ジョージとご先祖様
イグニス荒野はイジワール領都イグニアの近くにある。イグニアがイグニス荒野の近くに作られたと言ったほうが正確なのかも知れない。
イジワール領のイメージはスペイン、フラメンコ風の音楽がユーザーの皆様から好評でした。あくまで風であり、フラメンコ専門の人が作曲してないからなんちゃってフラメンコなんだけど。サウンド担当の中田さん、ご苦労様でした。
「おう、街の入り口に着いたから全員降りろ。ジョージ、お前が代表なんだから、とっととしろ」
ボルフ先生、今日も安定の怖さです。これでゴーレム車から降りた途端、従順の騎士に早変わりするんだからあざと過ぎる。
「ジョージ・アコーギ様でございますね。キョーユウ様がお待ちです」
事前に言っていたせいか、イジワール騎士団の皆様が総出でお出迎えしてくれました。騎士の皆様が放つプレッシャーが凄過ぎて、タマがキュンッとなる。何も悪い事してないのに、警察や騎士って見ただけで緊張するのは何でだろう。
「出迎えご苦労さ、ゴッフッ!!…ご苦労。ゴーレム車はどうすれば良いんだ?」
ご苦労様と言おうとした瞬間、ボルフ先生の肘が脇腹に入りました。外では、貴族らしい偉そうな態度をとらなきゃいけないのだ。
「こちらでお預かりします。ようこそ、イグニアへ」
荷物は騎士団の皆様が運んでくれるらしい…ぶっちゃけ、騎士団に取り囲まれてるから歓迎ってより連行って感じです。
(イグニアもゲームと変わらないな…花山さん、あんた本当に凄いよ)
「レンガ作りのお家にレンガの道路、絵本の世界に迷い込んだみたいだよ。あっ、真っ赤な屋根のお家もあるっ!!」
カリナの言う通りイグニアの建物はレンガで作られた物が多く、屋根は色とりどりに塗られている。
言葉遣いは男っぽいが、カリナも年頃の女の子。綺麗な物や可愛い物を見るとテンションが上がるらしい。イグニアの街はメルヘンチックだから女子受けは良いと思う。
「おでもレンガの家は初めて見るだ。でも、レンガの家って崩れたりしないだかね?」
王都の近くで良質な石が取れる為か建物は石を使った物が多く、ボーブルには鉄筋コンクリートの建物が増えている。
「レンガの家は頑丈で保温性も高いんですよ。特にイグニア製のレンガは高品質で有名です。しかもイグニス荒野で取れる土を使って火の魔石で焼成するから、石材より安価で建てられるそうですよ」
アーシック領にもレンガで作られた家があったが、アーシックの土はレンガに向いていない上に焼成にコストが掛かるから余り普及していないらしい。
「レンガは重いから輸送コストが掛かるのが難点だな。ボルフ、どう思う?」
鉄筋コンクリートだけじゃ味気ないからボーブルでもレンガを作ってみようかな…ピザも食いたいし。
「ジョージ様、イジワール領の皆様にゴーレム車の素晴らしさを分かって頂けたら輸送コストを抑えられますよ」
演技なんだけど、ボルフ先生を呼び捨てにするのは胃に来る…後から鍛錬が厳しくなるし。
「そ、そうだな…しかし、随分と冒険者が多いな」
イグニアの町はメルヘンチックなんだけど行き交う人々はバイオレンスな冒険者が多い。わざわざ騎士団を迎えに寄越してくれたのは、俺がトラブルに巻き込まれるのを防ぐ為かも知れない。
「ジョージ様、イグニアにはイグニス荒野への入り口がございます。イグニス荒野に行く冒険者はここイグニアを拠点にするんですよ」
流石は元冒険者のオデットさん。ちなみにオデットさんは、俺を睨んできた冒険者を一瞥しただけで震えさせていた。
「なる程、だから酒場や武器屋が多いのか」
これはあれか、夜になるとセクシーなお姉様方が誘惑してくれたりするんだろうか…これは市場調査が必要になってきた。
「ジョージ様には、お城に泊まって頂きますのでご安心下さい」
