テッラ台地のスライム君
テッラ台地に出没する魔物は土属性が殆どで、攻撃力と防御力が高いのが特徴だ。まともにくらってしまえば、骨折は免れないだろう。ゲームでは防御力が高い鎧を勧めていた。でも、フルアーマーなんて装備したら、動きが鈍くなり恰好の的になってしまう。
「ジョージ殿は、随分と変わった装備で戦うのだな……」
俺の恰好を見たミューエさんが呆気に取られている。正確には制作を担当したリリル以外が驚いていた。
「ヘルメットとツナギ服、それに安全靴です。武器は、このつるはしを使います」
ファスナーの再現が難しいので、ツナギはボタン式。安全靴は革靴に鉄板を組み込んでもらった。ちなみに黄色いヘルメットには漢字で防武流と書いてある。
「ジョージ様から注文をもらった時はー呆れましたけどー、公共事業部門の人に大人気なんですよー。特に安全靴はみんな頼んでますよー」
俺の曖昧な指示でも、きちんと再現してくれるリリルの技術力はまじで凄いと思う。伝説の剣を打つしか出番がない鍛冶師より、よっぽど有能だ。
「ジョージ様はつるはしを武器に選んだのですか?貴族なので大剣かレイピアで戦うと、自分は思っていました」
ヘゥーボの言う通り、貴族は大剣やレイピアを武器に選ぶ奴が多い。でも岩のような外殻を持つテッラ台地の魔物にレイピアでダメージを与えるのは至難の業だと思う。なによりつるはしは、ある物を採取するのに必要なのだ。
「大剣やレイピアの方が有効な時はそっちを選ぶさ。適材適所、人も武器も長所を活かせる場所で使わないとな」
ちなみに今回もオリジナル魔法を作ってきた。威力はしょぼいが使い方によって、戦いを有利に進める事が出来ると思う。
「適材適所ですか……ジョージ様は魔法を使えないエルフを雇うとしたら、どう使いますか?」
ヘゥーボの顔はいつになく真剣だ。瞬きもせずに、俺の目をじっと見つめている。冗談ではぐらかしたりしたら、信頼を一気に失ってしまうだろう……魔法を使えないエルフか。呪文を覚えられないとみるべきか。それとも魔力がないんだろうか?
「んな事言われても、その人と会わないと何も分からねえよ。本人の希望もあるしな」
エルフだからって、無理に魔法が関係する部署で働かなくても良いと思う。字が綺麗なら事務方で雇いたいし、エルフは見た目が良いから受付けに配属しても良いだろう。
「自分の姉なのですが、生まれつき魔法を使えないのですよ。その所為で自分達は、故郷を追い出されたのです。魔法を使えないエルフは欠陥品だって言われて……幸い、コーナーリバー叔父さんが助けてくれたので、王都で暮らせるようになりましたけど」
ヘゥーボはそう言うと唇をギュッと噛み締めながら、足元に目線を移した。ヘゥーボのグリグリ眼鏡の奥で、涙が光って見える。きっとヘゥーボは涙を見せまいと、必死に堪えているのだろう。リリルは、そんなヘウーボに、優しくそっと寄り添っていた。
リリルさんの目力が凄いです。僕のヘウーボを傷付けたら、分かっているよねって目で訴えている。
「だから、マジックアイテムを作ろうと思ったのか」
ヘゥーボのグリグリ眼鏡は、必死にマジックアイテムの勉強をした証だ。
「自分は、マージ姉さんでも使えるマジックアイテムを作りたかったのです。マージ姉さんや自分達を馬鹿にした奴らを見返したかったのです」
ヘゥーボの涙がポツリポツリと、フライングシップの床に落ちて行く。自分の無力さに対する悔しさと、姉への優しさが混じった穢れのない涙だ。
……まずい、ヘゥーボが良い子過ぎて俺の涙腺も崩壊しそうだ。三十を過ぎてから、涙脆くなった感じがする。転生する前は、家族写真が流れる保険会社のCMを見ただけでもホロリとなっていたし。
「取り敢えず、マージさんに履歴書を書いてもらって提出してくれ。話はそれからだ……さあ、テッラ台地に行くぞ」
袖で強引に涙を拭って、運転席に座る。エンジンを始動させたけど涙で曇って、前が見えません。まずい、このままでは泣いたのがばれてしまう。
「リリルさん、ヘゥーボ君を休ませてもらえますか?ミューエ、テッラ台地の景観は素晴らしいと聞いています。良かったら、一緒に甲板に行きませんか?」
サンダ先生、ナイスアシストです。二人が甲板に出て行ったのを確認してハンカチで涙を拭う。
ふと外を見るとミューエさんがサンダ先生の涙を拭っていた……あれ、もしかして今回は俺が余り者なの?
