ジョージのイグニス荒野攻略法
今日は遅番、明日は日勤…正月休みは介護職には無縁です
SEになった専門学校の同級生が、俺はSEじゃなくSZEだと話していた。サービス残業エンジニアの略らしい。さしづめ俺はSZR、サービス残業領主になるんだろうか。
「ボーブルに港を作ろうと思っておりまして、どうかイジワール様にお力添えをお願いしたいのですが」
夕食終了後、俺はボーブルに港を開港する為、イジワール公爵の私室にお邪魔していた。夕食後、ゲストを私室に招くのは良くある事…そこで仕事の話をするのは無粋なんだけども、チャンスは確実に活かしたい…こうやって今度の人生も仕事を中心に回っていくんだろうか
「港だと?ボーブルにもあるじゃねえか」
確かにもボーブルの港はあるが、漁師が小舟を停泊させいるだけの小さな物。それとイジワール公爵、安定の怖さです。
「あれを港と呼んだら笑われますよ。貿易が出来る大きさの港が欲しいんです」
外国との貿易となると国の許可が必要になってくる。普通に申請しても良いんだけど、何事も根回しは大切だ…オリゾンにお歳暮とお中元を導入出来ないだろうか。
「貿易にも手を出すのか」
貿易と聞いた瞬間、イジワール公爵の表情が変わった。そりゃそうだ、爵位を持たない弱小領主に分不相応な願いだ。
「貿易と言いましても、しばらくは補給地点になると思います。前々からギリアム商会から打診されていましたし」
ボーブルに港があると、王都リュエルに品を届けるのが楽になるそうだ。しかもうちにはゴーレム車があるから、短時間で大量に物資を運ぶ事が出来る。
「ローレンの奴が羨ましいぜ。ジョージ、リーズンを見てどう思った?」
「文武共に優れた方とお伺いしております。それに人に爽やかな心象をお与えになる容姿をお持ちですので、必ず領民に慕われるご領主様になられると思います」
俺は文武共に人並み、容姿もフツメン。第一印象は神経質そうである。政治に容姿は関係ないと言いたいところだけど、人目を惹く容姿を持っていれば民衆の支持を得やすいのは事実。そして今日もおべっかが絶好調です。上司の子供を褒めまくった経験が、異世界で活きるとは思わなかった。
「ただあれは経験不足で甘ちゃんなところがあってな。それに半端に才があるせいで苦境を知らないがの心配なんだよ」
羨ましい、凡才の俺は苦境とデスマーチしか知らないだんぞ。お陰で人を疑う癖が付いたけど。
「リーズン様はまだ20歳とお伺いしています。経験不足は当然かと」
俺は前世の経験に加えて、爺ちゃんやサンダ先生に下地を作ってもらえた。それに加えてて絆の神リヤン様のお陰で人材に恵まれ、何とか領地の運営が出来ている。
「全く前はローレンに孫の自慢が出来ていたのに、今は逆にお前の自慢されっ放しだ…お前が前にいた世界では、こんな時はどうしていたんだ?」
爺ちゃん、前世も話していたんだ。世間で俺の活躍は爺ちゃんの入れ知恵と噂されている。噂を流させたのは俺だし。
でも爺ちゃんと永年苦楽を供にして来たイジワール公爵なら事実ではないと気付くだろうし、爺ちゃんも誤魔化しきれないのが分かっているだろう。何より政治的価値で見たら、俺よりイジワール公爵を重要視するのは当たり前だ。
(誤魔化す方が不利だな。ここは知恵を貸して恩を売っておくか)
「同業者の元で経験を積ませるのが一般的でしたね。でも、リーズン様の場合はどこで経験を積んで頂くのかが問題になります。王都が適当なんですが、良からぬ者が近寄って来るのが目に見えてますし」
まあ、リーズンを寄越される領主こそ良い迷惑である。経験を詰ませる為には、政務の裏を見せなきゃいけない。でも、場合によってはあの生真面目な青年が騒ぐ危険性がある。リーズンは見た目は爽やかで、性格も生真面目。そんな青年が政務の闇を暴いたりしたら領民がどっちを支持するかは明白だ。
「良からぬ者?リーズンは人を見る眼は確かだぜ。それに自分を律する事を覚えている」
イジワール公爵も人の子、孫リーズンが可愛いんだろう。
「何も自分から接触する必要はありませんよ。配偶者や婚約者に冷遇されている女性を“リーズン様に相談してみては“と勧めます。優しいリーズン様は相談を断らないでしょう。それを何度か繰り返した後に、女性の婚約者を相談の現場に向かわせたらどうなりますか?」
