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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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ムー君を説得しよう

脳みそをフル回転させて打開策を練る。説得する相手はファルコ伯爵とフェルゼン皇帝。どっちも大物で、小さなミス一つでも命取りになりかねない。

(話す内容は決まった。もう一押し何かがあれば……)

 問題はネルケとサキュバス達の扱いだ。オリゾンでは爺ちゃんという後ろ盾があったから、無茶も通せた。しかし、フェルゼンで爺ちゃんのコネは通用しないと思う。使えるとしたらミケのコネくらいだ。でも、まだミケとの契約は公にしたくない。

 まずは疑問を一つ一つ整理していこう。


「サユリママ、誰にネルケの篭絡を頼まれたのですか?」

 ブリスコラから逃げて来たサユリママ達がネルケの篭絡に時間を割くのは、問題があり過ぎる。何しろネルケはラフィンヌさんがリスクを侵してまでスカウトしようとするくらい魔法抵抗力がある人材だ。食糧の為だけなら、もっと効率の良いターゲットに変えた方が得だと思う。


「ここに逃げて来たのは良いけど、ブリスコラに見つかっちゃったのよ。命を取らない変わりにネルケ君を誘惑しろって言われたの」

 予定では、明日ブリスコラの部下(インキュバス)が成果を見に来る予定だそうだ。それで戦闘力がないのに体を張って俺達を止めようとしたのか。


「でも、なんでブリスコラの目が届くファルコ領内に逃げたんですか?」

 俺ならオリゾンやランドル共和国に逃げる。犯罪者が逃げ込むナイッテク領や闇属性の魔物が多い死霊の森の方が絶対に安全だと思う。


「女の過去には色々あるのよ。私にも若い頃はあったんだから。ムー君、元気にしているかな?」

 何かを思い出すかのように遠くを見つめるサユリママ。察するにフェルゼン帝国の有力者と浅からぬ縁があるのだろう。第一候補はファルコ伯爵。早速、人物記録能力を発動。


ムート・ファルコ、フェルゼン帝国の伯爵……あっさり、ムー君を見つけてしまった。レコルト基礎知識にアクセスしてみると、フェルゼン帝国の貴族は恋愛がご法度だった時期があったらしい。でも経験がないと夫婦生活が円滑に行えないので、サキュバスに筆下しをしてもらっていたとの事。これは何とも有力な情報をゲット出来たではないか。


「もしかしてファルコ伯爵の事を思い出していたんですか?」


「やだー、バレちゃった?ムー君、昔は可愛い顔していたのよ」

 カマを掛けてみたら大正解でした。領主の跡取りと筆下し役のサキュバスという関係だったが、二人は本気で愛し合ったそうだ。しかし、婚姻が認められる訳はなく、涙を飲んで別れたそうだ。そしてそれからフェルゼン帝国では、サキュバスによる筆下し制度が禁止になったらしい。

「素敵な恋をされたのですね。俺なんて婚約者にも嫌われているんですよ。サユリママは昔も綺麗だったと思うから、ファルコ伯爵が羨ましいです」

 まさか異世界で、上司や取り引き先のモテ自慢を聞かされまくった経験が活きるとは思わなかった。


「うん、合格。こういう時、昔は綺麗だったなんて失礼な事をいう人もいるのよねー。女は何歳になっても女なのにね……でも、君もその子の事をそんなに好きじゃないでしょ?」


「ママには敵わないや。そういえばミューエさん、フェルゼン帝国の守護神使様は、どのようなお方なのですか?」

 フェルゼンの神使の情報は厳重に管理されており、その存在は不確かだ。ファルコ伯爵の情報は十分過ぎる程、手に入れたから次の情報収集に移る。なんかカリナがこっちを睨んでいるし。


「アルメー様か?アルメー様は質実剛健なお方で、軍人の手本となるお方だ」


(やっぱりフェルゼンにも、守護神使がいたのか……でも、ゲームでフェルゼンが魔族に襲われた時って、なす術もなく負けたんだよな)