◇
サンダ先生が言うだけあって、テッラ台地は中々の迫力だった。山の上に広がる平原。フライングシップがあるから楽々と来られたけど、徒歩で登ったら大変だと思う。
実際、ゲームでもテッラ台地に着くまで結構な時間が掛かる。でも、安心して下さい。イベントをクリアすれば、ショートカット出来るようになります。ゲームでもラノベでも、ある程度のご都合主義が必要だと思う。
(例の場所は……だいたい、この辺りだな)
俺のフライングシップは駐船スペースさえあれば、どこにでも停める事が出来る。フライングシップとしては小型だから、これはかなりありがたい。
もし、ゲームのようにテッラ台地に徒歩で登るとしたら最低でも丸一日は掛かると思う。そうなると野外設営の準備も必要になってくる。重い荷物を持っての登山、しかも戦闘付きなのだ。正直、勘弁して欲しい。
(しかし、帰りは素材も持って、この山道を降りなきゃいけないんだよな。レア素材を手に入れた帰り道で、滑落して死亡なんて笑えないぞ……ゴンドラを作れば、公共事業第二弾に出来るんじゃないか)
取り敢えず、帰ったら滑車を作ってもらおう。さすがに人が乗れるようなのは簡単に出来ないだろうけど、中継地点を作れば安全に運べるようになると思う。そして今回も簡単な図面を作って、工業ギルドに丸投げである。アイディアと金は出すが、口は出さないのが俺のスタンスだ……素人過ぎて、口を挟めないとも言うが。
フライングシップを停めるのに、丁度良い平地があったのでゆっくりと着陸させる。
「運転ご苦労様です……ジョージ様、テッラ台地にも六魔枢が出るのですか?」
船体が安定するのと、同時にサンダ先生が運転席にやって来た。ミューエさんには、ヘゥーボ達に声を掛けに行ってもらったそうだ。
「テッラ台地に出る六魔枢はパペータ、副将は重戦士のクロガネです」
クロガネは厚さが五センチもあるフルアーマーを身に纏っている。性格は生真面目で、卑怯な策略を嫌い正々堂々とした戦いを好む。土の魔族はパペータを嫌い、クロガネを慕っているって設定だった。
ユーザーから『クロガネはいつも鎧を着ていますが、ご飯はどうやって食べているんですか?』とか『あの重そうな鎧を着たまま登山したんですか?』って質問が寄せられたけどスルーさせてもらいました。そこまで拘っていたら、ゲームは創れません。
「そうですか。テッラ台地には力の強い魔物が多いと聞いておりますので、私が前衛を務めますね」
テッラ台地出現する魔物は序盤ではアーマーゴブリン・ロックボア・バーサーカードワーフ・野良ゴーレム(岩)。中間層は岩石熊・リビングアーマー・野良ゴーレム(鉄)。深層部には地龍・キメラゴーレム・ロックバード・野良ゴーレム(オリハルコン)等が出て来る。どれも攻撃力が強くエルフのヘゥーボだと、一撃で大怪我になりかねない。
「お願いします。今回はお目当ての物を手に入れたら帰ろうと思っていますので」
テッラ台地のサブイベントに注文の多い採掘場というのがある。お約束過ぎるが、金属部分の多い装備を外さないと前に進めないって流れになる。公式設定では強い磁力があるとされていた。銀や銅は磁石にくっつきませんって、つっこみは止めて下さい。
ゲームには容量って物があるんです。きっとどの装備にも鉄が使われていると思って下さい。そう、俺の目当ては磁石である。モーターの再現は無理だろうけど、持っておけば何かに使える筈。
◇
平原を涼しい風が吹き抜けていく。今は見渡す限り荒れ地だけど、昔はここも緑豊かな高原だったそうだ。
「魔物が近付いて来ます……数は三体」
狼人程ではないがオークも嗅覚が優れているそうだ。
「サンダ先生とミューエさんはコンビを組んで戦って下さい。ヘゥーボとリリルは俺と組むぞ……来た‼ロックボアだ」
ロックボアは、岩のような外殻を持つ猪だ。お約束の展開なら肉が美味しいんだけども、ロックボアの肉は土臭くて食えないとの事。味噌があれば、なんとか食えるんだろうか?
