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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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日本へ

気付くと俺はアミの傍から一歩も動いていなかった。


「アミ、待たせたな……今、お兄様が治してやるぞ」

 お姫様抱っこで、アミを抱き上げる。腹部に負担を掛けないようにそっと持ち上げる。

(軽いな……こんな細い体で、痛みを我慢していたのか……)

 アミの体は驚く程軽くて、このままどこかに飛んで行ってしまいそうな不安にかられた。


「……お……兄様?……」

 余程不安だったらしく、アミが俺の袖をギュッと掴んだ。その力も徐々に弱まって行き、今では悲しいくらいに弱々しい。


「ああ、俺だ。少しだけ我慢してれば、お兄様が何とかしてやるからな」

 アミを心配させないように、わざと明るく振る舞う。

 先に進もうしたが、野次馬が歩みを遮る。顔を見るとマリーナ達のボランティアに参加しているガキ共だった……ヘタレなゴマすり野郎、未成年貴族の間では、そう言われているらしい。下手に警戒されるより、見くびられていた方が色々とやりやすい。だから俺はパーティーに参加している時は、わざと噂通りのジョージを演じる事もあった……でも、今はそんな余裕はない。


「どけ。怪我したくなきゃ、道を開けろ」

 爵位なんて関係ない。目の前にいるガキを睨み付けて、道を作る。


「アミッ‼ジョージ様、アミは……」

 アミの実母ルミアさんが駆けつけてきた。必死に駆けてきたらしく、息は荒く顔中汗だらけだ。パーティー会場で走る行為は、退場させられても文句は言えない無作法である。しかし、今は実の娘が倒れたと言う非常事態だ。誰もルミアさんを咎める人はいなかった。


「腹壊しだそうです……でも、安心して下さい。俺が何とかします」

 ルミアさんを落ち着かせる為に、敢えてゆっくりと話す。ルミアさんが息を整えていると、周囲がざわつき始めた。その視線はルミアさんが走って来た方向に向けられている。その視線を辿って行くとアランがいた。ルミアさんとは対照的にゆっくりとした足取りで近づいてくる。でも、アランはアミを気に掛ける様子はない。


「腹壊しは、不治の病だぞ。金で何とかなる病気じゃない……ルミア、俺は戻るぞ」

 アランの態度は貴族としては合格だろう。貴族の娘は他家に嫁ぎ、誼を深める事を義務付けられている。不治の病に掛かったアミはアコーギ家にとって、不要な存在になったのだ。


「俺はアミの兄ですから、自分に出来る事はなんでもするつもりですよ……俺の配下を呼んで、馬車を回すように言ってくれ」

 領主として見ても俺よりアランの判断の方が正しい。領主の一番の責務は生き延び跡継ぎをつくる事だ。もし、子がいないまま領主が死んだら、一族の中から新しい領主が選ばれる。もし、一族の中に適当な者がいなければ、他家の者が領主となり前領主の一族は追放されてしまう。下手すりゃ騎士や文官も追放となる。

 妹の為に戻れる保証のない異世界に行くのは、貴族としても領主としても失格だろう。

 俺は、ボーブルに戻ると同時に緊急会議を開いた。呼んだのはボルフ先生、サンダ先生、ロッコーさん、ギリルさん、ミューエさん、オデットさんの六人。

「さっきミケからお告げがありました。アミを治すには、俺が前世で住んでいた世界に行く必要があるそうです……日本に行けるのは全部で、六人。俺とアミを除けば四人となります」

 異世界で過ごすストレスは俺が良く知っている。行ってみたいって奇特な人以外は連れて行かない方が良いだろう。ましてや領主権限で連れて行くなんてもってのほかだ。爺ちゃんを連れて行きたいが、二週間も留守にするのは不可能だと思う。


「日本に行けばアミ様の腹壊しは治るのか?」

 ボルフ先生もいつになく真剣だ。いや、ここにいる全員がアミを治る事を必死に願っている。


「腹壊しは俺の世界じゃ盲腸って呼ばれています。正確には虫垂炎と言って盲腸に付いている虫垂と呼ばれる部分が炎症を起こす病気なんですよ。昔は虫垂を切除する事が多かったそうですが、今は薬で対処する事の方が多いそうです。どっちにしろ、死亡する確率は低いです」

 日本は食糧事情が良いから、虫垂を切除しても問題ないらしいがオリゾンの食糧事情を考えると二の足を踏んでしまう。アミの命には代えられないから、悩む必要はないんだけど。