 ジェネラル・グローリーのように国に愛着を持っている神使なら、何かしら抵抗したと思うんだけども。もっとも、ゲームとの相違点が出まくっていているから、過信は禁物だと思う。


「サユリママ、サキュバスって闇の魔石に潜む事って出来るんですか?」


「純度の高い魔石なら大丈夫よ」

 幸いな事に村民は完璧に回復しておらず、俺達とサキュバスのやり取りを見ている第三者はいない。これで証拠隠滅が出来るし、ブリスコラの目も誤魔化す事が出来ると思う。


「ボルフ先生、俺の荷物から闇の魔石を一つと光の魔石をあるだけ持って来てくれますか?」

 マナプラントの育成が順調なお陰で、質の高い魔石を好きなように使える。


「闇の魔石は分かるけど、光の魔石は何に使うんだ?」


「サンダ先生、光の魔石を触媒にして、ここら一帯を浄化して下さい。ミューエさんは、サキュバスは村ごと浄化したと報告してもらえますか?」

 何の準備もせずにあれだの成果を発揮したサンダ先生の浄化魔法だ。ボーブル産の質の高い魔石を使えば、サキュバスの痕跡すら消してくれる筈。


「お任せ下さい農耕神ラブーレよ。その御力で邪悪な気を浄化して下さい。農耕神(ラブーレ)浄化(ライクニング)

 ……結果は凄まじいの一言だった。空気は体がひりつくくらいに浄化されたし、地面には塵一つ落ちていない。


「感謝いたします。貴方達のお陰で村は救われました。これからは神に感謝して、清く正しく生きていきます」

 さっきまで濁っていた村民の目は、赤ん坊の目のように透き通っていた。キラキラ目の村長って何気に怖い。


「確かに、ここにサキュバスは存在出来ねーな。監視役のインキュバスは近付く事も出来ねーぞ。俺も金をくれるって言われても、ここには住みたくねーな」

 ボルフ先生の顔色はかなり悪く、無理しているのが分かる。

「白河の清きに魚も住みかねてもとの濁りの田沼恋しき……か」

 やり過ぎには気をつけよう。


 城に着くなり、ファルコ伯爵に呼び出しをくらった。


「ジョージ殿、イリスの顔がまだ晴れぬのだが、何か思い当たる節はないか?前よりコーカツ公爵は“私の孫、ジョージは中々の切れ者でして将来が楽しみです”と自慢しておられた。イリスと年が近いそなたなら何か分かるであろう」

 爺ちゃん、外国で孫自慢するのは止めて下さい。孫の立場が悪化しています。


「ネルケの事が気になるんでしょうね。伯爵はネルケをどうしようと思っておりますか?」

 良くてネルケ君のみ処刑、下手したら一族全員処刑だろう。でも、それじゃブリスコラの思惑通りになってしまう。


「無論、一族諸共処刑にする。ファルコ家の家名に泥を塗られたのだぞ」

 ……これだからお貴族様は嫌なんだ。自分達が特別な人間で庶民と別物と思っていやがる。


「そんな事をしたらイリス様は生涯笑わなくなりますよ。それどころか自殺しかねません。自分の所為で恋する男が家族諸共殺されてしまうんですからね」

 

「しかし、ベガル殿に対して申し訳が立たぬぞ」

 孫も大事だけど家名も大事と。つまりベガルに対する言い訳が出来れば問題なしと。

 

「イリス様とネルケの接点は庭のみと聞いております。放っておいても、じきに粗が見えて恋は冷めますよ。ベガル様は今回の件で孫は心身共に疲れきっており、とてもベガル殿のもとに嫁げる状態ではありません。しばし時間をもらえないかと言ってみてはどうでしょうか?なによりホートー様もラフィンヌ様もイリス様の事を心から心配されております」

 聞く分にはベガルは純情で恋愛に対してヘタレだ。権力を使って無理矢理婚姻を推し進める事はないだろう。


「しかし、そう上手くいくのかの?それに何の罪に問わないのは統治者としては難しい」


「ネルケとその一族を国外追放にしてはいかがでしょうか?無論、ネルケとその家族は、別々の国に追放とします。政治犯のネルケが、何の後ろ盾もない国に行けばどうなるかは、民衆も分かってくれますよ。ネルケの家族、場合によっては親方もボーブルでお預かりと致しますが」