「ジョージ様、 僕が前衛をするよー。女の子だけどー、僕もドワーフだから猿人より力が強いんだからー」
リリルが薄い……スレンダーな胸を張ってみせた。今、一瞬笑えない殺気を二つ感じた気がする。ヘゥーボ君、グリグリ眼鏡を光らせるのはやめましょう。
「ちょっと待て……素材は赤土、水分は四十%、直径は約30センチ。目標はロックボアの目と鼻。ジーオボールバージョンドロダンゴ二連‼」
粘り気の強い赤土の泥団子がロックボアの目と鼻を覆う。突然、視覚と嗅覚を奪われたロックボアは混乱していた。素早くロックボアに近付き、首筋目がけてつるはしを振り下ろす。ガンッと甲高い音が響き、ロックボアの外殻が砕け散った。
「ヘゥーボ、剥き出しになった首にハイドロカッターを食らわせろ。リリルは詠唱するヘゥーボの保護を頼む。俺はもう一体を……必要なかったっすね」
一体のロックボアはサンダ先生の杖で圧殺されていたし、もう一体はミューエさんの鞭で絞殺されていた。
「噂には聞いていたけどー、格が違うねー」
サンダ先生もミューエさんもカードゲームで言えばレジェンドレア級だと思う。それに比べて俺は精々ノーマル+級。比較する事自体が間違いだと思う。
「足元とまで言わなくても、せめて足裏には及びたいよな……うん⁉スライム?まじかよ‼」
キミテにはスライムは出て来なかった。ネーミングも姿も使われまくっていて、どうしても他のゲームと被ってしまうのだ。パクリは疑われるだけでも、きついんです。
「あー、トラッシュスライムだよー。アーシックじゃ珍しくないよー。こいつ、倒すのが面倒だし、倒しても魔石を落とさないから嫌われているんだよねー。核を正確に狙わないと文字通りゴミになっちゃうから厄介なのー。ほら、あれがトラッシュスライムのなれの果て」
リリルの指さす先にあったのは、こんもりとした小さな岩。触ってみるとちょっとした弾力があった。リリルの話では、こうなると腐らないし砕くのも難しいらしい。
これはもしかして……つるはしで、地面に穴を穿つ。そこにトラッシュスライムを押し込め、わざと核を外して攻撃する。しばらくするとスライムは穴の形に沿って、固まっていた。
「見つけた、見つけたぞー。サンダ先生、トラッシュスライムを捕まえましょう。磁石とトラッシュスライム、テッラ台地は宝の山じゃないか……スライムちゃーん、どこかなー?つっかまえたー」
トラッシュスライムを捕まえて頬擦りする俺に、みんなドン引きしていた。その後、磁石の原石も無事に手に入れて狂喜乱舞していたらガチで心配された。
フライングシップに戻ると、リリルが深々と溜め息をついた。
「はー、夏休みも後三日だねー」
えっ‼まじ?俺の夏休み三日だけなの?
中々進まずに気分転換にマーサッジに行ったら数時間で書けました。肩がガチガチだったそうです。発売まで後少し……夢ならさめないで欲しい