「随分とお詳しいのですね。ジョージ様はニホンで医学の勉強をなされていたのですか?腹壊しを治せる薬があるとは信じられません」

 神官であるロッコー先生は医学の造詣が深い。今まで盲腸に罹患した人を救えなかったロッコーにしてみれば眉唾物の話のだろう。今アミはロッコーさんが睡眠魔法を掛けてくれて、ぐっすりと眠っている。


「友人に医者がいたから知っているだけですよ。前に言いましたが俺が住んでいた地球には魔法がありません。だから医療や工業が発展したんですよ」

 飲みでの何気ない会話が役に立つ日が来るとは……谷に感謝しなくては。


「その……お金は大丈夫なのですか。そんな素晴らしい薬は高価なのではないでしょうか?」

 サンダ先生は神官であると同時に文官だ。物によっては目が飛び出る程、高価な薬があるので心配なんだろう。


「保険は使えないので高額になると思いますが、俺の貯金でなんとかなると思います……他にあてもありますし」 

 待てよ、あれを金に換えるのもいいかもしれない。金貨も持っていくけど、あれも持っていってみよう。


「マリーナ君やアニエス君を連れて行けば、ジョージ殿に対する誤解が解けるのではないだろうか?」

 ミューエさんは俺の誤解を解こうと、マリーナ達に接触してくれたそうだ。結果はあまり芳しくなく、手詰まり状態らしい。


「それは止した方が良いでしょう。下手をすればジョージ様に何かが憑りついていると騒がれますよ」

 俺は悪霊か⁉本当のジョージにしてみれば悪霊以外のなんでもないんだけど。でも、ロッコーさんの言う通りマリーナ達を連れて行くのは得策じゃない。キミテはCM放映をしているから、ゲームをしない人でもマリーナ達ヒロインの顔を知っている。下手すりゃ大騒ぎになってしまう。


「技術が発展しているのであれば工業ギルドの者を連れて行ってはどうでしょうか?例えばアミ様と御年が近いリリル・ハンマー辺りが適当かと」

 ギリルさんの言う通り、日本の技術を導入するメリットは大きい。


「俺の世界の技術は使い方によっては、想像出来ないような惨劇を生むんですよ。ミューエさん、軍人ならフライングシップをどう使いますか?」

 ミューエさんの指導のお陰でボーブル軍は驚く程、強力になった。今やボーブルでミューエさんの軍才を疑う者はいない。


「あの高さで飛べるなら、敵の軍容を知る事が出来る。斥候として使うのが妥当だな」


「ええ、俺の世界でも最初は純粋に空への憧れから、空を飛ぶ機械飛行機が作られました。そしてミューエさんの言う通り、斥候として運用されたそうです。でも、ある軍がとんでもない事を思いついた。上空から攻撃すれば敵に大打撃を与えられると……敵陣に爆発系のマジックアイテムを落としたら、どうなると思いますか?」

 その惨劇を想像して会議場にいた全員の顔色が悪くなる。


「自軍の捕虜も巻き込んでしまうな……爆発系マジックアイテムの効果範囲は狭いから、開発が進むと思う」


「それだけじゃありません。俺達の世界では、爆発系のマジックアイテムの事を爆弾と呼んでいます。爆弾は軍人も民衆も関係なく惨劇に巻き込みます。むしろ逃げ足が遅い老人や子供が被害にあうんですよ……爆発系のマジックアイテムの改良を禁止しても火系の魔石保管庫に松明を落としたら、どうなると思いますか?事前に油を撒いておけば、さらに被害は拡大するでしょうね……事実、俺のいた世界ではそういう悲劇が数多く起きています」

 ふとした瞬間にリリルが漏らしてしまい、レコルトに爆弾の概念が広がる危険性は否定出来ない。それにあんなロリドワーフと一緒にいたら、通報される危険性がある。見た目が小学生のリリルの『ジョージ様、部屋に泊まっても良い?』なんて言葉を聞かれたらお巡りさんが飛んで来かねない。


「技術の導入はジョージ様に一任するのが宜しいかと思います。今回、必要なのはアミ様の身の世話をする人物、それとジョージ様の警護をする者ですね」

 オデットさんの言う通り、アミの身の世話をしてくれる人物は必須だ。完全看護でも、下着や生理用品は身内が揃えなきゃいけない。いくら親しいお兄様とは言え、アミにブラのサイズを聞くのはまずいし。


