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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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ポイ捨てはいけません

 ミューエ・レオパルドは、フェルゼン帝国出身の軍人だ。武器の鞭はグループ攻撃が出来る上に、ミューエ自身の基本能力も高く使い勝手が良いキャラである。

 その毅然とした性格が女性ユーザーに受けてサブキャラの中では屈指の人気キャラだった。最初は男装で現れ、個別イベントを発生させないと、女性だという事は分からない。

 一番の特徴はパーティーに加入する女性キャラでは数少ない攻略不可能キャラだという事。しかもハーレムプレイをしていると、好感度が激減してしまう。

 そしてお約束であるが、(ジョージ)との相性は最悪に近い。

 ミューエの『自分はお前のような卑怯者が嫌いだ。権力を使って、マリーナ君を束縛する等、侮蔑にしか値しない……いや、血筋しか取り得のない哀れな餓鬼は侮蔑するにも値しないか』という台詞は俺の心を深く抉った。

 ちなみに男の恰好をしていた理由を聞かれると『軍人に性別は関係ない。それに自分は女を捨てた人間だ』と答える。

(待てよ、サンダ先生はレオパルド家の次女って言ったよな。先生はなんでミューエの性別を知っていたんだ)

 あれか、オークだから異性扱いされなかったんだろうか?今までの流れでいくと、俺はミューエにも嫌われると思う。

 でも、サンダ先生の顔を潰すのは嫌だ。サンダ先生は長期休暇を利用してまで、ミューエに会いに行くくらい仲が良い。俺は出来るだけ、ミューエと顔を合わせないようにしよう……これは決して逃げではない。大恩があるサンダ先生への配慮だ。

 ◇

 フライングシップを操縦して早四時間、ミューエと会う前にピンチが訪れた。

(や、やばい……漏れそうだ)

 体中を冷汗が伝っていく……気分転換に蜂蜜水を飲みまくったのが災いしたらしく、尿意を催してしまったのだ。フライングシップを操船出来るのは俺だけだから、航行中はトイレに行けない。

 眼下に広がるのは大海原、幸い波は穏やかだし周囲に船も見えない。休憩を名目にして、着水しよう。

 内線を使って男性陣に連絡を入れる。ピンチは目の前に迫っているが、最低でもホートーの許可を取らないとまずいと思う。


「ジョージ、どうした?」

 ありがたい事に内線に出てくれたのは、ボルフ先生だった。もし、母さんやカリナが出ていたらと思うと、ぞっとする。


「ボルフ先生、小便がしたいから海に降りても良いですか?」

 このフライングシップは快適さが売りらしく、着陸・着水が簡単である。メインパネルに付いているスイッチを押すと、障害物等がない場所に自動で降りてくれるのだ。縦列駐船も楽々出来るのが売りらしい。


「ホートー様から許可が降りたぞ。漏らす前に降りろって言ってたぞ」

 ボルフ先生がニヤニヤしながら、コックピットに入って来た。すかさずメインパネルに付いているスイッチを押したが、何故かモニターにワーニングと表示された。基本、駐車が出来ない場所が近くにない時以外は表示されない筈なんだけど。


「もしかしてあれが原因か……そうすると、偉い便利な船だな。ちょっと待ってろ」

 待てません、もはや一刻の猶予もない。ふと目に入ったのは壺の蓋に使っていたコルク栓……窓の下は大海原だ。俺は無言でパンツのボタンを開けた。


(ボルフ先生、生肉を持って何するつもりだ?)

 モニターに映ったのは甲板に移動したボルフ先生。手には数枚の生肉を持っている。ボルフ先生は、いきなり一枚の肉を海に向かって放り投げた。どうやら中から投げる分には、魔法障壁は邪魔をしないらしい。そしてボルフ先生が続けざまにもう一枚肉を投げ入れた瞬間、水しぶきを上げて何かが飛びかっかって来たのだ。


(うおっ、ビ、ビビった。あれはなんだ?)

 見えたのはデカい口と鋭い牙、そして長い首である……壺君、ありがとう。君の尊い犠牲を俺は忘れない。君がいなければお漏らし領主の汚名が付く所だったよ。

 壺にコルク栓をして海に向かって証拠隠滅(ほうりなげる)。完璧だ、これこそ完全犯罪である。


「どうやら、この辺一帯は海竜種の巣らしいぜ。ジョージ、きついかも知れないがトイレ休憩は……操船中の水分摂取禁止だな」

 ボルフ先生が白い眼で俺を見ている……しかし、何で俺の完全犯罪が暴かれたんだ。


「な、何の事っすか?」

 取り敢えず、動揺がばれないように口笛を吹いてみる。逆に滅茶苦茶怪しいかも知れないけど。


「狼人の鼻をなめんな。それとその粗末な物を早く仕舞え」

 どうやらテンパり過ぎて、物をしまい忘れたらしい……粗末で悪かったな。リアルに泣くぞ。


「一人で暇なんですよ。気を紛らわす為に、つい飲み過ぎちゃいまして」


「下が海だったから良いような物の、人がいたらどうなっていたか分かるか。怪我をしなくても大問題だぞ」

 素焼きの壺とはいえ、この高さから落下したら怪我は免れないだろう。人に当たらなくても辺り一面に汚水が飛び散ってしまう。空を見上げると俺が操船しているフライングシップが飛んでいた……苦情殺到間違いなしだな。