ラフィンヌさんっていう、強力な後ろ盾があるんだけどね。でも、ファルコ伯爵がネルケを処刑しないんだから、イリスさんは病まないと思う。


「そうしてもらえると助かる。ドルフは腕の良い庭師だし、何より我が家に長年尽くしてくれた忠義者だしな」

 腕の良い庭師ゲットだぜ。ドルフさんにはマナプラントの世話をしてもらおう。


「それとですね、ネルケの住んでいた村がサキュバスの被害に遭っていました。私の部下が浄化したのでもう安心ですよ。それではイリス様の所に行きますか」

 ムー君……ファルコ伯爵の顔が一瞬歪んだ。

 イリスさんの部屋を見ると、彼女がいかに大切にされていたのかが分かる。


「失礼致します。ジョージ・アコーギです。イリス様、こうしてお会いするのは初めてですね」

 まだ数日しか経っていないからなのか、それともネルケの事が心配なのかイリスさんの表情はまだ若干硬い。


「私は皆様からジョージ様のお話を色々とお伺いしておりましたから、初めましてって感じが致しません。この度は本当にありがとうございました」

 イリスさんはそう言うと、俺に向かって深々と頭を下げてきた。ちなみに同室にいたカリナはあからさまに目をそむけている。


「イリス、ネルケの処分が決まった。彼奴は国外追放とする」

 イリスさんの目に涙が浮かぶ、それを見たファルコ伯爵の顔にも苦悶の色が浮かぶ。


「イリス様、大人は分かってくれないと思っておりませんか?そうだとしたら、大きな誤解です。大人は人生を長く生きている分、どうなれば苦しい道のりになるのか分かっているんです。ですから大切な人に嫌われるのを覚悟で安全な道に導こうとするんですよ」

 まあ、こんなのは大人にならないと分からないんだけどね。何でもっと勉強しておかなかったんだと後悔した事だろう。


「おっしゃりたい事は分かりますが」

 イリスさんは、頭で分かっていても感情が付いていかないのかも知れない。


「旅の途中で、ある女性から昔の恋の話を聞きました。彼女は彼氏と種族身分が違う所為で、泣く泣く別れたそうです。でも、その女性は彼氏の事を恨んでいませんでしたよ。今でもムー君は私の胸の中に……」「ジョージ殿、もう夜も遅いです。話はこの辺で終わりにいたしませんか?」

 色々暴露しようとしたらファルコ伯爵にストップを掛けられました。ムー君は家庭教師プレイが好きだったまで言いたかったのに。


「カリナ、例の話はオッケーが出たから、話しておいてくれ」

ネルケが外国で頑張ると聞いたら、イリスさんも前を向いて歩きだすだろう。

  宛てがわれた部屋に戻った俺はまず監視されていないか何度もチェックした。これから行う事を見られたら大問題だ。 

 幸いな事に監視はなく、近くに人の気配も感じられない。

(覚悟を決めるぞ。棒で地面に図形を描くようにして踊るんだよな。グルグル回りながら、踊れば良い筈)

 床に棒を付けてグルグルと回りながら、図形を描いていく。


「出でよ、お腹周りを気にしている猫‼」


「おっさんがやったら、きもいっちゅうねん。それと儂はグラマラス体型な猫ちゃんや‼……それで、今度は何の用や」


「フェルゼン帝国の神使アルメーに頼んで欲しい事がある。以下の三つの事を皇帝に命じろと。一つ目、ネルケの国外追放の容認。二つ目、今回の件でオリゾンと仲違いしない事。三つ目、ミューエ・レオパルドを軍事顧問としてボーブルに長期出張させる事。頼めるか?」

 散々世話になったサンダ先生へのプレゼントだ。


書籍化作業と更新が忙しくて感想を返せていません。申し訳ないです

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