当たり前だけど、城は夜になると門扉を閉ざす…夜の市場調査計画僅か数秒で頓挫。
「アタイ達は町の宿屋に泊まるから、待ち合わせ場所を決めておかないとね」
基本、城に泊まれるのは賓客だけだ。
「カリナ・アイビス様ですね。勿論、カリナ様もお城に泊まって頂きます」
…おかしい、カリナは俺の同伴者とは言え、今さっきイグニアに入ったばかりだ。イジワールの騎士が名前を、知ってる訳がない。
「だ、駄目ですよ。アタイじゃない私は市民ですし獣人ですし…」
突然の事にテンパりまくるカリナ。
(待てよ。騎士はカリナ・アイビス様って言ったよな。貴族ならともかく騎士が年下の女の子に様をつける訳がない…あるとしたら)
「祖父の指図ですか」
騎士が敬語を使うのは格上の相手か主の招待客。イジワール公爵が市民を、ゲストに迎えるとしたら上位の貴族の関係者位だけだ。カリナの事を知ってる有力貴族は爺ちゃんしかいない。
「その辺りはキョーユウ様に、お聞きして下さい。さあ、城が見えて来ましたよ」
イグニア城は勇者ブレイブ・アイデックの物語にも出てくる由緒正しい城だ。高さ十五メートル位だけど威圧感が半端じゃない。
(これが魔族との戦いを潜り抜けた城か)
オリゾン、いやこの世界の城は余り高くない。対人戦争が滅多にない事と、余り高くなると飛行系の魔物の標的にされやすくなるそうだ。アカダマさんも飛行空域に障害物があると、イラッとしますって言ってたし。
高い城が魔物に壊された結果、低い城が主流になってしまったのかも知れない。ちなみにコーカツ城も前回の魔王大戦で破壊され、今の城は二代目になるそうだ。
「ジョージ、よく来たな。歓迎するぜ」
出迎えてくれたのは城主のキョーユウ・イジワール。城主自身が出迎えをするなんて破格の待遇である。決して政友の孫だからなんて理由ではない筈。
(そういや爺ちゃんに魔王出現の予言を伝えたよな。それにジェネラル・グローリーも魔王出現の話を聞いてる筈)
爺ちゃんや王様が魔王対策の相談をするとしたらイジワール公爵だろう。つまりイジワール公爵は魔王出現と俺に関する何らかの情報を知ってる可能性が高い。イジワール公爵は俺から有益な技術や情報を得たいから、自ら出迎えてくれたんだと思う。
「キョーユウ様、お久し振りでございます。今回は勝手を申し上げ誠に申し訳ありません」
向こうは海千山千の化物、俺のみみっちい腹芸が通じる訳がない。俺が出来るのは技術と情報を小出しにする位だ。
「ジョージには色々と聞きたい話がある。リーズン、客人のお相手をしろ」
「はい、お祖父様…皆様、こちらにいらして下さい」
キョーユウの背後から現れたのは白髪の青年…DNAは不公平だと思う。リーズンさんは二十歳位の正統派イケメン。鍛えられた体に爽やかな笑顔。日本に行ったらアイドルにスカウトされてスターダムを駆け上がると思う。同じ強面の祖父を持っているのに、この違いはなんだろう。ボルフ先生達はリーズンさんとメイドさん達に導かれ城内に姿を消した。
「ジョージ、こっちだ。来い」
一方の俺は強面領主とフル装備の騎士団に取り囲まれ城内に連行されている…この違いはなんだろう。
俺を取り囲んだ一行は、無言のまま城内を進んで行く。中田さん、この場面の音楽はド○ドナ風でお願いします。
(イジワール公爵は美術品の収集が好きだって聞いてたけど、凄いもんだね)
廊下には数多の美術品が飾られさながら美術館である。掃除を担当しているメイドさんのストレスは凄いと思う。
「ここだ、ジョージ入れ…お前達は外を見張ってろ。蟻一匹通すんじゃねえぞ」
このマフィアのドンと二人っきりになれと…無理ゲー過ぎる。
「お、お邪魔します」
キョ―ユウの執務室は廊下と違って絵が一枚しか飾られておらず簡素な物だった。