「下が海だから捨てたんですよ。きちんと船がいないか確認しましたし」

 確認したからと言って誉められる行為ではないのは、確かだ。それに今フライングシップを持っているのは、俺だけである……便利な道具程、リスクも付き物だ。


「まっ、王族との話も辛くなってきたから、一・二時間は俺が話し相手になってやるよ……ああ、サンダか。この辺りは海竜種の巣みたいで着水出来ないらしい。ジョージが暇しているから、少しこっちにいるよ……そうしてくれると助かる」

 ボルフ先生は、内線を掛けると助手席に座ってくれた……丁度良い、前から気になっていた事を聞いてみよう。


「前から気になっていたんですけど、種族の違う異性と付き合ったり結婚した人ってうまくいってるんですか?」

 ドンガ・ヴェルデ・ヴァルム、異種族の女性に惚れた奴は多く見てきたが、恋愛的に成功しているって言える奴は少ない。


「狸小僧には悪いが前途多難だろうな。狸人は陽気で多弁。でも兎人は耳が良いからか、静けさを好み口数も少ない。それに種族が違うと、結婚しても別れる確率が高いらしい。飯の好みも生活習慣も違うからな」

 国際結婚でも、四割が離婚するって話を聞いた事がある。

(飯の好みか……そういやボルフ先生は肉が好きだよな)

 人型に進化はしているが、殆どの種族は何がしらか先祖になった動物の特徴を受け継いでいる。身体的特徴もそうだけど、食い物の好みにも影響が見れる。祖先が肉食動物だと肉料理を好み、草食動物だと野菜料理を好む割合が高いそうだ……でも、エルフやドワーフの先祖って何なんだろう。


「オークの人はどんな異性を好むか知っていますか?フェルゼンにいるサンダ先生の知人は猿人の女性らしいんですよ」

 らしいと言うか、もう確定なんだけどね。ボルフ先生に俺が知っているミューエの情報を伝える。サンダ先生もミューエも堅物だから、馬は合うと思うけども……。


「オーク族は見た目より内面を重視するそうだ……ただ、見た目に特徴があるから、他の種族と結婚する事は稀らしい」

 俺も種族だけで差別する気はないが、オーク種の女性を抱けるかと聞かれたら首を横に振ってしまう。


「……サンダ先生はミューエの事をどう思っているでしょうかね。憎からず思っているのは確かなんですけども」


「相手はレオパルド家の娘だろ……不器用猪の事だから、自分の恋心を押し殺して、友達付き合いをしてるのかもな」

 レコルト基礎知識:レオパルド家は、フェルゼン帝国の伯爵家である。代々優れた軍人を輩出しており、皇帝からの信も厚い。また個人の恋愛感情より、家の繁栄を重視する。その為、フェルゼン帝国の殆どの貴族と縁戚関係にある。

 種族どころか一族を乗り越えなきゃいけない恋か……俺なら速攻諦めて、お友達関係になるな。

 ◇

 日も暮れたので、人が近付かない崖下の入り江に着水。場所的には既にフェルゼン帝国領内になるらしい。


「うっー……疲れたー」

 操船席が立ちあがり、体を伸ばす。昼飯は操船しながらバゲットサンドで済ませたので、計七時間近く操船していた。体はバキバキに凝り固まっているし、目も疲れまくってショボショボしている……今は何よりも目薬が欲しい。贅沢を言えば熱い風呂に入って、畳にゴロンと横になりたい。


「ジョージ様、晩御飯はどこで食べますか?」

 飯の知らせに来てくれたヴェルデの顔にも疲れが見えている。サンダ先生の話では、ずっとホートーやラフィンヌさんの話し相手をしていたそうだ。王族や貴族ってやつは、他人に対して気遣いをするって感覚が薄い。他人が自分の為に動いて当然だし、万事優先されるのが当たり前と思っている人の方が多いそうだ。庶民には理解し難い感覚である。