「警護は必要ないですよ。日本には魔物はいませんし、向こうの世界じゃ、俺はただの勤め人(リーマン)なんですから」


「前はだろ?今のお前は領主って事を忘れるな。俺は着いて行くぜ。サンダはどうする?」

 

「異世界を見る機会なんてありませんからね。ジョージ様が駄目だと言っても着いていきますよ……ジョージ様、ヴェルデ君を同行させてみてはいかがでしょうか?彼の商才は役に立つと思いますが」

正直、サンダ先生とボルフ先生が付いてきてくれるのは心強い。


「日本で商売するには、許可や資格が必要なんですよ。ヴェルデには本かなにかを買って来ます……後はアミの世話をしてくる人材ですね」


「それでしたら、私がお供します。カトリーヌ様には私が事情を説明しますので。もう一人も私に任せて頂いて宜しいでしょうか?」

 オデットさんならアミの事を任せても心配ない。多分、もう一人はオデットさんの部下だろう。


「お任せして良いですか?出発は明日の昼過ぎにします。ロッコーさん、ギリルさん留守を頼みます。お土産に期待して下さい」

 俺は出発の準備をしなきゃいけない。転売用の金貨にドライマナツリーの蜂蜜漬け、そして俺のとっておきの品を持っていく。


 荷物を整えて部屋を出たら、何故かカリナがいた……どうやって誤魔化そう。


「えーと、良い天気だな……あれか、食堂のツケの回収に来たのか?」


「ツケの回収で、こんな所まで来られる訳ないだろ?オデット先生から話は聞いたよ……アミ様を救う為、異世界に行くんだってね。アタイも付いてくよ」


「ジョージ様と親しくアミ様と年が近い女性はカリナしかおりませんので……事情は私が話しました」

 カリナの背後から現れたオデットさんがしれっとした顔で告げる。言い返してやろうと思いオデットさんを見たらマジ睨みされました……がちで怖いです。


「前世の記憶か……不思議な話もあるもんだね。でも、これであんたが親父臭い理由が分かったよ。異世界の料理も覚えたいし、文句ないよね」

 言葉遣いは男っぽいが、カリナはそんじょそこらのモデルより整った顔をしている。目立たないように配慮しなくては……痴漢にあったら相手をボコボコにしてしまいそうだし。


「倉庫に魔石が運び込まれたそうですから、行きますよ」

 親父な俺を見てカリナにドン引きされないか心配です。

 倉庫には関係者が待っていた。アミはルミアさんに支えられて何とか立っている。


「ジョージ様、神使様からお話を聞きました。アミの為とはいえ申し訳ございません」

 ルミアさんは俺を見るなり深々と頭を下げてきた……神使様⁉


「これで役者が揃ったの。ほな、いくで。向こうに行く奴は、その円の中に入り」

 天井を見ると、素知らぬ顔をして説明をするミケがいた。色々言いたい事はあるが、時間が勿体ない。それに神使は見るだけでも不敬にあたるって人もいるそうだ。普段の口調で話したら、問題になるだろう。黙って指定された円に向かうと、母さんが近付いてきた。


「ジョージ、向こうの御両親によろしく言ってね。それと貴方はお兄ちゃんなんだから、きちんとアミちゃんの事を守りなさい」

 駄神使(ミケ)へ、誰にどこまで言ったんだ。ミケを睨むとわざとらしく、口笛を吹いて誤魔化された。アミはルミアさんからオデットさんにバトンタッチ……寂しいが、向こうの俺とアミは血が繋がっていないので、妥当である。


「いくで……ニャロエム、エサイム。ニャエム、餌は高いのを頼むで。ニャンコは求め訴えたり。それじゃ、行ってこい……カリカリ買ってきたら、まじシバキするで」

 お前(ニャンコ)が求めたのは餌じゃねえか。

 気が付くと俺はオレンジ色の外灯の下に立っていた。そこは飲み会の帰りにショートカットしようとした道の入り口である。そしてスーツもそのままだった。

 そう、俺は榕木丈治に戻っていたのだ。スマホを見てみると、時間はあの時から一分しか経っていない


(夢を見ていたのか?それにしては随分と長い夢だったな)

 感慨に耽っていると、腹の肉を思いっきり掴まれた。


「お前、この腹はまずいだろ。中年太りってやつか……しかし、老けたな」

 俺の腹を掴んだのはボルフ先生だ。見ると、転移したみんながそこにいた。


ある意味、一話から続きとなります

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