんでお前が!?」


「おっ!! 分かるのか」


「魂が、いや………混ざっているな? 魂喰らいか。情けない。人間ごときに負けて喰われたか。しかし、綺麗に混ざりあっているな。もう別人じゃないか」


「ええっと、まぁ。今はトキヤ・ネロリリスって言うんだ。こっちが俺の嫁」


「ネフィア・ネロリリスです」


「嫁だと!?…………うむ。あの糞坊主が。時代は変わったのだな」


「あれから何年経っていると思っているんだ?」


「さぁ、知らないな」


 ゆっくり座り直し膝に手をつきながらナスティは喋り始める。


「ヘルカイトは………その………元気か?」


 私は驚く。真面目に話す仕草等で頭に電撃が走る。これは……もしや。そして私は顔を伏せる。


「ヘルカイト………重病なんです。あと、1年ほどかも………でもだから一生懸命で一日でも早く…………『都市を発展させたい』と言ってました」


「な、なに!? あのヘルカイトが!?」


「ネ、ネフィア!?」


「トキヤ、驚いてるけど黙っていてもダメよ………嘘はだめ」


「い、いや………そうじゃなくって」


「い、1年。そんな、バカな話が……」


「ですから、交渉に出てこれません」


「…………そうだったのだな」


 綺麗なため息を吐く。麗人は頭を振って悲しみを表現した。


「黙っていろと言われているんだろ………よく話してくれた。お礼を言おう」


「嘘です」


 沈黙が部屋を満たす。なのでもう一回言う。


「嘘です」


「……………」


「本当に嘘です」


「ネフィア………えっと………その」


「……………………へ?」


 男装の麗人が私を見る。初対面で嘘を吐かれてなんと言おうか迷っている。なので私から切り口を入れた。にやっと笑い。女の勘が騒ぐ。


「良かったですね。愛おしい人が健康で」


「!?」


「ネフィア!? どういうことだ!?」


「簡単ですよ‼ この人、ヘルカイトに恋情抱いてます!! それもそうとう重いです」


 指差し、トキヤの耳元で何故わかったかを囁く。


「ネ、ネフィア本当か!? しかし、腐竜は男だった筈」


「目の前に男だったのがいるでしょ? 何かがあって女になったんだよきっと。理由はそう色々あるはず」


「しかし、天敵って言ってたし………確かに昔はヘルカイトとよく喧嘩してたのは見てたけど」


「まぁそこはご本人に聞きましょ。ね?」


 トキヤと二人で目を閉じている腐竜を眺める。ゆっくり声を出し、腐竜が覚悟の一言を言い放つ。


「ええ、ヘルカイトは気になるわ。それも………女になってまで」


「あっホモ?」


「トキヤさん。女ですよ。私と同じですよ」


「ホモと言われればそうだ。まぁ、私はどちらでも気にしない」


 なんか、凄くさわやかにカミングアウト。


「現に私はヘルカイトが好きです。それ以上に何もないわ」


「うわぁ!? マジかぁ!? ワンに後で言おう。面白い」


「えっと………腐竜ナスティさん。ヘルカイトさん来なくて残念でしたね」


「ええ、残念………どうして避けるのかしら?」


「直接聞けばいいじゃないか? 直接」


「トキヤさん。直接聞けないから呼んだんですよ。見た目のわりに度胸無いんですよ」


「ああ…………なるほど」


「ちょっと、ウル。そこの女を黙らせて。嫁でしょう?」


「いや、めっちゃ楽しいので『このまま』と言いたいが。こっちも頼まれてるんでね」


 ヘルカイトが書いた書簡を手渡す。


「…………農場ねぇ。防腐剤用の農園以外に作っているの知っているのね」


「ええ。交渉………どうですか?」


「ふん。ヘルカイトが来なさい。それからよ」


「トキヤ。もう2度とヘルカイトに会えないね」


「ああ、会えなくなるな」


「…………どういう事よ」


 二人で頷く。


「ヘルカイトに報告して金輪際、口聞いてくれなくなっても知らない」


「俺なら、『一生口を聞かないこと』を助言するな」


「あとは『ヘルカイトのことをバカにしてた』って報告する?」


「『殺したい』て言ってたし、伝えないと」