「いつ見つかるか分からないから、ここで食うよ……そういや、商品は何を持って来たんだ」

 目線でヴェルデに助手席に座るように促す。操船席からは満天の星空が見えており、疲れた心を癒してくれる。


「失礼します……魔石のペンダントにドライヤー、ボーブル製の武器と歯ブラシ。それとフェルゼンにある支店から頼まれていたポニーホッパーの薬です」

 ……ポニーホッパーは、仔馬くらいの大きさがあるカマドウマの事だ。戦闘力も高い上に、逃げ足も速いので倒す事が難しい。腸チフスの特効薬で、俺も以前に仕事を頼んだ盗賊に謝礼の品として贈った事がある。盗賊の奥さんが腸チフスに罹ったそうなんだけど、あれってポニーホッパーの体液を使っているんだよな……逆恨みされていない事を祈ろう。


「しっかり商売するんだな……ところでコニーさんはどうしている?ヴ・ェ・ルデ・君。ったく人が胃を痛めて頑張っていたのに、ちゃっかり仲を進展させやがって」

 途端にヴェルデの顔は熟れたトマトのように真っ赤になった。商才は伸びたらしいが、狸小僧は相変わらず初心のようだ。


「そっ、それはえーと……ご飯はコックピットで食べるんですね。ア、アイビスさんに伝えて来ます」

 狸小僧は脱兎の如く逃げて行った……青春してやがるな。そしておじさんは、一人星空を眺めると。操縦席のリクライニングを倒して、体をもたれかける。


(もう少し星座に詳しければ、この世界が何なのか分かったのにな)

 残念ながら俺がパッと見で区別が付くのは、オリオン座と北斗七星くらいだ。それもこんなに星があっては、どれがどれだか分からない。


「よお、お疲れさん。晩飯持って来たぜ。今日のメニューはチキンソテーにマッシュポテト、飲み物はカボチャのポタージュだよ」

 カリナからトレイを受け取り、ポタージュを口に含む。優しい甘さが口の中に広がり、心と体の疲れを癒してくれる。


「あー、生き返る。チキンソテーも、ハーブが利いていて旨いな」

 皮はパリパリだし、付け合わせのマッシュポテトとの相性も抜群だ。ちなみにマッシュポテトは大盛りにしてくれている。


「なんか親父臭いよ。後、どれくらいで目的地に着くんだ」

 中身は親父その物なんで仕方がないと思う。カリナの料理の腕前はかなりの物らしく、ホートーやラフィンヌさんも褒めていたそうだ。いつか味噌や醤油を製造して、カリナに和食を作ってもらいたい。でも、麹が上手く作れないのだ。やはりフライングシップでワノ国に行くしかないのか。


「この調子で行けば明後日の昼頃には着けると思う。陸の上を飛べればもっと早く着けるんだけどな」

 まあ、バレたら元も子もないから、仕方ないけど。


「まさか外国に来るなんて、夢にも思わなかったよ。本当、あんたと知り合ってから予想外の事ばかりだね」

 ホートーから聞いた話では、カリナはラフィンヌさんとも仲良くなったらしい。フェルゼンとランドルの貴族に友人がいる奴なんて、オリゾンの貴族にもそうそういないぞ。


 ◇

 カリナが戻った後も、ボーっと星空を眺めていた。あの星のどれかが地球なんだろうか?誰も答えてくれる訳はなく、聞こえてくるのは波の音だけ……じゃなかった。

 いつの間にか、潮騒の音に混じってウクレレの音色が聞こえてきたのだ。


「海の向こうには、何があるんにゃろ?恋のように甘い果実、君のように美しい花。そこはきっと楽園(パラダイス)。でもね、儂にとってのパラダイスは、君の隣になんだにゃー……アリーナ、調子はどうやー」

 見るとウクレレを持ったミケが船首で熱唱していた……アリーナと言っても、見ているのは俺しかいないだけど。


「お陰で体中が痛いよ。神使様の功徳で、凝りを解消出来ないか?無理なら湿布をくれ」

 高位の神使なら、凝りも一瞬で回復してくれる筈。猫の手マッサージでも良いし。


「儂が凝りを治しても、椅子で寝たら意味がないやろ。しかし、良くそんな所で寝れるの」


「デスマーチは椅子で寝るのが基本だったからな。要は慣れだよ、慣れ」

 時間と床のスペースに余裕がある時は、寝袋を使っていたけど。


「しゃーない優しい神使様がピッタリな物をプレゼントしたる。加齢臭の染み付いた寝袋―」

 ミケが取り出したのは、見覚えがある寝袋。間違いない、あれは……。


「加齢臭が染み込んだ寝袋ってなんだよ。どう見ても俺の私物(ねぶくろ)じゃねえか‼」


「椅子で寝るよりましやろ。ああ、それとお前が捨てた壺はシーサーペントはんの頭に当たったで。かわいそうに、小便入りの壺をぶつけられるなんて……あいつ等は血の匂いや小便の匂いを嗅ぎ分けて、獲物を捕まえるから気つけーや」

 マジか……寝袋にはマジで加齢臭が染み込んでいてダブルで落ち込んでしまった。


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