貴族や商人の場合、婚約は親が決める事が多い。当然、婚約を不服に思う者は一定数いる…例えばマリーナとか。
「リーズンの性格からして、女の婚約者を責め立てるだろうな」
リーズンは頭の回転も早いし、弁もたつ。十中八九、相手を論破するだろう。しかし、貴族は無駄にプライドが高いし、商人は評判を重んじる。男の怒りは治まらない。当然、婚約は破棄されるし、女性の家との仲も険悪になる。後は黒幕がリーズンの責任を追求するだけだ。
「リーズン様は女性におもてになるでしょう。そういう人って、女性の好意を疑いませんから」
顔良し、家柄良し、性格良しついでに頭も良く武も優れているリーズンがもてない訳がない。リーズンにとって、女性に好意を寄せられるのは日常茶飯事だと思う。
「好意に答えなくても、相手が騒げばリーズンの婚約にも影響するな」
「ちなみにリーズン様のご婚約者様は、どなたですか?」
イジワール家の直系ともなれば、相手の家格もそれなりのところだと思う。
「プリムラ・オリゾン様だ」
「ホート様の妹君ですか」
つまりは王様の親戚。この婚約が破談になれば、奴隷反対派は弱体化してしまう。
「俺が勧めた縁談だが、二人共、心から愛し合っている。権力者の癖に甘いと思われるかもしれねえが、リーズンは幸せにしてやりてえ」
不味い、イジワール公爵がヒートアップしている。怖い顔が更に怖くなっている。
「い、今思い付いた策ですので、実際に実行される確率はゼロに等しいと思いますよ。やっぱり、イジワール様の側で経験を積むのが一番だと思いますよ」
思い付きで言った提案が、思わぬ事態を招き寄せてしまった。
「いや、お前の言った他の領地で経験を積ませるのは妙案だ。要はリーズンを安心して任せれるところを選べば良いんだろ?」
うん、俺絶対にその家から恨まれるよね。貧乏クジを超えて爆弾クジだもん。
「リーズン様のお気持ちもありますし、余り王都から離れたらプリムラ様が寂しがると思いますよ」
「そこは考えるさ…ジョージ、ありがとよ。港の件は、俺に任せておけ」
まだ見ぬリーズンの実習先の領主様。先に謝っておきます。思い付きで変な提案をして、すいませんでした。
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罪悪感からだろうか、昨夜はうなされて余り眠れなかった。
「ジョージ様、目の下の隈がひどいだよ」
熊に隈の心配されてくまった…思い付きでボケるのもやめよう。親父ギャグは若い後輩から嫌われるって言うし。
「今日はイグニア荒野に行くんだよ。大丈夫かい?」
カリナが、溜め息をつきながら俺の顔を覗き込んでくる。俺は絶対にロリコンじゃない。ドキッとしたのは、偶然だ。
「ああ、熟睡出来なかっただけだから、大丈夫だよ」
徹夜と違って睡眠は確保出来ている。これ位なら、戦闘に影響は出ない筈。
「イグニス荒野は、町の西側にある門の向こうなんだよね」
「ああ、通行券は一人三千ストーン。通行券は一日有効だから疲れたら、無理しないで戻るぞ」
…偉そうに言っているが、俺が一番最初にダウンすると思う。だってこいつ等が寝てる時、俺は仕事してたんだし。
十分程歩くと、巨大な門が見えてきた。見る者を圧倒する巨大な門。レンガで作られており、鉄製の分厚い扉が付いていた。この門はイグニアの町に、魔物が入って来ないように設置されそうだ。
(門もゲームと同じだな。しかし、凄い数の露天商だな)
ゲームでは門番しかいなかったが、現実では、大勢の露天が立ち並んでいた。装備を売る店もあれば、食糧や水を売る店もある。正に門前市だ。
「凄いだなやー。この門があるから、町の人は安心して暮らせるんだな」
ドンガは口をアングリと開けながら、門を見上げていた。その純朴なリアクションを見て、露天の商人達が好意的な笑みを浮かべる。生活の糧とも言えるこの門は、彼等の自慢なんだろう。
「門に刻まれた紋様で、魔法を無効化するらしいね」
カリナの言う通り、門にはびっしりと紋様が刻まれている。聞いた話では、紋様が風化しないように定期的にメンテナンスしてるらしい。