「大方の事はローレンから聞いている。随分と変わった知識を持ってるそうじゃねえか。おっと、さっきみたいな下手な演技をするんじゃねえぞ」
「分かりました。話せる事は話しますよ」
あくまで話せる事はと注釈をつけおく。サラリーマンと一緒で領主業も逃げ道が大切なんです。出来たら来週頭までプログラムを完成します…あくまで出来たらだし、来週頭で何曜日とは言っていない。
「まずゴーレム車を売って欲しい。条件はあるか?」
「事故の懸念があるので、運転技術を身につけさせたい人をボーブルに派遣して下さい。そうですね、うちの騎士や兵士をイグニス荒野で強くさせたいので、交換研修の名目にしませんか?」
ボーブル自動人形車学校、開校します。今なら宿泊パックで短期取得も可能。入校にはボーブル・ローレン・イジワール各領主の許可書がいりますのでご注意下さい。
「魔物を倒せば強くなれるってのは、本当なのか?そうだとしたら、ウチはどうすれば良い?」
「ウォーテック領内にあるルラキ湖に才能のある者を向かわせてはどうでしょうか?そして経験の浅い者はイグニス荒野で強くさせるのが良いと思います」
魔族出現前から魔物の活動は活発化する。それはイグニス荒野も同じだ。そんな時、民と街を守る騎士や魔法使いが魔物を倒せなきゃお話にならない。
「冒険者を活用してみてはどうだ?」
「冒険者は現金な生き物ですから、火中の栗は拾ってはくれませんよ。彼らが大切なのは金と自分の命、いざって時には当てには出来ません」
物語のように義勇心に溢れた冒険者なんて一握りもいない。そしてそういう人達は清廉潔白な領主を好む。
「魔石の産地を、どう活用するかが別れ道だな」
魔石の産地には六魔枢が拠点を築くのは領主としては痛手だが、事前に準備して置けば対策を取れるし配下を鍛える事が出来る。
「ええ、ですが余り派手に動けば世間に勘付かれます。そうしたら魔族に付け入られて人心を失うでしょう」
人は不吉な予言を聞くと怯えてパニックに陥ってしまう。ノストラダムスの大予言でシェルターを買った人もいたと言う。神使が魔王が現れるって予告したなんて話が流出したら、どんな事態になるか分からない。
「勇者が確実に魔王を倒せる保証はないしな…そう言えば何故新興貴族のアコーギ家が魔石の産地を保有しているか知っているか?」
魔石の産地は黄金の卵を産み続ける鶏のような物。確かに、うちのような新興貴族が持っているのはおかしい。
「余り父と話す事がなかったので…」
「アコーギ家は元々ヴェント谷の管理を任せられていた一族だったんだよ。前魔王大戦の時お前の祖先モブ・アコーギが活躍して爵位と領地を与えられ、モブの子孫の功績もありアコーギ家は伯爵家にまで登りつめた…これが表の理由。風のヒロインツバキ・カゼツギはお前の祖先モブと恋仲だっだんだよ。それを勇者ブレイブ・アイデックが奪ったのさ。王が報酬を聞いた時モブは“ツバキとの思い出が残っているヴェント谷が欲しい”って言ったそうだ。あの辺りは治めていた貴族も滅びたから、ヴェント谷はアコーギ家の物になったんだよ」
ご先祖様も寝盗られ男だったとは…アランが勇者の血に固執するのは、アコーギ家の宿願もあるんだろうか。
「話を聞く度にブレイブ・アイデックがろくでなしになるんですけど…」
「扱いやすくて良い奴だと思え。女と名誉を与えとけば強い魔族や魔王を倒してくれるんだぜ。勇者になびいてお前を裏切る女なら、それだけの女なんだよ…ローレンから聞いたぜ。獅子人の女と仲が良いらしいな」
最愛の人を奪われた上に、そいつが勇者と称賛されているのを見ていたご先祖様やジョージはどんな気持ちだったんだろう…それと爺ちゃん、孫の恋話をリークするのはやめて下さい。