「「さぁ!! 帰ろう!!」」


 二人で立ち上がる。慌てて腐竜は立つ。


「待ちなさい!! 待ちなさい!!」


「「んん~?」」


「あなたたち!! ふざけないで!!」


「ふざけてないですよ。大真面目」


「足下見てるだけ」


「く、喰えない人ね………」


 腐竜ラスティが怒りを見せるが、諦めたのか、ため息を吐き。羽ペンを持ってきて書簡にサインをする。


「はぁ………とんだ疫病神ね」


「まぁまぁ。ありがとうな。ラスティ」


「ラスティさん。ありがとう‼ でっラスティさん」


 私は彼女にある提案をする。彼女は最初、悩んでいたが決心をつける。自分達はすぐさま都市へ帰るのだった。






 ヘルカイトの領主が住まう場所。私たちは日がくれる前に到着できた。ラスティの助けによって飛んで帰って来れたのだ。ヘルカイトの執務室へ勢い良く入る。


「ヘルカイト!! 契約取ってきたぞ!!」


「おおおお!! やったか!!」


「ああ!!」


 トキヤが書簡を投げつけ、それをヘルカイトが掴み読む。


「よし!! 良いだろう‼ 駄賃だな」


「いや、駄賃いらねぇ。それよりお前に会いたいやつがいるんだって」


「…………会いたいやつ? いや、いや!? まておい!! まっさか!?」


 ヘルカイトが窓から逃げようとするのをトキヤが手をつかんで阻止する。私は窓の前へ立った。


「離せ!! 頼む!! くっそ!! 力がある!? そんな馬鹿な!?」


「鍛えてるから。腐竜ラスティ!! 捕まえたぞ」


カツン、カツン。


 ヒールの音が廊下から部屋へ響く。扉を開け、彼女は姿を現す。


「久しぶりヘルカイト」


「お、おう!」


 ヘルカイトが大人しくなる。


「…………」


「…………」


「どうして避けるの?」


 ヘルカイトはラスティに背中を見せため息を吐く。


「お前、男だろ」


「いいえ」


「いいや!! 男だろ!!」


「何処を見て言ってるの? ないわよ」


「いいや!! 男だ!!」


「…………はぁ。あなたのために私はあれを切除して。ドラゴン死体から子宮を移植したのに。何故!! 振り向いてくれない!!」


 私はドン引きした。トキヤも感じたのか「ヒエッ」と声を出す。考えてみればドラゴンゾンビ。ツギハギのドラゴン。聞けば心臓部分以外は全部もう赤の他人の体らしいのだ。考えてみればおぞましい。


「いや、お前……前まで男だったじゃないか」


「男でフラれたのではないでしょう‼ あのときから体は変えていた!! 滅びが来るまでにお前の子を残すのが私の使命だ」


「くぅ。変わらず。気色悪い」


「気色悪い………うぅぐ。ああ、そうだよ。ドラゴンゾンビだもんな」


「いや、いや………お前立派な男」


「くぅ!! これを見ても男と言い張るか!!」


「トキヤ!! 目を閉じて!!」


「わかってる!!」


 いきなり、腐竜ラスティが脱ぎ始める。私はジロジロと観察した。細い、胸もあまりない。所々にツギハギがあるスレンダーな女性だ。凄くウエストが細い。綺麗なスタイルだ。


「ヘルカイト!! こっちを向け!!」


「向けるか!! 脱いだろお前!!」


「………脱いだよ」


 ピトッ


「お前はいつもそうだ。見てくれない………逃げる。嫌う……くっそ………わかってたんだ。何度だってそうなるって………傷付くのにな……くそ………」


 ヘルカイトの背中に触れ、泣き出す。最初は勢いに引いていたが。なんとも、女の子らしい激情だった事が伺えた。お腹一杯である。


「………ぐぅ………泣くな。俺の好敵手だろ」


「うぅぅ………う。好敵手より………違う関係がいい………」


「ああ、トキヤ。でよでよ」


「お、おう……ここまで激しいの見ると胸焼けする」


「胸焼けするねぇ~」


 私たちはけっこう呑気だった。あとは二人に任せる。





 



 






 



 





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