「それなら安心だな」
「この門を壊せる魔物なんていやしないよ」
二人そう言って、頼もしそうに門を眺めている…でも、ごめん、壊せる魔物いるんだ。
マエストロ・グライツァーの副官ルストラ。種族はフレイムジャイアント、体長は三メートルを越すパワー型の魔物。そして副官と書いて中ボスと読む。
ルストラはそのパワーでイグニアの門を破壊する。直接攻撃と火炎属性の特殊攻撃しかしてこないから、特殊攻撃の対策をしておけば比較的容易に倒せた…あくまで、ゲームではだけど。
(この門を壊せる力で攻撃されたら、ひとたまりもないぞ)
イジワール公爵には悪いが、ルストラの情報は伏せておこう。きっとまだ見ぬ勇者君と、リーズンが実習に行った先の領主が協力してくれると思う。
俺なんかじゃ、足手まといにしかならないし。
「ジョージ様、陣形はどうするだか?」
「前衛はドンガとカリナ。俺は後衛をする」
ドンガもカリナは直接攻撃が主体。年下と女の子の後ろに隠れて情けないが、俺の今回の装備を活かすには後衛が最適なのだ。
「そのバックパック式の消火器を何に使うんだい。リリルの話じゃ、攻撃力は低いって話だよ」
そりゃそうだ。消火器の攻撃力が強かったら、建物を壊してしまう。
「そこはちゃんと考えてるよ。さっ、行くぞ」
門を潜り抜けると、辺りの様子が一変した。どこまでも広がる赤茶けた大地。樹木の類は一切見えず、僅かに丈の低い草が点在するだけ。
「ふぇー、広いだなー。端っこが見えないだよ」
「体を隠す場所が何もないね。これじゃ、いざって時逃げれないんじゃないか?」
ゴブリンなら何とかなるが、ファイヤーウルフが相手だと先ず逃げ切れないだろう。
「それだけじゃないぜ。遮蔽物が少ないから、常に日光に晒されるんだ。イグニス荒野は魔物の他にも脱水とも戦わなきゃいけないんだ」
身を隠せるとしたら僅かに点在する岩だけだ。その岩も大きな物は少ないから、日陰は無いに等しい。隠れても裏からは丸見えだし、回り込まれでもしたら、大ピンチなのだ。
「水を買いに戻らなくて良いのかい?」
「二人共、この魔法の事は内緒にしてくれよ…シャイニングボディ・タイプクリアー」
透明なのに、シャイニングとはこれいかに。魔力に敏感な人じゃなきゃ、俺が叫んだだけ見えるだろう。
「ジョージ様…何しただか?まさか暑さで頭が…」
「透明な魔法の膜を体に纏わせたんだよ。防御力は低いけど、体温の上昇は防げるぞ」
チートとは言い難いが、シャイニングボディは中々使い勝手が良かった。ゲームに登場させるのには地味過ぎるけど。
「見渡す限り魔物は見えないけど、どうするんだい?」
「見ての通りイグニス荒野に水源が少ない。それを利用するんだよ。まず、あそこに見える岩まで移動するぞ」
岩に高さは一メートル位で、屈めば身を隠す事が出来る。
「それでどうするんだい?」
「まあ、見てななって…放水!!」
バックパック式の消火器から、少しだけ放水する。
「ジョージ様、イグニス荒野で水は貴重だったんではないのか?」
「ああ、貴重だ。魔物にとっても貴重さ。水に勘付いた魔物がやって来る。そいつを背後から襲うぞ」
先制攻撃を取れれば、確実に俺達の方が有利になる。それにシャイニングボディがあるから熱中症の心配もない。
「なんか…こすいだな」
「しっ!!魔物が近付いて来たよ…ゴブリンが二匹にメイジゴブリンが一匹…ジョージ、どうするんだい?」
俺には点にしか見えないが、獅子人のカリナにはしっかりと見えるらしい。
「ゴブリンが水を飲み始めてからが勝負だ」
イグニス荒野で水場は正に生命線。ゴブリン達は夢中になって水を飲み始めた。
「ジョージ様、まだだか?」
「俺が先制攻撃をする。二人共、それに続いてくれ…放水」
一息ついたメイジゴブリンの顔目掛け勢い良く放水する。攻撃力は小さくても、ノックバックさせるには充分なのだ。
重戦士のドンガ、格闘家のカリナに掛かればノックバック状態のゴブリンを倒すのは容易な事。
メイジゴブリンはドンガの斧で頭を砕かれ、ゴブリンはカリナの棍で首をへし折られた。安全かつ確実に勝つ。これが俺の戦い方だ…評価は低そうだけど。
本年も宜しくお願いします




